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28 王都の状況を聞いてから食料調達に向かう


「王都の状況を教えてもらいたい」


 魔法卿の問いに答える形で、ネクスタウン支部長のヨランダが答える。彼女が男性ヘンリーの姿をしていることにも慣れてきた。


「王都では冠位七位、マーティン・カワード氏が中心になって結界を維持しておりますわ。この国にいる最高位の魔法使いですわね」

 冠位七位。父より二つ上の階級だ。あの規模の結界を張って、魔力回復液を使いつつだろうけれど維持できているというのはさすがだと思う。

「ただ、人口が多いぶん、混乱は大きいようで……。ここよりもかなり治安が悪化してしまっていることに困っていると言っていましたわね」


「なるほど? この状況の原因は王都の魔道具らしいんだが、それについては何か聞いているか?」

「こちらではなく役場の方に、新しい国王様からそのような話があったというのは聞いているのですが。カワード氏も詳細はわからないと言っていましたわ。

 これはただの私見なのですけれど、女王様がわたくしたち国民の不利益になることをされるはずがないとは思っております」

「ほう? それはなぜだ?」


「もう十年ほど前になるでしょうか。この国が自然災害に見舞われた折、まだ若かった女王様は率先して国庫を開き、外国とも交渉して国民の生活を支援してくださいました。

 国民が豊かに暮らせることを最優先とし、一度たりとも無茶な税をとったことのない方です。

 一方、新国王様はこの状況において、各都市に貯蔵している食料を一刻も早く王都に集めるようたびたび連絡してきているそうですわ。運べるはずなどありませんのに。

 なので……、通達をすべて鵜呑みにしている民は多くはないかと思っております。元王女のセリーヌ様は行方不明とのこと。指名手配のように回ってきておりますが、わたくしたちは身を案じている立場ですわ」


 つい、男の子の変装をしているセリーヌと、トリの姿の元女王カテリーナをチラッと見てしまう。どちらも表情は読みとれない。

 魔法卿が受ける。


「なるほどな。そう見ている者もいるというのは参考になった。

 王都に入って直接調査したいのだが。ここに入った時と同じ方法で、王都の結界を解除して中に入れてもらうのは可能だと思うか?」

「どうぞこちらの連絡用の魔道具をお使いください」


 魔法卿が魔道具を借りて連絡を送る。

 しばらくしても返事はなく、この日はネクスタウンに泊めてもらうことになった。


 村から連れてきた魂が抜けているおじさんは、ここの魔法協会が預かって、必要な措置をしてくれるそうだ。任せられてホッとする。


 魔法協会の中は、多くの場所を避難してきた人たちに提供していた。魔法を使った炊きだしもしていて、夕食時には手伝わせてもらう。

 あまり具のないスープと小さなパンだ。少し先が見えたため、それでも今までよりはいくらかふんぱつしているらしい。


「……何か肉類をかってきましょうか?」

「残念だけど売っている場所はないのよ。街の機能はほとんど停止してしまっているわね」

「いえ。山とかに狩りに行けば、何かはいるんじゃないかなと」

「あら、ふふ。あなた見た目によらずワイルドなのね?」

「え、食べ物を買えないときには狩るのって普通ですよね?」


 人間に一切会いたくなかった時期や、人里から離れて探索していた時にはそうしていた。小型のトリや哺乳類なら火で焼くだけで食べられる。捕まえる時点でファイアで丸焼きにするのもいい。


 魔法卿が笑う。

「少なくとも貴族のお嬢様にとっては普通じゃないと思うぞ。ソフィアに話したら大ウケしそうだ」

「ううっ、普通ってなんでしょう……」


「魔法卿、この結界の出入りってできるの?」

「俺の許可を付与すれば可能だな。許可がある者とそれに付帯する物は通れるから、食料を運びこむこともできるだろう。俺以外にそのコントロールができる魔法使いに会ったことはないがな。褒め称えていいぞ」

「さすが魔法卿」

「さすが魔法卿様ですっ!!」

 ルーカスの心のこもっていない感じとは正反対に、ここの魔法協会の青年は大げさに声をあげた。


 彼の名はポール・フレッチャーと言い、見習い一年目らしい。得意魔法はホウキで飛ぶことなのだそうだ。自信満々に言う感じがほほえましかった。


「なら、フレッチャー、狩れそうな場所に案内してやれ。小生たちは魔力を温存しないといけなかったし、結界の出入りが難しかったから、もっとせっぱつまった時の手段だと思っていたが。いいものを食えるに越したことはないだろう」

「ラジャー!」

 ヘンリーの指示でポールの同行が決まる。


「結界を張れる魔法使いはいますの?」

「それは自分が」

「まあ、お若いのに頼もしいですわね」

 オスカー以外にペルペトゥスも同行を希望したため、絨毯じゅうたんに乗っていくことにした。

 メンバーはペルペトゥス、オスカー、ヘンリーと自分だ。スピラは子どもたちの親を演じているため残る必要があり、ルーカスは念のため補助に残ると言っていた。


「オスカーが結界を張ってくれるなら、私が運転しますね」

「ありがたいですっ!」

「……ポールが後悔しないといいのだが」

「待ってください、どういう意味ですか……」

 ゆっくり運転するための魔力量はさすがに理解してきている。運送協会のテストもパスしたし、今は魔法で魔力量自体を抑えてあるから間違えて速くしすぎることもないはずだ。


 狩猟メンバーを乗せて出発する。元々薄暗かったのが更に暗くなってきているため、大きめにあかりの魔法を灯しておく。

 魔法卿の結界を抜けた直後にオスカーが結界をはってくれた。


「近くの山だと小型のトリが多いですね! 味がいいのは大型のビッグキャソウェリーとか、トリ以外ではオオマクロパスとかなのですが! こいつらはどちらも魔物で、倒すのが大変なので!」

「どちらも聞いたことがないですね。生息地は遠いんですか?」

「ホウキで三十分くらいのところです!」

「方角は?」

「え、今からだと遅くなりますよ?! オススメはしないけど、ビッグキャソウェリーはそっちの山で、オオマクロパスはあっちの平地ですね!」

「平地の方が見つけやすいですかね」


 ホウキで三十分くらいのところなら、絨毯じゅうたんを早く飛ばせば五分もあれば着くだろう。

 けれど今はあまりスピードを出せるところを見せられないから、三倍速さんばいそくくらいが妥当だろうか。

(そのくらいの速さなら風を防がなくても問題ないわよね)

 ミスリルの檻をじゅうたんに被せるのは普通じゃないらしいから、ポールに見せてつっこまれたくはない。

 そう思いつつぐんっとスピードを上げる。


「ひっ……!」

 驚いたような声が聞こえた気がするけれど、すぐに慣れるはずだ。

「やはりな……」

 オスカーの苦笑まじりな声がする。


「え、前みたいに間違えて魔力を流しすぎたんじゃなくて、ちゃんと計算して三倍速にしてますよ? ポールさんは魔法使いなので、フィくんみたいに怖くはならないかなって」

 そこは大事なところだからちゃんと言っておく。スピードを上げている影響で聞こえづらくなっているだろうから、少し大きめのボリュームだ。


「自分たちは絨毯じゅうたんを速く飛ばすことに慣れているが、普通はそうではないからな」

「ここにも普通の壁ですか……」


「いっ、いえっ! 僕は軟弱者ではないのでっ! もっと速くても平気ですっ!!」

「そうですか?」

 ポールがそう言うなら、もう少し急いだ方がいいのだろうか。

(魔法で魔力の出力をオスカーより少ないくらいにしてあるし、短時間なら流せるだけ流してもおかしくないわよね?)

 オスカーも短い時間ならもっと速く飛ばせるようなことを言っていたから大丈夫だろう。

 そう判断して、もう一段階加速させた。


「ひぇっ……!」

 またポールの声がしたけれど、平気だと言っていたから気にしないでおく。


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