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47 [ルーカス] 何をしているんだバカップル


 月曜朝は恒例のオスカー拾い上げタイムだ。バカップルの週末の動向調査がライフワークになってきている。毎週、月曜の勤務前が一番楽しい。

「はよ」

「ああ」

 声をかけると、オスカーがもそりと起きてくる。

「で、今週のネタは?」

「ネタ扱いするな……」

「いやもう夫婦漫才だよね」

「そんなつもりはないのだが」


 オスカーが口元に手を当てて、考えるようにしつつ尋ねてくる。

「ルーカス、透明化の魔法を知っているか?」

「もちろん。男の魔法使いはみんな一度は調べてるんじゃないかな」

「そうなのか?」

「それはそうでしょ。透明化はロマンだもん。使えなかったっていう話しか聞かないけどね。空間転移と同じで、特殊系の魔法は適性とか才能とかも特殊だからね」

「そうなのか?」

「まあ、実際に使えたら、むしろ人に言わないっていうのもあるかもしれないけど。もちろんぼくは普通に使えなかった方。で、透明化がどうしたの?」


 添えていた手が口元を隠すように動く。気恥ずかしい時のオスカーのクセだ。

「もし使えたら、と思うと……、……色々な妄想が……」

「まあ、みんなするよね。けど、実行したら捕まるやつだよね」

「そうなのか?」

「女の子の部屋に入るとか、お風呂を覗くとか、なんなら一緒にお風呂に入っちゃうとか、そういうのでしょ?」


「いや、二人乗りしても目撃されないなとか、人がいるところでもキスくらいしてもいいかとか……」

「健っ全!! 待って。それ妄想に入るの? 透明化しなくてもしていいことじゃない?」

「……見られていると恥ずかしいだろう?」

「まあ、そうだろうけども」

 この後輩は自分は普通ですという顔をして、時々結構ズレていることがある。妄想という言葉を一般基準で捉えた時点で負けだった。


「他にも……、倫理的にダメなことも……」

「例えば?」

 もう騙されないためにも、先に内容確認だ。

「……寮の部屋に入れられるなと」

「ああ、どっちかっていうと規則違反の方ね。ちなみにそれも、みんな律儀に守ってないから」

「そうなのか?」

「正面玄関からは入れないけど、魔法使いだからね。部屋が二階だとしても、窓から入れられるでしょ?」

「……そうか」

 考えたこともないという顔をしている。規則があるのだからみんな守っていると思っていたのだろう。

 透明化した時の妄想が普通にできることすぎてびっくりだ。


「まあ、つまりお前は、ジュリアちゃんとまた二人乗りしたいし、キスしたいし、寮の部屋に連れこみたい、と」

「……最後のは出来心だが。したいかしたくないかなら、全部したい」

「好きにすればいいんじゃない?」

「投げやりだな」

「だってジュリアちゃんの方はウェルカムっぽいし。むしろどこに障害があるのかがわからないんだけど?」


 今度は両手で顔が隠された。耳まで赤い。

「……一度タガが外れたら抑えが効かなくなる未来しか見えない」

「あー……、そっちは、まあ。がんばるしかないね」

 そうだった。このへたれむっつりは律儀なのだ。彼女さえよければ、あとはバレなきゃいいだろうという発想がない。が、この二人なら間違いなくバレるだろうから、その選択は正解だろう。


 オスカーが深くため息をつく。

「本当に……、いちいちかわいすぎるんだが。どうすればいい?」

「それ、ぼくに聞いてどうにかなると思う?」

「思わない」

「でしょ? ただののろけにしか聞こえない」

 オスカーなりに切実なのはわかるけれど、自分だってあんなかわいい彼女がほしい。

(リア充め)

 爆発しろとは思わないし、応援はしているけど、時々からかうくらいの権利はあるだろう。


 だんだん人が増えてきて、彼女の方も父親と一緒に出勤してくる。

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

「おはよう、ジュリアちゃん」

(ん?)

 ついさっきまで旦那の方は盛大にのろけていたのに、彼女の方は少し、嫌われていないか心配そうな顔をしている。

(え、ジュリアちゃん、何したの?)

 オスカーの方は気にしていない何かを、やった本人だけが気にしているパターンな気がする。


 もうひとつ、ジュリアに変化があった。

「あれ、今日、ユエルちゃんは?」

「あ、遊び相手がうちに泊まりに来てるので。置いてきてます」

「遊び相手?」

「はい。一週間くらい泊める予定で」

 オスカーが知っていて気にしていなさそうだから、他のピカテットとかだろうか。


 クルス氏がデスクに行き、魔法協会内で送られてくる情報共有の連絡に目を通して眉をしかめた。

 クルス氏とつきあいが長いヘイグが声をかける。

「何かあったのか?」

「お前たちも見ておくか? 天変地異の予兆かもしれないから警戒するように、との緊急速報だ」

「なになに? 一昨日、オフェンス王国で巨大な地割れ? は? ほとんど国境線の形って一体どんな偶然だ?」

 読み上げるヘイグの声が聞こえた瞬間、ジュリアがギクリとしたように強張った。オスカーの顔は変わらないけれど、何かを知っていそうだ。二人の表情はそう見えるのに、状況がまったくわからない。


「その規模で人的被害は確認されなかったらしい。神がかってるな」

「ハイエルフでも怒らせたんじゃないか?」

「そんな伝説上の存在がいたら大問題だ。そもそも、魔法だと思うか?」

「現象だけ聞くと魔法じゃないと説明がつかないのに、そんな魔法があってたまるか、使える奴がいてたまるか、と思うな。

 人間よりはできる可能性があるだろうと思ってハイエルフの名を出したが、いたとしても実際にできるとは思えん」


「同感だ。術者らしい姿は確認されていないらしいし、神がかった偶然としか言えないだろうな。

 オフェンス王国は確か軍部の権力が強くて、魔法使いの扱いもよくなかったはずだ。魔法協会としては撤退も視野に入れていたと思ったが。基本的に魔法でしか国外と行き来できないとなれば、関係が変わるだろうな」

「魔法協会としては悪くない話だな。あの辺りだけで収まるなら、だが」

「災害はいつ起きるかわからないからな。私たちも備えておくに越したことはないだろう」


 後で改めて全体に回覧されるのだろうけれど、その場にいた全員が耳をそばだてていた。

 ジュリアとオスカーが少しホッとした顔になっている。

(待って。二人は何を知ってるの? 何してるの??)

 バカップルの動向が謎すぎる。


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