女性の気分は表情では読めない
プーアンの所もアポ無しでも屋敷に入れてくれた。
「突然どう……、それは大隊長の階級章っ」
プーアンが腰を抜かしそうになるので、また説明をしてから領主街の仕組みを聞いていく。
「孤児院への寄付ですか。寄付をすると翌年の税金から寄付額の1割が差し引きされる控除という仕組みがございます」
「寄付をした証明はどこがするの?」
「孤児院です」
「孤児院の運営費はどこから出てるの?」
「孤児院のある領主からです。後は他の領主街や王都の孤児を引き受けると一人当たりの補助金が引き渡した所から支払われます」
「いくらぐらい?」
「王都の孤児は一人当たり国からその子供が12歳になるまで年間当たり100万G支払われます。この額はそれぞれの領地との契約によるものですがだいたいこの基準でされていると思いますよ」
ということは兄が10万G、妹が300万Gというのは12歳までいたら受け取ることが出来る補助金代わりということか?人身売買じゃなかったのかな?
「子供が途中で亡くなったり、どこかの里子になったらそこで補助金は終わり?」
「本来はそうなのですが申告が無ければそのまま支払われます」
ということは二重取りが可能な訳か。
「無申告がバレたらどうなるの?」
「詐欺として罪に問えます。が、申告漏れでしたと返金されれば罪に問えないですね」
言い逃れ可能ということか。
「あとね、孤児院の子供が12歳になるまでに働き手として引き取りたいと申しんだら寄付を強要される?」
「いえ、寄付の強要は出来ません。労働力として引取を希望するものは労働条件を提出、孤児院は内容を確認してそれを元に引き渡すかどうかを決めます。孤児はその労働条件が守られていないときは衛兵に訴える事が出来るのですよ」
「結構ちゃんとしているんだね」
「はい。そうしないと孤児を奴隷のように扱う引取者が出ますので」
そうだよな。
「12歳になれば孤児院を出ないとダメなんだよね?」
「はい。引取手がいない孤児は自分で働き口を探さねばなりません。孤児院を出るのを待って下働きとして雇うのが普通です。しかし自分がその条件は嫌だと思えば断れます。まぁ、生きて行くためには労働条件を選べないのが現実ではありますが」
そうだよな。孤児は人生ハードモードでそこから抜け出せるのはほんの少しなんだろうな。
寄付を強要されたと言っても知らないと言われればそれまで。その労働条件では引き渡しが出来なかったとか言われたらおしまいだな。
これは一度現地に行ってみて様子を見るか。
教えて貰ったお礼を言ってから瓶工房にいく。
「お、軍の紋章の許可は出たか?」
「出たよ。これでお願い」
「月にどれぐらいの数になる?」
「まだよく分からないかな。取り敢えずたくさん作っておいて。出来た分は買い取るから。あまりに在庫が増えるようならまた相談するよ」
「たくさんってどれぐらいだ?」
「月に300とかかな?いけそう?」
「問題ない」
「ちなみにさ、ポーション瓶って製造するのに許可制なんだね」
「そうだぞ知らなかったのか?商品として外に出したものは納入先と数量を記録しておく必要があるんだぞ」
え?
「そんな記録を付けてるの?」
「認可性の商品は安定して売れる分利益も薄いし面倒な事も多いんだ。仕事量は安定するからやるけどな」
品質も保たないといけないので認可されている工房はそんなに多くはないらしい。手間はかかるけど資格を悪用していた生産所の販売数を調べる事は可能なのか。
ポンタは家に帰ってから考えをまとめた。調べてもらうのは生産所の販売数と生産能力の差異だ。
ポーション作りと保存魔法を掛けるのを一人でやると生産数が落ちる。生産可能な人がポーションを作り、別の人が保存魔法を掛けると量は作れる。西の街は王都から他領に行く地だから移動する商人が仕入れや自分の為にポーションを西の街で買う事が多いかもしれない。大量の食料を作っている領地だ他領からも仕入れに来てそうだしな。
そんな事を考えていたら軍からポーションの発注が入ってきた。
回復ドリンク一樽(樽付き)/10万G
初級ポーション100本/100万G
中級ポーション10本/100万G
上級ポーション1本/100万G
合計310万G
どうやら毎週この依頼が入るらしい。ポーションは一月分まとめて納入でも構わないらしい。取り敢えず今月は週納品にしてもらおう。
「ケイト、お前は一気にどれぐらい保存魔法を掛けられる?」
「そんなん掛けてみな分からへん」
「なら先に瓶詰めするから試してみてくれ」
あ、ポーション瓶が足りないやと気付き、生産は明日にするのであった。
「ヒステリア、今瓶の在庫ってどれぐらいある?」
「そんなの聞かないとわかんないわよ」
聞いてくれと言いかけたらネダリーが聞いてきてくれるといった。到着したときにはネダリーの窓口に人がいたのだ。
「いくつ買うつもりなのよ?」
「あれば500個」
「は?」
「軍から大量発注が来たんだよ」
「そんなに作れるわけ?」
「まぁ、なんとか。週ごとに分けて納品だからなんとかなるよ」
「身体持つんでしょうね?」
「心配してくれてんの?」
「違うわよっ」
初めはムカついたこの対応も今はちょっと楽しい。
「500はあるって」
「ありがとうネダリー」
「もしかして全部買うつもり?」
「そうだよ」
「これは私の業績?それともヒステリア」
ん?
「販売数は窓口の業績になるの?」
「そうよ査定対象」
冒険者ギルドと同じシステムか。
「じゃあ、ヒステリアと半分こで」
「ポンちゃん次からは私の所に来てね」
「もう瓶の大量発注はこれでおしまい。次からは工房で別注品を仕入れるから」
「えーーっ、こっちに卸してもらってよ」
「別注品は工房も利益ほとんど無しで作ってくれるから卸せないと思うよ」
ギルドはほとんど利益を乗せてないらしいが保管料と販売手数料は乗せているはずだからな。
「えーっ」
「重曹とかクエン酸はここで買うから。あと、ズーランダからの仕入れもあるでしょ?対応宜しくね」
面倒になってきたので倉庫へ行く。
「随分と仕入れるんだな」
「軍からの発注が予想以上でね。でも大量仕入はこれで終了。次回からは軍専用瓶を別注したから」
「ネダリーとか拗ねてそうだな」
「当たり。また今度バーベキューでもするから誘うね」
「おう、楽しみにしてるわ」
街で樽も10個買って帰る。シルベルトに調査のお願いもしないといけないけど先に納期を守らねば。
家に帰ってせっせと瓶詰め。ケイトは封印のシール貼り。保存魔法は後からだ。
「終ったで」
「一月分作るのにまる一日はかかるな。メイ見に来てくれ」
ケイトに毎日フルポーションを飲ませているお陰か少しずつメイの姿が濃く見えるようになって来ている。声も途切れ途切れだけど聞こえているようだ。
「ケイト、100本まとめて保存魔法を掛けてくれ」
メイにちゃんと掛かったか判定してもらう。
「んー、ぎりぎりかなぁ?ちょっと足りないかも。ケイトが真名でやれば余裕だと思うけどね」
足りない分は自分で精霊にお願いしておいた。中級と上級は自分でかけるがシールはケイトのだ。違法行為だよなこれ。
「ケイト、月に400本ぐらい発注がくる予定だからお前は固定給プラス40万くらい手に入るぞ」
「え?そんなにくれるん?」
「保存魔法は1本に付き1000G払う。だから40万Gぐらいだな。これはちゃんと貯金しとけ。このまま同じ数の発注が来れば半年で200万Gくらい貯まる。将来独立したりとかするかもしれんからその資金にしとけ」
「独立せなあかんの?」
「そういう道もあると言うことだ。自分の好きにしたらいい」
「ちょっと前の浮浪者みたいな生活が嘘みたいや」
「今まで苦労した貯金だと思えばいい」
「おおきに。ポンタに会えた事を神に感謝するわ。それにロップにも感謝せなあかんな。しばらく顔を出してへんから行ってくるわ」
「じゃあ明日ポーションを納品してから一緒に行こうか。塩の納品が必要かもしれないし」
翌日、隣の店にポーションを納品すると驚かれた。週の使用量は今までとあまり変わらないが何箇所にも分散してようやく揃う数なのだそうだ。それを発注して翌々日に全部揃うのは驚異ですと言われた。こうしてまとめて納品されると管理も楽ですと喜んでくれたのはいいけど、他のポーション屋の売上を全部奪ってしまったのだろう。そりゃ他のポーション屋の嫌がらせを懸念するわけだ。
しかし商売は非情なのだ。ディスカウントをしている訳でもなく品質勝負。文句を言う前にこっちより優れた商品を作ればいいのだ。と、心に言い訳をする。自分のはチート能力だから心苦しい。
冒険者ギルドに到着するとロップが俺の顔を見るなり
ダンッ
「ポンタさんお久しぶりです」
笑顔のロップ。いまの足踏みした音は気のせいだろうか?
「岩塩の買い取り必要?」
「はい。いつお見えになるかわからないので100程買い取られせて貰います」
「500のと300のがあるケド…」
「じゃあ両方を」
計200も買い取りして大丈夫なのだろうか?
「ロップ、ウチをポンタに紹介してくれてありがとうな」
「毎日楽しそうにデートされているみたいでよかったわね」
ダンッ
「デートというたかて仕事の一環やねん。あちこちの接客学べって買い物や食べ歩きしてるだけで」
ダンッ
「それに毛並みとか肌とか見違えるように綺麗になって」
「ポンタがな、今までの苦労で身体が弱ってるかもしれんいうて毎朝特性のポーション飲ませてくれてんねん。そのお陰ちゃうかな?ほら、自慢の尻尾も艶々や。それにウチの為に魔導具も全部買ってくれてめちゃめちゃ便利やで」
ダンッ
「わぁ、羨ましい。まるで新婚さんみたいね」
「そんなんちゃうて、ウチは従業員やからな。でも固定給も20万Gもくれてその上にポーションに保存魔法掛けた分余分にくれんねん。今月の給料は60万Gくらいになんねんて」
ダンッダンッ
ケイト、もうやめろ。ロップは笑顔だがめちゃめちゃ不機嫌になってるぞ。
「レッキスも洋服買って貰って喜んでたわ。ケイトの服も可愛いわね。それもポンタさんに買ってもらったの?」
「これは従業員服。私服は別にぎょうさん買うてもろたで」
ダンッダンッダンッ
「ケイトが全く服を持ってなかったから買っただけで、その…レッキスのはその…買い物に付き合ってくれたお礼にねその…」
「レッキスは新しい服で人気が出ているそうよ。ギルドの受付は服が自前だから」
ダンッダンッダンッ
ダメだ。ロップの不機嫌さが頂点に達している。
「あの、今度ロップにもケイトを紹介してもらったお礼がしたいな… お礼は服でいいかな?」
ここでようやく足踏みが止まった。
「そんな、悪いですよ」
「いや、こういうのはちゃんとしとかないとね…」
ぷうぷう
ほっ、ようやく機嫌を直してくれた。俺は草食系獣人の女の子にすら脅されるんだな…
「レッキスからデートのお誘いが来てますけどどうします?」
そういや聖なる剣の案内をしてくれるんだったな。でも今忙しいしな。
「ごめん、ちょっと納品関係とかでバタバタしてるから落ち着いてからと言っておいて。ごめんね。ロップへのお礼は近々誘うから」
レッキスのお誘いを断ったのは正解ルートだったようだ。ダンッってされなかったからな。
「そうそう、ギルドが近々移転するかもしれません」
「どこに?」
「ポンタさんの店の斜め前辺りです。軍の店が冒険者達に人気が出そうだからそっちの方が良いだろうって。ここを売って移転するかもしれません」
そうなったら毎日飯を食いに来るようになるんじゃなかろうか?
まぁ別にいいけど。
ポンタはロップがウサギ族だから機嫌の悪さを察知できたが人族だったらわからなかったかもしれないと思っていた。
お嫁さんは獣人の方がいいかもしれん。人族相手なら地雷を踏んでも気付かないかもしれんな。
そんな事を思いながらスーザンの宿に向うのであった。




