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37 商会の代表は身に余りすぎる


「いっそぼくらで新しい商会を作らない?」


「どうしたんですか、ルーカスさん。やぶからぼうに」

「これはみんなにメリットがある話だよ」

 ルーカスが全員の顔を見回して、フィンのところで視線を留める。


「まず、フィン様。領主が事業を持つことは珍しくないよね?」

「ええ、そうですね。うちは今のところ領地経営のみで、事業を持ったことはないですが」


「領主事業はうまくいかなくて領地に負担をかけることもあれば、うまくいくことで減税やインフラ整備ができて、領地がうるおうこともある。

 今回はフィン様個人として始められるからローリスクで、今後のための経験になる。商売感覚があるショー兄妹といることで、領主としての幅も広がる。

 うまくいったら一部を領主事業にしていってもいい。ホワイトヒル全体の観光業を活性化することもできるかもしれない」


「確かに、勉強させてもらうという意味ではいい機会かもしれませんね。将来的に領地が潤うならいい話だと思います」


「それから、ショー兄妹。きみたち、ピカテットの木彫りの販売にはんでないでしょ?」

「そうなのよね。他の人が目をつけて買いつけることになったから。

 プレゼントした時に聞くまで、ジュリアたちが関係しているものだとは全然思ってなかったわ」


「で、これはぼくの予測だけど、かなり安値で仕入れて、高値で売ってない?」

「え、そうなんですか?」

「正確なところは聞いてないけど、まあ、そうだな。需要が大きくて供給が間に合ってないからそこそこの値段で売れてるし、商会内での担当者評価が高いから、仕入れ値は安いんだと思う」


「ブラッドさんは村のみんなのことを考えるのは得意だけど、商売感覚がある人じゃないからね。

 原価はかかってないし、おじいちゃんが生き生きする趣味みたいなものだし、売れるだけで十分っていう感じの値段で卸してると思うんだよね。

 だからぼくらが間に入る余地はいくらでもあるし、村への還元率を上げることもできると思う。

 そこは村のメリットのひとつめね。


 で、きみたちに話を戻すと、今回の件で得をしてないだけじゃなくて、まだ見習いで、実家だとあまり大きなことは任せてもらえてないでしょ?」


「その通りですわ」

「そこも不満はあるな」

「自分たちの商会を作ったら、やれることが増える。いつか継ぐ時のために早めにいろいろな経験ができるし、成功したら実績になって、実家も継ぎやすくなる。

 加えて、次期領主とのコネクションが強くなるし、魔法使いと仕事をする経験にもなる。

 ショー商会にとってはマイナスかもしれないけど、きみたち兄妹にとっては悪い話じゃないと思わない?」


「すごく魅力的ですわ」

「あの担当者の鼻をあかせるのはポイントが高いな」


「で、ジュリアちゃん。きみは自分の利益は要らないんだろうけど、村の利益はちゃんと確保したい。あってる?」

「はい。なので、さっきの安く買われている話は驚きました」


「このままにしておいたら、ショー商会に限らず、いろいろなところからいい食い物にされるかもしれない。

 そこにぼくらが入っておけばストッパーになる。もし自分の収入はいらないっていうことなら、商会の運営費や村の費用として寄付してもいい。

 更に、村の人たちに雇用実績をつけてあげることもできる。日雇いから定職ってやっぱり難しいからね。実績ができたら、そのまま雇い続けてもいいし、転職をサポートしてあげてもいい」


「そう言われると確かに。村のこととして任せるより、事業として噛んだ方がいいような気がしてきました」


「ぼくとオスカーはまあ、入ることにこれといったメリットはないんだけど。オスカーはどっちかっていうとジュリアちゃんの番犬だね」

「このメンバーの中にジュリアだけを放りこめるはずがないからな。自分はそれでいい。収入も特に希望しない」


「で、ぼくも似たようなものかな。きみたち二人のブレーンだからね」

「いつも付き合わせてすみません……。あの、時間的にも厳しいですし、私が入らないで、フィン様やバートさん、バーバラさんに任せるっていうのは……?」


「ジュリアちゃん自身に入るメリットはないけれど、きみが入らないといけない理由はあるんだよね。

 まず、そもそもピカテットの観光牧場を言い出したのはきみだから。きみがこの話の中心にいるべきだ。

 次に、三人に任せた場合、きみほどは村の利益は考えないと思う。それならショー商会と直接契約しているのとそれほど変わらない。


 それから、きみが入らないと、ブラッドさんや村のみんなは納得しないと思う。

 ブラッドさん個人ならフィン様の意向で通るかもしれないけど、村人がみんな納得するかはまた別の話だからね。逆にきみがいれば、村の方は交渉の必要すらないだろうね。


 最後に、きみがいないと、このメンバーだけだと代表が決まらない。きみならきっとみんな納得してくれるはずだ。

 だから、ぼくが提案する商会の代表は、ジュリアちゃん以外には考えられない」


「代表は身に余りすぎます……」

「なにを言っているの? ジュリア。ルーカスさんの言うとおりだわ。わたしはフィンくんに代表をしてもらってもいいけれど、お兄様は納得しないと思うもの」

「それはそうだな。それなら俺がやりたい。けど、ジュリアさんなら下についても構わない。むしろジュリアさんの下になりたい」

「違うニュアンスを感じるのは自分の気のせいか?」


「まあ、みんなのところが副業オーケーならっていう前提はあるけどね。魔法協会は副業オーケーだから、ショー商会と、フィン様。

 フィン様がもう領主様なら誰も文句を言えないけど、今は領主様の許可が必要でしょ?」

「そうですね。みんなで構想を固めてから打診できたらと思います」


「魔法協会って副業オーケーなのね?」

「はい。休日とかに冒険者協会の冒険者として活動するとか、そういう想定だと思いますけど」

「あはは。副業オーケーの中に、起業しちゃいけないっていうのはないからね。まあ、ジュリアちゃんも一応、ご両親に話を通した方がよさそうだけど」


「そうですね。そこは多分、年齢や立場的に。もっと歳が上がっていたり、結婚して家を出ていたりすれば好きにしていいのでしょうが。どう話すかはルーカスさんから指導しておいてもらえるといいかなと」

「そこは任されるよ。そうすると、ジュリアちゃんが代表ってことは決まりだね」


「えっと……、何ができるかはわからないのと、あまり時間はとれないかもしれないのですが。私でよければ」

 うまく丸めこまれたような気もしつつ、みんなのためになるならまあいいかと思う。


 そのままみんなで詳細をつめていく。

「あとはブラッドさんにも話してみて……、今日のうちにそこだけはしておきましょうか。

 時々様子を見に行っているとはいえ、村のことはほとんどブラッドさんに任せきりなので。ブラッドさん抜きでは進められないかと。ちょっと連絡してみますね」


 ブラッドにこれからの都合を尋ねる連絡魔法を飛ばすと、ヒルサイドビレッジにいるから、この後いつ来てもらってもいいという。

「行きますか?」

「行っちゃおうか」

「ホウキで行くんですか? 俺はジュリアさんのホウキに乗りたいです」

「それ、魔法使いには禁句らしいですよ」

 バートの言葉にフィンが苦笑する。


「ああ。ジュリアのホウキに乗っていいのは自分だけだからな」

「ちょっ、オスカー?!」

 どうしてそこで張り合うのか。前に乗せたときのことを思いだすとものすごく恥ずかしい。


「オスカー・ウォードは自分で飛べばいいだろ? 俺たちは飛べないんだから仕方ないじゃないか」

「ぼくらの後ろか、なんから鳥カゴに入れて運んでもいいよ。共同事業者として、特別に無料で」

「ルーカスさんは商売人に向いている気がします」

「魔法を安売りしないのは魔法使いの権利を守る上で大事なことだからね」


「ジュリアのホウキはわたしもダメなのかしら?」

「あ、いえ。異性を乗せるのは、という話なので、バーバラさんは大丈夫です」

「なら、わたしがジュリアの後ろね!」

 バーバラが嬉しそうに抱きついてくる。かわいい。


「仕方ないから俺はルーカスさんのホウキに乗せてもらいます」

「仕方ないなら乗らなくていいよ?」

「……乗せてください、お願いします」

(ルーカスさんの方がバートさんよりちょっと上手うわてかしら)


「なら、必然的に僕がウォードさんのホウキですか……」

 フィンの顔色が悪くなっている気がする。

「フィくんは空を飛ぶのが怖いんでしたっけ」

「……飛んだら怖かった、が、正解かと。恥ずかしながら。落ちるイメージしか浮かびません……」


「うーん……、なら、鳥カゴに入っている方が怖くないでしょうか」

次期領主ぼくが鳥カゴに入れられて空を運ばれていたら、ビジュアルだけで大事件かと」

「それは確かに」


「なら、自分のホウキの前に座るといい。いくらかは固定できてマシかと思う」

「フィン様は背はあるけど、オスカーのががっしりしてるから、そこの二人乗りなら前に乗せるのもできるかもね。ぼくが前に乗せたら何も見えなくなって逆に危ないだろうけど」

「じゃあ、それでいってみましょうか」


「魔法使いのホウキに乗るのは初めてだから楽しみよ」

 バーバラが無邪気に笑って腕を絡めてくる。

 ユエルたちのカゴには風が入らないようにカバーをかけて、一緒に連れていくことにした。


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