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36 止まらない暴走と犯人の高笑い


「さすがに家族はごまかせなかったね」

 ルーカスがのほほんとした声で、緊張感をぶった斬った。

「ここで戦う必要はないんじゃない? あの魔道具を止めるっていう目的は一致してるんだから。

 セリーヌちゃんを渡さないで、止めるのだけ試してもらえば?」


(それはそうよね)

 国王ジェイコブにセリーヌを渡すのは断固として反対だ。カテリーナを処刑した相手が、今後セリーヌをどう扱うのかわかったものではない。

 けれど、渡さずに魔道具を止められるなら、それにはなんの問題もないはずだ。


 ジェイコブが吟味するような間を持ち、それからうなずいた。

「いいだろう。魔道具の前に行き、そこに手を当てるんだ」

「おう。俺が同行しよう。ナイト、ロキ、お前らもついて来い。一応全員に防御魔法はかけておく」

 魔法卿がセリーヌと一緒にカテリーナとレナードも連れて、魔道具の前に行く。


 大きな四角い台のような形に無数の魔法陣が描かれている。台の中央から雲が噴きだし続けているけれど、直接触らなければ大丈夫そうだ。

 カテリーナがバサッと飛んで、セリーヌに場所を示す。セリーヌがうなずいて、示された凹みに手を置いた。

 反応するかのように魔道具からかすかに金糸のような光が舞う。


(これでこの国は元に戻って……、カテリーナさんたちはここからいなくなるのね……)

 そう思うと涙があふれそうになるけれど、ぐっとこらえる。

 表情の変化に気づいたのか、オスカーが手を握ってくれる。甘えさせてもらって、ぎゅっと握りかえす。


 ボフンッ。

「っ」

 異音と同時に、あふれ出る雲が一瞬大きくなる。レナードがセリーヌとカテリーナを抱きよせてかばった。

「下がれ」

 一家を後ろに引かせて魔法卿が前に出た。魔道具はそれ以上反応せず、黙々と雲を吐きだし続ける。

「……止まらんようだが?」

「そんなはずはない。仕様ではこれでいいはずだぞ!」

 ジェイコブが焦ったように叫ぶ。


 と、ふいに、しわがれた高笑いがあたりに響いた。

「仕様なぞとうに変更しておるわい。なかなかにおもしろい茶番であった」

「カワードさん……?」

 セイレムがカワードの様子がおかしくなっていたと言っていた。檻の中の老人は、今は確かに気が触れているように見える。


「茶番じゃ! 茶番茶番茶番……っ!! そうじゃろう? カテリーナ元女王陛下? レナード殿下? そんな姿になってまで家族ごっこか?」

「っ……!!」


「待て。どういうことだ?」

 正体に気づかれていたことに驚いた自分たち以上に、国王が理解不能という驚き方をしている。


「……ソレハ コチラガ キキタイ。オマエタチハ グルデハ ナイノカ?」

「カテリーナのペット……? が、カテリーナなのか……?」

「処刑された際にトリにモヤが移ったのをわしは見ておる。その小童の体にレナードを宿らせた時には同席しておったしな。まだ茶番を続けておったとは驚きよのう」

 カワードの言葉を受けて、国王ジェイコブがまじまじとカテリーナたちを見る。


「待ってください。茶番ってなんですか?」

 つい声をあげてしまった。大切なものをけがされている感じがしたのだ。

「部外者が。茶番でなく、なんだと言うんじゃ? かわいいかわいいわしのアビーを生き返らせるためになんでもしたというに、あんなまがい物(・・・・)しかできぬとは」


「アビー・カワードハ イキカエッタ! レナードト トモニ イキカエラセタ デハナイカ!!」

 トリの姿のカテリーナが飛び上がって叫ぶ。

「あのような似ても似つかぬ醜女しこめわしのかわいいアビーであるものか! 見れば見るほど気分が悪くなったわい」


 言葉を失った。

(それって……、子どもの外見が違うから認められないってこと?)

 もしクレアが違う姿で生き返ったとしたら。そう考えても嬉しさしかない。親とはそういうものだと思っていたけれど、祖父だと違うのだろうか。それともカワードが違うだけなのだろうか。


「話してるとこ、ごめんね。ちょっと聞いてもいい?」

 ルーカスの冷ややかな声がした。腹の底から怒っているように聞こえる。

「おう。俺が許可する」

 魔法卿の言葉を受けて、ルーカスが小さくうなずいた。


「アビーちゃんが亡くなったのって、レナード殿下の事件より前のこと?」

「答える義理はないのう」

「レナードさんが亡くなった事件の数ヶ月前って聞きました」

 さっきセイレムから聞いたことを伝えると、ルーカスが心底残念そうにした。

「……うん。最悪の想像が当たってないといいんだけど」


 ルーカスがカワードを見据える。

「カワードさん……、カテリーナ女王陛下暗殺未遂事件の犯人はカワードさんだね」


「マテ! ジェイコブガ オウイヲ ネラッタノデハ ナイノカ?!」

「なっ! なぜせつが姉上を暗殺しないといけないんだ! 姉上が正気なままならなんの問題もなかったんだぞ?!」

「……ダカラ イクラ シラベサセテモ ショウコガ デナカッタノカ」


小童こわっぱ。女王陛下を暗殺したところでわしは何も得をせぬぞ」

 カワードが片眉を上げてルーカスに対峙する。

「カワードさんの狙いは最初からレナードさんかセリーヌちゃんだったんでしょ? 女王陛下に死者蘇生の研究の指揮を取らせるために」

「ナッ……」


「カテリーナさん。死者蘇生の魔道具の話は、カワードさんから持ちかけられたんじゃない?」

「……アア、ソウダ……」


「ジェイコブ国王陛下は、カワードさんに、カテリーナさんからおかしな研究を強制され、その魔道具が暴走してしまった、もう女王陛下に国を任せてはおけないから国王になって事態を収めてほしいって持ちかけられたんじゃない?」

おおむねその通りだが。どこで聞いていたんだ……?」

「すぐに処刑しないと事態は収まらないって言ってきたのもカワードさんでしょ?」

「……その通りだ。苦渋の決断だった」


(ジェイコブさんはカテリーナさんと敵対していたわけじゃないのね……)

 てっきり王位欲しさにジェイコブがカテリーナを狙ったと思っていたし、カテリーナもそう思いこんでいたのだろう。


 ルーカスが淡々と続ける。

「カワードさん。アビーちゃんが思い通りじゃなかったから、もう全部壊そうとしたんでしょ?

 女王陛下の目を盗んで魔道具に細工して、ジェイコブ殿下に女王陛下を排斥させてから更に手を加えたのかな?」


「それがわかったところでなんだというんじゃ? おもしろいことを教えようかのう。

 その魔道具を破壊した場合、この国全土が焦土となるほどの爆発を引き起こすぞ」


 ほくそ笑むカワードに、その場の全員が絶句した。


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