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27 対策を考えても飛び越えてくるストーカーがヤバすぎる


 オスカーの隣に座り直して、一緒にスピラ対策を考える。

 取り乱してしまって、ものすごくやらかしたという自覚に襲われそうになるけれど、反省会は後回しだ。


「魔法封じさえかけられればどうにかなるのだろうが」

「そうですね。魔法なしの近接戦闘だったら、あなたなら余裕かと」

「あのダークエルフに魔法封じをかけられると思うか?」

「師匠に認識されている状態だと難しいと思います。生成が終わる前に範囲外にのがれたり、私の詠唱を邪魔したり、対策できてしまうので。

 師匠がいた辺りとは少し離れた所に戻り、ホワイトヒル全体を覆ってしまえば可能かもしれません」

 考えながら答えると、オスカーが驚きに目をまたたく。


「ホワイトヒル全体……、簡単に言うんだな」

「魔法としては難しくなくて。ブラッドがいた部屋を覆ったのと同じ要領で、ただ大きくするだけなので。魔力は結構使いますけど」

「手段としては持っておいてもいいかもしれないな。後から魔法協会が大騒ぎになるだろうが」

「そうなんですよね……。気づかれたら問題になりそうなのが一番の問題というか。ミスリルプリズンはわかる人にはわかるくらいには見えるし、出入りができなくなるし」


「少なくともクルス氏には話を通す必要があるだろうな。……いっそ、ご両親にすべて話すというのは?」

「すべて、というのは……、私がこの時間にいるはずの本当の私ではない、ということもですよね。……それはちょっと」

「ジュリアがジュリアであることは変わらないだろう?」

「あなたはそう言ってくれるし、そう扱ってくれるけど。話しても絶対に大丈夫だとは思えないので」


 オスカーに話した時は探り探りだった。そんなことはありえないと冗談で終わらせるつもりが大きかった。ルーカスには完全に見抜かれていたから仕方なかった。師匠は関係が遠かったからこそ気負う必要がなかった。

 両親は、近いからこそ話せない。気づかれたら離れようと覚悟しているくらいには抵抗がある。不可抗力とはいえ、本来のその歳のジュリアを彼らから奪ってしまった自覚はあるのだ。


「ジュリアを守るという意味でなら……、小さめに展開して常に入っておくというのは?」

「魔法封じは本来、相手を檻に閉じこめる場合のオプションなので。私が入ると解除以外できなくなるから、自力での移動手段がないんですよね……。

 現実的なのは、家に帰ってから部屋にそって展開するくらいでしょうか」


「なるほどな……。一緒にいる時には自分が運ぶこともできるが。目立ちすぎるな」

「はい。それはそれで状況を説明しないわけにはいかないでしょうし。師匠に追われている理由に触れられると、どうしても過去と繋がってしまいますし。なかなか難しいですね」


「どこまで役立つかはわからないが。取り急ぎ、魔法封じを教えてもらっても?」

「そうですね。通常の檻より魔力消費が激しくて、魔法協会の研修期間には習わないですものね」

「ああ。その辺りはもう個人の才能と裁量で、どこまでを誰に教われるか、身につけられるかになってくるからな」


「今までの魔力切れまでのタイミングを見る限り、魔力量としてはまだ不安がありますね。小さいサイズなら大丈夫でしょうが。

 取り急ぎ今は魔法封じを教えて、気をつけて練習してもらうということで。近いうちにタイミングを見て、魔力量を上げる訓練方法を教えますね」

「頼む」


 オスカーにノンマジックの付与の仕方を教える。理論はなるべく簡単に、それから彼の手を取って実践だ。魔力消費が少ないウッディ・ケージで、小鳥を入れるものの半分の大きさで試す。

「ウッディケージ・ノンマジック」

 一緒に生成すると、オスカーが眉をしかめた。

「……これは……、難しいな……」


「そうですね……。コツを掴むまではちょっと大変かもしれません。そもそも今のあなたの歳で普通に使える魔法ではないので」

「実戦には遠いな……。練習しておく」

「無理はしないでくださいね。無茶をさせているのはわかっているので」

「ああ」

 頷いているけれど納得していない時の声だ。

(オスカーってちょっと負けず嫌いな時があるのよね)

 そんなところもかわいくて好きだ。


「とりあえず……、今日は家の前まで空間転移して急いで部屋に戻って、部屋の中で魔力封じの檻を展開して寝るしかないですかね。

 部屋に鍵をかけてベッドの周りを囲むとかなら気づかれないでしょうし。もう暗いから場所を選べば、転移時にお父様たちから目撃されるのは避けられるでしょうし。

 出勤するまでに対処法が思いつかなかったら、しばらく仮病でひきこもります」

「力になれなくてすまない」

「そんなことないですよ。私がもうさっきのことを気にしないでいられるのは、百パーセントあなたの功績なんですから。ありがとうございます」

 オスカーはまだいくらか無力感を持っていそうだけど、少し嬉しそうに目を細めてくれた。


「家に入るまでは送らせてほしい」

「はい。ありがとうございます。あ、でも、あなたも気をつけてくださいね」

「自分が?」

「はい。私には本気で魔法を使ってこないと思いますが、あなたに対しては別だと思うので。……場合によっては、本気で殺そうとすることもあるかもしれません」

 さっきも「坊やは実力で排除させてもらおう」と言っていた。頭に血がのぼってスピラを引っぱたいたのは、そっちの方が大きいかもしれない。


「わかった。十分注意しておく」

「はい。もしあなたに何かあったら私は師匠と全面戦争です。周りの迷惑を省みることはできないと思うので、人類が壊滅しかねません」

 半分冗談で言ったのに、オスカーがものすごく神妙に頷いた。

「え、本気に聞こえます……?」

「ああ。ルーカスからも似たようなことで釘を刺されているから、現実になる可能性の方が高いと思う」

「……否定しきれないのが痛いところです」

 苦笑して、そっと彼の手をとり、恋人つなぎで指を絡める。もう少しだけ繋がっていたい。


 ゆっくり立ち上がって、彼のひたいにキスをした。軽く彼の手を引いて立ち上がらせる。

「テレポーテーション・ビヨンド・ディスクリプション」

 転移先は自宅の門の近く、建物からは死角になる所だ。家族に気づかれない移動先としての限界はここだろう。


「あ、ジュリアちゃん。おかえり」

 着いたのと同時に、数歩先からひらひらと手を振られた。

 背筋がゾワッとした。

 スピラが家の場所を突きとめているのは想定外だった。


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