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14 想定外の招待客と紹介で警備の難易度が上がる


 一般客に紛れて会場に入って、所定の位置につく。

 会場警備の仕事の始まりだ。

 どんなにオスカーがカッコよくても、さっきの余韻が残っていても、切り替えないといけない。


 魔法協会のメンバーに加えて、一応母も、連絡用の魔道具を身につけている。連絡を入れると魔法使い六人にだけ聞こえる形だ。

『エリック・クルスだ。全員、スタンバイ問題ないか』

『デレク・ストン及びルーカス・ブレア、問題ありませんが』

『オスカー・ウォード、ジュリア・クルス、同じく』


 会場に入ってくるのはみんな、着飾った男女だ。年齢はまちまちで、自分と同年代から、かなりご年配までいる。セイント・デイのパーティのため、子どもは入れないようだ。

 食事は立食のビュッフェ形式。ダンスもできる広さがあり、天井も高い。中央の目立つところに丸い立ち台があり、後で運ばれてくるコレクションを飾るための台座が三台置かれている。


 パーティが始まる時間になると、タヌキの置物を思わせる商工会長が台上に上がった。明らかに作ったような笑顔がうさんくさい。

 会場全体が少し暗くなり、スポットライトがあたる。高価な魔道具が使われているのだと思う。

 これまでの商工協会とショー商会の歩みや、今年一年の商工関係の動き、関係者への労いの言葉などが続く。

 その間に会場では飲み物が配られ、自分たちもソフトドリンクを受けとった。話半分に聞きながら、軽く来場者を眺めておく。


「!」

 想定外の人物が入場手続きをして入ってくる。背が高い紳士と、見覚えがあるものよりも豪華な真っ赤なドレスだ。オスカーも気づいたようで、緊張が走る。

 同時にルーカスから通信が入った。

『こちらルーカス・ブレア。招待客の中に裏魔法協会のラヴァとトールがいるね』


 すぐに父の指示が続く。

『向こうがしかけてくるまでは、警戒しつつ待機だ。魔法協会としては捕まえたいが、ここであの二人と戦うのはデメリットが大きすぎる』

牽制けんせいを兼ねて、来場目的は聞いてもいいかもね。ちゃんと招待客として来ている感じだから、いきなり戦闘にはならないと思う』

『近づいてきているので、私たちが行きますね』

『頼む。が、無理はするな』

『わかりました』


 オスカーと一緒に、目立たないようにラヴァとトールに近づく。向こうも気づいたようで、目が合うとラヴァの口角がニィッと上がった。

「冠位のお嬢さんじゃないの。こんなところで会うなんて奇遇ねえ。ワタシたちが来るのを知っていて、じゃないのでしょう?」

「はい。今日は警備なので、あなたたちが何もしなければ何もしません」

「あら、嬉しい。アナタ、化粧映えもするのねえ。妬いちゃうわあ」

「ありがとうございます」


「うふふ。言われ慣れたのかしらあ? アナタのことも迎えに来たいと思っていたのだけど、中々忙しくてねえ。今日も別件なのよ」

「別件とは?」

「話したら邪魔しないでくれるのかしらあ?」

「私たちの任務に支障がないのなら」


「トールの弟子を捕まえに来たのよ」


「トールの弟子?」

「泥棒なんていう美学のないことに手を染めてるおバカさん。エサになりそうなものがあるところをチェックして張っているのよ」

 魔法使いの泥棒。

 怪盗ブラックもトールと同じように空間転移を使うのだという。ブラックがトールの弟子なのだろうか。


「……捕まえてどうするんですか?」

「もちろん、ワタシたちの仲間として教育し直さないとねえ」

「あなたたちがしていることは、泥棒と何が違うんですか?」

「あらあ、全然違うわよ? ワタシたちはアナタたちと同じ。誰かの依頼を受けて魔法を使ってお金を貰っているだけ。請け負う仕事の種類が違うだけでねえ」

「その種類の違いが大差だと思いますが……」

「うふふ。規則に縛られないで、無能な上役の判断にも縛られないで、受けたい仕事だけを自分たちの責任で受けるのよ? アナタもやってみたらよさがわかると思うわあ」


 話している中で、商工会長の話の続きが聞こえてくる。

「……ありがたいことに、今年のパーティには私たち家族の友人として特別な参加者が複数来てくれた。

 ホワイトヒル魔法協会代表にして冠位魔法使いのエリック・クルス様と奥方、そのお嬢さんのジュリア・クルス様をはじめとした魔法協会の方々。そして、ここホワイトヒルの次代領主、フィン・ホイットマン様。末永い友好と更なる発展を願う」


(え、紹介されるなんて聞いてない)

 しかも丁寧なことに、わざわざスポットライトまであてられた。注目がいたたまれない。目立ってしまっては警備がしにくくなるのに、何を考えているのか。

「盛り上がったころに私のコレクションも到着予定だ。合わせて楽しんでほしい。

 では、今年もパートナーとのよきセイント・デイを。乾杯」

 会長の言葉に合わせて軽くグラスを上げる。


「うふふ。ジュリアちゃんっていうの。覚えておくわねえ」

「忘れてください……」

 そこに、「ぜひ挨拶を」と色々な人から声をかけられる。会場警備どころではない。父たちの方でも同じ状況なようだ。ラヴァから聞いた話を報告するのすらままならない。

(本当になんで紹介しちゃったの……)


 声をかけてくるのはカップルよりも兄弟姉妹で参加している人が多い印象だ。男性の方が積極的に話しかけてくる気がする。オスカーに警戒スイッチが入っているけれど、心配しすぎだと思う。

「ジュリアさんも魔法使いなのですか?」

「はい。まだ見習いですけど」

「そちらの男性は?」

「私の最愛の人です」

 ありのままを答えると、なぜかみんな驚いたような顔をする。セイント・デイのパーティに本当のパートナーと来るのはそういう意味なはずなのに、なぜ驚かれるのか。よくわからないけれど、オスカーの機嫌がよさそうだから返事として間違ってはいないはずだ。

(このやりとり、何回すればいいのかしら……)

 会場にいる若い男性からはひととおり声をかけられた気がするのは気のせいだろうか。


「ジュリアさん、楽しんでもらっていますか?」

 バートがベッキー・デニスとやってくる。

「バートさん。紹介されてしまって、すごく動きにくいのですが」

「それは申し訳ない。祖父としてはどうしても、ショー商会が有力者と繋がっていることをアピールしたかったようで」

「せめて事前に言ってください。影響が出かねません」


「コレクションが届くころには落ちつくでしょう。俺としては、ジュリアさんのかわいさにむらがった男たちがみんな一刀両断されて肩を落としていくのが見ものでした」

「?」

 一体なんの話なのか。意味がわからなくて小首をかしげる。

 ベッキー・デニスがなんとなく不機嫌に見える。ちょっとニラまれている気がする。


「リアちゃん」

「ジュリア」

 フィンとバーバラのペアも寄ってきた。

「君も大変そうだったけど。僕も中々抜けられなくて、参ったよ」

「フィン様は次期領主様ですものね。話したい方は多いのでしょうね」

「そういうの好きじゃないんだけど、領主になる覚悟をしたから、仕方ないよね」

 フィンが苦笑して肩をすくめる。

(元々は若隠居希望だったものね)

 それを知っていると、今のフィンはすごくがんばっているように感じて応援したくなる。


 フィンが穏やかな笑みに変わって目を細めた。

「それより、リアちゃん……、いつもかわいいけど今日は一段とかわいいね」

「ありがとうございます」

 フィンも前々から贔屓ひいきがすぎるうちの一人だ。さらっと受け流して矛先を変える。

「バーバラさんもよくお似合いだと思うのですが、どうですか?」

「ああ、うん。そうだね。バーバラもかわいいよ」

 パァッとバーバラが嬉しそうに笑う。花まで舞いそうだ。


 周りに今日の事情を知っている知り合いしかいなくなったから、一旦意識を外して魔道具で連絡を入れる。

『ジュリア・クルスです。トールとラヴァの目的は、トールの弟子を捕まえることだと言っていました。泥棒なのだそうです。怪盗ブラックと同一人物なのかは聞けていません』

『了解した。同一人物の可能性が高いと思った方がいいだろう。魔法使いの泥棒は他に聞かないし、トールもブラックも空間転移を使うからな。総員、犯人確保の妨げになる可能性を加味しておくように』

 それぞれから了承が返る。


 裏魔法協会とターゲットを取りあう可能性は想定になかった。警備の難易度が格段に上がった気がする。


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