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29 暗殺がダメなら、ちょんぎっちゃう?


 ブロンソンに連絡魔法を飛ばすと、数分もしないうちにバタバタと飛びこんできた。

 ジャスティンの姿を見た瞬間にパァッと顔を輝かせ、ガバッと全身で力強く抱きしめる。


「なんだお前、元気そうじゃないか! 完全に昔のまま、っていうかむしろ若返ってないか?」

 ブロンソン以外の全員の視線を受けて、口元に人差し指をあてた。若返りの魔法はブロンソンにも秘密にしておきたい。


 ジャスティンがブロンソンの腕の中でもがく。体は鎧におおわれているけれど、首がキマッているようだ。

「……ギル、くる、し……」

「ブロンソンさん、せっかく見つけたのに死んじゃいます……」

「ん? ああ、悪い悪い。あんまり嬉しかったもんだから、つい、な。これでも手加減はしたんだが」

 解放されたジャスティンが咳きこむ。


「手加減してなかったらどうなっていたんですか……」

「鎧ごと砕けてたんじゃないか?」

 真顔で言わないでほしい。Sランクで前線に立つブロンソンのムキムキ筋肉は飾りではないらしい。


「で、そちらの姉さんは?」

「あらあ、アタシの方がアナタよりは年下かもしれないわよ?」

「なら、嬢ちゃんって呼ぶか?」

「……姉さんでいいわ。アタシはラヴァ。ここ数年、その坊やと一緒にいた人、かしらぁ?」


「ジャス、お前……」

「……いや、そういう一緒にいた、じゃないです。一緒にはいましたが」

「ジャスティンさんのパーティメンバーだよ、ギルバート・ブロンソンさん」

 ルーカスの説明でブロンソンは腑に落ちた顔になる。


「ぼくもはじめましてかな」

「ああ。坊主は?」

「坊主……。ぼくはルーカス・ブレア。オスカーとジュリアちゃんの同僚で……」

「私たちのパーティ仲間で、ブレーンです」

「そうか。ギルバート・ブロンソンだ。よろしくな」

 ルーカスが挨拶代わりに背中を軽く叩かれる。

「痛いんだけど?!」


「で、ジャス。ここにいるメンツには、これまでやこれからの話を聞かせてもいいということでいいか?」

「……整理はついていませんが。構いません」

「おう。その場にいた魔法使いに吐かせたから、そいつが知ってることは知ってると思ってくれ。お前を探すのを頼む時に、そこのオスカーの坊主と嬢ちゃんにも話してある」

「それで、すみません。協力してもらうために、ルーカスさんにも話しています」


「アタシも聞いてもいい話かしらあ?」

「……ラヴァは聞いてもいいけど、タグは笑いそうだからイヤです」

「まあ、タグは感情がおかしいものねえ。いいわ。ここだけの話にしてあげる。何があったのかしらあ?」

「……」

 説明しようとしたジャスティンが震えて、ガチガチと歯が噛み鳴らされた。


(この人も時間が止まってるんだ……)

 自分もそうだったからよくわかる。事件のあの瞬間からどれだけ月日が経っても、今ここで起きたことのように感じられるのだ。

 オスカーと出会い直して、そばにいてくれるようになって、だいぶ頻度は減ったけれど、完全になくなってはいない。

 ジャスティンはもっとずっと前で固まってしまっているのだろう。


 ブロンソンがジャスティンの背をさする。

「いや、いい。認識のすり合わせもかねて、オレがかいつまんで話す」

 前に聞いていたのと同じ話が伝えられる。すでに知っていてもお腹の奥がぐるぐるする。


「というのがオレが聞いている話だが。間違いないか?」

「……はい。私の剣を利用されているのは知りませんでしたが。キャンディスは助からないと思って……、ドウェインを刺してその場を離れたところまで、その通りです」

 床を見つめたままジャスティンが答える。


 ラヴァが妖艶な笑みを浮かべた。

「つまり、ファビュラス王国の現国王を暗殺すればいいっていう話かしらぁ?」

 声が低い。軽く言っているようでいて、内心煮えたぎっている気がする。

「ラヴァさん、それ、もう前に私が言って止められました……」

「あらあ、やっぱりジュリアちゃんはアタシの同類ねえ」

「自分でもそんな気がしてきました……」


「暗殺……。簡単に言うんですね」

「ジャアも知っているじゃないの。タグの毒なら簡単でしょう? ホワイトヒルではほんと、なんで気づかれたのか未だにわからないのだけどねえ」

「メイドが飲み物に入れてた毒の話?」

 ルーカスがフラットに尋ねる。

「そういえば坊やもあそこにいたわねえ」

「メイドの挙動がおかしかったから、ぼくが声かけたんだけど。ジュリアちゃんも巻き込まれるとこだったし」

「……犯人はアナタだったの」

「いやむしろ犯人を捕まえる側だからね?」


「嬢ちゃんとも話したが、暗殺するってんならオレは見過ごせない。オレとしては、ジャスティンがデートン卿、父親と国外ででも静かに暮らせれば十分だと思ってるんだが」

「あらあ、意気地いくじのない殿方ねえ」

「アア?」


「ふふふ。そう熱くならないでえ? 暗殺がダメなら、ちょんぎっちゃう?」

 ラヴァが手をハサミの形にしてチョッキンと切るしぐさをする。

「何をですか?」

「もちろん、ナニを」

「え……」


「したことの報復としては妥当じゃないかしらあ? アタシの時は、そこまでじゃなかったからちゃんと回復魔法でつけ直してもらったけど」

「待って、話を聞いてるだけで痛いんだけど……」

「女性の発想は怖いな……」

 ルーカスとオスカーが縮みあがる。


「あらあ? そもそも無体なマネをする男性側の問題でしょう? 絶対に再犯できなくなるから最善だと思うのだけど?」

「ジュリアちゃん、納得した顔しないで?」

「すみません、一理あるなと思ってました……」

 どちらを守るのかという話だ。犯罪者の人権より、新しい被害を出さない方が大事ではないかと思ってしまう。


「話を戻すと、私もあれからいろいろ考えて。何をどうするかを決める前に、私はジャスティンさんと、もう一人の当事者の気持ちを知りたいです」

「もう一人の当事者?」

「はい。私が女性だからというのもあるのでしょうが。

 キャンディスさんが今どんな思いで王宮にいて、どうしてほしいのか……。それを抜きにこちらでどうするか決めるのはちょっと」

「お姫様……、いや今はお妃様、か……」


「……あの男の、子を産んだと聞きました。王子はもう四歳くらいですか。その時点で、彼女はもう向こう側かと」

 ジャスティンが項垂うなだれて言葉を紡ぐ。不思議と声は静かでいでいる。


「それがあなたを守るためであっても、ですか?」

「……ギルがさっき言っていたこと、ですか。どこまでがそうなのか、私にはわかりません。キャンディスは愛情深くて、子どもも好きだったので。どんなにドウェインを恨んでいても、王子は大事なのではないかと」


 ルーカスが考えながら話を引き取る。

「王子がいることが話をややこしくしてるのは確かだね。キャンディスさんを救いだすにしても、クーデターでも起こして政権を取るにしても、その子をどうするかっていう問題はあるから」

「難しいですね……。子どもに罪はないので、助けたい気もしますが」

「何をもってその子を助けたことになるのかが本当に難しいと思うよ」

(何をもって助けたことになるのか……)


「自分はジュリアの案に賛成だ。キャンディス嬢がどう思っているか、彼女の子をどうするかをここで話してもしかたないだろう。

 本人に聞かないと、本人がどう思っているかを知るよしはない……と、思うが。ルーカスは予想がついていたりするのか?」


「まさか? ぼくはキャンディスさんがどんな人なのか、直接は知らないからね。いくつか可能性としてのパターンは浮かんでも、確証を得られる材料はないから」

「可能性は浮かんでるんですね……」

「先入観は持たない方がいいだろうから、今は言わない方がいいかな」


「ジャスティンさん、一度、キャンディスさんと話してみるのはいかがでしょう?」

「話したいかどうか以前に、普通はムリですよね。王妃と一般人がなんの制限もなく話すのは」

 ジャスティンは公爵家だけど本来の身分で謁見の申請ができないから、一般人という表現をしたのだろう。


 頷きつつ笑みを返す。

「そうですね。普通は」

「……あなたは普通じゃないんでしたね」

 ジャスティンが驚きの中にも希望を伴ったようにつぶやいた。


「はい、まあ。普通でいたいのですが。いくつか誰にも気づかれない方法は浮かびますね」

「なら……、確かに、一度話してみてもいいかもしれません」

「わかりました。では……」


「ちょっと待って、ジュリアちゃん」

 ルーカスから突然ストップがかかった。小首をかしげる。

「なんでしょう?」

「お願いをブロンソンさんに聞いてもらう見返りとして、ブロンソンさんから依頼されたのはジャスティンさんを探すこと、でしょ?

 ジャスティンさんは見つかったんだから、ぼくらが首をつっこむのはここまでじゃない?」

「え……」


「経緯の確認とか、どうするかっていう話をするところまではいいと思うけど、実際に動くのは話が別だよね。ジュリアちゃんの方法でも危険がないわけじゃないだろうし」

「それは確かに、ゼロとは言いきれないですが……」

 ルーカスは何を言いだしたのか。完全にジャスティンの力になる方向ではなかったか。突然のブレーキに頭が混乱する。


 困ってオスカーを見ると、オスカーも困惑しているようだったけれど、ふいに何かに気づいたように口角を上げた。

「ああ、確かにルーカスの言うとおりだな。改めて『協力を依頼』されるなら、話は別だろうが」


 オスカーの言葉にラヴァが目をまたたいて、深くため息をついた。

「ハァ。わかったわあ。坊やたちは、アタシに渡した協力権を使わせたいのでしょう?」

 その言葉で思いだした。ラヴァにジャアと会わせてもらう見返りとして、一度協力するという約束をしていたのだ。それをこの場で消費してしまおうという発想はなかった。

(さすがルーカスさん、抜け目ない……)


「いいわ。ジャアが……、ジャスティンの坊やが、納得する結末を見つけられるまで、この問題につきあってちょうだい。それがアタシからの協力依頼。で、いいのかしらあ?」

「いい? オスカー、ジュリアちゃん」

「ああ。問題ない」

「はい! もちろんです!」


ジャスティン事件の概要は4章『35 ブロンソンの探し人と五年前の事件』。

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