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9 世界の摂理〝ムンドゥス〟に会う方法


世界の摂理(ムンドゥス)に会うには……」

 師匠スピラが世界の摂理に会う方法を話し始める。


「世界に散らばっている七つの祭壇に行って、対話したい人が魔力とかを捧げる必要があるんだ。

 当時は空間転移なんていう便利な魔法はなかったし、あっても術者が行ったことがないところには行けないからそんなに意味はなかったかもだけど、そこそこ長く旅をしてたよ。

 魔法使いになる前のグレースは剣士で、ペルペトゥスと私が魔法要員になってた」


「ペルペトゥスさんに乗って移動していたわけではないんですか?」

 エイシェントドラゴン(ペルペトゥス)の大きさなら、世界中だとしてもひとっ飛びな気がする。


「うん。ドラゴンは討伐対象だからね。他の冒険者とやりあうのは面倒だし、グレースは人間とは戦いたがらなかったから、ペルペトゥスはずっとヒトの姿をとってたんだ」

「……え、ヒト型になれるんですか? ペルペトゥスさん」

「そうだよ。知らなかった?」

「はい……。そもそもドラゴンがヒトの姿になれるという発想がありませんでした」

「ああ、それは、あいつのオリジナル魔法だからね。他のドラゴンはなれないと思うよ」

「そうなんですね」


「まあ、そんな感じ。六つの祭壇を回って、世界の中心にある祭壇で呼び出して、人間が魔法を使えるようになる方法……、魔力開花術式を教えてもらったの。

 で、グレースが最初の、ヒトの魔法使いになって。原初の魔法使いなんて呼ばれるようになった感じかな」

「なるほど……」


「これは当時のパーティメンバーしか知らないことなんだけど。

 実はあの時の契約には代償があってね。いつか、グレースの子孫の誰かの幸せと引き換える契約だったんだよね。

 その人には悪いけど、一人の犠牲で滅びかけている人類を救えるならかなり安いよねって話してた。結局どうなったのかはわからないけど」


 ぐっと手に力が入る。オスカーがそっと手を重ねてくれた。それだけですごく安心する。

 つっかえているものを押し出すように声を搾りだす。


「……それ、私です」


「へ?」

「私が時間を戻す原因になった事件……。世界の摂理に、その契約を履行されたんです……」

「あー……、えっと……、ごめんね? ……けど、ジュリアちゃんが殺されたわけじゃなかったんだ……?」

「はい。私の幸せは、私の周りの人たちの存在なのだと。……オスカーも、ルーカスさんも。娘も、両親も……」


 最近はだいぶ思い出さなくなってきていたけれど、話そうとすると涙を止められない。

 手でぬぐってぐっと飲みこんで、話を続ける。


「……だから、今回はそうならないように契約を解除したくて。それで、世界の摂理に会いたいんです」

「うーん、どうだろう。あいつが素直に解約してくれるとは思わないけど。

 できたとして、契約の変更とか上書きとかじゃないかな。人類側の利益はもう十二分に享受しちゃってるし」


「……せめて一度、会って話せればと。前の時は、事件の後にそのことを教えられて。それきり、どうあっても話すことができなかったので。

 私自身、世界の摂理に会う方法じゃなくて、オスカーを取り戻すための方法を必死に追っていたというのもあったのでしょうが」


 スピラが真剣に考えてくれている様子で続ける。


「どうなるかはわからないけど、話すだけならできると思うよ。私が行ってなくて知らない祭壇もあるから、どこかのタイミングでペルペトゥスも引き込まないと、だけど」

「ペルペトゥスさん、必須ですか……」

「何か問題があるの?」

「前の時と違って、今は両親が健在で、私も若いので。家を離れられないんです。ペルペトゥスさんのダンジョンに入って本人に会うの、けっこう時間がかかりますよね?」


「あー、あいつ、暇つぶしにめちゃくちゃダンジョン拡張してた時期あったからね。私も暇だったから、拡張されるたびに攻略してやって鼻を明かしてたら、どんどんギミックに凝りだして……」

「……前の私がペルペトゥスさんのダンジョン攻略に死ぬほど苦労したのって、スピラさんのせいだったんですね……」

 本当に、あの一連の苦労はなんだったのか。過ぎたこととはいえ、ため息をつきたくなる。


「お互いに、何やってるんだろうってなって飽きてからは放置だったけど。なんか、ごめんね?

 まあ、久しぶりにあのじいさんと遊ぶのも楽しそうだし、いいよ、ペルペトゥスのじいさんは私がひっぱりだしてくるよ」

「え、いいんですか? お任せしちゃって」

「うん。どうせ暇だし、あなたの役に立てるならお安いご用」

「それは……、すごく助かります。ありがとうございます」


「出発は、ジュリアちゃんが魔力を隠す方法を見つけるのを手伝ってからがいい? それともすぐ行く?」

「あ、じゃあ、前者を解決してからで。けっこう不安要素なので」

「わかった」


「スピラさんは今はどこで生活しているんですか?」

「ふつうに、ホワイトヒルの宿屋だよ。レア素材とかを換金して生活してて、そこそこお金はあるからね。

 冒険者協会とか魔法協会とかは身分証がないと素材を引き取ってくれないから、裏ルートにはなっちゃうけど」


「なら、これからの宿代は私が出しますね」

「いや、いいよ、そのくらい。年下の女の子に養われるのは抵抗があるから」

「なら、依頼金と成功報酬っていう感じでどうでしょうか」

「ジュリアちゃん、オスカーくんとルーカスくんにもお金払ってるの?」

「いえ。あれ、払った方がいいですよね、確かに。いつも私のことにつきあわせているんだから」


 隣のルーカスがふきだす。

「違うよ、ジュリアちゃん。逆だと思う」

「逆、ですか?」

 スピラが苦笑する。

「信頼してる相手とか、近しい人には報酬なんて話はしないでしょ? 私もジュリアちゃんのパーティメンバーになるんなら、ここの間でそういう話はいらないんじゃない? 私が協力したくてするんだから」

「それは……、はい。ありがとうございます。甘えさせてもらいますね」


「うん。坊やたちより私の方が頼りになるって証明しなきゃね」

「……一言多い」

「あはは。仕方ないよ、オスカー。スピラさん、見た目若いけどご高齢だから。ご老人は敬わなきゃ」

「うんうん。坊やたちも尊敬してくれていいからね?」


「スピラおじいちゃん、おこづかいちょうだい」

「いや、それはなんか違う……。ジュリアちゃんにならあげるけど」

「え、いりませんよ? 一応もう働いていますし」

 ルーカスがケラケラ笑う。オスカーは相変わらずムスッとしているけれど、ルーカスとスピラはけっこう相性がいいのかもしれない。


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