20 ドワーフ装備の仕上がりが恥ずかしすぎる
元貧民窟集落のユリア様像問題を片づけて、オスカーとルーカスと三人でホウキで街に向かう。ユエルは飛んでついてくる。
「もしよければですが。お昼を食べた後、ドワーフのところに行きませんか? 頼んでいた防具の様子を見に」
「ぼくはいいけど、いいの?」
「自分はかまわない。というか、気になっていた」
「二人がいいなら喜んで」
オスカーがわくわくしていてかわいい。ルーカスは嬉しそうだ。
「寮の部屋ってそんなに広くないですよね。みんなまとめて秘密基地に置きませんか? 透明化して出入りしちゃえばいいかなって思ったので、出入り口を庭の端に移したんです」
「うわ、なにそれ、ほんとに秘密基地じゃん。めっちゃロマンあるね」
「ああ。楽しそうだ」
「じゃあ、秘密基地のおひろめもしましょう」
「……何度も聞いてごめん。ほんとにぼくもいていいの?」
「元々秘密基地がほしいって言ったのルーカスさんじゃないですか」
「少し早めに解放してもらいたいとは思う」
「え」
「うん、わかった」
(待って。そのわかったは、オスカーと二人きりにしてくれるっていうことよね……?)
嬉しいけれど、ちゃんと約束されるのは気恥ずかしい。
簡単な食事を終えてから人がいない場所に移動して、空間転移でドワーフの隠れ里の広場に飛んだ。こちら側に翻訳魔法をかけてある。
「はやく試着してほしくていつ来るのかとそわそわしていました!」
自分の分を作ると言った若いドワーフが、木製のトルソーに着せた服と一緒に待ち構えていた。
白とパステルピンクを基調に、大きなリボンがあしらわれたデザインだ。自分に似合う気がしないのは置いておいても、より気になるところがある。
「……ちょっと待ってください。スカート、短くないですか?」
一般的なスカート丈はくるぶしくらいか、靴にかかる長さだ。短くてもひざ下十センチより下が常識的な範囲内である。
ところが、そこにかかっている服のスカートはものすごく短い。広がりがあるデザインで、よもすれば下着が見えるのではないかと思う。
「この短いスカートに、ひざ上までのソックスを合わせて、ブーツをはくんです。ここ! このあたりに少しももが見えるデザインなんですが。これを絶対領域と呼んでいます」
(ちょっと待って。何を言ってるの……)
興奮気味に説明されたけれど、意味がわからない。
「従来の魔法使いのちょっと暗い変人イメージを払拭する、魔法少女という概念を提唱します!」
「……すみません、私、もう少女という歳ではないので……」
体の年齢や外見はまだいけるかもしれないけれど、中身がムリだ。恥ずかしすぎる。
「いや、これはアリじゃない? ぼくはジュリアちゃんに着てもらいたいけど」
「他の男がいない場所で見せてもらいたいとは思う」
「……ロマンですか?」
「ロマンだな」
「ロマンだね」
「このよさをわかってもらえて嬉しいです!」
ドワーフが興奮気味だ。
「えっと……、オスカーとルーカスさんの分は……?」
「それらはこちらに」
取りに行ってきたらしい担当のドワーフたちが披露してくれた。
オスカーのものは燕尾服の形をベースに機能性と装飾を施してあるようだ。黒に近い青が彼の髪色とも合っている。
(カッコイイ……! なにこれ、絶対カッコイイ……!!)
ルーカスの服はもう少しラフで中性的だ。今のルーカスが着ても似合うだろうし、女装してもそれほど違和感がないかもしれない。
ルーカスが触らせてもらって感心する。
「へえ、すごいね。見た感じはデザイン性がある普通の服なのに、素材感が全然違う」
「恩人への感謝の品なので、物理耐性、魔法耐性共に可能な限り上げてあります。鎧と同じ扱いで、通常の水洗いは避けて、魔法洗浄を推奨します。保管も、できればトルソーのままが無難です。畳んでおくと折り目をとるのが難しいので」
「秘密基地行きだな」
「だね」
「着替えも、魔法を使った方が楽だと思います。着替えの魔法は使えますか?」
「そんなのがあるのか?」
「見かけたことがある気もしますが、私も習得はしてないです」
「あ、ぼく使えるよ」
「え、ルーカスさん使えるんですか?」
「うん。姉たちの着替えを手伝わされるのがめんどうだから、どうにかならないかって思って探して習得した」
「手伝わされるんですか? 女性の着替えを?」
「子どもの頃から家だと使用人扱いだからね。あれらは女性じゃなくて、横暴大王だよ」
ルーカスが肩をすくめる。言っているほどイヤそうではないから、仲はいいのかもしれない。
「教える?」
「いいんですか?」
「ぼくも洗浄魔法を習ってるし、特に技術的な難しさもない簡単な生活魔法だしね。
魔法協会ってこういう、仕事には関係ないけど便利な魔法って教えてくれないよね」
「そう言われるとそうですね。洗浄魔法も習わないですし」
「余計なことに魔力を使うな、という感じがするな」
「あー、確かに。職場としてはそうかもしれませんね」
ルーカスから着替えの魔法を教わって、三人で同時に唱えた。
「チェンジ・イントゥ」
(……あ)
話の流れで、つい唱えてしまった。あまりにデザインが恥ずかしいから、試着する気はなかったのに。
今まで着ていた服がトルソーに移動して、代わりに、トルソーにかかっていた服に袖を通した形になっている。すごく便利な魔法だ。
(すごい、着心地いい……)
鎧としてイメージするよりもずっと着心地がいい。肌触りは普段の服以上かもしれない。
けれど、脚がめちゃくちゃスースーするのが落ちつかない。
「合わせて魔法のステッキも作ったので、ぜひ持って見せてください!」
鼻息荒く、ステッキを差し出される。拒否権はなさそうだ。
困りつつも受けとった。ついスカートを抑えて前を隠してしまう。
「KAWAII!!!!!!」
作ったドワーフに五体投地された。いたたまれない。
「この見えそうで絶対見えないスカートの構造が一番のこだわりで、ローアングルからも戦闘動作をしても決して見えないのに、見えそうだと思わせるところに匠を感じてほしいです。
それにしてもすばらしい脚線美。想像以上です。恥ずかしそうなお顔と動作も眼福です。ジュリア様SAIKO!!!」
むぎゅ。
オスカーがドワーフを踏みつけて、顔面を地面にめりこませた。痛そうなのに、つい絵になると思ってしまう。オスカーの今の服は高圧的な動作が似合っていて、ものすごくカッコイイ。
「あの服を作ったことは褒めたいが、見るな」
「褒めたいんですか?!」
「ドワーフの反応は気持ち悪いけど、ジュリアちゃんが似合っててかわいいのは本当だよね」
「似合ってるのもかわいいのも違うと思いますが……。あの、せめてスカート丈はひざ下にしてもらえないでしょうか……。これはさすがに着れません……」
「ぼくは着て戦っているとこを見たいよ? 魅了なんて使わなくてもファンができそう」
「魔法協会のPR活動には貢献できそうだが。正直、人前には一切出したくない」
「あ、じゃあ、二人だけの時に着れば?」
ルーカスがいいことを思いついたような、からかうような感じで笑って言った。
「……いろいろ試されている気分になるから却下だ」
オスカーの足から解放されたドワーフが立ちあがって土を払う。
「スカート丈は絶対に譲れません。絶対領域こそが男のロマンです」
「チェンジ・イントゥ」
服を着替える魔法を唱えて元の服に戻す。ホッとした。
ドワーフが泣きそうになる。
「なぜですか?! なんなら二十四時間着ていてほしいのに!」
「すみません、せっかく作っていただいたのですが、ちょっとムリです……」
「もらうだけもらっておけば? 機能性はバツグンだと思うよ」
「もらっても着る機会がないですし」
「もらってください! ここに置いていかれても他に着られるヒトはいないので」
「素材をリサイクル……?」
「お願いしますもらってください、できればまた着て見せてください」
深々と土下座をされた。
これ以上断るのは申し訳ない気持ちになって、受けとるしかなかった。
(秘密基地の飾りだと思うしかないかしら……)




