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8 エルフの里長に推薦されている意味がわからない


 翌日、先週と同じメンバーでエルフの里に行った。この一週間で次の里長候補者が出揃っているはずだ。

(きっと立派なエルフが我こそってたくさん立候補してくれたはず)

 期待を胸に、代理を頼んだキグナスに結果を聞く。


「……はい?」


 立候補者一名。サギッタリウス。

 被推薦者一名。ジュリア。


「あの、何かの間違いでは……?」

「間違いあらぬ」

「私が推薦されている意味がわからないのですが……」

 完全な新参者だ。自分より人望があるエルフはたくさんいるはずではないのか。

 立候補者がサギッタリウス一人というのも意味がわからない。みんな里長になりたいと思わないのだろうか。


「ジュリア様を推薦したいと言った者は複数……、かなりいる。推薦理由は様々であった。

 大きくまとめると、サギッタリウスを倒せるくらい強いなら申し分ない、新しいことをしてくれそう、おもしろそう、いい暇つぶしになりそう、かわいい、などだな」


「待ってください。最初の二つ以外、推薦理由としてどうなんですか……」

「重要なことだと思うが。我らは暇であるからな。退屈しのぎを考えると、ジュリア様以外に適任はおるまい」

「退屈しのぎ……。これ、私が辞退したら、サギッタリウス様が里長になるんでしたっけ?」


「候補者が一人になった場合の制度は決めてなかったね。自動確定はやめた方がいいだろうね。他の候補者を始末しちゃえばいいって考える人が出ないとも限らないから」

「……まったく思いつかなかったです」

(ルーカスさんはどうしてこんな怖い発想がすぐに浮かぶのかしら……)


「あはは。ぼくはどうしてこんな怖いことがぽんぽん浮かぶのかって思った?」

「ううっ、そんなに顔に出てますか……?」

「ジュリアちゃんは浮かばなくていいと思うよ。きみがぼくと同じように考えたら、簡単に世界を支配できちゃうだろうから」

「え」


「ルーカス。あまりジュリアをからかうな」

「ほんとのことだけどね? 話を戻すと、そういう可能性が出ちゃうから、追加の決まりを考えないとねってこと。

 立候補者か被推薦者が一人しかいなかった場合、信任投票で七割ってとこかな」

「それで信任されなかった場合は?」

「最初からやり直すしかないよね」

「それは面倒ですね……」


「追加の決まりは入れつつ、今回信任投票ややり直しを回避する方法ならあるよ」

「どうすればいいんでしょう?」

「ジュリアちゃんがそのまま出て里長になっちゃうか、ジュリアちゃんが今日中に、誰かを説得した上で推薦するか。

 後者の場合は、サギッタリウスより人望がありそうな相手を見つけるところからだね」


「うーん……、今のルールだと前ほど好き勝手はできないはずなので、サギッタリウス様が里長に戻ってもいいような気もしますが。

 前者は全力で遠慮したいので、誰か他の人を推薦するのが妥当ですかね。あとはみんなで選んでもらう方向で」

「追加候補を推薦されるのは構わないだろうが。今回ジュリア様が推薦を辞退したと知られたら、一部で暴動が起きそうなのだが」

「そんなにですか……?」


「あはは。もうジュリアちゃんが里長を引き受けてもいい気がしてきたよ」

「ぜんぜんよくないのですが……」

「今のうちに、里長は代理執行者を立てることができるっていう決まりを足して、里長になった上で代理を依頼しちゃう手もあると思うよ」


「……ルーカスさんの頭の中はどうなっているのでしょうか」

「褒められてるってことにしておくね」

「もちろん褒めてますよ? すごいなって思うし、尊敬してます」

「……うん。ありがとう」

 ルーカスから提案された決まりは、念のために全て追加することにする。


「他に何人か推薦した上で、一応私も出て、穏便に他の人が選ばれるのを期待しながら、最悪選任されたとしたら代理を立てる、という感じでどうでしょうか?」

 思い思いの言葉で賛成が返る中、キグナスだけは困ったような表情だ。


「ジュリア様は里に根づく気はないのであろうか」

「すみません。そもそも私はここにいるような者ではないので」

 エルフではないのだから当然なのだが、それを明かすともっと面倒になりそうだから黙っておく。少なくとも参謀ルーカスがそうすると決めない限りは明かさない方がいいだろう。


「……ジュリア様の姓を尋ねても?」

「それも、すみません。お答えできません」

「そうか……」

 キグナスが考えるように目を閉じる。事情があってここにいられないと思ってもらえただろうか。


「……うむ。我と婚姻して姓を我のものにすれば問題なかろうな。ジュリア・シルウァ。よい響きではないか?」

「どうしてそうなるんですか……」

 キグナスも意外に押しが強い気がする。自分はジュリア・ウォード以外になる気はない。


 候補者探しのために里で聞きこみをしてみる。

 先週のPR(ピーアール)会に参加していた若い男性エルフに会うと、あの場は無効になったから改めて伴侶として選んでもらえないかと言われることが多かった。なんならヒトの時間が終わってからでもいいと、何度も言われると苦笑するしかない。


 サギッタリウスより歳上がいないからか、全体的に若いことに好意的な感触だ。特に男性からのエールが多い。

 既婚で年配の女性エルフたちからはほほえましく見られているようだ。

 比較的若い女性エルフからは、「わらわの方が美しいが、里長のような面倒はごめんじゃ」などと言われた。


 サギッタリウスは十二人いた奥さん全員と別れたようだ。感謝してくる人もいれば、完全に無視してくる人もいた。


「見かけた方とは話してみたけど、推薦を受けてくれそうな方はいませんでしたね。キグナスさんはどうですか?」

「我は一介の見張りであったから、票は集まらぬであろう」

 いろいろと協力してくれた何人かにも聞いてみたけれど首を横に振られた。


「伝統の方が大事って言う世代がいなくなってて、大体はおもしろがられてる感じだったね」

「上の世代がいないのは……」

 サギッタリウスが不穏なことを言っていたが、エルフたちとしては問題がなかったのだろうか。


「未知の病気が流行った時期があり、立て続けに亡くなられた。十分長く生きられていたから、世代交代の時期だと捉えられておるな」

「なるほど……」

 本当に病気だったのか、薬物や毒物が使われたのかは、今となっては証明のしようがないのだろう。


「逆に、子どももいないんですね?」

「今はおらぬな。ジュリア様より歳下はおらぬ。仲がいい夫婦はそれなりにいる気はするが、あまり子はできぬし、それで困ってもおらぬと思う」

「そうなんですね」


「ヒトや獣人を取りこめば子は生まれやすいのであるが、エルフはほとんど生まれぬしな」

「え、エルフって異種交配アリなんですか?」

「禁止されてはおらぬが、上の世代は眉をひそめていたな。親が許可せぬのはあったか。

 子がエルフになることが珍しく、短命種で終わることが多いのが主な理由であろう」

「なるほど……」


 子どもも伴侶も自分より先に死ぬのが確定しているというのは、できれば避けたいというのはわかる。

(スピラさんはそれでもよかったのかしら……?)

 自分とスピラが、という未来はないけれど、あったとしても長く生きられないことを考えると複雑だ。


 サギッタリウスと一騎打ちになるのをあきらめて、被推薦者の所信表明をし、エルフの里から帰ってからスピラに聞いてみた。


「スピラさんは相手が短命種でも構わないんですか?」

「エルフが言ってたこと? そこは、私はダークエルフだから。ジュリアちゃんを寿命で死なせる気なんてないよ?」

「え」

「短命種が短命なのって体の作りの問題でしょ? 定期的に体の時間を戻せば済む話だから。ずっと一緒にいられるから安心してね」


 いい笑顔だ。その魔法をジャスティンとキャンディスに使っているから、実現できるのは知っている。


「それに、エルフよりダークエルフの方が遺伝的に優位なら、ヒトに対してもエルフよりは子どもが長命種になる可能性が高くなるんじゃないかな? 一緒に実験しよっか」

 手を握られそうになったところで後ろからオスカーに抱きすくめられる。


「一般論の話だろう? ヒトはいくらでもいるんだから、好きな相手を見つければいい」

「いや逆だからね? 好きになったからそういう手があるって話だよ?」

「うーん……、私はオスカーと一緒にヒトの一生を生きられたら十分かなって」

「気長に気が変わるのを待ってるよ」


 いい笑顔のスピラは気を変える気がないらしい。理屈では可能なのはわかるけれど、長命種と同じ時間を生きる想像はつかない。


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