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31 ウッズハイムの冒険者協会①


 週末。オスカーと一緒にウッズハイムの冒険者協会に足を運んだ。


 ウッズハイムはホワイトヒルの隣町だ。徒歩や馬車だと二、三時間の距離になるが、ホウキで飛べば二十分くらいで済む。途中を空間転移で省略すればもっと早いけれど、今日は遠乗りを兼ねて飛んできた。

 ホワイトヒルの半分以下の規模で、もう少しのんびりしていて牧歌的な感じがする。オスカーの実家があり、前の時に彼と長く暮らした町だ。

(懐かしい……)

 もう一度彼と手をつなげていなければ、この街に来るだけで号泣していたと思う。今はもう大丈夫だ。


 ホワイトヒルにも冒険者協会はあるけれど、できれば親や知人に出入りを知られたくないから、隣町のウッズハイムに来ている。オスカーがこの前、虫退治後に魔核を売ってくれたのもここだ。

 冒険者協会の扉を開けて一緒に入ると、そこにいたパーティがざわついた。


「おいアレ、この前来てた剣聖の弟子だろ?」

「彼女連れ?」

「ローブってことは、あの子も魔法使いか?」

「デート感覚かよ」

「冒険者なめてないか?」

 聞こえてくる声がなんともいたたまれない。つないでいた手を離そうとしたら、オスカーが離してくれなかった。

「……すみません」

「気にする必要はない」

「はい」

(こういうとこ、強いのよね……)

 自分は気にしてしまう方だから、本当に尊敬する。


 クエストボードを眺めに行く。

 冒険者協会は、魔法協会の臨時依頼にあたるクエストが中心だ。そのため、魔法協会とは違って、一般向けのものは誰でも見られるように掲示されている。難易度が高いものや特殊なものだけが個別に話される仕組みだ。

 色々言われたくないから、周りに聞こえにくいように小声で話す。


「あなたが受けられるBランクでいいですか? そこそこな金額が必要なので。時間効率的にその辺りがいいかと」

「ああ。問題ない」

「Bランク・ソロ可能が妥当ですかね。私は登録したくないので」

「自分だけの実績になるが、いいのか?」

「はい。むしろ面倒ごとを押しつけて申し訳ないと思っています」

 前の時、アイテムを持ちこんだ後、冠位二位の打診を断るのにムダに労力がかかった。今回はそういうことに関わりたくない。


「これなんてどうですか? ホラーハウスの怨霊の浄化」

「魔法協会と同時依頼のクエストだな」

「あ、ならやめた方がいいですね。情報が流れやすいので」

「ああ。それに浄化魔法は基本として習う魔法ではないから自分は使えない」

「言われてみれば確かに、基本魔法じゃなかったですね。テリトリーに入らなければ被害は出ないから緊急性はないでしょうし、他のにしましょう」


「フルーティ・ムーン・ベアの群れの討伐はどうだろうか」

「えっと……、依頼理由は果樹園を占拠のため。

 なるほど。これは魔法使いには依頼されないですね」

「果樹園ごと燃やす結果しか見えないな」

「Bランク以上、あるいはパーティ五名以上のCランクが受注対象ですね。金額的にも申し分ないので、あなたがよければこれにしましょう」

「捕獲や追いだすのではなく討伐だが、ジュリアは構わないか?」

「はい。私は別に、殺さずというわけではないので。ワイバーンもバンバン燃やしてましたよね?」

「ワイバーンもバンバン……」

「そこは意図してないです……」

 オスカーが小さく笑って、クエストを受注しに行く。

 邪魔にならないところでユエルと待つ。


 と、すぐに、二人組の男性冒険者が寄ってきた。オスカー以上に背が高く、恰幅かっぷくがいい。ザ・冒険者という感じがする。兄弟だろうか。よく似ている。

「お嬢さんは魔法使いなのか?」

「えっと、はい。そうですね」

「剣聖の弟子とはどんな関係なんだ?」

「どんな……、うーん、色々ありますが。ここでは、彼の弟子、が適切かと」

「剣聖の弟子の、弟子?」

「はい。私が最初に魔法を教わったのも、武術を教えてくれているのも彼なので」

 ウソは言っていない。その後、魔法については規格外の師匠に追加で教えこまれただけだ。


「マジか」

「うらやましすぎる」

(あれ、意外にいい人たち?)

 確かに、剣聖の弟子に教われるというのは希少だと思う。彼を認められている感じが嬉しくて、つい笑みがこぼれる。

「はい。彼は教えるの、上手ですよ」

「いや、そうじゃない」

「俺たちがうらやましいのはあっち」

「?」

 オスカーの方をあごで示されたけれど、彼の何がうらやましいのかがわからない。

「お嬢さんみたいなかわいい弟子をとって、あわよくばおつきあいしたい」

(そっち?!)


「……彼女に何か用か?」

 お腹の底から冷えるようなオスカーの声がした。

「あ、お帰りなさい」

「なんでほんの一瞬目を離しただけで絡まれているんだ……。いや、置いていった自分が悪かったな」

「ちょっとお話ししていただけですよ?」

「すべからく男はオオカミだと思ってほしい……」

「まあまあ、ちょっとお話ししてただけなんで」

「そうそう。こんなかわいらしいお嬢さんがこんなところに来ることなんてないからな。お近づきになりたい」

「ここの女たちはみんな男まさりだからな」


 オスカーが盛大にため息をつく。

「ジュリア」

「はい」

「あそこに戦闘エリアがある。パーティ勧誘などの腕試し用らしい」

「はい。冒険者協会には、どこでもありますよね」

「組み手をするぞ」

「え」

「今後も来る可能性があるなら、余計な手出しをされないようにしておきたい」

「余計な手出し、ですか?」

 よくわからないけれど、最初に言われたことは気にしている。「デート感覚かよ」ーー自分が彼の評価を落としているのだとしたら、それはイヤだ。なら、遊びに来ているのではないことを見せてもいいのかもしれない。


「わかりました。魔法もオーケーですか?」

「あの範囲を出ないもの、ジュリアがすでに習ったものは使って構わない」

「わかりました」

 すでに習ったもの。それを強調されたのは、習ったことになっているもの、という意味だろう。

 もちろん古代魔法や禁呪はナシだし、上級魔法も使えない。中級魔法はほんの一部だ。今後もそういう制限はかかり続けるから、それに慣れる必要がある。


 オスカーが場所の使用を申請すると、すぐに使っていいとの許可が下りた。

 新しいローブが傷つかないように、二人とも脱いで畳んで、荷物用の棚に置いていく。ユエルがローブの前に鎮座ちんざして見張ってくれる。


 戦闘エリアに入ると、その場の全員の注目を集めた。

「あのお嬢さん、戦えるのか……?」

「補助魔法要員ではなく……?」

 そんな声が聞こえた。


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