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45 キャンポース山の浄化クエスト


 キャンポース山のウッズハイム側。教えられた場所に空から近づく。

「あのあたりの登山道でしょうか」

「確かに道は狭くなっているが、落ちるほどだとは思えないな」

「崖の下は霧が深くてよく見えませんね」


(なんかちょっと既視感があるのは気のせい……?)

 昔のことは記憶が曖昧なのと、いろいろなところに行った記憶が混ざっているため、よくわからない。


「風で吹き飛ばしてみるか。ハイ・ウインド」

 谷底に強風が吹き、一瞬霧の量が減ったように見えた。が、すぐに元の濃さに戻る。

「物理的なものではなさそうですね」

「ああ。防御魔法をかけて慎重しんちょうに降りてみるしかないか」


「あの、防御魔法は私がかけてもいいですか? あなたは魔力を温存した方がいいでしょうし、程度は別として一応使えることにはなっているので」

「ああ。ありがたい」

「ゴッデス・プロテクション」

 当たり前のように最上級の防御魔法をかけたら、オスカーが目をまたたいた。


「……程度が別すぎやしないか?」

「念のためです。あ、防御魔法がかかっているからって無茶はしないでくださいね?」

「ああ。この前こりたからな。ジュリアを泣かせるようなことはしないつもりだ」

「ありがとうございます」

 頭を撫でられて、つい顔がゆるんでしまう。


 念のために自分にも最上級の防御魔法をかけておく。万が一ここから谷底に落ちても無傷だろう。

 オスカーがゆっくり高度を下げていくのについて、少しずつ降りていく。


「……何か、呼ばれている気がしませんか?」

「ゼノの時ほどハッキリは聞こえないが、なんとなく『おいで』とか『こっちよ』という感じがするな」

「……ゼノくんのように仲間をほしがっているのでしょうか」

「残留思念だったか。いずれにせよ、生きた人間をゴーストの世界に引きこむのはダメだろう」

「そうですね……」


 彼が言うことが正しい。けれど、ゼノの話を聞いてあげられていたらという後悔はひっかかったままだ。


「……視界が悪くなり始めたな。この辺りなら浄化で霧を晴らせるだろうか」

「そうですね。近くのものは晴らせると思います」

「パリフィケイション」

 オスカーが下級の浄化魔法で様子を見る。

 前回のお化け屋敷でゴーストに取り囲まれて中級浄化魔法を唱えた時よりも、かなり広範囲の視界が確保できた。霧自体の濃度が低いのだろう。ここのゴーストはゼノほどの力を持っていないのだと思う。


 ブワッと下から霧と強風が襲ってくる。あおられてバランスを崩しかけるが、すぐに立て直す。

(本体はあのあたりかしら)

 オスカーも同じように見定めたのだろう。発生源へと一気に降下してしていく。霧に消えて彼の姿が見えなくなる。


「フェアリー・パリフィケイション!」

 オスカーの浄化魔法が聞こえた直後、何かが叫んだような、声にならない声が聞こえた気がした。それもほんの一瞬で、言葉としては認識できなかった。


 徐々に霧が薄くなっていく。

(あ、無事に浄化できたみたい)

 前回に比べればかなり楽な仕事だった。冒険者協会が設定した通り、中級浄化魔法が使える魔法使いがいれば対処できるレベルだ。


 オスカーの姿が見えて、すぐにホウキを寄せる。かなり地面に近い位置だ。

「オスカー、お疲れ様でした」

「ああ。うまくいったな」

「ゴーストの姿は見ましたか?」

「白い霧の中に一瞬女性の顔らしきものは見たが、ハッキリはしていなかったな」

「やっぱりゼノくんが規格外だったんですね……」


 話しながら戻ろうとしたところで、地面から起き上がるようにして動く人影に気づいた。

「あれ……、もしかして、冒険者さん助かって……」

 確かめるためにホウキを向ける。


「エンハンスド・ホールボディ。アイアン・ソード」

 オスカーの呪文が聞こえたと認識するより早く、すぐ目の前で彼の剣と相手の剣が切り結ばれる。

「ぇ」

 なぜいきなり自分に剣を向けられたのか、なぜオスカーがその人物と戦っているのかがすぐには理解できない。


「……残念だが、アンデッド化しているようだ」

「ぁ……」

 そう言われてちゃんと見てみると、その顔にも肌にも生気はない。なぜ気づかなかったのかと思うレベルだ。生きていてほしいという期待が目を曇らせていたのかもしれない。


 ガタガタと音がして、同じような状態の死体が何人も集まってくる。まだ年若い冒険者の姿もあった。ワインバーグが言っていた子かもしれない。


(この人たち……)

 既に亡くなっているのも、アンデッドが本人ではないのもわかる。けれど、ほとんど朽ちていないその姿からは、確かに生きた人間だったことが伝わってくる。

 迫り来る相手に魔法を唱えないとと思うが、唇が貼りついてしまったように動かない。


「パリフィケイション」

 先の一体を浄化したオスカーが、再び間に入って守ってくれた。その背中がとても頼もしい。

「ジュリア、上に」

「……ぁ。はいっ」

 邪魔にならないようにホウキで上に逃れる。彼の優しさと約束に甘えさせてもらうことにする。


 オスカーが軽い動きで立ち回り、冒険者や登山客の服装のアンデッドたちの動きを止め、浄化魔法をかけていく。

(すごい……、動きに全然ムダがないわ……)

 上から見ていると、洗練されているのがよくわかる。そうしようと思ってもなかなかできるものではない。


(カッコイイ……)

 亡くなった人たちをいたむ気持ちは大きいけれど、彼への想いで上書きされると、だいぶ呼吸が楽になった。


「……こんなものか」

 動いていた七体を軽々さばいたオスカーが息をつく。

「ジュリア、上から見て、他に……、人の姿はあるだろうか」

 表現に気を遣ってくれたのを感じる。改めて辺りを見渡してみるが、それらしい姿はなさそうだ。


「それで全員だと思います。お疲れ様でした」

「ああ。思いのほかキレイな状態で確保できたな」

「そうですね。ゴーストの瘴気しょうきに包まれていたことでアンデッドになったのでしょうが、同じ理由で腐敗の進みも遅かったようなので、そこは不幸中の幸いかもしれません」


「ゼノの時とはずいぶん状況が違ったな」

「ゴースト系には詳しくないのですが。ゼノくんとここのゴーストの指向性の違いとか、場所の特性とかもあるのかもしれません。

 キャンポース山とアンデッドがつながったことで、思いだした事件があって。この依頼、最初は気乗りしなかったけど、受けて本当によかったなと思いました」


「思いだした事件?」


「はい。……ウッズハイムに住んでいた頃、年々行方不明者が増えていたんです。どちらかというと平和でのどかな街なのに。

 いなくなったのがみんな、気落ちするような事情を抱えている人たちで。接点もなく、事件性は疑われていなかったのですが……。

 私たちが浄化魔法を覚えて中級レベルまで使えるようになった後、長年塩漬けになっていたこの場所の浄化に着手することになって。……ゴースト浄化後に大量のアンデッドと戦うことになりました」


「行方不明者がここに引きこまれていた、ということか……」


「はい。どこかでゴーストが力を増したのか、感応性が高い人だけが反応するのかはわからないのですが。念のために今後も気をつけてもらうとして、おそらくは多くの人が助かったのではないか、と。

 ……ホワイトヒルにいた頃のことは対処していたけれど、ウッズハイムの頃のことももう少しちゃんと思いだした方がいい気がしてきました。

 まだ先だと思っていたのと、妊娠出産子育てもあって忙しくてあまりちゃんと覚えていないのとで、置いておいていたのですが」


「ジュリアが背負う必要はないだろう。思いだしたこと、できる範囲のことだけ、対処する方向でいいんじゃないか?」

「……ありがとうございます」

 背負う必要はない。優しい言葉ですっと軽くなった気がする。けれど、できる範囲のことはやっておきたいと思う。


「とりあえず冒険者協会に依頼達成の連絡をしましょうか」

「そうだな」

 オスカーが連絡魔法を送る。回収した遺体をどうするかも合わせて確認すると、追加報酬を出すから運んでほしいという。


「人目に触れない方がいいと思うので、密閉する形のアイアン・プリズンに入れましょうか」

「そんなことができるのか?」

「一般的ではないですが、イメージと魔力を調整すれば」

 オスカーが遺体を一カ所に集めてくれる。それらを全て囲うように、鉄の板に閉じこめるイメージでアイアン・プリズンを展開する。


「ミスリル・プリズンと違って呼吸ができなくなるので、生き物は入れられないのですが」

「……これも広まらない方がいい魔法だな」

「用途が限定的すぎますものね」

「いや。この檻にノンマジックを付与すれば簡単に魔法使いが殺せる上に、解除してしまえば証拠も残りにくいからな……」

「え」

 そんな発想はなかった。言われて考えてみると、確かにやろうと思えばできてしまう。魔法は使いようだ。


「……人に知られない方がいい気がしてきました。クレイ・クラフトでひつぎを作りましょうか」

「ああ。その方がいいと思う」

 人数分の土の棺を作っていくと、オスカーがその中に一体ずつ安置してくれる。浮かせてホウキに繋ぐ手間は増えるけれど、ご遺体の運び方としてもこの方がいい気がする。


 納め終えたところで黙祷もくとうささげる。オスカーと手分けしてホウキで冒険者協会まで運んだ。


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