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40 エルフの里の制度改定


 里のルールを改定するために、今までの里のことをエルフたちから教えてもらう。何人かの若いエルフが協力してくれて、その中にはキグナスもいた。


 里長には権限がある代わりに、結界の魔道具を維持するための魔力供給の義務があるそうだ。

 サギッタリウスの言動にはいろいろと問題があったが、そこはちゃんとおこたらずにやっていたため、それほど大問題にはならなかったらしい。


「サギッタリウス様から預かった分は流しておきますね」

 ほぼ満タンな状態で大量に受けとって、抱えておくのが辛かったから正直助かる。

(ムリして抱えていたからか、一晩で前よりだいぶ器が広がった気がするのよね……)

 それで困るわけではないけれど、これ以上普通からかけ離れたくはない。


 しばらく魔力を込めていたら、キグナスが心配そうな顔になった。

「そんなに流して大丈夫であろうか」

「あ、この魔道具、年季が入ってますものね。入れすぎると壊れちゃいますかね?」

いな。ジュリア様の魔力が枯渇こかつしないかと」

「それは大丈夫です。元々の私の魔力は使っていないので」


 笑顔で答えたらキグナスが目をまたたいて、それからひとつうなずいた。

「一カ月ほどは供給せずとも持ちそうであるな。通常は週に一度は供給されるようだったが」

「さすがサギッタリウス様の全魔力ですね」


 結界の魔道具に魔力供給することで、里長権限の里全体への通信ができるようになるそうだ。

 協力者のエルフたちも交えて打ち合わせた内容を通達する。


『みなさん、こんにちは。昨日サギッタリウス様に代わって里長になったジュリアです。里長の権限でいくつかの決まりを変更します。

 まず……、里長が一夫多妻で、何人でも奥さんを持てる制度を廃止します』


 エルフが一夫多妻なわけではなく、サギッタリウスが里長権限で制度を変えていたうちのひとつだった。これは廃止した方がいいはずだ。


『なので、元々里長ではなくなったサギッタリウス様には奥さんを一人にしてもらう必要があったのですが、改めてそうしてもらうようにお願いします。その時には奥さんたちの意向もよく聞いてくださいね』

 彼女たちの中には不満を抱く者もあるだろうが、改めて、笑顔にしてくれる誰かと手を取りあえるといいと願う。


『次に、ダークエルフとの関係について。こちらは遠い昔に定められた決まりですね』


 話す順番はルーカスのアドバイスも受けている。

 最初と最後の印象は残りやすく、間に挟んだことは重要視されない傾向にあるが、内容の毛色が違うとそれなりに印象に残るらしい。衝撃を最小限にする配置だそうだ。


『ダークエルフはすべからくめっせよ。この決まりを削除し、問題が起きた場合には話しあいでの解決を推奨します。

 エルフよりも繁殖力があり、優勢遺伝なようなので、うまく住み分けていけるといいと思います』


 一方的な通信ではなく、受けとった側が話したいと思えば向こうから繋げてくることもできると聞いている。

 特に反対意見が上がらないから、今里にいるエルフたちにとってはこだわりのない決まりだったのだろう。もうダークエルフ自体が存在していないと思っている可能性もある。


 スピラがエルフの奥さんをめとれればスピラの恋愛問題は解決するのではないかとも思ったけれど、本人には今のところそのつもりは皆無のようだった。

 長い目で見て自分がいなくなった後とかに、そういう日が来るといいと思う。


(お母さんがエルフだったってわかったし、大事にされていたこともわかったから。いつか気持ちの整理はつくかしら……?)


『最後に、里長の決め方と今後の制度改定の決まりについて。

 里長は長老でも強い者でもなく、最も人望がある者とします。立候補者と推薦者に対して直接投票で決め、三十年に一度、再選してください』

 三十年というスパンはヒトの時間で三年くらいな感覚なのだそうだ。まあ妥当ではないかと思う。


『推薦された者で里長になりたくない者は推薦の辞退ができます。

 投票までの間に買収や精神操作系の魔法、薬物や毒物を使用した場合はその人の全ての票を無効にするので、公正に参加してください。

 任期中であっても、明らかな造反行為などがあった場合には、不信任を表明することで退任させることが可能です。不信任には里の七割以上の署名が必要なものとします。


 また、制度や決まりの改定は、里長が希望を開示した後、全員による直接投票で七割以上の支持を得た場合にのみ可能とします。

 これらの投票は任意ではなく義務としますが、選択しないという意思表明は可能とします』


 里で暮らすエルフの数はそれほど多くない。大体の顔を知っているだろう数百人程度だからできる制度だ。


『追加の決まりとして、前里長は次に決まった里長にきちんと引き継ぎを行うこと。

 これをおこたった場合は向こう三千年、里長になる権利を剥奪はくだつします。

 今回は私が昨日里長になったばりなので、特例として、サギッタリウス様に次の里長への引き継ぎをします』


 これはルーカスからの提案だ。入れ替えがあった場合、前里長は当然おもしろくないだろうから、うまくいかないように妨害する可能性がある。何も教えないのはその一番簡単な方法だろうから、ペナルティつきの義務にすべきだと。

 そこまで頭が回っていなかったから、本当に頼りになる参謀だ。


『七日後に立候補者と推薦者の希望をとり、更に七日後に最初の投票を行ってもらいます。考えておいてください。

 次の里長が決まるまでの間、私が不在の時はキグナスさんを窓口とします。何かあればキグナスさんに言ってください』


 本当はすぐにでも里長を辞めたいけれど、この方法だと選任に時間がかかるのはしかたない。選任が終わるまではあきらめて週末につきあうことにした。


「それではまた来週来ますね」

 告げると、キグナスが残念そうに口を開く。

「このままここに住めばよかろうに」

「すみません、外での生活があるのでそういうわけにはいかなくて」

「状況は変わったが、最初に言ったことは考えてはもらえぬか?」

「すみません。最初に言えなかったのですが、私はオスカーが好きなので」

 出会った時に「我が妻になってほしい」と言われていた。キグナスにまだそのつもりがあったことが驚きだ。


「……ならばヒトの時間が終わ」

「ダメだよ。それはジュリアちゃんには禁句」

 スピラが指先でキグナスの口を止める。同じことを言った経験からだろう。

(長命種ってみんなそういう発想をするのかしら……)

 スピラに言われた時はものすごくショックだったけれど、自分もスピラに対して自分がいなくなった後のことを考えたのだから、もう否定はできない。


「キグナスさん。いろいろとお世話になり、ありがとうございました。面倒な役を押しつけてすみません。この里で一番信頼しているので、窓口をお願いできて助かりました」

「……うむ。任された」



 里を出て森の中を移動する。空間転移で帰るところはエルフにも見られない方がいいということになっている。

 歩きながらルーカスが苦笑する。

「ジュリアちゃんってほんと人たらしだよね。エルフを人とは言わないから、何たらしになるのかわからないけど」

「たらした覚えはないのですが……」


「一番信頼している、か。そう言われたらジュリアのために動くしかないだろうな」

「里で、ですよ? 一番はオスカーですから」

「私は? 私は何番目??」

「スピラさんは……、今はオスカーとルーカスさんの次、ペルペトゥスさんやみんなと同じくらいです。今回は特に、前に出て守ってくれてありがとうございました」


「やったー! 数日で昇格とかすごくない? ルーカスくんのおかげかな?」

「ルーカスさんですか?」

「あはは。役に立ってるなら何より」

 よくわからないけれど、仲良きことは良きことかなと思う。


(これでやっとひとつ……)

 大変だったの一言だ。しかもまだ後処理が残っている。あと五カ所も回るのを考えると気が遠くなる。

(さすがにぜんぶがこんなに大変っていうことは……、ない、わよね……?)


8章完結です。お読みいただき、ありがとうございました!

楽しんでいただけているようでしたら、⭐︎やレビュー、感想や反応などをいただけると喜びます。


明日から9章、場所を変えながらがんばっていきます。

彼らの冒険と思いを見守ってもらえると嬉しいです。


↓8章完結御礼イラストはペルペトゥスさん↓










挿絵(By みてみん)

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