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5 ドワーフに世界の摂理について聞く


 ドワーフの隠れ里の広場に空間転移すると、とたんに歓声が上がった。

 ドワーフ語でみんなが叫んでいる。自分たちに翻訳魔法オムニ・コムニカチオをかける。


「救世主!」

「我らが救世主!!」

「えっと……、そんな大袈裟なものではないのですが。この様子だと、無事に長老様の呪いが解けたのでしょうか」

「うむ。この通りじゃ。この一週間の壊死も戻っておる。若返った気分じゃ」

 ドワーフの長老がぴょんと跳ねてみせてくれて、腰を痛めてうずくまる。

「……ヒール」

 苦笑しつつ治しておく。


「今後、オフェンス王国から何かされることはないと思います」

「ありがたい」

「どういたしまして」

「礼には足りぬと思うが、仲間を連れてきたということは装備は四人分がよかろうか」

 長老がさらっと報酬を上乗せしてくれる。そのくらいありがたいと思ってくれているのだろう。


「あ、まず、紹介しますね。こちらはルーカス・ブレアさん。私たちの参謀で、すごく助かりました。で、こっちはバケリンクスのリンセです。今回の作戦はリンセなしでは不可能でした」

 子どもの姿をとっていたリンセが魔法を解除して元に戻る。ドワーフたちは他の魔物の姿に一瞬驚いたようだったが、歓迎ムードは変わらない。


「で、装備の方は、私はいいです。置き場にも困るので」

「せっかくだしジュリアちゃんも作ってもらえば? 家に持ち帰れないなら、オスカーの部屋にでも置いておけばいいし」

 ルーカスが首を傾けて聞いてくるけれど、オスカーの場所を占拠するのは申し訳ない。

「それは悪いです」

「いや、自分は構わない」


「一般的に魔法使いの装備としてはあまり知られてないけど、ドワーフにしか作れない合成素材の防具は優秀だよ。武器の方は、魔法の発動を楽にする杖とかも作れるんじゃなかったっけ?」

「でも、着る機会はないですよね? 杖がなくても魔法を使うのに困ってないので、持ち歩く方が面倒ですし」

「神の正装とか?」

「やめてください……。私の中では既に黒歴史です……」

 そうするのがベストだと判断したからやったけれど、あまりにも身にあまりすぎる。


 長老の元に比較的若いドワーフが進み出て、何やら少し話をした。

「ふむ。もしジュリア様がよければ、ぜひ作らせてもらいたいと申しておるが、どうじゃ?」

「え、私の装備をですか?」

 若いドワーフが深く頭を下げてくる。聞くと、既にイメージしているデザインがあって、どうしても作らせてほしいとのことだ。

「えっと、そういうことなら。お願いします」

「ありがたき幸せ!!!」

 こちらが作ってもらう側なのにものすごく喜ばれた。喜んでもらえるならまあいいかと思う。


「ぼくは最初から噛んでたわけじゃないけど、ぼくの分もいいのかな?」

「私の中ではルーカスさんの功績は大きいのですが」

「自分もそう思う」

「じゃあ、折角だから甘えようかな。あって困るものじゃないし」

「アッチは服を着ないから要らないのニャ」


「あ、四人分お願いできるなら、先週も言っていた解呪師の分にしてもらえたらと。本人がほしいと言えばですが」

「もちろんじゃ」

 念のために改めてブロンソンの分を確保しておく。解呪のお礼が何になるかは交渉次第で未定だからだ。

 オスカーは何も言わないけれど、わくわくそわそわしている感じがする。かわいい。


「あとは、ジュリア様の探し物じゃったか」

 先週ちらりと言ったことを長老が覚えていてくれた。ありがたい。

「はい。……世界の摂理に会いたいのですが、方法を知りませんか?」

 ドワーフたちが一度静まって、それから長老クラスが集まって相談を始める。知っている者がいるかの確認をとっているようだ。


 しばらくして、長老と長老補佐のゼブロンが前に進み出た。

「世界の摂理の存在は伝わっておる。はるか古代には会った者がおるとも」

(ドワーフには伝わっているのね)

 人の伝説からは失われているから、知っているだけでもすごいことだ。

「ただ、わしらドワーフはヒトよりは長生きだが、エルフほど長命ではない。技術以外には無頓着むとんちゃくなのもあり、会う方法については既に知る者がない」

「そうですか……」

 ダメ元で聞いているところがあるとはいえ、あてが外れるとやはり残念だ。


「エルフか……、それでもダメならばエイシェントドラゴンのような超長命種にあたれればよいのじゃが。ワシらにはツテがなくてのう。役に立てずすまぬ」

「あ、それならどちらも心当たりがあるので、自分で聞いてみますね」

 当たり前のようにそう答えたら、前の時に会ったと話してあるオスカー以外全員がフリーズした。


 ルーカスが目頭を抑えながら尋ねてくる。

「ジュリアちゃん、ぼく、そのへんのことは聞いてないんだけど?」

「はい。今回のことには関係がないので。時間もなかったし、お話ししてないですね」

「エルフとエイシェントドラゴンにツテがあるの?」

「正確には、ダークエルフとエイシェントドラゴンですね。どちらも前の時に会っています。あれ、私の魔法の師匠がダークエルフっていうのは」

「今初めて聞いたね。道理で規格外なわけだ……。教わったからって普通は使えないだろうから、きみの才能も大きいんだろうけど」


「師匠はセイント・デイにしか居場所がわからないので、セイント・デイに会いに行く予定です」

「大丈夫なの? 向こうはきみを知らないんでしょ?」

「前の時も、最初は知らない人で。髪を切ってわけてほしいなんていう不躾ぶしつけなお願いを笑って受けてくれたので。いい人……、いいダークエルフですよ」

「なんだろう、この不安な感じ……」


「オスカーも一緒に行ってもらうし、大丈夫じゃないかと。あ、ルーカスさんも一緒に行きますか?」

「うーん、せっかくのお誘いだけど。セイント・デイにバカップルに混ざって行動するほどぼくの心臓には毛が生えてないんだよね」

「バカップルですか……」

 前もそう言われた気がする。その時は他の部分が大事だったからスルーしたけれど、ルーカスにはバカップルに見えているらしい。なぜそうなっているのかが謎すぎる。

(バカップルの定義って何かしら……)


「まず自分とジュリアで会いに行き、何かあれば相談する。それでどうだろうか、参謀殿?」

「うん、そうだね。新年になる前にもう数日職場で会えるだろうからランチでもいいし、その後もどうせ暇だから呼んでもらっていいよ」

「ありがとうございます。どちらにしろ首尾を報告しますね」


 ドワーフたちから祝宴に誘われる。その合間に装備の採寸も済ませたいという。せっかくだから受けることにする。

「ジュリアの採寸は女性のドワーフなのだろうな?」

 オスカーがそんなことを確認して、ギブロンが差配してくれた。作りたいと言っていた若いドワーフは自分で測りたかったらしく、残念がっていた。

 そのドワーフが男性なのはわかったけれど、采配された女性のドワーフたちと見た目での区別はつかなかった。



 リンセにお礼を言ってクロノハック山に帰す。念のためにセノーテにも寄った。クロノハック山との往復に使う魔力量が多いからだ。

「魔力を回復させる泉って凄いね。ぼくも入ってみてもいいかな」

「一緒に入ります?」

「ダメだ」

「え、服着たままだよ?」

 なぜだろうか、オスカーに尋ね返すルーカスがニヤニヤしている気がする。

「順に入ればいいだろう。ルーカスはほとんど時間が要らないのだから」

「へいへい。じゃあ、そうするよ」

 ルーカスが首をすくめて笑う。

 オスカーには前回断られているから、誘わないで一人で降りた。ちょっと寂しい。





▼  [ルーカス] ▼



 セノーテの中が見えないエリアでオスカーと待機する。

「ジュリアちゃんと一緒に水浴びしたかったなー」

 冗談めかしてそう言ったら、旦那の方から本気でにらまれた。

「いいじゃん、オスカーも一緒に入れば」

「最初の時に誘われて……、ヤバかったから。それ以来、避けることにしている」

 真っ赤だ。お熱いことだ。


「じゃあ夏になったらジュリアちゃんを海に誘おうかな」

「じゃあってなんだ……」

「見たくないの? ジュリアちゃんの水着姿」

 貴族女性が外で、顔と手以外の肌をさらすことはない。が、海で遊ぶための水着のドレスはかなり薄く作られる。なかなかいい眺めなのだ。

「見たいか見たくないかで言えば、もちろん見たい。が、冷静でいられる自信はない」

「オスカーはいつもそれだよね。難儀なことに」

 へたれむっつりの本領発揮だと思っていたら、続きがあった。

「し、他の男には見せたくない」


「あはは。オスカーは結構、独占欲強いよね。直接ジュリアちゃんには言わないだけで」

「いや、そうじゃない。ジュリアだぞ? 間違いなく、ものすごくかわいい。ヒツジに更に生肉を乗せてオオカミの群れに放りこむようなものだろう?」

「待って、クルス氏理論に染まってるから。まあ完全には否定しないけど。

 オスカーが草食の皮を被ったオオカミだからみんなオオカミに見えるんだろうけど、本当の草食獣もいるからね? かわいい女の子の水着姿は単純に目の保養だから」

「他の男に保養させる筋合いはない」

「それを独占欲って言うんだからね?」


 しばらくして、ちゃんと乾かした状態でジュリアがホウキで上がってくる。

「お待たせしました。ルーカスさん、どうぞ」

「うん、ありがとう。ジュリアちゃんが入ってた泉、堪能してくるね」

 笑って手をひらひらさせたら、オスカーに睨まれた。唸り声が聞こえてきそうだ。

 どうにもおもしろくて、からかうのをやめられない。


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