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2 ヒトか魔物かじゃなくて個と関係性


 オスカー、ルーカスと秘密基地で食べていた朝食を、ペルペトゥスのダンジョンでみんなで食べることにした。透明化して入る必要がなくなって、現地集合になったから楽だ。

 ルーカスがスピラを説得してくれて、昼は毎日オスカーと二人の時間にさせてもらえた。オスカー欠乏症になりそうだったから、ありがたい。


 平日の仕事上がりの時間のうち、一日は商会関係、一日は探索関係に使うことにして、残りは親孝行をすることにした。

 探索関係の予定日に、オスカーと二人でウッズハイムの冒険者協会に寄る。


「こんにちは。平日にいらっしゃるのは珍しいですね」

 土曜日に依頼を出した時と同じ受付嬢が笑顔で迎えてくれた。ここしばらく、放っておくと問題になりそうな案件をできるだけ受注してきたから、すっかり顔なじみだ。

「今日は依頼している情報収集の確認に来たのだが」

「かしこまりました。しばらくお待ちください」


 受付嬢に奥へと案内される。今度は何が起きるのかと心配したけれど、VIPルームではなく普通の応接室に通されて安心した。

 時々受付にも出ている職員が、地図を広げて説明してくれる。


「情報の希望ヶ所は三つ、こことこことここでしたね」

「はい」

 六ヶ所のうち、エルフの里、名もなき者の墓、ペルペトゥスのダンジョン近くの三ヶ所を抜いた三ヶ所だ。

 位置的には、南、北、南東のポイントにあたる。南と北はかなり大きな島で、南東は地図上だと点くらいの大きさの島だ。


「北は凍土で、魔物の領域ですね。冒険者を含め、近年の人の立ち入りの記録はありません。

 南東は、マスタッシュ王国。ここは冒険者協会も魔法協会も撤退していて、渡航の非推奨国になっています。直近の詳しい情報の入手には時間がかかるかと」

「そうなんですね……」


 概要を聞いただけで頭が痛くなりそうだ。


「最後に、南はエタニティ王国です。国土は島ひとつ、ここディーヴァ王国の倍ほどの広さです。

 穏やかな気候で、近隣諸国との観光での行き来や交流が盛んな、安定した治世の国ですね。

 魔法協会の支部もあり、魔法使いの渡航は問題ありません」

「そうなんですね」

 一ヶ所だけでも大丈夫そうな場所があってホッとした。


「マスタッシュ王国、北の凍土については、情報提供クエストという形で回しています。引き続き受注待ちでいいですか?」

「はい。ありがとうございます」

 聞いた印象では、どちらもすぐに情報をもらうのは難しそうな気がする。

(優先順位が高いのは南の島だから、ゆっくり待てばいいわよね)


 ペルペトゥスのダンジョンに集まって、環境設定を屋外にしてバーベキューをしながら情報を共有した。

「先に入ってる用事が終わったら南のエタニティ王国に行って、それでひとつめの三角が完成するね。

 他は時々様子を聞きに行ってもらう感じがいいかな」

「そうですね」


 今進められることがないから、バーベキューの話や、明日の朝食の相談などをする。


「ヒトにとって食事とはエネルギー補給だけではないのであろうな」

「それグレースたちといた時も言ってたよね」

「そうであったか?」

 エネルギー補給という意味では量としてあまり意味がないペルペトゥスも楽しそうで何よりだ。

 スピラとペルペトゥスが二人の時は酒盛りになることもあるようだが、みんなでいる時にはそれほど飲んでいない印象だ。


「これはただの興味なんだけど」

 ルーカスがそう前置いて、ヒトの姿をとって一緒に食べている、エイシェントドラゴンのペルペトゥスに尋ねる。


「ダンジョンの中ってこんなに安全じゃなくて、魔物とかがいっぱいいるイメージなんだけど、魔物は外から入ってきて住みつくの?」


「ふむ。ダンジョン内の魔物には二種類あるのう。ひとつはヌシが言うように地上から入り、住みついてダンジョンの魔力で強力になったもの。もうひとつはダンジョンマスターがその魔力により生みだしたもの。

 前者は、合言葉を必要とするこの場には入れぬ。後者は、ここには必要がない故、ウヌもジュリア嬢も魔物を出現させておらぬ」


「魔物の定着もダンジョン本体の定着と同じで、最初は魔力を流し続けないといけないので、なかなか面倒なんです」


「じゃあ伝承にある古代のダンジョンにはみんな、ペルペトゥスさんみたいな強い魔物のダンジョンマスターがいたんだ?」

「そうよのう。昔はあちらこちらに魔力だまりがあり、そこで強力になったり知性を発達させたりした魔物が、魔力だまりの魔力をダンジョンに変えることが多かったかのう」


「ダンジョンで強力になった魔物が外に出ることも多かったし、魔物が多くてヒトと魔物の住みわけが今ほどできてなかったから、ヒトは必死になって魔物の卵を割ったり子どもを狩ったりしてたよね。大きくなると手に負えなくなるから。私が狙われたのもそんな感じ」


「じゃあ、ペルペトゥスさんやスピラさんを仲間にしたグレース・ヘイリーは相当な変わり者だったんですね」

 何気なくそう言ったら、みんなに顔を見つめられた。

 スピラが軽い感じで投げかけてくる。

「それジュリアちゃんが言う?」


「え、でも、今は昔ほど魔物と敵対してないですよね?」

「普通の人は魔物っていうだけで怖がって逃げたり倒そうとしたりするし、ダークエルフは今でも十分嫌われてるからね? 君といると忘れそうになるけど」


「スピラさんはダークエルフでもあるけど、スピラさんじゃないですか。ペルペトゥスさんはペルペトゥスさんですし。ユエルやリンセや山のみんな……、前に出会ったワイバーンたちも、みんなよくしてくれるし。

 ヒトか魔物かじゃなくて、個と関係性だと思います。むしろ魔物の方がヒトより行動原理がわかりやすくて好きです」


「ジュリアちゃんは人間の方が嫌いだって言ってたもんね」

 ルーカスが苦笑する。オスカーとルーカスとは前にもこんな話をしていた気がする。

「人間がみんな嫌いなんじゃなくて……、オスカーもルーカスさんも大好きですし。

 一部の人間というか……、うーん……、人を人として扱わない人というか、私を人として扱ってくれなかった人というか……、そういう人は嫌いです。それも個と関係性なのかなって」


「大好き……?」

 オスカーとルーカスが驚いたように同じ言葉を復唱する。主題はそこではなかった気がするけど、それは肯定しておく。

「はい。大好きですよ?」

 これまでもそう言っていた気がするのに、今更どうしたというのか。

「……うん。ぼくも大好き」

「ありがとうございます」

 友だちと大好きを交換できるのは嬉しい。


「自分とルーカスは同じ大好きなのか?」

「オスカーだけ、世界で一人だけの特別な大好きですよ? ……愛してます」

 いつも思っているけれど、改めて口にするのは恥ずかしい。「愛してる」は好きや大好きよりもハードルが高い。


 オスカーが嬉しそうに表情をゆるめる。


「ああ。自分も……、ジュリアを愛してる」


(ひゃああああっっっっ)

 幸せすぎて意識を手放しそうになるのをぐっと耐えた。


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