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41 小さいと思われていたのは心外だし、むじゃきって怖い


「チェンジ・イントゥ」

 キャンディスの服を、買ってきた服と魔法で入れ替える。デビルなキャンディスが気にしないで脱ごうとして、慌てて止めた形だ。元の服は目立ちすぎるため、透明化と空間転移を駆使して秘密基地に隠した。


「動きやすいし、なかなかセンスいいな」

「よかったです」

 気に入ってもらえたなら何よりだ。中性的なパンツスタイルはキャンディスの顔には似合わないのに、デビルの雰囲気には不思議と合った。


 街に入って軽い夕食をとりつつ、これからの打ち合わせをする。

 オスカーとルーカスと一緒に家に戻り、ルーカスから適当な事情を説明してもらうことにした。自分が言うよりも絶対に説得力があるからだ。

 キャンディスは、今日のうちはデビルでいてもらうことにする。口は悪いけれど、一番話は通じる気がするからだ。父の前では最低限の会話にするのと、できるだけ口調を女性寄りにするように頼んだ。


 ルーカスの提案で菓子折りも用意する。要らないと言ったものの、ルーカスとその遠縁の親戚としてお願いするなら必要とのことだ。

 結果、キャンディスは無事にクルス家の居候になった。食事以外は客間に一人でいられるから羽を伸ばせるだろう。

 ルーカスから「ちょっと変わった子で、子どもの頃にいろいろあったから、急に人が変わったようになることもある」と両親に説明してもらってある。少し安心だ。


 オスカーたちを見送って自分の部屋に戻ると、ユエルが顔面につっこんできた。丸一日放っておかれて寂しかったのだろう。

 今日は裏魔法協会のラヴァとジャアに会うつもりで出たから、安全のために残していた。

(明日は……)

 連れていけるかを考えてみたけれど、店によっては入れない。翻訳魔法で事情を説明して、ユエルが満足するまで一緒に遊んでおく。


 湯浴みでやっとひと息つけた。長い一日だった。

(インジュアさんだけは出てきませんように)

 母はまだしも、父とは相性が最悪だと思う。

(あと、デビルさんがあまりお父様に会いませんように)

 比較的自由とはいえ、最低限のマナーは求められる家だ。あの感じを父が受け入れられるとは思えない。

(あと……)

 その場では安心したはずなのに、一人になって考えていると不安材料しかなかない気もしてくる。



 日曜日は、キャンディスと出かけると言って家を出た。街中でオスカーとルーカスと合流する。

 オスカーはこの件が落ちつくまではお師匠様との訓練を休むことにしたそうだ。ちょっと申し訳ないけれど、ありがたい。

 ルーカスは今日はホットローブなしで、厚手のコートを着ている。ファビュラス王国の街に一般人として溶けこめそうな格好だ。


 いつもの出発地点に移動して、空間転移でデートン家へ向かう。魔法を使っても昨日の夜のような不調は起きない。もう大丈夫だろう。

 転移先はジャスティンの部屋だ。ジャスティンとブロンソンが準備を整えて待っていた。

「ジャスティン! 会いたかったわ」

 一晩しか離れていないのに、キャンディスが飛びついて甘える。今はディだと思う。ちょっとうらやましい。


「じゃあ、ぼくは下調べと仕込みに行くね。ラヴァさんにも手伝ってもらおうかな。

 あ、ジュリアちゃん。透明化って指定時間で切れるようにできたりする?」

「はい。かけた魔力が切れたら戻るので。多少の前後はあるかもしれませんが」

「じゃあ、ニ時間くらいで切れるようにかけてもらっていい? 全部消える方。王宮内を調べるのには必要だろうから」


「わかりました。念のためにもう少し長めにしておきますが、早めに引きあげてムリはしないでくださいね」

「うん、もちろん」

 ルーカスとラヴァに完全透明化をかけると、自分にも認識できなくなる。窓が大きく開いて、すぐに閉じた。ホウキで向かったのだろう。


 見送ってからブロンソンが口を開く。

「オレたちはどうする? ルーカスの坊主からは目立つなとだけ言われているが」

「キャンディスさんの服を買いたいので、私たちはディーヴァ王国に戻れたらと」

「そうなのよ。見て? この服。ぜんぜんかわいくないでしょう? びっくりしちゃったわ。ジュリアの服はサイズが合わなかったし」

「キャンディスさんの方が背がありますからね」


「ジュリアは小さいものね」

「普通だと思いますが……」

「小さいのはかわいくていいと思う」

「待ってください、オスカーも私を小さいと……、まあ、オスカーから見たらそうでしょうけど」

 彼は男性の中でも背が高い方だ。彼と並んだら小さく見えるのは当然だと思うけれど、ちょっとふくれたくなる。


「それで、おっぱいはわたしより大きいのに、腰は細いのよ? ずるいわ」

「ちょっ、キャンディスさん?!」

 キャンディスが自身の胸をもみながら何か言いだした。

(むじゃきって怖い……!)


「……ディ。女性が……、お……と言うのとか、胸に手をあてるのは控えた方がいいかと」

 ジャスティンが赤くなりつつ、ものすごく言いにくそうに指摘した。

「おっぱいはおっぱいでしょ? ジャスティンも揉んでみる?」

「今は遠慮します……」

「今は? じゃあ、今度ね」

 そう言って抱きつかれたジャスティンが再起不能になりそうだ。


「……お前ら、独り身のオレの前でいちゃつきすぎだ。少しは人目を気にしろ」

「ギルおじさま、昔キャンディスがジャスティンにぎゅってしてるのを見ても何も言わなかったじゃない。キャンディスの記憶を見て知っているんだから」

 ディなキャンディスがブロンソンに向かって口を尖らせる。

「いつの話だ。もうガキじゃないだろ?」

「そんなの知らないわ。わたしはぎゅってしたいんだもの。一晩、抱き枕もぬいぐるみもなかったのよ?」

「私は抱き枕ですか……」


「あ、そういうのも少し買いましょうか。あんなにたくさんはちょっと困りますが」

「女の買い物につきあうのもなあ」

 ブロンソンが苦笑する。

「じゃあ、街の外の広い場所で別れましょうか? 訓練しながら待っていてもらっていいですよ」

「おう。オレはそっちの方が助かるな」

「荷物持ちは必要だろうか」

「フローティン・エアを使えば済むことなので。オスカーも訓練の方に加わりますか? 今日は元々そういう日だったはずですし」

「ジュリアがよければ」

「はい、もちろんです」


「わたしはジャスティンと一緒がいいわ。ね? ジャスティン」

「ジャスとオスカーの坊主は戦ったことがあるんだろ? 実力が近いなら模擬戦がしやすいから、残ってもらった方がいいんだが」

 オスカーは何も言わないけれど、少しわくわくしている気がする。かわいい。これは援護したい。


「キャンディスさん、女の子だけの秘密で……」

 こそっと耳打ちする。

「まあ、それはいいアイディアね。いいわ。午前中はジュリアとわたしは買い物で、みんなは訓練ね」

 キャンディスが納得したところで、全員でホワイトヒルの近くまで空間転移で移動した。


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