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7 冒険者協会でパーティ登録をしたら爆発しろと言われる


 久しぶりの冒険者協会だ。

 建物に入る前にネックレスを胸元に出した。彼に所有されているようで嬉しい。

 しっかりと指を絡めて手を握って、オスカーについて中に入る。


 それほど人は多くない。見かけたことがある顔もない顔もいる気がするけれど、もうほとんど覚えていない。

 デート気分で来るなという声がしたかと思うと、いやあれはと説明する人がいる。向こうも知っていたり知らなかったりといった感じか。


 前はオスカーを待っていたときに絡まれたから、受注窓口にも一緒に行く。オスカーが登録・認証用の魔道具に手を当てて、登録情報を確認してもらった。

 受付嬢は、うろ覚えだけど前回とは違う人な気がする。目当ての家の浄化案件について聞くと、ランクが足りないから受注できないと言われた。


「あれ、Bランクでしたよね」

 前に見たときは今のオスカーと同じランクだったはずだ。

「何ヶ月か前にここの魔法協会が一度行って、まるで手に負えなかったそうで。浄化魔法が使える魔法使いがいることと、パーティでAマイナス以上の評価がつくことが条件になりました」

「なるほどな。それだと確かにBランクの自分は受注できないな」


「うーん……、前に私もBランク登録をさせてもらえて、二人でパーティ登録をすればAマイナスまで受注できるという話をもらったことがあるのですが。まだ有効でしょうか」

「オスカー・ウォードさんのお連れの方ですね。……はい、記録にありますね」

 オスカーの登録情報の中に書かれているようで、受付嬢からはすぐにオーケーが返った。


「いいのか?」

「前に来たときはまだ研修を始めてからの期間が短かったので。今は一応、中級魔法もいくつか習いましたし、前よりは問題がないかと。あまり実績を増やしたくはないのですが、今回だけなら」

「ジュリアがいいなら頼めたらとは思うが」

「はい。登録をお願いします。合わせてパーティ登録も」


「わかりました。お名前と、あと安全のために中級魔法をひとつ見せてもらえますか? あなたが浄化の魔法使いなら、浄化魔法でもかまいません」

「えっと、それは彼の方でお願いできればと」

 まだ正式には習っていないことになっているから、浄化魔法を人には見せられない。言いつつオスカーを見るとうなずいてくれた。


「私の方は、前に使ったエンハンスド・ホールボディでもいいですか?」

「はい。念のための確認なので、そちらで大丈夫です」

 身体強化の魔法をかけて軽く動いてみせる。それで問題ないとのことだ。

 登録用の魔道具に手を当てて、名前と生年月日を伝える。


「ジュリア・クルスさんですね。……クルスさん?」

「はい」

「魔法使いでクルスさんというと、お隣のホワイトヒルの冠位の?」

「それは父の方ですね」

「ああ、なるほど。道理でその若さで」

 つい苦笑してしまう。父の名を知られていない、もっと遠方に行った方がよかったかもしれない。


「浄化魔法はどうすればいいだろうか」

 オスカーが静かに声をかけた。気遣ってくれた気がする。

「あ、はい。それはこちらにかけてもらえますか?」

 受付嬢がカウンターの奥から一本のガラス瓶を取りだす。中で黒い炎がゆらめいている。

怨嗟えんさの炎……、に似せた、テスト用の魔道具?)


 浄化魔法の対象は主に怨霊おんりょうとアンデッドになる。毒による空気汚染にも対応できるが、それ自体が非常に珍しく、ケースとしてはイレギュラーだ。

 怨霊にはランクがある。一般的なものは白や青の炎をまとうことが多い。黒い怨嗟の炎は上位の怨霊のものだ。魔道具としては弱めるところを見るものなのだろう。


「消す必要が?」

「いえ。このレベルのものは滅多に現れないので、そこまででなくて大丈夫です」

「わかった。この後を考えてセーブさせてもらう。……パリフィケイション」

 オスカーが魔法を唱えて、てのひらを瓶へと向ける。橙色だいだいいろの浄化の光が黒い炎を包む。包まれた黒い炎がひとまわり小さくなった。


(下級魔法としては妥当な感じね)

 一般的な白い炎の怨霊ならこれで浄化できるだろう。彼には中級魔法のフェアリー・パリフィケイションまで教えてある。一段上の青い炎まで対応できると思う。

 オスカーの視線が向けられて、笑顔で頷いた。上出来だ。

 受付嬢も満足そうに瓶を回収する。


「はい。安定した浄化魔法ですね。情報を更新しておきます。

 今回のケースは未達成でもペナルティがないので、厳しいと判断したらすぐに引きあげてください」

「わかった」

 わざわざそう補足されるということは、今見せた範囲では対応できないレベルなのだろう。オスカーがセーブすると言っていた分を含めて、まずは現地を見て判断してほしいといったところか。


「ジュリア・クルスさんの登録も完了しました。お二人のパーティ名はどうしますか?」

「あ、名前が必要なんですね」

 前はソロでしか活動していなかったから、このあたりの知識はない。

「どうしましょう?」


「……自分に考えさせるとジュリアが中心になりそうなのだが」

「うーん……、私は逆になりそうだし、ネーミングセンスがないことにお墨つきをもらってるし……」

「それは後から変えられるのだろうか」

「はい、変更は可能です。あまりころころ変えるのはオススメしませんが」

「なら、今日は仮に何かつけておいて、後日正式名を決めてもいいかもしれないな」


「仮でいいなら、『オスカー大好き(仮)』?」

「それは自分がものすごく恥ずかしい……」

「うーん……」

「……自分も恥ずかしい名前しか浮かばないのだが。……『プリティジュリア』……いや、『ミラクルボンド』はどうだろうか」


「ミラクルボンド……」

 現代魔法を構成する言語で、『奇跡の絆』と訳せるだろうか。

(ちょっと待って。嬉しすぎる……!)


「それで、正式名称で」

「いいのか?」

「はい。これ以上ないくらい嬉しいです」

「ではミラクルボンドで登録させていただきますねリア充爆発しろ」

「え」

「あれ何か聞こえましたか?」

 受付嬢がものすごくいい笑顔なのに圧がすごい。

「いえ、気のせいだと思います……」

 浮かれすぎていたかなとちょっと反省だ。


 渡された地図と家のカギを持って、ホウキに乗って現地に向かう。

「エリアとしては、あなたの実家の方でしょうか」

「そうだな。街とは反対側の奥まった方だから、行ったことはないあたりだが」

「浄化……、家にとどまっていて外に出てこないっていうことは、アンデッドじゃなくて怨霊系、たぶん地縛霊系ですかね」

「あのあたりにお化け屋敷があると聞いたことはないから、自分が実家を出た後のことだろうな」


「ウッズハイムのお化け屋敷……?」

(なんか聞いたことがあったような……?)

 印象にはあるけれどすぐには思いだせない。ウッズハイム時代は子育てと仕事を両立していて、日々いろいろありすぎて記憶があいまいになっている。


 飛んでいけば目的地まですぐだ。地図によれば、高級住宅地の一番端の一軒。しばらく人の手が入っていないからか、庭には草木が茂って、建物にはツタが延びている。まだ建物が崩れるほどの時間は経っていないようだ。

 門の前に降りる。特にゾワッとするようなことはない。


「私は霊感はないので、強い力で向こうから影響してこようとしないとわからないんですよね」

「自分もだ」

「あれも解呪とかと同じで特殊能力ですものね」

 霊感があったらよかったと思ったことはある。失った人たちと話せたならと思っていた時期があった。実際に霊感があったとしても、責められるのが怖くて話せなかったかもしれないけれど。


 魔法使いが浄化する対象になるのは、アンデッドになって動きだしたものと、こちら側に影響するほどに力を増した霊だけだ。霊の力が強くなれば、霊感がない普通の人にも見えたり、影響したりする。それらの対処が仕事の範囲になる。


「ウッズハイムの魔法協会には、中級以上の浄化魔法が使える方はいなかったと思うんですよね。なので多分なんとかなるかと」

 その場では言わなかったけれど、その判断をして受けることにしている。


(……ん?)


「中級以上の浄化魔法……、ウッズハイムのお化け屋敷……」

 ふいに記憶がつながった感じがした。

「ジュリア?」

「ありました。この家の事件」


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