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22 [ルーカス] わくわく秘密基地


 暇だ。

 バカップルが部屋から出てこない。


(オスカーエリアの環境を変えるのが楽しくなったか……、環境を変えているうちに気分が盛りあがっちゃったか。両方かな)

 邪魔をするなんて無粋をする気はないけれど、暇だ。

 自分のエリアや共用エリアをいじりたくても、ジュリアがいないとできない。

 そう思いながら、持ちこんだトルソー以外何もない共用エリアに大の字で寝転んでいたら、オスカーエリアの扉が開いた。


「ピチチ! ピチ!」

 ついて行っていたユエルの会話魔法が解除されている。おおかた、盛りあがっていたバカップルに余計なことでも言ったのだろう。

(こっちに確保しておけばよかったというべきか、止めてくれたことに感謝すべきか)

 難しいところだ。


 ひょいっと起き上がり、何も気づいていないていで声をかける。

「オスカーエリアの設定、終わったの?」

「あ、はい。すみません、ルーカスさん。お待たせして」

「いいよ。どんな感じになったの?」

「見るか?」

「うん」

 二人の方に行って、扉から中をのぞく。


 心地いい昼間の湖畔が広がっている。

「……完全に外だね」

「ああ。すごいな、ダンジョンの魔法は。どこまでも広がっているように見えるが、実際の広さは共用エリアと同じだそうだ」

「本物のダンジョンがどれだけヤバい可能性があるのかがよくわかったよ……」

「あー……、ペルペトゥスさんのダンジョンは、正直、思いだしたくないです……」

 ジュリアが苦笑する。


「攻略したって言ってたね」

「はい。一応。今回はスピラさんが行ってくれると言ってくれて、本当にありがたいです。

 あ、スピラさんと言えば。ずっとルーカスさんに聞こうと思っていたのですが」

「なに?」

「オスカーに教えた魔力を増やす方法、ルーカスさんも知りたいですか? スピラさんが話題に出した時には聞くタイミングがなかったので」


「気にしてたんだ?」

「のけものにしたみたいになってないかなとか、知りたいの言いだせない可能性とか」

「そっか。ありがとね。けど、ぼくはいいかな。戦闘面できみたちに並ぶのは不可能だし、オスカーみたいにストイックに鍛錬を続けるのとか苦手だし、今の状態で困ってないから」

「そうなんですね。なら、もし知りたくなったらその時に聞いてください」

「うん、ありがと」

 必要はないけれど、彼女が気にかけてくれたのは嬉しい。


「ルーカスさんのエリアと共用エリアも環境設定しましょうか」

「待ってました」

「自分の分のトルソーは共用エリアに置きたいのだが」

「もちろん、いいですよ。私のも置きますし」

「じゃあぼくのも並べて置かせてもらおうかな。ドワーフ装備三着が並んでるだけでも壮観だと思う」


「方向性はバラバラですけどね」

「見事に分かれたな。製作者の好みなのか、こちらへのイメージなのか」

「ジュリアちゃんのは好みが前面に出てるよね」

「本当に……、スカート丈だけでもなんとかしてほしかったです……」

「かわいいと思うけどね? 二人きりの時にそれ着てオスカーに迫ってみなよ」

「え」

 ジュリアが真っ赤になる。おもしろい。

(かわいいんだよなあ……)


「……オスカーはこういうのが好みですか?」

「これはこれでと思うが……、ジュリアが嫌がるものをムリにとは」

「あなたがかわいいと思ってくれるなら、たまになら……。あ、他に人がいないところで、ですよ」

(恥ずかし気な上目遣いで、ものすごい爆弾発言してるけど、完全に無自覚っぽいな……)

 言われたオスカーが片手で顔を覆っている。しばらく再起不能だろう。


「ジュリアちゃん、この服って魔法で着替えるじゃん? 取りだしたりする必要もないから、あの辺の壁にショーケースみたいなのを作って入れておくのはどう?」

「あ、いいですね。じゃあ、この部屋は屋内にしましょうか」

 ジュリアが壁に手を触れて辺りを変えていく。

 貴族調の壁紙や装飾が部屋をおおう。色合いはやさしい。入り口を含めた三つの扉のデザインとも調和した。


 扉がない一面には、展示スペースと大きな窓が作られた。その向こうに青空が広がっている。

「窓は見た目だけで、開きませんが」

「開放感があっていいな」


 展示スペースにトルソーを入れてから、自分の服を魔法で元に戻す。オスカーも同じように着替えた。

(うん、いいね。おもしろい)


「いったん最低限のイスと机を仮置きしましたが、調度品はちゃんとしたものを買った方が使い勝手がいいかと思います」

「じゃあ、そのうち選びに行こうか」

「いいですね」


「最後はぼくのスペースだね」

「はい。どんな感じにしますか?」

「小さいスペースがいっぱいある、迷路みたいにしたいんだよね。寝転べるスペースとか、ひざを抱えて座ってちょうどいいスペースとか」

「えっと……、おもしろそうだと思うのですが、ちょっと私のイメージが追いつかないというか。床に図面を引いてもらえますか?」

「オッケー」

 魔法で木の剣を出して、何もないエリアの土の床に線を引いていく。ちょっとしたイタズラをしているみたいで楽しい。


「とりあえずこの線の通りに壁にしてもらっていいかな?」

「質感はどうしますか?」

「うーん、つるんとした感じにできる? 色はいったん全部黒がいいかな」

「黒ですか? 天井だけ明かりに白を残します? それとも、真っ暗になるけど全部黒にします?」

「あー、迷いどころだね。照明って入れられる?」


「自然発光と違って維持に魔力がいるのと、すごく簡単なもの以外は買ってきて置いた方がいいかと」

「なるほど。なら、一旦天井は明るいままにしてもらおうかな。できあがってから暗くした方がいい気がする」

「わかりました」

 ジュリアが壁に触れる。描いた線のとおりに地面がせり上がってきて、小さなスペースがたくさんのミニダンジョンができあがる。

 楽しい。


「じゃあ、次は魔法でロープを張っていくから、その位置に横に壁を作ってもらえるかな?」

「横の壁……、床のような丈夫さは必要ですか?」

「うん、そうだね。その方が助かるよ」

 高さを分けたいところに目印のロープを張っていく。楽しい。

 ひととおり引き終わって、横の壁を入れてもらった。


「ぼくが言った場所を一面ずつ消すってできる?」

「はい。指示が理解できれば」

 一ヶ所ずつ消してもらい、上だけ広くしたり、下だけ広くしたり、下だけや上だけで通れるようにしたりしていく。楽しい。


「……すごいですね。ルーカスさん、難攻不落のダンジョンを作る才能がある気がします」

「そう? ここはぼくが楽しくて過ごしやすいスペースを追求しただけなんだけど」

「ひとつひとつのスペースがだいぶ狭いが、それでいいのか?」

「暗くて狭いのって居心地よくない? 好きなんだよね。なんか安心する」

(オスカーの好きな感じとは真逆なんだろうけど)


「ライトニング」

 一番簡単な明かりの魔法を唱える。小さな光球が浮かぶ。

「ジュリアちゃん、天井も黒にしてもらっていいかな」

「わかりました」

 ライトニングで照らされているあたり以外は見えなくなる。楽しい。


「いろいろお願いして悪いんだけど、ぼくが示した場所だけ、内側の色を変えたりもできる?」

「はい。できますよ」

「じゃあ明かりで照らしたスペースを指示した色にしてほしいかな」

 何ヶ所か明るい色に変えてもらう。全てが黒よりも遊びが入って楽しいと思う。


「うん、これで完成でいいかな。家具を見にいく時に、魔道具の明かりも見たいかも。自分で起動するから、普段は消してていいよ」

「わかりました」

「じゃあ、今日はここまでかな。だいぶ時間かかっちゃってごめんね。ぼくは先に帰るから、あとは二人でゆっくりね」

「あ、透明化をかけて適当なところまで送りますね。オスカーはどうしますか?」


「一緒に行く。ルーカスを送ってからは街に出るのはどうだろうか」

(二人きりで密室にいると何をしでかすかわからないっていう顔だね)


「いいですね。じゃあ、秘密基地の続きはまた今度で」

「ああ」

「うん。お願いを叶えてくれてありがとう、ジュリアちゃん」

 言いだした時に思っていた以上に楽しかった。

 彼女といるのは、本当に楽しい。


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