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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋@12.8「僕にとって唯一の令嬢」アンソロ
【第四部】 隊商都市の明けない夜(前編)

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長い一日の始まり(4)

 * * *


 肩を並べて寄り添って歩く二人を、面白そうに見つめている青年がいた。


「すごい、銀髪だ。あれって噂に聞く月の国(イクストゥーラ)の王族筋の姫かな? ちょっと人間とは思えないね。女神が地上に降りて来たみたい」


 埃っぽい旅装に身を包み、日差しを避けるように頭部から首まで布で覆っているが、炎のような赤毛が額にこぼれている。


「隣の男、相当な手練れのようだ」


 似たり寄ったりの恰好で並び立ったいま一人が、低い声で答える。


「そりゃそうでしょ。姫君の護衛が弱くてどうするの。今日はこの後、大きな隊商が到着するって話で、ずいぶん賑わっているわけだし。街が落ち着かない。あの二人もそれが目当てだとして、どこかで高みの見物を決め込むつもりなんじゃないの? その前に接触しないと!」


「イグニス、面倒事は」


「気になるんだよ、あの年頃の『お姫様』がさ。我が主と、見た目は同じくらいだ。追い詰めてみたいし、怖がらせて泣かせてみたいよ。そこからどういう判断を下すのか。我が主とはどう違うのか」


 喉を鳴らして笑う赤毛に、連れの男は吐息する。


「やめておけ」


「もちろん、騒ぎには気をつける。だけど、月の王族なんて、この先お目にかかれるかどうかわからないんだ。絶対に話してみたい。何者か知りたい。ひとまず、声をかけるだけだ。……たったそれだけで面倒が起きてしまったら、それは運が悪いというだけだ。私ではなく、ラスカリスの」


 きわめて愉快そうに言うと、赤毛の旅人は注目を浴びている二人の後に続いた。

 悪意など欠片もなさそうな紺碧の瞳を、鮮やかに輝かせながら。


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✼2024.9.13発売✼
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