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27 魔法協会ネクスタウン支部の功績


 変装が完了した元王女セリーヌ、トリの姿になっている元女王カテリーナ、男の子の姿になっている元王配レナードをメンバーに加えて、魔法の絨毯じゅうたんで街へと向かった。


「見たところ結界の大きさは半径三百メートルほどか」

「短時間なら自分にも可能だろうが。もし異常時から張り続けているのだとしたら相当だと思う」

 オスカーの感覚は正しいだろう。


「人がいますね。こんにちはー!」

 結界の外、空を飛ぶ絨毯じゅうたんの上から声をかけてみる。

 中年くらいの女性だろうか。驚いたようにしてから、結界の中心の方へと走っていく。


「あれ、なにか変なことをしましたかね」

「結界の外に人がいることに驚いたのと、今この街をまとめている人に知らせに行ったんじゃないかな」

 話していると、あちこちの建物の中から人が顔を出す。


「無事な人がたくさんいますね!」

「思っていたより多いな」

「このエリアに普段から住んでいるにしては多すぎるから、避難誘導がうまくいったのかもしれないね」

 結界の中心あたりから、ホウキに乗った魔法使いが慌てた様子で向かってくる。


「生存者ですか?! 結界内に入れる方法を相談してくるから、少し待てそうですか?!」

 丸メガネに七三分けの黒髪の、まじめそうな青年だ。年齢は今の自分の容姿に近いだろうか。男性の中では小柄に見える。


「結界を張っている魔法使いと話せる魔法使いか。話が早い。

 俺は魔法卿エーブラム・フェアバンクスだ。この国の騒動を収めに来た。今張ってある結界の外側、俺たちも入れた位置に結界を張り直すから、それを確認したら今の結界を解除してもらいたい」

「魔法卿様?! ちょっ、ちょっと待っていてくださいっ!!」

 わたわたとホウキの向きを変えて、元来た方へと戻っていく。スピラが絨毯じゅうたんで結界の外側から追って、中心地まで移動した。


「結界の中心は魔法協会ですね」

 建物の形はこの国に合ったものだが、見慣れたエンブレムが描かれている。

「まあそうだろうな」


 中に入った青年がすぐに飛びだしてきた。

「お待たせしましたっ! 了解とのことです!! ボクが結界の張り直しを確認して中に連絡します!」

「おう。プロテクション・シールド・スフィア」

 魔法卿が少し広めに球体の防御壁を展開する。

「さすがですっ、魔法卿様!!」

 崇めるような動きをしてから青年が魔法協会に飛びこむ。


「王都でも同じ手が使えるのでしょうか」

「結界の術者と連絡がとれるならできるが、その手段がなかったからな。張り直して元のを壊す手もあるが、街が恐慌状態になる可能性があるから最終手段だな」

「なるほど」

 話しているうちに元の結界が解除される。絨毯じゅうたんで魔法協会の前に降りた。

 青年が扉を開く。


「こちらへどうぞ! ご案内しますっ!」

(元気ね……)

 慌てていて勢いがあるのかと思っていたけれど、そうでなくても早口で声が大きいようだ。若さを感じる。


 応接室に通される。建物の雰囲気や調度品はこの国のものだろうが、内部の作り自体はホワイトヒルとそう変わらない感じがする。

 それほど待たずに、壮年くらいの男女が入ってきた。比較的しっかりした体格の短髪の男性と、中肉中背で優しそうな顔つきの女性だ。


「ようこそいらっしゃいました。魔法協会エタニティ王国ネクスタウン支部、支部長のヨランダ・ローゼンタールですわ」

 驚くのは失礼だと思いながらも驚いてしまった。女性の名前、女性言葉、女性のしぐさなのに、それを発しているのは短髪の男性の方だ。


「待ちなさい、ヨランダ。小生の姿であることをまず説明願いたい」

 女性の顔つきは優しそうなのに、にこりともしないで言う。男性の方が、ほわほわにこにこして答えた。

「もう、これからするところでしたのよ?

 とても違和感があると思うのだけど、ごめんなさいね。混乱期に、ここの副支部長でわたくしの補佐をしている夫のヘンリーと体が入れかわってしまいましたの」


(入れかわり……)

 つまり、ヨランダがヘンリーで、ヘンリーがヨランダになっているということか。しぐさや表情、言葉づかいを入れかえてみると、確かにしっくりくる。


「混乱期というのは、この国に異常が起きた時か」

 魔法卿が尋ね、ヘンリーの姿のヨランダが答える。

「そうですわ。突然のことで……」

「ヨランダが自分たちをどう戻すかより街の人たちの安全を優先したため、この状態に甘んじることになったのだ。見苦しいかもしれないが許容願えるとありがたい」

「入れ替わっていても魔法は問題なく使えましたので。わたくしたちの姿などは些末さまつなことでしょう?」


(凄い……)

 くすくす笑う彼女は堂々としたものだ。すべきことをしたという誇りを感じる。


「結界内に無事な人間がたくさんいたのはお前たちの功績か」

「わたくしたちだけでなく、みんなよくがんばってくれましたわ」


 ヨランダとヘンリーによると、異常が起きてすぐは対処方法がわからずに模索する時間が必要だったが、防御壁の魔法で侵入を防ぐのがベストだとわかってから、すぐに拡声魔法で住民に魔法協会近くに集まるよう呼びかけたのだそうだ。

 全員で避難誘導をしつつ食料をかき集め、ヨランダとヘンリーが中心になって結界を維持して今に至っているとのことだ。


「ここネクスタウンの人口が四千人と少し。そのうち結界内への避難が間にあったのが三千三百人くらいですわ」

 人口四千人はそこそこな規模の街にあたる。ホワイトヒルは人口五千人くらいで、男爵領の首都としては大きい方だ。貴族が取りしきっている様子はないから、ここは王都の近隣都市という扱いなのかもしれない。


「途中で通りかかった村は全滅していたからな。八割以上というのはよくやったと思う」

「……解決したら、残りの方も助かるといいのですが」

 魔法卿の褒め言葉に対してヨランダは残念そうだ。人を数字だけで見る人ではないのだろう。


「結界を維持するための魔力回復液も、生活を維持するための食料や物資もただ減る一方で、狭いところに密集して過ごさないといけないストレスもあり、あとどのくらいもつのかと心配ばかりがつのる日々でした。

 思っていたよりも早く中央に動いていただけて感謝しておりますわ」

「喜ばせたところ悪いが、俺が来れたところですぐ解決できるかはまた別問題でな……。ここから中央への連絡はできなくなっているんだろう?」


「何度も試したのですが何かに阻まれるようで、エラーになってしまうのですわ。島内での連絡のやりとりは可能なのですが」

「島内では連絡がとれるということは、王都の魔法協会とも連絡がとれるのか?」

「ええ、それはもちろんですわ。時々状況を連絡しあっておりますので」

「そいつは上々だ。王都の状況を教えてもらいたい」


 暗雲の外とは音信不通でも、内側では連絡を取り合えるのは不幸中の幸いだ。魔法卿が言っていた王都に入る方法も解決できるかもしれない。

 期待しつつ、話の続きを聞く。


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