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12 エルフの里長選挙結果と次の目的地の異変


 投票は、里長用の魔道具にある返答機能で簡単に行えた。呼びかけに対する応答数がわかるようになっていて、なかなか便利だ。

 元は伝達の理解度を確認するためのものらしい。大勢たいせいに影響しない程度の誤差は出るが、切り捨てても問題ないとすることにした。


「……どうしてこうなったのでしょう」

 結果を前に、ついため息がこぼれる。

 過半数どころか三分の二以上の支持を得てしまった。ほぼ七割だ。


 後からクレームにならないように一緒に結果を見てもらったサギッタリウスが豪快に笑う。

「これが総意である。三十年里長を勤めよ。望めばいつでも結婚してやろう」

「どうして結婚になるんですか……」

「世の力が必要であろう?」


 ルーカスが苦笑する。

「サギッタリウスさん、それヒトの世界だとセクハラとパワハラだからね。嫌われる要素しかないけどいいの?」

「む? 世もジュリアもヒトではあらぬであろう?」

「あの、すみません。私もイヤです」

「何がイヤか知れ、であったか。めんどうよのう」


(そういうところです、サギッタリウス様……)

 元々オスカー以外は恋愛対象外だけれど、それにしても好きになれそうなところがない。


「決まっちゃったものは仕方ないね。代理を立てて、時々様子を見に来ることにしようか」

「そうですね。キグナスさん、お願いできますか?」

「短期であらばまだしも、任期中ずっと代理をというのは、我には荷が重いと思うのであるが」


「じゃあ、こういうのはどう? 里長代理はキグナスさんとサギッタリウスさんの二人。協力して勤めること」

「世が? 赤子に毛が生えたような見張りと?」

「やれそうな気がまったくせぬ……」

 二人揃って難色を示す。提案したルーカスは笑みを崩さない。


「二人とも、よく考えてね? これはチャンスなんだ。

 次の選挙までの三十年なんて、エルフの感覚だとあっという間でしょ? それまでの間に里長代理として信頼を得られれば、次の選挙で優位じゃない?

 しかもこの三十年はジュリアちゃんが最終責任を負ってくれるんだよ?

 メリットしかない上に……、ジュリアちゃんは仕事ができる男性が好きだと思うんだよね」


「え」

 たたみかけるように話していたと思ったら、最後にためを作ってから、想定外のことを言われた。


「オスカーと出会ったのも職場で、そこではジュリアちゃんが後輩だったんだけど。

 オスカーはぼくより後輩なのにやたらできがよくてね? ぼくとしてはかわいげがない後輩だったわけ。でもジュリアちゃんからしたら頼れる先輩だったわけでしょ?」

「それは、はい。そうですね……」

 そういう聞かれ方をすると否定する要素がない。


「どう? 仕事をしてる時のオスカーはカッコイイ?」

「それはもちろん」

 オスカーはいつでもカッコイイけれど、仕事中の彼はすごくカッコイイ。


「ふむ。世はできる男であるが、確かにジュリアにそこを見せたことはなかったな。よかろう。とくと見るがよい」

「サギッタリウス様と協力してというのは不安しかないが。善処しよう」


「できる男には協調性も大事だからね? 職場でケンカしてるとか、大人としてありえないよね? ジュリアちゃん」

「え、はい。それはそうですね」

「ふむ。世はできる男であるからな。後輩にきちんと仕事というものを教えてやろう」

「……善処する」


「じゃあ、二人で代理を引き受けてくれるってことでいいね?」

「うむ」

「承知した」

(……ん?)

 なんとなく誘導されたような気がするし、全員うまく丸めこまれた気もするけれど、結果的には最善だろうから気づかなかったことにしておく。


「なるべく月に一度は様子を見に来て、魔道具に一ヶ月分くらいの魔力は入れるようにしますね。

 ただ、状況によっては来られないこともあるかもしれないので、その時は交代で維持してもらってもいいですか?」

「朝飯前だ」

「任された」


「急ぎで判断する必要があることは二人で相談して決めてください。連絡用の手紙の魔道具をいくらか用意するので、何かあればそれで私に連絡してください」

「手紙の魔道具はいつでもジュリア様に届くのだろうか」

「私が受け取れない状況もあるかもしれないので、私の部屋に届くように宛先指定をしておきますね」

 ダンジョンスペースの中にいることが多くなっているから、リアルタイムでは届かない可能性がある。家の方が安全だ。


「イヤな予感がするから、自分の部屋宛にできればと思うのだが」

「うーん、ぼく経由にしようか。検閲けんえつを入れた方がいいと思うけど、オスカー宛で嫌がらせをされるのも避けたいから」

「それでは恋文を書けぬではないか」

「書くな。仕事の連絡用だ」

 サギッタリウスの不満にすかさずオスカーがつっこんだ。


「手紙はぼくが開けて、仕事上必要なことだけジュリアちゃんに伝えるね」

「お手間をおかけします」

 ルーカスには申し訳ないけれど、甘えさせてもらえると安心だ。

 キグナスがオスカーに嫌がらせをすることはないだろうが、サギッタリウスにはそのあたりの信用がない。オスカーではなくルーカスが受けとるなら、中立だから大丈夫だろう。


「じゃあ、ちょっと多めに魔力を流しておきますね」

 ひと月くらいなら、前にサギッタリウスからもらったのを流したぶんくらいだろうか。その時のものもまだ残っているはずだから、ひと月以上の余裕が持てるはずだ。

「……こんな感じですかね」


「ジュリアはそれだけ入れても魔力切れを起こさぬのか?」

「はい。まだ余裕はありますよ?」

 空間転移で来て空間転移で帰るから、その往復を引くときびしいかと思っていた。けれど、がんばって一晩サギッタリウスの魔力を預かったことで器が広がったようで、このくらいなら問題ない感じがする。これ以上魔法を使うと帰りの分が心許こころもとないが。


「普通は年齢に応じて魔力量が上がるものであるはずだが」

 サギッタリウスの疑問を、スピラが笑って受ける。

「元の器が人によって違うのもあるんだろうけど、ジュリアちゃんは規格外だから、常識は当てはまらないって思った方がいいよ?

 なんなら私の魔力量より多いくらいなのに、増え続けてるもんね」

「どうでしょう? 自分ではよくわからないです」

 スピラを超えているというのは相当ではないだろうか。


「実によい。より子をもうけたくなった」

 サギッタリウスが何か言っていたけれど、聞かなかったことにして帰路につく。


 エルフの里を出て、空間転移に気づかれない位置まで絨毯じゅうたんを飛ばしていく。


「また用事が増えてしまいました……」

「あはは。まぁ月一で向こうも問題なさそうでよかったんじゃない?」

「私たちの感覚だと三日に一回くらい会ってる感じだからね。そのくらいなら気にならないだろうね」


「来月は魔法卿の用事の翌日、キャンディスさんたちのところに行った後に寄りましょうか……」

「それまでに土日が三回あるから、行けるところは行っておきたいね。南にある島、エタニティ王国は安定しているようだから、一日あれば大丈夫かな」


 話していたら、赤い小鳥が勢いよく飛んできて、オスカーの手に転がりこんだ。

 すぐに手紙に姿を変える。

「魔道具の手紙……? 赤は緊急連絡でしたよね」

「ああ」

 すぐにオスカーが目を通す。


「冒険者協会から冒険者パーティミラクルボンドへの緊急連絡だ。

 情報依頼をしていたエタニティ王国に異変あり。数日前から音信不通になっている。渡航される場合は注意するように、とのことだ」

「うわぁ……」

 参謀ルーカスがぼやく。頭を抱えたい。


 送ってきたウッズハイムの冒険者協会に立ち寄って、オスカーと詳細を聞いてから、いつものペルペトゥスエリアで息をつく。


「エタニティ王国の中の支部と連絡がつかなくなっていて、冒険者協会としても困っているようでした。

 近隣の支部はそれほど近くなくて、入れそうにないという状況しか連絡が来ていないそうです」

「少し様子を見ていたが、続いているのと魔法協会でも同じらしいのとで、異常と認識。渡航の可能性がある自分たちに緊急連絡を送ってくれたそうだ」


 ルーカスが考えながらペルペトゥスに尋ねる。

「三角をひとつずつ描かないといけないんだっけ?」

「うむ。巡る順番の制約はそれのみよのう」

「だと、南の島を後回しにはできないんだね」

 北東と北西を先に終わらせたのだ。必然的に次は南の島に行かないといけない。


「とりあえず近くに行って様子を見てみるしかないかな」

「そうですね……。次の週末は土曜に予定があって日曜しか動けないので、移動を考えると様子見くらいなつもりでいるのがいいかと」

「だね。他に方法はなさそうだから、現地で情報収集をしてみようか」


「初めての場所になるので、また途中まで空間転移してから絨毯じゅうたんですね。

 ペルペトゥスさんエリアのもう少し先くらいまで行ったことがあるので、そこをスタート地点にすれば、クロノハック山からエルフの領域に行ったくらいの移動距離で行けそうです」

「それならまたアレやろうよ。ミスリル・プリズン」

 スピラが目を輝かせる。相当楽しかったのだろう。


「ふふ。より飛びやすい形を研究してみましょうか」

「それならこんなのはどう?」

 そこからはいろいろな案をみんなで地面に描きだす時間になった。全員楽しそうで何よりだ。


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