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8 リンセへのお礼と使い魔契約


 登山訓練の翌日土曜日。ユエルの相方探しのためにユエルも連れて、オスカーとルーカスと待ち合わせてクロノハック山に転移した。

 ホワイトヒルはもうホットローブがいらないくらい暖かくなっていたが、クロノハック山はだいぶ寒い。全員に体温調節の古代魔法モッレ・テンペリエースをかける。


「オムニ・コムニカチオ」

 今日はユエル以外とも話せるように、自分たち三人に翻訳魔法をかけた。

「先にリンセに会いに行ってもいいですか?」

「もちろんだ」

「ファビュラス王国の時のお礼にお土産を買ってきたしね」

「オイラよりヌシ様のお役に立ってるらしいのは気に入りませんが、仕方ないですね」

 ユエルがフンスッと鼻息荒く主張する。


(ユエルに役に立ってもらう……、なにか探知をお願いした方がいいのかしら)

 時々ジャイアントモールのパトロールはしてもらっているけれど、それ以外は考えてみてもすぐには浮かばない。


 リンセが寝床にしているあたりに向かう。呼ぶとすぐに出てきてくれた。

「ヌシ様、いらっしゃいニャ」

「リンセ、この前は長い間、たいへんな役目をありがとうございました」

「ほとんど寝て過ごして、毎日おいしいものが食べられたから役得だったのニャ」

「それならよかったです」


「ぬいぐるみだと気づかないでベタベタしまくってるのを見るのも中々楽しかったのニャ」

「ああ……、想像するだけで気持ち悪いですが。入れ替えておいてよかったです」

 キャンディスが耐え忍んだ月日には遠く及ばないけれど、計画を動かしていた一ヶ月余りをガマンさせ続けないで済んだのは本当によかった。リンセのおかげだ。


「お礼になるかわからないのですが、リンセが好きそうなものを買ってきました」

「ネコがまっしぐらって有名なパッキングおやつ、ちゅるちゅ〜るだよ」

「あっちはネコじゃニャ……っ! すごくいいにおいニャ!」

 運んできてくれたオスカーが荷物をおろし、ルーカスがひとつ開けて差しだしてみるとリンセが食いついた。

 手で受けとると思っていたら、リンセは舌を出してぺろりと舐めた。


「おーいしーいニャー!」

 大興奮だ。こんなに興奮しているリンセを見るのは初めてだ。

「気に入ってもらえてよかったです」

「多少日持ちするからゆっくり食べてね」

「こんなおいしいものをもらえるならなんでもするのニャ! もらえなくてもヌシ様のためならなんでもするのニャ!」

 言いながらペロペロと食べ進めていく。かわいい。


「ありがとうございます。リンセの能力は希少なので、また力を借りることもあるかもしれません」

「任せるニャ!」

「オイラもヌシ様から同じことを言われたいです」

「ユエルのかわいさは希少なので、安心してくださいね」

 ユエルがポワワっと浮かびあがる。

「任せてください、ヌシ様!」


「そういえば、ジュリアちゃん、ブラッドさんみたいに使い魔の召喚はできるの?」

「ちゃんと使い魔として契約すればできますよ。一方的に呼ぶのがあまり好きじゃなくて、私が積極的じゃないだけで」

「そうしたら街に行きやすくなるのニャ? 契約してもいいニャ!」

「そうですね……。毎回ここまでリンセを迎えに来るのはそこそこ大変なので、リンセがいいなら契約しておきましょうか」


「ヌシ様の第一の使い魔はオイラです! 契約するならオイラからです!!」

「ユエルはいつも近くにいるので必要性を感じないのですが……」

「あはは。気持ちの問題だろうね。ジュリアちゃんの一番でいたいんじゃない?」

「わかりました。じゃあ、ユエルから契約しましょうか。リンセはそれでいいですか?」

「問題にゃーいニャ」


「雪の上に魔法陣を描くので、ちょっと待ってくださいね」

「魔法陣を使うんだね。そこに入ってもらう感じ?」

「はい。しばらく入っていてもらう必要があるのと、魔物側に抵抗の意思があると契約できないので、先に関係ができてないと使い魔にはできないんです。あ、意識自体があまりない虫系魔物とかは別ですが。

 あと、使い魔契約ができるのと、召喚できるのもまた別で。空間魔法の素養がないと召喚は難しいですね」


「ブラッドは空間転移も使うからな。タグは召喚の詠唱をしていなかったから、隠し持っていた可能性が高いのだろうな」

「そうだと思います」

 描き終わった魔法陣に、ユエルに入ってもらう。補助呪文も使う上位魔法だ。意識を集中していく。


「汝は我が魂の同胞。我と共に時を歩みし契約をここに成す。コントラクト・ファミリア」

 魔法陣に魔力を流して、自分の魔力と呼応させていく。金色の光がユエルを包んで、その体内に消えていく。


「おおおおっ、すごい! これはすごいです! ヌシ様とひとつになった感じがします! ついに、ついに、オイラはヌシ様とひとつに……!」

 他意はないと思うけれど、恍惚こうこつと叫ばれるとものすごく恥ずかしい。


「……えっと……、リンセは本当に契約してもらってもいいのでしょうか」

「二言はないニャ。あっちもこんなふうになるかは少し心配ニャけど」

「たぶんそれはないと思います……」

 ユエルはユエルだからこうなのだと信じたい。


 新しい魔法陣を描いてリンセに入ってもらう。同じようにして呪文を唱え、リンセとも使い魔の契約を結ぶ。

「ニャ……! これは確かに気持ちいいのニャ……」

「そうなんですか?」

「ぽかぽかあたたかいのが入ってくる感じニャ。ヌシ様の近くにいるほど心地いいから、つながってるっていうのもなんかわかるのニャ」

「そうなんですね」

 知ってはいたけれど使ったことがなかった魔法だ。この感想は予想外だった。

「むりやりコントロールされる感じはしないようでよかったです」


「……ぼくもジュリアちゃんの使い魔になりたい」

「何を言ってるんですかルーカスさん……」

「むしろオスカー? ジュリアちゃんとつながってるとかうらやましくない?」

「その言い方はやめろ……」

 オスカーが赤くなって片手で顔を半分隠す。自分もなんだかものすごく恥ずかしい。そのあたりは聞かなかったことにしておく。


「そもそも人間とは契約できませんので……。

 それでは、リンセ。何かあったら、あるいは一緒に遊べそうな時に、召喚させてもらいますね」

「ニャ?! 遊んでくれるの嬉しいニャ! お山は暇なのニャ」

 リンセが嬉しそうにくるくる回る。かわいい。


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