表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/540

14 ピカテットの「論外」と土人形


「これ、最初にリンセに聞くべきだったパターンですかね……」

「まあ、まだユエルちゃんが気に入るかわからないから」

 ホウキにリンセを乗せて、リンセのナワバリを案内してもらう。


「ニャ、ニャー!」

 崖の間の穴のひとつに向かってリンセが声をかけると、ピカテットが一匹飛びだしてきた。

「バケリンクス、オレは食糧になる気はないと何度言ったら……」

 リンセとピカテットの間では話の内容までは通じていないはずかだが、ピカテットはそんなふうにぼやいた。


「……これは、ヌシ様。たいへん失礼いたしました」

「いえ。あの時は、リンセ……、バケリンクスのことを教えてくれてありがとうございました」

「いえいえ、お役に立てたようなら何よりでした。して、今日のご用件は?」


「……ユエル、どうでしょう?」

「見た目は合格ですね!」

「見た目……」

 そう言われても、ほとんど違いはわからない。少しだけユエルより大柄で、シュッとして見えるくらいか。


「なんの話でしょう?」

「オイラと決闘して、オイラに勝てたら、つがわせてやります!」

「どうして上から目線なんですか……」

 どう聞いても恋愛の話ではない。ユエルが脳筋すぎる。ピカテットとしては正常なのだろうか。


 相手のピカテットが頭を横に振る。

「いや、論外でしょう」

「ほら、ユエル。もう少し言いようが……」

「いえいえ、メスに手をあげるオスはろくなオスではないかと。決闘など論外です」

「臆するのですか?」

「そういう問題ではなく」

 まさかの紳士だった。

 ルーカスがポンと手を打つ。


「じゃあさ、相手がユエルちゃんじゃなければいいんじゃない? 要はユエルちゃんは、このピカテットが強いかどうかを知りたいんでしょ?」

「そうですね」

「ジュリアちゃん、ゴーレムの魔法って使える?」

「なるほど、小さいゴーレムと戦ってもらうのはいいですね。どうせならコピー人形にしましょうか」


「コピー人形?」

「はい。ちょっとやってみますね。プレイ・クレイ」

 まず初級の土魔法で、土をユエルの形にする。


「イミタティオ・ファクルタース」

 軽くユエルに触れて古代魔法を唱え始め、途中で土人形に触れる。と、土で作ったユエル人形が動きだす。

「え、何その魔法……」

「能力をコピーした人形を作る魔法です。精神はないので魔法や言葉は使えませんが、純粋に体力的な戦闘能力を試すには十分かと」


 ルーカスが困ったように息をついた。

「……うん、ジュリアちゃん、この魔法、絶対他の人には見せちゃダメだよ」

「そんな大層な魔法じゃないですよ? 古代魔法ではあるので、もちろん見せたりはしませんが」

「例えば、魔道具で壊れにくい強い体を大量に作って、ブロンソンさんをコピーしたらどうなる?」


「あー……、それは確かに怖いですね。単純命令しか遂行できないとはいえ、ブロンソンさんの戦闘力だと大変なことになりそうです」

「でしょ? きみにそのつもりがなくても、きみの魔法を悪用しようとされる可能性はあるから。

 何度か話には出てるけど、この魔法も、きみをめぐる戦争を引き起こすには十分だと思うよ」

「気をつけます……」


「……自分は訓練に使いたいと思ったのだが」

「これならオスカーがオスカーと戦えるもんね。魔法は使えなくても身体能力的にはよさそうだよね。秘密基地の中とか、人が来ない場所でやるとかの条件つきならって感じかな」


「ヌシ様、オイラも自分のコピーと戦ってみたいです!」

「じゃあ、先にユエルからどうぞ。ちゃんとコピーできているか確かめてください」

「土人形に負ける気はしません!」

 フンスッとユエルが鼻息荒くコピーに戦いを挑む。コピーには、攻撃してくる相手を倒すように命令を送った。


 ユエルのつつき攻撃をかわし、同じくつつこうとユエルに迫る。ユエルが避け、お互いに追いかけ回す動きに入る。つつくスピードも飛ぶスピードとそっくり同じだ。


「本当に完全なコピーだね」

「持続時間は込めた魔力量に比例します。今回は軽く十分程度かなと。あ、ひとつだけ注意事項があって……」

「……ゼェ、ゼェ、っ、アイタタタタッ」

 ユエルがつつかれて逃げ始めた。

「ストップさせますね」

 ユエルにケガをさせないようにコピーの動きを止める。


「コピーは生き物ではないので、疲れないっていう特性があります。魔力切れになるとピタッと動かなくなりますが」

「うん、スタミナ無限とか相当ヤバいね」

「ますます訓練に使いたくなるな」

「魔力量で稼働時間を調整して、少しずつ延ばしたらスタミナの訓練にもなりそうですね」

「どうしてきみたちは楽しそうなの……」


「ご、合格です……。コピーがオイラの代わりに戦うことを認めます」

「ということらしいですが、ピカテットさんはそれでいいですか?」

「異存ありません、ヌシ様。その土人形を倒してメスを勝ち取れということですね」

「まあ、そうですね。あなたがそれでよければ」

「はい、よろしくお願いします」


「じゃあ、あなたをターゲティングしますね」

 コピー人形にピカテットを倒すように命令を送る。

 ユエルのコピーがユエルの最速でピカテットに突っこんでいく。それをひらりとかわし、かわす返しで、羽でコピーに一撃を入れた。そこを起点に体を回転させて蹴り飛ばす。地面に落ちたところで上に着地して動きを封じた。

 ものすごくドヤられる。


「勝負アリですね。圧倒的でした。どうですか? ユエル」

 コピー人形をただの土に戻してユエルに尋ねる。

 すぐには返事がない。

(ん?)

 ユエルの目がハートに見えるのは気のせいだろうか。


「……カァッコイイ!!!!!」

「当然」

「つがいましょう! 今すぐつがいましょう! 今ここで!!」

「ちょっ、ユエル、落ちついてください」

 魔獣の行為をどうこう思うわけではないけれど、言葉が通じていると生々しい。

 つっこんでいきそうなユエルを手で抑えて動きを止める。バタバタと暴れられるけれど気にしないでおく。


「えっと、ピカテットさん、あなたはユエルでいいんですか……?」

「気概があるメスは好ましいですし、ヌシ様が選ばれたメスというのは興味深いです」

「選んだというか押しかけられたというか……」


「まあ、いいんじゃない? あとは、飼われるのがぼくでもいいかってところかな」

「ヌシ様ではなく?」

「ジュリアちゃんちで二匹は厳しいし、他の目的もあるからね。ぼくの使い魔っていう扱いなら、平日午前中は毎日ユエルちゃんに会えるよ」

「なるほど。ずっと一緒よりも適度に離れていた方が気は楽でしょうね」


「オイラはずっと一緒でもいいし、むしろ一緒がいいですけどね!」

 あれだけいろいろ言っていたユエルがメロメロだ。手を離したらすぐにでも寄っていきそうな勢いがある。幸せなら何よりだ。


「じゃあ、ぼくが名前をつければいいのかな?」

「頼む、ヌシ様のオトモ」

「ぼくはルーカス。飼い主か名前で認識してね」

「わかった、ルーカス」

(私以外には丁寧語じゃないのね……)


「そうだね……、ユエルちゃんはジュエルちゃんだっけ?」

「はい。ジュエルだと呼びかけた時に聞き間違えやすいだろうって父が言うので、愛称をユエルにしました」

「じゃあ……、ジェットとか? 黒い玉のことで、色は違うんだけど。硬派な感じがイメージに合うかなって」


「カァッコイイ!!!」

 本人より先にユエルが答える。

「ジェット。ぶっ飛びそうでいい名前だな」

「じゃあ、ジェット。よろしくね」

 ルーカスとジェットが軽く手を合わせて、それからジェットがルーカスの頭の上に収まった。


 リンセにお礼を言って、ジェットも連れてホワイトヒルに戻る。

「やっぱり先にリンセに聞いていればよかったですね」

「まあそういうこともあるよね」

「今日の目的は無事に達成できたから、問題ないだろう」


「ピカテットの飼育に必要なものを揃える必要があるから、秘密基地の家具はまた今度ですかね」

「そうだね。寮にも申請しなきゃかな」

「ヌシ様! とりあえず! とりあえず、一度つがってもいいですか?!」

「そういうことは申告しなくていいです」

 苦笑して翻訳魔法を解除した。何も聞かなければかわいいものだ。


「……生まれ変わったらピカテットになりたい」

「うらやましいのには同意する」

 二人が何か言ってるのは聞き流しておく。反応すると恥ずかしくなる気しかしない。

(私だってできるなら早くオスカーと結婚したい……)

 小さなため息が重なった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ