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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋@12.8「僕にとって唯一の令嬢」アンソロ
【第四部】 隊商都市の明けない夜(前編)

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往来での一瞬(1)

「……いた」


 人が行きかう市場の道端に並べられたテーブルで、誰ともわからぬ相手に滔々と話しながら飲んだくれている師・エスファンド。

 その姿を見つけて、細面に切れ長の瞳を持つ黒髪の青年は小さく呟いた。

 襟足で束ねた、さらりとした長い髪をなびかせるほどの早足で、すたすたと歩み寄る。


「エスファンド先生。昼間からお酒が過ぎてらっしゃいませんか」


 杯をぶつけあうように乾杯しながら、何かを早口でまくしたてていたエスファンドであったが、青年の姿を見ると「あ」と一瞬だけ動きを止め、にへらっと笑み崩れた。


「リーエン。どうした、怖い顔をして」

「怖くないですよ? どうしてそう思ったんですか?」


 呼ばれた青年、リーエンは目を細め極めて穏やかな笑みを浮かべた。

 市場の喧噪も強い日差しも何一つ変化がないはずなのに、ひんやりとした空気が漂う。


「どう……してだろうな……」

「ええ。どうしてでしょう。その明晰な頭脳でよく考えてみてくださいね。怒ってなんかいませんから」


 周りにいた男たちがどっと笑いを爆発させた。「なんだなんだ先生」「どうした」と小突かれている中、エスファンドは「えーと……」とたいへん歯切れが悪く手にした杯を見下ろしている。注がれたばかりらしく、濃い紫色の液体が揺れていた。

 リーエンはすっと手を伸ばして、その杯をほっそりとした指でつまみ上げて奪い取った。


「おい」

「これ、美味しいですか?」


 言うなり、くいっと一口で飲み干す。

 杯から口を離し、空になった底をじっと見つめて低い声で呟いた。「何、この安酒」

 そして、何か言いたそうにしているエスファンドの前の卓に杯を置き、にこりともせずに言った。


「先生、せっかくの頭が腐りますよ。口に入れるものにはもう少し気を付けてください」



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