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11 師匠の変身魔法で人魚にされる


 朝食を終えてから、水に濡れても大丈夫なワンピースに着替えて砂浜に散歩に出る。

 オスカーは昨日と同じように水着だ。ドキドキしすぎて直視できない。

「風が気持ちいいですね」

「ああ」

 並んで歩くだけで幸せだ。


「待ってください。なに二人きりみたいな甘い空気を出してるんですか俺も混ぜてください」

 真ん中に割って入ってこようとしたバートをオスカーが押し戻す。

「本当に二人きりならよかったんだがな。向こうはいいのか?」

 示したのは少し離れた後ろを歩くフィンとバーバラの方だ。


「人の恋路に割って入るなんていう無粋なことをするわけないじゃないですか」

「待て、今の行動と完全に矛盾してるんだが?」

「ジュリアさんについては俺の恋路です」

つらの皮を三枚くらいいでもいいか?」

「あはは。オスカー、落ちついて」

 ルーカスが笑って止めに入ったところで、反対側からスピラが顔をのぞかせた。


「ジュリアちゃん、変身魔法って使える?」


 変身魔法は動物に姿を変えられる魔法だったはずだ。外見を自由に調整できるバケリンクスのリンセの魔法と違って、ただ特定の動物になるだけというものだったと思う。

 ルーカスがバートを言いくるめて引き離したところで、小さめの声で答える。


「習ったことはあるのですが、私は才能がなくて」

「ジュリアにも使えない魔法があるんだな」

 オスカーがバートたちには聞こえない声量でつぶやく。同じくらいの音量でこそっと答える。

「それはそうですよ。使える魔法の種類は人それぞれですし、あと、必要がなかったから、試して苦手だなと思ってからちゃんと練習してないですし」


「じゃあ、私がかけてあげるから、一緒に泳ごう? 海で下半身だけ魚にして泳ぐの楽しいんだよね。全部変身しちゃうと漁師に捕まったりするからオススメしないけど」


「それって人魚になれるってことですか? 師匠」

「待って、あなたの師匠になった覚えはないんだけど」

 スピラの言葉が聞こえたらしい、バートが目を輝かせて話に戻ってくる。

「俺の中ではもう師匠ですが」

「なんの師匠ですか……」

 混ぜるな危険が悪化している気がする。


 バートと一緒にルーカスも来て、足を止めたことでフィンとバーバラも近くなる。

「スピラさんの魔法で人魚になれるっていう話?」

「うん、見た目は人魚そのものだね」

「まあ! 楽しそうですわね」

「昨日の勝負を人魚の姿でやり直すか?」

「昨日の勝負?」

 バートがオスカーに聞いて、スピラが不思議そうに問い返す。


「ジュリアさんに愛をささやかれながらつんつんされる権利をかけてオスカー・ウォードと遠泳で勝負してたんだ」

「なにそれ私も参加したい」

「違う。趣旨はバートがジュリアに言いよるのをやめさせる方だ」

「あの、愛じゃなくて、好きな言葉というお約束だったかと」

「ジュリアさんはもっと過激な方がいいですか?」

「待て。何を言わせる気だ」


 バートとオスカーがめそうになったところでルーカスが苦笑する。

「ジュリアちゃんが昨日二人のリクエストを聞いていたから、その勝負は一旦終わりかな。またの機会にね」

「それは残念。ただ人魚になって泳ぐってのも悪くないか」

「うん。なれるならなってみたいよね。ぼくは普通には泳げないから尚更」


「なら、がんばって変身魔法を覚えてね。私は自分とジュリアちゃんにしかかけるつもりないから」

「え」

 みんな一緒にという話の流れではなかったのか。師匠のぶった切り方が師匠すぎる。


「おいで、ジュリアちゃん。二人で沖まで泳ごう」

「行かせるわけがないだろう」

 スピラが差しだした手から遠ざけるように、オスカーに後ろから抱きよせられる。


「メタモルフォーセス・セーミスピスキス」

「え」

「ジュリア!」

 スピラが唱えたのと同時に、足が地についていた感覚がなくなる。崩れ落ちそうになったのをオスカーが支えて、そのままお姫様抱っこで抱きあげてくれた。


(ひゃあああっっ)

 突然魔法をかけてきたスピラはどうかと思うが、怪我の功名だ。

(ちょっ、えっ、近いっ。オスカーの匂いがする……)

 幸せすぎる。表情が崩れそうになるのをこらえながら、心配そうな彼に答える。


「大丈夫です。ありがとうございます。……歩くのはムリそうですが」

 足を上げようとすると、スカートのすそから魚のおひれがのぞく。


「水着の下の部分は同化して、解除した時に戻るから安心してね」

 そう言うスピラは上半身が薄い水着で、下半身は既に水の中で魚になっている。尖った耳を隠しているキャスケット帽は健在だ。


「……スピラさん、相手の同意がないうちに魔法をかけるのはダメです」

「ダメ?」

「捨てられた子犬みたいな顔をしても、ダメなものはダメです」

「……わかった」

 悪気はまったくなさそうで、むしろ善意のようなところが、むしろ困りどころだ。ひとつひとつのNGは教えられても、何が悪いのかを理解させるのは難しい。


 小さくため息をつく。

「私以外も、希望する人には同じように魔法をかけてくれるなら、今日のところは許してあげます」

「ほんと? ジュリアちゃんがそう言うなら、他のメンバーにもかけてあげる」

 話がまとまったところで、オスカーに水の中に降ろしてもらう。

 昨日の今日で少し怖いけれど、泳ぐこと自体に興味がないわけではない。


 オスカー、ルーカス、バートが希望する。

「フィくんとバーバラさんは残りますか?」

「みんなと行きたい気はするけど……、正直ちょっと怖いかな」

「わたしはフィンくんと残りますわ。お昼のデリバリーを頼んでおきますわね」

「ありがとうございます」

 つきあう手前の二人には、二人の時間が必要だろう。二人だけで残るというのはむしろいい気がする。


 三人がスピラに魔法をかけてもらう。


(きゃあああっっ)

 人魚姿のオスカーもめちゃくちゃいい。上半身が素肌なのは目のやり場に困ると理性は言っているのに、ついガン見してしまいそうになる。

(カッコイイカッコイイカッコイイ……っ)


 頭を冷やすために海の中にもぐってみる。昨日落ちた時と違って、小さな力で自由に移動できる。魔法の影響か、水中で目を開けても痛くない。上半身を水上に持ち上げるのも難なくできた。


「確かに、スピラさんが言うみたいに気持ちいいですね」

「……そうだな」

 同意しつつも、オスカーが少し難しい顔になっている。


333話です。

本編とはまったく関係ないのですが、耳ちゅうを描きたくなったので↓




挿絵(By みてみん)


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オスカーが難しい顔になりましたが、どうなるのか気になります。
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