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38 [オスカー/ルーカス] おっぱ…の衝撃


▼  [オスカー] ▼



 何が起きたのか理解が追いつかない。目の前の光景が衝撃的すぎて思考が止まっている。

 状況について考えられない原因は、思考すべき容量がほとんど「おっぱい」の一言に奪い去られているのにもある。

 なんという誘惑だろうか。このまま彼女におぼれてしまいたい。が、頭の片隅にはほんのひとかけら、紳士的に服を戻すべきだという理性もなくはない。


(落ちつけ……、どうしてこうなった……?)

 彼女は上書きすると言っていた。その目的は十分果たされたと思う。目を開いていても閉じてもおっぱいしか浮かばない。果てしなくバカになった気がする。


「おすかー?」

 ものすごく恥ずかしそうに呼ばれた。顔が真っ赤だ。そうまでしてがんばってくれたのがいじらしくて、どうにもかわいくてしかたない。


「……触れても?」

(って、何を言っているんだ!!!)

 声が出てしまった直後に猛省する。よこしまでしかない。

「えっと……、……はい。どうぞ……?」

(うわあああっっっ……! かわいいかわいいかわいい)

 恥ずかしそうにしながらも全てを委ねてくる彼女がかわいすぎる。


 大きくて形がいいそれを両手でそっと包んでみる。吸いつくように柔らかい。ほどよい弾力も肌のなめらかさも心地いい。

「んっ……」

 かわいい声がこぼれる。息を飲んだ。

(これは……、ダメだ)

「……ジュリア」

「はい……」

 後戻りができなくなる前に部屋を出ないといけないと警鐘が鳴っているのに、返事の甘い音に絡めとられて、思わずキスをした。


 彼女が首に腕を回して、求めるようにキスを返してくる。たまらず思いを重ねあう。

 とろけたような彼女の瞳には自分しか映っていない。それが何より嬉しい。

 軽く抱きあげるようにしてから、そっと床に寝かせる。唇へのキスを重ねて、首筋をたどって、胸元へと口づける。甘い香りにしびれて、彼女から抜けだせそうにない。


「んっ……、おすかぁ……」

 紡がれる音があおっているようにしか聞こえない。どうにも彼女がほしくてしかたない。高鳴る鼓動を聞きながら、彼女の柔肌に指をすべらせる。


「ヌシ様〜? どこですか〜?」

 外から半分寝ぼけたような声がした。弾かれたように身を起こす。


(ちょっと待て。今、何をしようとしていた……?)

 危なかった。完全に理性が留守だった。

 ジュリアも起きあがって、いそいそと服を整える。

「すまない」

「いえ……」

 視線が絡むとつい口づけてしまう。ジュリアが嬉しそうに笑みをこぼす。


「……急いで問題を片づけて、早く続きをしましょうね?」

(うわああああっっっっ!!!!!)

 なんてことを言うのか。理性クラッシャーにもほどがある。本心では今すぐ続きをしたいのを必死に抑えこむ。


「ああ……。……部屋まで送ろう」

「あなたは戻らないのですか?」

「少し風に当たってこれたらと思う」

「……わかりました」

 一緒にと言われなかったのは、彼女の気づかいな気がした。





▼  [ルーカス] ▼



 目を閉じて翌日のことを考えていた。オスカーがジュリアを呼ぶ声がして、寝たふりをしていたら二人が一緒に部屋を出ていった。


(これは……、追いかけるのは野暮だよね)

 バカップルウォッチングはしたいけれど、邪魔をしたいわけではない。今日は特に、オスカーが引きずっているようだから、二人の時間も必要だろう。


 いくらか経ったころに、寝ぼけたユエルがジュリアを探して部屋を出ていく。自分は行かないけれど、ユエルを止める必要もないと判断した。

(あんまり時間が長くなると、今夜は手を出しかねないしね)

 一般的に、夜は本能が強くなる。加えて、いろいろあって頭が疲れていて、あまり冷静に考えられなくなっているだろう。


 そこに他の男の問題まで加わっているのだから、何かあともう一押しくらいあればさすがのオスカーも厳しいと思う。

(それを無自覚に押しちゃうのがジュリアちゃんだからなぁ)

 なんの悪気もなく、むしろ善意でやらかすのだ。そこがかわいくはあるのだけれど、オスカーは振り回されていると思う。

(さっさと結婚できちゃえばいいんだろうけど、そうもいかないみたいだしね)


 ユエルが出てからそう経たずに、ジュリアがユエルと戻ってくる。オスカーとは扉の前で別れたようだ。

(そのまま戻って来れなくなったかな)

 大体予想通りだ。


 ジュリアの方は、本人の布団に戻ってそう経たずに眠ったようだ。小さく灯りをつけて見てみると、なんとも幸せそうな顔をしている。

(罪作りな寝顔だよね)

 腹いせにほほをつんつんしてやった。吸いつくような柔らかさは反則だ。ずっと触れていたくなる。


「ん……、おすかぁだいしゅき……」

(待って、これ寝てるんだよね?)

 寝言までぶれないのはさすがだ。自分に置きかえて想像してみると襲う気しかしない。オスカーは本当によく耐えていると思う。


(さて、と。そっちの様子でも見に行こうかな)

 あくびをしながら静かに部屋を出る。

(ランニングでもしてそうだけど、里から出ることはないだろうし、そろそろ戻ってくると思うんだけど)

 屋敷の階段の登り降りはしたくない。ホウキで飛べば楽なのに、なぜみんな普通に歩くのかと思っていたら、下から登らないと入れないように結界がはってあった。安全上はいいのだろうが、生活上は面倒しかなさそうだ。


 屋敷の扉を出たところで、階段を登ってくるオスカーが見えた。

「……ルーカスか。眠れないのか?」

「お互い様だね。まぁぼくは今日に限った話じゃなくて、元々ショートスリーパーだから」

 並んで一番上の階段に座る。少しひんやりとした夜の空気が心地いい。


「で、今夜のジュリアちゃんは何をしでかしたの?」

「しでかした前提か」

「あはは。しでかされた顔してるからね。その代わり、宴の席のことは完全にふっきれてるみたいだけど」

「……なんでも見透かすな」

「まあまあ。外に出しておいた方が落ちつくんじゃない?」


「聞きたいのか?」

「うん。ぼくのライフワークだから」

「おい」

「あはは」

 オスカーが長く息を吐きだす。

「聞いたことを後悔しても知らないからな」

「うん」


「……ジュリアが、衝撃を上書きしようと言って。キスは何度もしていたから、どうするのだろうと思ったのだが。……いを、見せられた」

「ん?」

 肝心なところの声が小さすぎて聞こえなかった。言った方は恥ずかしすぎたのか顔を隠してしまった。何をと聞き返せる感じではない。

 うっすら聞こえた印象と脳内索引を照らし合わせる。


「……ジュリアちゃんのおっぱい見たの?」

「ハッキリ言うな」

「え、それもう、据え膳もいいとこじゃん」

「だろう?」

「ガマンできたの?」

「……できると思うか?」

「ふつームリだと思う」

「だろう? ジュリアにはもう少しそのあたりの自覚を持ってもらいたい……」


「まあムリだろうね。がんばって?」

「……他人事だと思って」

「あはは。全力でうらやましいからね。贅沢ぜいたくな悩みだとは思ってるんでしょ?」

「それは、まあ、そうだな……」

「で、ガマンできなくて襲ったんだ?」


「……そのつもりはなかっただろうからすごく申し訳ないのに、ジュリアは急いで問題を片づけて早く続きをしよう、と」

「あー、うん。ごちそうさま」

「おい」

「あはは。まあ、オスカー大好きなジュリアちゃんだし。元々そのつもりじゃなくても、手を出されたらその気になるんだと思うよ? オスカー限定で。だから別に申し訳なく思わなくていいと思うけどね?」


「自分限定で、手を出されたらその気になるって……、かわいすぎるだろ……」

「うん。全力でうらやましい。まぁぼくならユエルちゃんに邪魔されても完遂しちゃう気がするけど」

「待て。見てたのか?」

「いや? ただの状況の推察。でも正解でしょ?」

「お前は探偵にでもなればいいと思う」

「あはは。きみたちのことだから楽しいだけで、赤の他人のことには興味ないからなぁ」


「完遂するのは命がけだと言われているんだが。それでも?」

「え、待って。それは初耳。どういうこと?」

「前以上に嬉しすぎて、幸せを奪う呪いが発動するかもしれない、と」

「待って。何その殺し文句……」

「だろう?」


 どれだけ好きなのかと思うのと同時に、解決するまではけっして手を出せなくなる呪いの言葉でもある。

 彼女としてはオスカーの安全が第一で、オスカーとしては彼女を残して悲しませないことが優先といった感じだろうか。

 バカップルは倫理的にガマンしているだけではなかったようだ。


「……うん。がんばろっか」

「前には進んでいるんだろうからな」

「そうだね」

 世界の摂理に会えたところで解決するかはわからないけれど、なるべく解決できるように協力するつもりだ。


 部屋に戻って布団に入ったけれど、話に聞いた情景が浮かんでしまって眠れない。

(いいなぁ……、ジュリアちゃんのおっぱい)

 やっぱり全力でうらやましい。


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