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25 自由に動けないのは不自由


「自分は一緒じゃなくていいと?」

 スピラとペルペトゥスと行くと言ったら、オスカーにそう言われた。

 巻きこんでいる自覚がある。だからできるだけ負担を減らせたらと思っていたけれど、オスカーは一緒にいたいように聞こえた。それが嬉しい。


 絨毯じゅうたんで行くことに決まって、スピラとオスカーで運転してくれるという。お礼を返して、なんとなくオスカーの手を取った。

 大きくてしっかりしていて、手だけでもずっしりと重い。本当はほおずりしたいけれどガマンして、大好きを伝えるように握っておく。握り返してもらえるだけですごく嬉しい。


「南東にいくつか島があろう? 見方によってはヒゲに見える島の、すぐ隣が目的地となる南東の島よ。北と南は地図のほぼ中央にある島で、それで全部かのう」

 言われた場所の色を変えていく。ペルペトゥスから指摘がないから、あっているのだろう。


「あ、本当に六角形に見えますね。少しつぶれて歪んではいますが」

 六つの点を結ぶと六角形、三点ずつ三角を描けば六芒星だ。

「世界規模で見れば誤差の範囲よのう。それらの中央がムンドゥスの祭壇よ」

「行くのは七ヶ所……。島の三ヶ所もどこも行ったことがないので、なるべく近くから飛ぶしかないですね」


「どこもここから離れてるから、どんなところかもあんまり情報がないよね。情報を買えるかは考えた方がいいかも。

 本当は案内を雇えるといいんだけど、空間転移を含めて知られたくないことが多いから、情報だけ買うのがいいと思う」

「そうですね。冒険者協会に依頼を出してみてもいいかもしれません」

「ウッズハイム支部には貸しがあるから、自分たちのパーティからそこに依頼するのがいいだろうな」

「この後行きましょうか」

「ああ」


「あと、長距離の空間転移はかなり魔力を使うので。海側を回る最短距離でも、一番遠い南東の島を当日中に往復するのは厳しいかもしれません」

「できるだけ一回で終わらせたい感じだね」

「何かあった時は泊まれると安心なのでしょうが。まだ夏休みのうちとか土日とか、仕事上は大丈夫でも私の家が難しいんですよね……」

 商会合宿のように行く場所をハッキリ言えるならまだしも、ただ出かけて泊まりたいというだけだと父から許可をもらえると思えない。本当の目的地はもっと言えない。


「年に一度くらいなら、ぼくの実家に遊びに来るのを口実にしてもらうのはできるかな。魔法使いじゃないからクルス氏に会う機会はないだろうから」

 ルーカスの提案にオスカーが同意する。

「確かに、自分のところだと関わる可能性があるから、ルーカスのところが妥当だろう」

「ありがとうございます。自由に動けないって不自由ですね……」

「うん、そのままだね。ぼくももう少し言い訳とか方法を考えてみるよ」


「ご両親に真実を話すわけにはいかないのだろうか」

 オスカーからの問いかけは静かでおだやかなのに、自分の中で波紋はもんが広がった気がした。気持ちを落ちつけるために、彼の腕をぎゅっと抱きしめる。


「……なんでしょう。他の人の方がまだマシというか、親だからこそ話せないというか」

「逆の立場だったら?」

「もちろん話してほしいですけど……、話せないのもわかります」

「ジュリアの中ではまだその時ではないんだな」

「そうですね……、問題を解決するために話した方がいいのはわかるのですが、問題が解決していないと話しにくいというか。

 まだ爆弾を抱えているようなものなので……、余計な心配をかけるくらいなら、普通の心配をかけていた方がいい気がします」

「そうか」


 オスカーがわかってくれてホッとする。ひとつの方法としての提案だったのだろう。

 本当はそれがいいのだろうとわかっているからこそ本心を言いにくかったけれど、言えば受けとめてもらえるのが嬉しい。


「それに、お父様が知ったら手を尽くそうとして四方八方に言ってしまう気もしますし。問題になりそうなところはさすがに伏せてくれると期待したいところですが。

 私のために自分で解呪師を探したりして、魔法協会の支部の全員だけじゃなくて、近隣の支部とかにも広めてしまいそうで」

「あはは。クルス氏、お見合い話で前科があるもんね」

「あれは死ぬほど恥ずかしかったです……」


「とりあえずはごまかしごまかしやってくしかない感じかな」

「各地を巡っている時はいいけど、ムンドゥスに会う時はある程度まとまった期間を見ておいた方がいいよ。グレース、会ってから契約成立まで一か月くらい監禁されてたから」

「え」

「そんなこともあったのう」


「監禁っていうことは、一時帰宅もできないということですか?」

「異空間に連れて行かれてたからね。私たちは心配しながら待つしかなかったの。あとから聞いたら、グレース自身にはそんなに長くいた自覚はなかったみたい。時間の流れが違うのかもしれないね」

「うーん……、それは大問題です……」

「ちゃんと理由を言えない状態で、そんなに長く仕事を休むわけにもいかないしね」


「六カ所を巡り終えたら、すぐに会いに行かないといけないのだろうか」

いな。ヒトの世とは時間感覚が違う故、ヒト一人が寿命を迎えるまで待たせても気にしまいよ」

「それは私が気にします……」

「なら、他を巡りながら考えればいいだろう。ジュリアの年齢が上がることで自然と解決できる部分もあるだろうしな」

「そうですね……」


 オスカーとのことを考えるとなるべく早くとは思うけれど、長い目で見れば、ある程度の年齢になれば動きやすくなるのは確かだろう。十代での外泊と二十代での外泊と三十代での外泊はまるで重さが違う。


「あとは……、アンドレア師匠の道場はしばらく休む方向で、他の予定も既に約束があるもの以外は最低限にできるといいな」

「そうですね。月末にブラッドさんにピカテットの女の子二羽を預けて、ディちゃんにピカテットの男の子をあげて。ソフィアさんにも、行く頻度が減るかもと伝える感じでしょうか。

 あ、あと、九月末の魔法卿との約束を忘れないようにしないと」

 クロノハック山のヌシとして、老エルフの姿でメテオを教えないといけない。一番忘れそうだ。


「それで最低限って十分忙しいよね」

「ああ。何かと予定が入って、あっという間に月日が流れるからな……」

 オスカーの声がしみじみしている。

 前の時にはこんなに忙しくなくて、土日はほとんどオスカーとデートをしていた。これだけ面倒なことにつきあってくれている今のオスカーには頭が下がるばかりだ。


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