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19 自分の木像作りを禁止しに行ってみる


「この後はとりあえず、貧民窟に行ってユリア様像の対処する? 早い方がいいだろうし」

「そうですね。あれは驚きました……」

「偶像崇拝は禁止しないとな」

「本人崇拝も禁止したいところですが……」

「それは魔法の性質上、しかたないんでしょ?」

「はい……、残念ながら」

 ため息をついても肩を落としても、こればかりはどうにもならない。


 それぞれにホウキを出して浮かびあがり、貧民窟へと向かう。

「ジュリアちゃん、フィン様のところのは回収しなくてよかったの?」

「あの言い方だと、あれはフィン様の方で処分してくれるものかと」

「それはないだろう」

「それはないと思う」

 オスカーとルーカスの声が重なった。


「え、なんでですか? 壊すように言ったの、フィン様ですよね?」

「貧民窟のものは、っていう意味じゃないかな。考えてみて、ジュリアちゃん。誰かがオスカーの木彫りを作って、よく似てたとして、それを手に入れたジュリアちゃんは処分する?」

「絶対にしません!!!」

「でしょ? それと同じ。人には処分してって言って、自分の分は大事にとっておくんじゃないかな」


「……今からでも行って買いもどした方がいいですかね?」

「絶対に譲ってくれないと思うが」

「うん、ムリじゃないかな。いつかフィン様の新しいパートナーに処分しろって言われない限り」

「ムリですか……」


「それにしても、できがよかったよね」

「ああ。自分もほしいくらいだ」

「ぼくも」

「え、ルーカスさんもですか? そもそも二人ともいつも私に会っているし、残そうと思えば投影の魔道具もあるのに、木彫りが必要ですか?」


「なんていうか、違うんだよね。彫ったものには彫ったもののよさがあるというか」

「ああ。ロマンだな」

「ロマン……」

 その言葉が出てくる時は、だいたいよくわからない。


「いっそ、冠位魔法使いの娘、ジュリア・クルス像で売り出せばいいんじゃない? いい収入源になると思うよ」

「やめてください。売れませんよ、そんなもの……」

「売れるとは思うが、売りたくないし、買い占めたいな」

「オスカー?!」

 二人とも何を言っているのか。意味がわからない。


 貧民窟に着くと、ブラッドにまず事情を話した。作っていたことにはお目こぼしをしていたらしいが、行政関係者に買われたことは知らなかったそうだ。

「そんなわけで、偶像崇拝と、私が魔法を使ったと話すことを禁止したいです」

「後者は問題ないだろうが。前者は難しいだろうな」

「難しいですかね……」


「絶対に他人に見せない、譲らない。普段はしまうなり袋に入れるなりする。誰かに聞かれた時には名前や関係を一切伏せて『推し』だと答える。というあたりが妥当じゃないか?」

「『推し』ですか?」

「好きな演劇役者とかをそう言うらしい」

「なるほど。そのくらいならまあ、問題にはならないですかね……」


 吟味していると、オスカーがブラッドに真剣に言った。

「自分も作ってもらいたいのだが」

「待ってください、それ本気だったんですか……」

「言い値で買おう」

「オスカー?!」

「あはは。ぼくは冗談だよ。本気で言ったらオスカーに怒られそうだし」

「じいさんに作ってほしいと言えば喜んで作ると思うぞ。生きがいになってて、この数日で十年以上若返ってる感じがするからな」


「他のものを作ってもらうわけにはいかないんでしょうか」

 モチーフは別として、技術力はすごいと思う。確実に売れるレベルだ。

「例えば?」

「例えば……、木彫りのクマとか?」

「どこにそんな需要があるんだ?」

「作品を売るっていうことなら、かわいいモチーフの方がいいかもね」

「あ!」

 ルーカスの言葉で、すごくいいことを思いついた。


「オスカーが私の像を作ってもらうなら、私はオスカーの像がほしいです!」

「そっちはじいさんがやる気になるかはわからないが。聞くだけ聞いてみればいいんじゃないか?」

「……それは自分が恥ずかしいのだが」

「ふふ。それはおあいこですよ?」

 オスカー像を作ってもらおうと思ったら、さっきの話が少しわかった。実物と投影と木の像は違うものだ。


「あ、でも、私の分だけです。他の人には売っちゃダメです」

「それこそどこにも需要がないと思うが」

「え、なんでですか? 買い占めたいですよ?」

「……うん。ジュリアちゃん、さっきのオスカーと同じこと言ってる」

「あ……」

 ミイラ取りがミイラになるとはこのことか。


「そもそも売りものを作るっていう発想は、じいさんにはないだろうな」

「ユリア様像を買い取ったと言っていましたが」

 ブラッドが眉をしかめつつ問い返してくる。

「高かったんじゃないのか?」

「はい、そう言っていました」


「それは多分、高くふっかけたら買われないと思って、売らないつもりで言ったんだと思うぞ。その値段でまさか売れるとは思わなかったんじゃないか?」

「ああ……、なるほど」


「あんたの魔法、なんでか、みんなの役に立ちたいっていう感じも強まるみたいでな。喜んでもらいたい一心で自分がほしいと思ったのと同じものを作って配ったらしい」

「みんなの役に立ちたいというのは、私がそういう話をしたから刷り込まれたんだと思います。発言の影響力を劇的に上げる魔法なので。

 でも、そういうつもりで作っていたのだと聞くと、なおさら壊すわけにはいかないですね……。ブラッドさんの案を採用します……」

「ああ。そうしてくれ」


「生きがいになっているなら、好きなものを作って売れるのが一番なのでしょうが……」

 そう言ったところで、頭の上のユエルの重さに気づく。

「ピカテットを作ってもらうのはどうでしょうか。ユエルをモデルに」


「あー、ピカテットなら売れそうな気がするね。その人が作る気になればだけど」

「私の使い魔を作ってほしいと言えばいける気がします」

「ああ、ユリア様のしもべ像なら作りそうだな」

「しもべではないのですが……」


 ブラッドに案内されて作者のところに行く。

 ガリガリの今にも倒れそうな老人だ。追加のユリア様像が一体彫り上がっていて、手の中のもう一体もそうかからなさそうだ。速い。

 自分で言うと崇められたりするため、ブラッドからさっきの話を伝えてもらう。


 まず、オスカーの分のユリア様像は、掘り上げてあるのをくれるとのことだ。オスカーが魔法で木箱を出して、ハンカチでくるんで丁寧にしまいこむ。

(めちゃくちゃ恥ずかしい……)


 続けて、オスカー像は作ってもらえることになった。ユリア様のしもべの像なら喜んでとのことだ。しもべではないけれど、作ってもらえるのは嬉しい。


 ピカテットも、これ以上のユリア像制作を止めた上で、『ユリア様の使い魔のジュエル像』なら作っていいと伝えたら二つ返事で作るとのことだった。

 ヒトと違ってピカテットのつくりはわからないとのことで、ユエルがすみずみまで観察される。解放されたとたんに恥ずかしそうに後ろに隠れられた。帰ったらごほうびをあげようと思う。


 販売許可をとるのは作品が増えてからでいいだろうから、まずは好きに作らせるという方針だ。

 オスカー像の仕上がりが楽しみすぎる。


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