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16 ルーカスは時々ウソつき


 夕方、別荘でポーカー大会になった。

 ルーカスとバートの賭けをしたまま全員参加になり、優勝者が誰か一人にお願いできる権利に広がっている。


 ゲーム用のコインはないから、普段使いの銅貨で代用する。五ゲームで一番コインが多い人が優勝で、ルーカスとバートのどちらも優勝できなかった場合は二人が持っているコインの量で勝ち負けを決めるそうだ。

(優勝したら誰に何をお願いしようかしら)

 フリーの参加者としては期待が高まる。

「やるからには勝ちたいですわよね」

 隣のバーバラも気合十分だ。


 一戦目はさらっとルーカスが勝った。本気でまずそうな顔をしていたし、イマイチだと言っていたのに、結構いいカードを揃えていた。

 二戦目も続けてルーカスが勝つ。同じようにしていたから今度はみんなが降りたのに、弱いカードだった。バートがすごく悔しそうだ。


「まったく同じ顔をしていたのになんでこんなに違うんだよ」

「あはは。なんでだろうね? まあでもぼくばっかり勝ってもつまらないから、次は勝ちそうもない人が勝ったら楽しいかもね」


 三戦目。

(あ、今回引きがいいかも。交換は最低限にして……)

 ルーカスと目が合うとニッと笑顔を返された。ルーカスの交換も控えめだ。

(あ、これ、いいんじゃない?)

 中の上くらいだろうか。最初のルーカスほどではないけれど、確率的にはそこそこ勝てる気がする。

 ドローポーカーをやるのは初めてだ。がんばってルールは覚えたけれど、それ以上の部分は運任せにしかならない。


「うーん、今回のカードはイマイチかな」

「さっきも最初もそう言ってたよな?! ルーカスの言うことは全部信じられない気がしてきた……」

「あはは。今度はほんとだよ。ぼくを信じて?」

「ガチでウソつきにしか見えない……」

 コインを取られないためにみんなが降りていく。


(うーん……、でも今回降りるのはもったいない気がするし。ルーカスさん、信じてって言ってるし)

 ルーカスと自分だけが残った。


「ジュリアちゃんはいいの?」

「はい。私はルーカスさんを信じますね」

「うん。正解」

 ルーカスがニッと笑って手札を開示すると、ほぼ最弱に近い。自分の手札のよさもあってか簡単に勝った。

「わあ、初めて勝ちました。嬉しいです」

「じゃあ、これはジュリアちゃんへ」

 コインを差しだすルーカスがむしろ嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。


 バートは悔しそうだ。

「うわ……、今回出してたらギリギリ勝てたのに。ウソつきが読めなさすぎる……」

「ひどいなあ。ぼくは本当のことを言ってたのに」

 ルーカスがわざとらしく傷ついた顔をして、バートが歯を噛みしめた。


 四戦目。ルーカスが今度は手応えありの顔をしている。今回は引きがよくないから、素直に降りておく。

「このタイミングで変えてきたのは、弱い手が続いているからだろ?」

「あはは。ぼくを信じた方がいいと思うよ?」

「疑ってかかるのがポーカーだ!」

 自分以外は降りず、最初と同じようにルーカスの総取りになった。


「わああっっっ」

 バートが頭を抱える。

「だから信じた方がいいって言ったのに」

「おまっ、最初にウソついたのによくものうのうと!」

「あはは」


 次が最後の勝負だ。強い手ではないけれど、最後だから気持ちばかりのコインでベットしておく。


「もう自分の手しか見ないことにした」

「そう? 今回はぼくじゃなくて、オスカーがいい手を持っている気がするけど」

「……そう見えるか?」

 突然名指しされたオスカーが少し口角を上げて問い返した。

(ちょっと楽しそう)


「どうだろうね? ぼくは降りておこうかな」

「勝ち逃げは卑怯だぞ! 今降りられたら勝ち目がないじゃないか」

「勝負の世界に卑怯も何もないと思うけど……、まあいいや。じゃあ、このくらいかな。バートがとったらバートの勝ち。他の誰かがとったらその人が優勝で、ぼくとバートの勝負はぼくの勝ち。それでいい?」

「望むところだ!」


 カードを開示していく。ルーカスのカードはそこそこよくて、バートに勝っている。

「……大ウソつきだな」

「いやいや、ぼくがウソをついたのは最初の一回だけだよ。ウソつきっていう思いこみがあるからそう見えるんじゃない? ね? オスカー」

 最後まで開示していなかったオスカーが指名を受けて手札を広げる。


「は?」

「かなり良さそうだとは思ってたけど、想像以上だね。よく揃ったね?」

「たまたまだな。それより、そこまで顔に出ていたか……?」

「どうだろうね? オスカーとジュリアちゃんとは付き合いが深いから。他のメンバーに比べると読みやすいっていうのもあるかもね」


「え、私もですか?」

「ジュリアちゃんはぼくじゃなくても読みやすいんじゃないかな」

「それ褒められてないですよね……」

「そんなことはないよ? そういうところがかわいいんだから」

 満場一致でうなずかれたけれど複雑だ。


「優勝はオスカー、ぼくとバートの賭けはぼくの勝ちってことで」

「ぁーっ、ものすごく悔しい……」

「勝ったのに嬉しくないのだが。お前の手の上で遊ばれた気がする……」

「あはは。気のせい気のせい。じゃあ、バートは今後ジュリアちゃんへの手出し禁止ね」


「とりあえず一年ってことで来年リベンジしたい……!」

「そのくらいならいいよ? 遊んであげる。接待プレイをしない人と腕を磨いておいでね」

「接待プレイですの?」

「バートは腕に覚えがあるみたいだったけど、結構わかりやすく顔に出てたから。これまでがそういうことだったんじゃない?」


「ううっ……、そう言われて思い返すと思い当たるふしがあるのが更に悔しい……」

「優勝したオスカーは誰に何を望むの?」

「それがあったな……。……ジュリア」

「はい」

「今から一時間、ジュリアの時間がほしい」

「もちろんいいですよ。優勝の権利を使わなくても喜んで」

「一応みんなで来ている手前、気が引けるというか、遠慮してはいたんだが」


「えー、そういうのがアリなら魔法使ってでも勝ちにいけばよかったなぁ」

 スピラが唇を尖らせ、ルーカスが苦笑する。

「それは反則負けだよね」

「気づかれなければセーフじゃない?」

「アウトだろう」

「反則してまで勝とうとする人は嫌いになりますよ?」

「それはイヤ! 私はジュリアちゃんに好きになってほしい!」


「あはは。じゃあ、二人が出かけている間に、オスカー以外で『好き』って言ってもらえるぼくがコツを教えてあげようか」

「ルーカスさん?!」

 今度は何を言いだすのか。ルーカスの頭の中がまったく読めない。


「ジュリアちゃん、正直に答えてね。オスカーを除いたこのメンバーだと誰が好き?」

「……ルーカスさんが好きです」

 人としてという意味なのだけれど、改めて口にするのは少し恥ずかしい。

 ペルペトゥス以外みんな動揺したように見えたのは気のせいだろうか。言いだしっぺのルーカスまで息を飲んだ気がした。


 ほんの少しの間の後で、ルーカスが笑う。

「次は?」

「うーん……、難しいですね。考えたことがないので。強いて言うなら……、ペルペトゥスさん、バーバラさん、フィくん……?」

「え、待って、ジュリアちゃん。私、ペルペトゥスより下なの?! かなりショックなんだけど……」


「そんなスピラさんでも、ルーカス先生の授業を受ければあら不思議。信頼感うなぎのぼりになれるよ?」

「教えて! ルーカス先生!」

「それは俺もぜひ知りたい」

 バートが軽く手を挙げる。

「うん。まとめて教えてあげる。大船に乗ったつもりでいていいよ。

 フィンとバーバラちゃんには必要ないだろうから、二人でデートしてくれば?」


「わたしだって必要ですわ!」

「バーバラ?」

「デートは合宿の後にもできるけど、聞き逃して出遅れるのはイヤですもの。ジュリアの親友の座はわたしが射止めますわ!」

「一理ありますね。なら僕も同席しましょう」

 フィンがそう言うと、バーバラが眉を下げる。

「それはイヤな気がするから複雑ですわね」


「まあフィンが聞いても、バーバラちゃんに害はない話だと思うけどね。多分フィンはもう薄々気づいてるだろうから。

 ペルペトゥスさんはどうする?」

「ふむ。スピラがおもしろそうであるから、ウヌも残ろうかのう」


「あの、どんな話をされるのかがすごく気になるのですが……」

「あはは。大丈夫大丈夫。ぼくに任せて、ジュリアちゃんは数日ぶりの二人の時間を楽しんでおいで?」

 そう請け負うルーカスは、茶化す風ではない。なんとなく、悪いようにはしないだろうという感じがする。


「わかりました。じゃあ、お言葉に甘えて」

「うん。ぼくは時々ウソつきだけど、きみたちの悪いようにはしないから」

「はい。ありがとうございます」

 ルーカスに笑みを返して、オスカーと指を絡めて手をつなぐ。


 時々ウソつきだというルーカスが、自分たちを助ける以外の目的でウソをついたところを知らない。だからルーカスの言葉は真実で、信じられると思う。


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