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6 内心で謝り倒していたら想定外の提案をされる


 魔法卿エーブラム・フェアバンクス、魔法卿夫人ソフィア・フェアバンクス、移動担当のトラヴィス・ルドマンがテーブルの向かい側に並んで座っている。老エルフ姿の自分、壮年のエルフ姿のオスカーがこちら側で、用意された昼食をいただく。


「エーブラムは弟子としてどうかしら? お師匠様?」

「教える約束のことは教えたからのう。もう師匠は降りたいのう」

「俺としては一生師事していたいんだがな」

「わしには荷が重いのう」

「ふふふ。この人に魔法を教えられる人なんて他にいないでしょうから、負担にならない範囲で相手をしてもらえたら私も嬉しいわ」


「先代の魔法卿はどうだ?」

 オスカーが尋ねる。解放されたい気持ちは同じなようだ。

「じいさんか? 俺の元の師匠なんだが、じいさんが俺に教えてもいいと思う魔法はもう全部習ったからな。教われることがない」


「メテオは?」

「去年も言ったと思うが、メテオは存在が知られているけれど誰も使えん魔法だ。もちろんじいさんが使えるっていう話も聞いたことがない。

 が、ここにきて、一人使えるやつがいる可能性は出てるな」

(え。私がメテオを使える可能性を勘ぐられるようなことはしてないわよね……?)


「誰なのかのう」

「誰かは知らん。去年の年末にでかい事件があってな。国ひとつ分の亀裂を作れるかって聞いた件だ。

 同じ時に、天災にしては不自然な形で、特定の場所を複数の隕石が直撃している。もし神じゃなく魔法使いがやったんなら、そいつもメテオが使えることになる」

(ううっ、私です、ごめんなさい……)


「それは神なんじゃないか? 本人がそう言ったんだろう?」

 オスカーがしれっと言う。自分たちはそういうことになってもらわないと困る。

「さすがに魔法でってのは師匠たちにも信じられんか……。

 さっきも言ったが、俺も当初はそう思っていたんだがな。……ああ、俺に魔法を教えられそうなやつが他にも一人いたな」


「ほう? その者に師事してはどうかのう」

(誰かわからないけど、引き受けてくれたらほんとに助かるわね……)


「それがなあ……。これも頭が痛いんだが。ずいぶんと歳下でな。手元に置いて、俺が教えられることは教えて、逆に教われることは教われるといいと思ったんだが、完全拒否だった」

(ん?)

 魔法卿に魔法を教える部分を除けば、どこかで聞いたような話な気がする。


「『普通でいたい』んだそうだ。俺以上の才能があるのに、ものすごい宝の持ち腐れだろう?」

(ううっ、ごめんなさい……)

 完全に自分のことだ。申し訳ないとは思うけれど、そこは譲れない。


「あらあら、ふふふ。でも、来てはくれるのでしょう?」

「あいつらの用事を済ませるために、な?」

「どんな目的であっても、やりとりができる機会が増えるなら、まず貴方が信頼されるようにがんばるしかないのではなくて? 話はそれからではないかしら」

「それはそうかもしれんが」


「ふふ。ごめんなさいね? お師匠様たちには興味のない話をお聞かせして」

「いや」

 そういうことになっているけれど、関係がある話でしかない。


「実はね、その子、前に私が娘にしたかった子なの。そっちも断られてしまったのだけど」

(うううっ、ごめんなさい……)

 ソフィアはわかっていて自分に言っているはずだ。どう反応していいかわからない。


「一応この人の直属になるみたいなのだけど、旅に出るみたいなのよね。けど、一応の拠点は必要だと思わない?」

「どうかのう……」

「直属で預かることになっているからには住む場所くらいは用意してあげないと、社会的にもおかしいでしょう? せっかくなら近くに住んでほしいのだけど、うちの中に住ませるのはダメって言われたのよね」


「ダメとは言っていないぞ? 俺といるよりジュリア嬢といる方がいいのかって聞いただけだ」

「あなたはほとんど家にいないじゃないの」


 いたたまれない気持ちと、なるほどという感じが同時にあった。ソフィアが今日自分に会いたがったのはこの件なのかもしれない。

 元々は今日の夕方に、ジュリアとしてソフィアに会う予定だったが、招聘しょうへいが決まったから、中央に行ってからゆっくり話そうという形にしたのだ。

 住む場所の相談はその時では遅くて、手紙だけでは難しかったのだろう。


(話は聞けても、ジュリアとしては答えられないけど。ソフィアさんには何か考えがあるのかしら)


「それでね? お師匠様に相談させてもらうのも違うのかもしれないのだけど、うちの敷地内に、はなれを建てるのはどうかと思ったのよね」

「時間と金がどれだけかかると思っているんだ……」

「貴族の屋敷というほどでなくてもいいと思うのよ? 確かに、貴族のお嬢様をお預かりするのだから、普通はそれに越したことはないのでしょうけれど。でもあの子は、そんなことをされても恐縮しちゃうと思うのよね」

(その通りです……)


「普通の宿屋くらいの建物なら気兼ねがないでしょう?」

「だとしても費用はかかるし、時間的にも間に合わないだろう?」

「ええ、普通はね? 貴方に魔法を教えられるようなすごいお師匠様なら、なんとかできちゃったりしないのかしら、と思ったのよね」


(あ、もしかして……)

 ジュリアとして会えないから、今日会うことをねじこんできたのだと思ったけれど、ソフィアはむしろ、この姿の自分に会いたかったのかもしれない。

 この姿なら、ジュリアとしては使えない魔法を使うことができる。土地さえ提供してもらえれば、自分が住みやすいような家を建てられるのだ。


(ちょっとおもしろいかも。オスカーとルーカスさんに相談してみたいわね。あと、行くならリンセにも来てもらわないとよね)


「いやできたとしてもおいそれと魔法は教えてもらえないだろうし、師匠はここを離れられないし、そんな雑務を頼むのは悪いだろう」

「……食後に時間をもらえるかのう。山の者たちと相談してみたいのう」

「師匠?! 俺の頼みはあんなにしぶられてきたのに?!」


「ええ、もちろんよ。この後には何もないから、どうぞゆっくり相談していらして?」

「うむ」

 ソフィアは満足そうな笑顔なのに対し、魔法卿はしばらく解せないという顔をしていた。



 後をつけられていないかに気を配りつつリンセが住処にしている森に戻り、事情を話す。

「アッチがついていくのはいいニャよ」

「ありがとうございます。一度戻って、ルーカスさんと相談してきますね」

 リンセに変身魔法を解除してもらう。やはりいつもの姿でいる方が落ちつく。


「ルーカスは、今日は実家に行くと言っていなかったか?」

「あ、そうですね。先週も行って、今週もって。ちゃんとホープくんといる時間をとってから出発するって言ってましたね。今日は邪魔でしょうか」


「連絡魔法の効果範囲まで行って、ルカ宛か、念のために名を呼ばずに連絡を入れてみるのはどうだろうか」

「そうですね。ルーカスさんなら、ムリな時はムリって言ってくれそうですし」

「ああ。むしろ仲間はずれにしたままいろいろ決める方がヘソを曲げそうだ」

 空間転移のためにオスカーと手をつなぐ。なんとなくすぐには唱えたくなくて、彼を見上げる。


「……オスカー」

「ん……」

 お互いに顔が近づいて、柔らかなキスを交わす。名前を呼んだだけで触れたかったことをわかってもらえて嬉しい。

 もう少し、と思うけれど、リンセもいるから控えて出発した。


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