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4 裏魔法協会のタグに不覚を取る


 本人は遊びたいと言い、ラヴァからの連絡でも同じことを聞いた。とりあえず話を聞くしかない。


「タグさん、私と遊びたいんですか?」

「うん。だって、ね? ボクの遊び仲間がみんな、キミにとられちゃったから。キミに責任とってもらわなきゃ」

「遊び仲間?」

「トールに、ジャアに、ラヴァ。返してくれる気はないんでしょ?」


「えっと……、トールさんはそこにいた目的が叶ったから抜けて、ジャアさんは元々そこにいる人ではなくて、ラヴァさんに至っては何を言っているのかさっぱり……」

「知らないよ。キミに用があるってジャアを連れて出かけてから全然帰って来なくって、最近やっとラヴァだけ帰ってきたと思ったら、次にどんな仕事を受けるかっていう話をしてる途中で解散を言い渡されたんだから」

「え」


 解散。裏魔法協会は冒険者パーティみたいなもので、気が合う仲間で集まって仕事を受ける集団だと言っていた。裏魔法協会自体がなくなるということではないけれど、領主邸で交戦した四人のパーティはなくなったということか。


「それは初耳です」

「今、キミが魔法協会にいたら、ちょうどその話を聞いてた頃かもね」

(ラヴァさんの用事ってそういうこと……?)


「もういい? 話すのって疲れるんだ。遊んでる方が好き」

「どんな遊びなら」

 気が済むのかと聞こうとしたら、詠唱が聞こえた。

「ポイズン・アロー」

「プロテクト・シールド」

 すかさずオスカーが唱えて、飛んでくる矢をすべて弾く。


「ジュリア。タグの『遊び』はディとは違う。『戦闘』だろう。エンハンスド・ホールボディ、フレイム・ソード」

 状況を告げられてすぐ、オスカーが魔法を唱えつつ跳躍ちょうやくする。


「おにーさんは話が早いね」

 タグがホウキで大きく後ろに引いて、オスカーの攻撃を避ける。空中での魔法戦になるとオスカーの優位性は失われてしまう。


 下ってきた登山客が驚きの声をあげた。

「なんだ?!」

「すみません、ちょっと戦闘訓練をしていて……、すぐに場所を変えます」

「そうしてくれ」

 そう言って急いで下っていく。

 ここはまずい。街よりは人がいないとはいえ、ゼロではない。魔法協会のメンバーもいつ登ってくるかわからない。援護として助かるとのではなく、自由に魔法を使えなくなる足かせだ。


「タグさん、言い分はわかりませんが、できる範囲で少しつきあいます。場所を変えましょう」

「そんなことを言って、冠位に助けを求めるの?」

「いえ……」

 タグは自分の魔法については知らないようだ。ラヴァが約束を守ってくれたのだろう。とはいえ、何をどこに言われるかわからない相手だから、どこまで見せるかは考えながら戦わないといけない。


「その冠位、父もこの山にいます。派手に戦えばすぐに飛んでくるでしょうし、呼べば来ると思うので。私をご指名なら場所を変えたほうが賢明かと」

「どこに?」

 質問には答えずに、魔法で出したロープをタグの方へと投げる。


「空間転移するのでつかまってください」

「使えるんだね、トールと同じ魔法」

 タグが目を輝かせながらロープの先をつかんだ。オスカーが途中に触れる。


「テレポーテーション・ビヨンド・ディスクリプション」

 転移先はドワーフの隠れ里の近くにした。ブロンソンがセスを解呪した場所だ。その時に平らにしたエリアがしっかり平らなまま残っていて、戦う場所としてちょうどよさそうだ。


「アイアンプリズン・ノンマジック」

「おっと」

 転移直後にオスカーが唱え、気づいたタグが、おりが生成される前に素早くけた。

「へえ? おにーさん、冠位と同じ魔法が使えるんだ? 冠位よりは小さいし遅いみたいだけど、その歳だとかなり凄いよね」


 不意打ちで捕まえてしまおうという案には賛成だ。ブラッドの時のように、自分たちを含めて広く囲えば避けられないだろう。部屋がないぶん、その時よりはかなり広めにする必要があるだろうけれど。

「ミスリルプリズン・ノンマジック」

「えーっ、そんなつまらない魔法はやめようよ?」

 そう言いつつ下がって避けようとしたタグの更に後ろに壁を作った。


「……は?」

 ホウキが消えたタグが落下してくる。

「オスカー、確保をお願いします」

「任された」

 オスカーの身体強化も打ち消されているはずだが、十分素早く駆けて、落下してくるタグを引きよせて小脇に抱えた。


「うわっ、このっ、離せっ!」

「投げ飛ばされて痛い目をみるのと、このまま抱えられていくのと、自分で歩くのとどれがいい?」

「わかった! わかったから! 歩く! 自分で歩く!」

 降ろされたタグがものすごくふてくされながら歩いてくる。


「っていうかおかしいだろ! こんな規模の魔法封じが使える魔法使いがいてたまるか! 冠位じゃない? ウソだろ? 魔法卿でもムリじゃないか? 頭おかしいのか? っていうかほんとに人間か?」

「一応人間です……」


「まったく、こうなったら降参するしかない……」

 ため息混じりに言ったと思ったら、タグがニヤリと笑った。

「なーんてね?」

 同時に、手にしていたボールを地面に叩きつける。

 シュウッとケムリが吹きだした。


「っ、オスカー、下がって!」

 それが何かはわからないけれど、よくないものなのは確かだろう。

「ジュリア!」

 オスカーが後ろに下がる代わりに飛んできて、抱きこむようにして二人一緒に身を低くする。続けて手を口元にあてられた。


「ハンカチは?」

「あります」

「なるべく吸いこまない方がいい」

「はい」

 それぞれにハンカチで口と鼻をふさぐ。


「あはは。いい判断だね。でも、ミスリルプリズンそのままでいいの? 広いとはいえ、密閉されてるとすぐに充満しちゃうよ?」

 目がチカチカする。なんの毒なのかはわからないけれど、毒物なのは確かだろう。

(なんでタグは平気なの……?)


「なんでボクが平気かって思ってたりする? ボクの体は半分毒みたいなものだからね。毒物は一切効かないんだ。おもしろいでしょ?」


「……リリース。フェアリー・パリフィケイション」

 魔法封じを解除して、浄化魔法を唱える。辺りの空気が清浄化して呼吸が楽になる。

 オスカーが抱き起こしてくれた。

「大丈夫か?」

「はい。少しくらくらしますが。あなたは?」

「自分もなんとか……」

 そう言うものの顔色はよくない。


「コントラクタ・ポイズン」

 先にオスカーに解毒をかける。

「浄化に解毒? すごいな。さっきのノンマジックといい、キミ、ほんとにその年齢?」

 ゾワッとした。自分の解毒も済ませて向き直る。


「あなたの方こそ、見た目と実年齢が違いませんか? その歳では魔力開花術式を受けられないはずです」

「うん、そうだよ」

 あっさりと認められて拍子抜けする。

「驚いた? 別に隠してないからね。ボクは毒物の実験施設で生まれ育ったんだ。このくらいの歳の頃の実験で、体の成長が止まっちゃってさ」

「え……」


「まあ、老化もしないみたいだから、これはこれでいいんだけどね。実年齢いくつくらいだったかな? まあ、トールよりは上だよ、たぶん」

「不老不死……?」

「いひ。不死ではないんじゃないかな。毒は効かないけど、ふつーにケガはするし病気もするし」


「あなたは……、この世界を恨んでいるんですか?」

「別に? ボクがいた施設は勝手に自滅して、とっくにみんな死んじゃってるし。好きに生きるのに裏魔法協会のしくみは都合がいいんだ。

 だからさ、ボクの遊び仲間を引き抜かれるのは困るわけ。これでもあいつらのことはそこそこ気に入ってたんだから」


「引き抜いた覚えはないのですが……」

「歳とってくるとさ、一人でいるの寂しいんだよね。新しい人間関係作るのもめんどうだし」

(言ってることがおじいちゃん……)

 精神年齢という意味では、わからなくはない。


「だから責任とって?」

「責任と言われても……」

「エンハンスド・ホールボディ」

 オスカーが身体強化の呪文を唱える。タグの方へと踏みこむのだろうと思った瞬間、脇腹に衝撃が走った。


「っ……、オスカー……?」

 とっさに後ろに引いたから、気を失うほどの痛みではないけれど、気持ちの上での衝撃の方が大きい。


「いひひ。敵対してる相手と長話なんてしない方がいいよ?」

 オスカーの目の色がいつもと違う。どことなくおぼろげで、焦点が合わない感じがする。それには見覚えがある。


(人を操る魔法……!? いつの間に……?)


 裏魔法協会には人を操る魔法使いがいたのだ。最初の時以来見ていなかったから、すっかり忘れていた。不可解なのは、詠唱された様子がないことだ。


 オスカーがタグとの間に立ち、自分に向かって戦闘態勢をとった。


「オスカー……!」


「いひひ。楽しいね? キミのナイトはボクのものだ。キミはどう戦うのかな?」


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