16 男湯のユリア様像が恥ずかしすぎる
(きゃあああああっっっ)
心配して最速で様子を見に来たら、立派なものを思いっきり見てしまった。
(オスカーのっ、オスカーのっっ)
恥ずかしいやら嬉しいやら抱きつきたいやら恥ずかしいやら、感情がごちゃ混ぜだ。
「えっと、すみません……」
「いや、すまない。チェンジ・イントゥ」
オスカーが魔法で服を着た。ホッとしつつ、ちょっと残念にも思いつつ視線を戻す。
少し濡れてしまうのは、自分と同じで後から魔法で乾かすつもりだろう。
「……なんともないならよかったです。私は出ますね」
「待って、リアちゃん。大変なのは本当に大変だから。ちょっと横見たりこっちの惨状も見たりしてほしいんだけど」
フィンの声がする。上がってきたフィンは最低限を隠した状態だ。
「横……? って、え、それ、私の石像ですか??」
オスカーが、宙に浮いた石像を運んでいる。
奥からブラッドの声がする。
「そうだ。ジュリア・クルス。オスカー・ウォードを止めてくれ」
「待ってください、ブラッドさん。これ、女湯のと全然違うじゃないですか……」
「そうなのか?」
オスカーから問い返される。
「はい。女湯のは、もっとこう、普通のでした……。……ブラッドさん、制作費用はちゃんと出すので、これは没収していいですか?」
「……は?」
ブラッドの驚いたような声に、ルーカスの声が続いた。
「ね? ジュリアちゃん呼んでも事態は変わらないでしょ? むしろ、より断りづらくなったんじゃない?」
「女湯にあるようなのならまあなんとか許容できるのですが。これはちょっと……、恥ずかしすぎます……」
「……マジか」
男湯の中を見てはいけないと思っていたが、二人が出てこないのが気になって軽く中を覗いた。
「あれ? ブラッドさんとルーカスさん、なんで檻に入ってるんですか? 新しい遊びですか?」
「あはは。それは隣のオスカーに聞いて?」
「オスカー?」
「……この造形は、よくできているとは思うのだが。ジュリアを見せ物にしているみたいでイヤだったから、回収させてもらうことにして。止められないように魔法使い二人を魔法封じで拘束した」
「ああ、なるほど」
「そこ普通に納得しちゃうんですか……」
隣でフィンが苦笑する。フィンが何をしても障害にはならないから、唯一自由の身なのだろう。
強硬手段だとは思うけれど、自分のためにしてくれたことだというのはわかる。
「納得というか……、嬉しい? です。ありがとうございます」
「ん……」
オスカーが笑みを返してくれる。
(大好き……!)
彼が彼であることが本当に好きだ。
「いやいやいや、二人で完結しないでくれ。オレは困ってるからな?」
「オスカー、そろそろ檻は解除してほしいかな。のぼせそう」
「……わかった」
ルーカスの言葉でオスカーが魔法を解除する。
「私は一回出てますね。全員準備が整ってから外で続きを話しましょう」
待っている間に自分の身なりも整えておく。魔法で乾かして、軽く化粧をする程度だからそうかからない。
男性陣も急いで用意してきたのだろう。ほとんど待たずに出てきた。
オスカーは例の石像を運んできている。
(改めて見てもハレンチ……!)
目を逸らしたくなる。胸を強調して誘惑するようなポーズなんてオスカーにしか見せる気はないし、それだって恥ずかしくてできる気はしない。
ちゃんと服も着せてほしい。ほとんど下着ではないか。きちんとした服が浴場にふさわしくないなら、女湯にある石像ような、柔らかい布をかけたような雰囲気でもいい。
オスカーが少し考えてから、石像に彼の上着をかけてくれた。嬉しいけれど、それはそれでえっちな気がしちゃうのはそういう目で見ているからだろうか。
同時に、薄着になった彼の体から、さっき見た生身を想像しそうになって、がんばって頭の中から振り払う。
「……さて、ブラッドさん。モデルとして抗議したいのですが、申し開きはありますか?」
「確かにあんたがモデルだが。このくらいは美術品として許容範囲じゃないか?」
「じゃないです。まったく、ぜんぜん」
「……メンズの正直な感想を聞きたいんだが」
ルーカスとフィンが難しい顔でふるふると首を横に振る。
(言えないっていうこと?)
ブラッドがため息をついた。
「村のやつらにはすごく好評なんだ。一日の疲れが取れて、今日も生きててよかったって思えるってな」
「女性用のと同じじゃダメなんでしょうか……」
「効果は弱いだろ?」
「うーん……、魔法が弱まってくるとそうなんですかね。一応、性的な誘惑のない魔法を使っているので、魔法にかかっているうちは大差ないはずなんですが。
……お風呂が習慣化してそれ自体が気持ちよくなるまで、ちょっと強めに魔法をかけ直しましょうか」
「あんたがそう言うなら仕方ないか……。けど、代わりの像ができるまではいくらか日にちが必要だ。彫るのもすぐってわけにはいかないし、石化の魔法が使える魔法使いを雇うのも予定を合わせる必要がある」
(石化……、使えるけど、隠しておいた方がいいわよね……)
「わかりました。次の像ができるまでは置いていいです」
「助かる」
「ただし、厚手のローブを着せてください。前もしっかり閉められるタイプを買ってくるので、ちゃんと閉めてくださいね」
「マジか……」
「大丈夫じゃない? それはそれで、中を知ってるとむしろくるものがあるから」
「ちょっ、ルーカスさん?!」
「ごめんね、ジュリアちゃん。自分の像じゃなくて一般論として聞いてね」
「まあ、『ユリア様』本人の希望って説明するしかないだろうな」
「すみませんが、そうしてください。新しい像ができたら木像の時点で一度確認させてくださいね」
「……彼氏とまったく同じことを言うんだな」
「え」
オスカーを見ると、笑顔で頷いてくれた。
(大好き!!!)
「オスカーと私、両方の確認にしましょう」
「マジか……」
「お手間をおかけします。代わりに、魅了の魔法は少し強めにかけ直しておきますね。みんなは上に避難してもらえますか?」
オスカーが浴場に石像を戻してきてから、魔法使い組がホウキを出す。フィンはブラッドの後ろに乗せてもらうことになった。甘やかさないで慣れさせた方がいいというのがブラッドの言葉だ。
自分もホウキで飛んで、彼らより少し低い位置で、村全体に広域化の魔法を展開してから魅了をかけ直す。
「ラーテ・エクスパンダレ。ウェヌスタ・イードールム」
一応、ブラッドたちに呪文が聞こえないように小さめの声で唱えた。時々軽くかけ直していたのより少し多めに魔力を込める。それで風呂問題はなんとかなるはずだ。
「……あれ?」
魔法をかけ終わってから気づいた。上を向いて声をかける。
「オスカー、ルーカスさん、フィくん、ブラッドさん」
「どうした?」
「あそこ、バートさんじゃないですか?」
村の入り口近く、元々の待ち合わせ場所のあたりにそれらしい姿がある。遅れて到着したのだろう。バートの方にホウキを向ける。
「バートさん、来られたんですね」
「ああ、ジュリア様! 俺の天使! いや、女神様……! あなたのうるわしいお姿を拝見できるなんて今日はなんていい日なのでしょう!」
「……ぁ」
広域化に巻きこまれてバートがおかしくなっているようだ。すぐにバートの魔法だけ解除する。
「遅れて着いたら誰もいなくて途方に暮れていたのですが。朝からジュリアさんに会えたから、来た甲斐がありました。今からでも一緒に浴場に入りましょう」
「それは遠慮させてください……」
(あれ? 魔法、解けているわよね……?)
かかっていてもかかっていなくてもあまり変わらない気がするのは気のせいだろうか。




