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34 王都の魔法使いから想定外の話を聞く


 戦闘員以外を乗せている魔道具の絨毯じゅうたんを追おうとした魔法使いがいたから、間に入って進路をふさいだ。


「サンダーボルト」

 魔力の加減で強くも弱くもできる、初級から中級の魔法だ。弱めに打って様子を見る。


 オールマイティにいろいろな魔法が使える魔法使いにも、多少の得意不得意はある。

 オスカーは炎系統が得意で、自分はどちらかというと雷と水だ。父が雷系統、母が水系統を得意としているから、遺伝もあるのだろう。自分の側に選択権がある場合は得意系統を選びがちだ。


 相手はホウキを加速させて上に避ける。

(まぁそうよね)

 追尾型でない限り、ふいをつくか相手の動きを止めるかしないと当たりにくい。絨毯じゅうたんを追うのをやめて自分の方に意識を向けてくれたから、初手の目的は達成している。


「アイシクル・アロー」

「ファイア・アロー」

 氷の矢が飛んでくる。必要最低限の出力の炎の矢で相殺そうさいする。唱えた直後に次の魔法を重ねる。詠唱のスピードは自分の方が早そうだ。


「サンダー、サンダーボルト」

 上から雷を落とし、正面からも雷撃を向かわせる。どれも軽く気を失う程度の弱さにしている。

 相手が避けることに意識を向けている間に更にたたみかける。

「サンダー・バード」

 魔力消費が少ない中級魔法だ。速さは出ないけれど追尾ができる。これも出力は弱めにする。


「っ、アイアン・シールド」

「え」

 防ぐために相手が鉄の盾を出したことに驚く。雷と鉄は相性が悪い。鉄は雷を通してしまうから、可能ならミスリル、難しければ土系統を使うのがセオリーだ。

 案の定、鉄の盾にあたった電撃が伝わり、多少分散されて気は失わなかったようだが、ホウキがふらふら落ちていく。


 つい心配になってしまい、念のために自分に防御魔法をかけつつホウキを近づけた。

「……あの、大丈夫ですか?」

「なんでこちらを気づかう?」

「同じ魔法使いなので? 私たちには戦う理由はないのではないかと」

 思いっきり顔をしかめられた。そんなに変なことを言っただろうか。


 相手が肩の力を抜いたように見えた。

「……ついて来てくれ」

「はい?」

 相手がふらふらしつつ窓のひとつに入っていく。

(防御魔法はかけたし、大丈夫よね?)

 追うようにしてそこに入る。


 相手がその場に座りこみ、深くため息をついた。

「ここしばらく休めていなくてな。正直、ホウキに乗ってるのもやっとだったんだ」

「え。とりあえずさっきのダメージを回復しますか?」

「おまっ、お人好しかよっ! 一応、互いの上司は戦うように言ってるんだが?」


「でも、ただの誤解ですよね? 魔法卿は本物の魔法卿なので、その誤解がとければ、みんな魔法卿の指示下に入るのかなって」

「……本物か」

「はい。ネクスタウンで身分証明も見ましたし」

 前に戦った感触としても間違いないと思うし、奥さんにも会っているが、そのあたりは一応伏せておいた。


「ネクスタウンからの連絡を受けた時から、カワード氏は偽物を主張していたんだが。ネクスタウンとの関係性があったから、無視せずに国王様の言葉を返していたんだ。

 もし魔法卿が本物だと伝われば、この不毛な戦いはしなくてよくなるはずだ。私からも連絡してみよう」

「ありがとうございます」


 ヒールで回復させると、すぐにカワードに連絡魔法を送ってくれた。

『カワード氏、ダン・セイレムです。魔法卿の真偽についてはもう一度ご確認いただいた方がよろしいかもしれません。身分証明を見せてもらうのはいかがでしょうか』


「返事があるまで休んでてもいいか?」

「それはもちろん。セイレムさんが戦おうとしなければ、私は戦いたくないので。私も座りますね」

 言って、二人分くらいの距離をあけて横並びで座る。なんとなくその方が話しやすい気がしたのと、外から見えにくいからだ。

「変わった魔法使いだな。いや、魔法使いなんざみんな変わってるか」

「ふふ。そうかもしれませんね」

 自分は普通だと思うけれど、確かに魔法使いはみんな変わっているから笑ってうなずいた。


「王都で何が起きていたかを聞いてもいいですか?」

「いいんじゃないか? 返事が来るまではどうせ暇だしな。この国についてはどこまで知っている?」


「死者を生き返らせるための魔道具が暴走して、今の状態になっているということくらいでしょうか。

 白いモヤみたいなのにはゴーストと生き霊が混ざっていて、触れると体を乗っ取られることがあるから、各都市で結界を張っているんですよね。

 あと、元は女王様が治めていたけれど、魔道具を暴走させたことを罪に問われて、女王様の弟が国王様になったとか。お姫様が行方不明とか、ですかね」

「そうだ。ずいずん詳しいな」


「そのあたりはネクスタウンで聞けたので」

 本当はカテリーナたちから聞いたのだが、それは言えない。

「だから『王都で』と聞かれたんだな。オレたちの状況から話すのがいいか……。

 ここの魔法協会の支部長は冠位七位、マーティン・カワード氏なんだが。さっき先頭にいて、オレたちに命令を出していたじいさんな」

「はい。お名前だけはネクスタウンでも聞きました」


「あのじいさん、数年前……、レナード様、ああ、元女王陛下の夫なんだが」

「はい」

「知ってたか。そのレナード様が亡くなる数ヶ月前くらいだったか? 孫娘を亡くしてな」

「え」

 王都が魔道具の暴走以降どうなっているのかを聞いたつもりが、想定外の話が出てきた。何かそれを話す理由があるのだろうと思いながら続きを聞く。


「息子が離婚していて、もう一人の孫は息子の嫁さんが連れて行って音信不通だったか? で、その息子の方は先に病気で亡くなってて、奥さんにも先立たれてるから、要はじいさんと孫娘の二人暮らしだったんだな。

 そんなんだから亡くしてすぐは見るからにおかしい感じになってて、仕事どころじゃなくてな。オレたちは中央に具申ぐしんするかを真剣に検討してたんだ」


「検討していた、ということは、結果的には上げなかったんですね」

「そうだ。これは大きな声では言えないんだが。レナード様が亡くなってから目に見えて元気になってな。王宮に日参して女王陛下と魔道具協会と何やら研究しているようだった。

 その間は平和だったんだが。完成したと上機嫌で言っていたのが半月くらい前か? 魔道具が暴走する数日前だな。

 翌日会った時にはもう不機嫌で、またどんどん変な感じになっていったから、失敗したのだろうと思ったんだ」

「え」


 話の流れからすると、カワードがカテリーナと研究していたのは死者蘇生の魔道具に間違いないはずだ。

 カワードは孫娘を生き返らせるため、カテリーナは夫を生き返らせるために。


 カテリーナは成功していたと言っていた。実際、自分はレナードに会っている。

 片方が成功で片方が失敗というのはどういうことなのだろうか。


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