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14 外見人数的にはカップルが四組になれるらしい


「ペルペトゥスさんはどうですか?」

 ショー家の別荘に泊まりたいか、街の宿に泊まりたいかを、もう一人の当事者に聞いてみる。


「ウヌはどちらでも構わぬが。スピラが迷惑をかけておることはわかった故、首根っこは捕まえておこうかのう」

「裏切ったなペルペトゥス!」

「ありがとうございます」

 ペルペトゥスがスピラを監視してくれるなら安心だ。


「宿屋に泊まってもらって、街の観光くらいは一緒に行くのが妥当でしょうか」

「ああ。そのくらいなら」

「うん。そうだね」

「ジュリアさんの信頼感の差があからさまでゾクゾクします……」

 バートが何か言っているのは放っておく。


「ペルペトゥスさん、その姿でも空は飛べますか?」

跳ぶ(・・)ことならできるのう」

「とぶ?」

 飛ぶのと何が違うのだろうか。

「街は向こうか」

 方向を確認した直後、一度立ち上がったペルペトゥスがぐっと脚を曲げ、一気に跳躍した。アスピドケロンの甲羅が海に沈んで、ペルペトゥスは目にも止まらない速さで飛んでいく。


「えっ、ちょっ」

 慌ててホウキの出力を上げて追いかける。


 ペルペトゥスが空中で体勢を変えて足から着地する。衝撃で地面が沈みこんでひび割れた。

 着地地点を認識したのと同時に急ブレーキをかける。無事にペルペトゥスの横で止まれた。

(近くに人がいなくてよかった……!)

 着地の衝撃による風圧だけでもケガをさせてしまいそうだし、直撃したら助からないだろう。そこはコントロールして跳んだのかもしれないけれど、心臓に悪い。


 直後、同じように追いかけてきたのだろうスピラが少しだけ行きすぎて戻ってきた。

「ジュリアちゃん、コントロールいいね。あの速さで止まれるなんて。さすが」

「ふふ。師匠がよかったんじゃないでしょうか」

 遠い昔にホウキの基礎を教えてくれたのはオスカーだ。その頃よりかなりスピードを出せるようになってからも基礎が生きていると思う。

(なんで古代魔法の師匠(スピラさん)が照れているのかしら)


「ペルペトゥスさん、跳べることはわかりましたが、普通の人は驚くので。今後は誰かのホウキに乗ってもらえるとありがたいのですが」

「そういうものかのう。承知した」

 魔法で地面を直しておく。


 少ししてオスカーが到着して、長く息を吐き出した。

「……三人とも規格外過ぎるのだが」

「すみません、追いかけないとっていうのが先立ってしまって。ルーカスさんは?」

「バートも乗せているからな。ゆっくり飛んで、別荘に戻っていていいと言ってきた」

「ありがとうございます」

 オスカーは全速力で追いかけてきてくれたのだろう。彼の年代の中では群を抜いていると思う。


「じゃあ宿を探しましょうか」

 オスカーと指を絡めて手をつなぐ。

「ジュリアちゃん、私も手をつなぎたい」

「ダメに決まってるだろう」

「オスカーくんには聞いてない」

「ダメですよ? オスカーと女の子限定です」


「魔法で性別を変えればいい?」

「そういう問題じゃない。が、一生戻らなくなる魔法なら考えなくもない」

「それだと一生ジュリアちゃんといちゃいちゃできなくなっちゃうじゃん!」

 口を尖らせつつ、スピラが一方的に手を取ってくることはない。

(師匠は師匠なりにがんばってくれている気がするのよね)


 ふいにスピラが何かに気づいた顔になった。

「待って。もしかして女の子同士でいちゃいちゃするのも悪くなかったりする?」

「え」

「それって浮気になるのかな?」

「うーん……、気持ちがあったら浮気だろうし、なくてもキス以上は浮気なんじゃないでしょうか」

「ジュリア、取り合わなくていい」


 さっきからペルペトゥスが後ろでクックッと笑っている。楽しそうで何よりだ。



 翌日、宿屋に二人を迎えに行く。軽く街を見て回る約束だ。

 オスカー、ルーカス、バート、バーバラ、フィンの商会メンバーに、スピラ、ペルペトゥスと自分を加えるとなかなかの大所帯になる。


「この街で食べるなら鮮度のいい海の幸、お土産なら干物がオススメです」

「貝殻のアクセサリーとか置き物もかわいいですわよ」

 慣れているバート兄弟が案内してくれる。


「ジュリアちゃん何がほしい? 私が買ってあげる」

 スピラが言うと、バートが重ねてくる。

「ジュリアさん、せっかくなので記念品は俺が」

「お兄様、あまりジュリアを困らせないでくださいませね。ジュリア、おそろいのアクセサリーとかどうかしら?」


(私ばっかり構われすぎているのは気のせいかしら……)

 こういう時は適当にバラけるものではないのか。真ん中に置かれすぎるといたたまれない。


「えっと……、バーバラさん、この髪留め、かわいいですね」

「ほんと、色違いがたくさんあるのもステキですわね」

「バーバラさんはこのあたりの色が似合う気がするのですが。フィくん、どうですか?」

「僕? うん、かわいいと思うよ」

「!」

 バーバラが赤くなって固まったのがほほえましい。


「オスカー、私はどれがいいですか?」

 尋ねると、オスカーがどこか嬉しそうに選んでくれる。

「そうだな……、ジュリアはこれとか、このあたりが似合いそうだが」

「あ、それ、私も好きです」

「なら自分が」

 そう言ってすぐにお会計をしてくれる。高いものではないから甘えておくことにする。


「ありがとうございます。嬉しいです。つけてもらってもいいですか?」

「ああ」

 慣れないながらもがんばってつけてくれるのが嬉しいし、指先が少しひたいに触れたのもドキドキする。


「……バーバラの分は僕が」

「いいんですの?」

「はい。二言はありません」

 フィンがお会計を済ませてバーバラに手渡す。バーバラは少し何か言いたそうに迷ったけれど、自分でつけた。

 バーバラと目が合うとお互いに笑顔になる。


「なんだかダブルデートを見せられてる気分なんだけど。ぼくが女装したら外見人数的には四組になってちょうどよかったりするかな?」

「外見人数ですか?」

 自分とオスカー、バーバラとフィン。ルーカスが女装をするならルーカスとバート。それから、スピラも女性にしか見えないから、スピラとペルペトゥスか。


「ふふ。それも楽しそうですね」

「待って、それ私が女性側になってない?」

「俺は完全にハズレじゃん!」

「ふむ。そんなに女性といたいのならば、適当に声をかければよかろうに」

「え」

 ペルペトゥスは何を言いだしたのか。驚いている間に真顔のまま問いかけが続いた。

「何人必要かのう?」


「あー、ぼくはパス。ジュリアちゃん以外の女の子は結構苦手なんだよね」

「え、そうだったんですか?」

 ルーカスが前に、魔法使いだと知って声をかけてくる女性を避けていた記憶はあるが、女の子全般が苦手だとは思っていなかった。

「元々得意じゃないんだけど、最近は特にかな」


「私はジュリアちゃん以外、みんな赤子にしか見えてないからね? 女の子といて楽しい感じにはならないから、数に入れなくていいよ」

「それで俺が手を上げたら、一人だけ軽い男みたいじゃないか……」


「なんだ、よいのか? スピラは特殊だから別として、ヒト同士であれば誰であっても大差なかろうに」

「いや大差あるよ?!」

 ルーカスの本気ツッコミは珍しい。


「ペルペトゥスさんはスピラさんみたいな条件がついたりするんですか?」

「ウヌにはないのう。生き物はみな大差ない。大きさが合うかどうかだけよのう」

「あ、なるほど」

 元のサイズのペルペトゥスと一緒にいられる生き物はそういないだろう。そう思って納得すると、バートが目を輝かせる。


「体の相性も大事ですよね、ジュリアさん! これからは婚前に試すのがスタンダードになる時代になると思うんです」

「待ってください、なんのお話でしょうか……」

「もちろん大きさが合うかどうかの話ですよ」

 何か盛大に勘違いしている気がする。


 ペルペトゥスがエイシェントドラゴンだと認識していないからだろうけれど、そこをしっかり理解させるというのも違うと思う。他にどう説明すればわかってもらえるのかがわからない。

(オスカーとは体の相性もバッチリ……なんていうのも言えないものね)

 長く夫婦でいたのだ。その辺りは今更だけど、その事実は自分の記憶の中にしかないし、人に言うことでもない。


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