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ポメラニアン転生 〜俺が望んだのはこっちではない〜  作者: しゅーまつ


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俺はえらいさんになるっ!

「閣下、俺に軍の地位を与えたのは支配下に置いて自分の言うことを聞かせるためですか?」


商売相手の腹の探り合いならやるけど、貴族相手の腹の探り合いは分が悪い。情報戦では勝ち目がないし立場もこちらが下。負け戦確定なのだ。シルベルトやプーアンの力を借りても無駄だ。ここは先制パンチで出方を見るしかない。


「お前はそう取るか?」


「今の話ではそうとしか思えませんからね。軍が諜報部隊を持っているのは当然ですから色々と調べた上で俺のウィークポイントを掴んでいるでしょ?でも俺はポーションを作るぐらいしか出来ませんよ。俺を何に利用されるつもりですか?」


「ふむ、私をそのような人間と見られていたのはいささか寂しくはあるな。が、お前の身分や立場ならそう取ってもおかしくはないか。では先に言っておこう」


寂しい?


「私はお前を支配下に置いてどうこうするつもりはない。ただ力を貸せとは言うだろう。しかしこれは命令ではない、相談か頼みであると思ってくれ」


「じゃあなんで大隊長とかにしたのさ?軍の人達からの反発も大きいでしょう?どうしてポッと出の者がいきなりそんな地位につけるのかと。指揮権のない名誉職だとしても軍で頑張って来た人達からしたら相当面白くない話だろ?」


「軍の部隊構成はいわゆる戦闘系と非戦闘系に別れる。補佐隊は非戦闘部隊で重要ではあるが実戦のない現在は規模が小さい」


「それで?」


「隊長と呼ばれる者は小隊長、隊長、大隊長の3階級で、本来補佐隊は小隊長までなのだ」


「よりおかしいじゃん」


「お前は模擬戦ではなく実践訓練を可能とした功績があるのだ。すなわち、戦闘系部隊の戦力向上に大幅に寄与した功績がな。これは軍力アップと兵士の生存率アップに繋がる大きな補佐力。今までの補佐隊は戦闘系部隊が潤滑に動けるような雑用をこなしていただけなのだ。いわば受け身的な存在。しかしお前は補佐隊の存在を能動的な物に変化させ補佐隊そのものの地位を上げたのだ。というのが建前だ」


ん?


「戦闘系部隊もお前の回復ドリンクやポーションに感謝をしている。自身が強くなる為の必須アイテムを要望通りの数を遅滞なく提供してくれるからな。しかも不味くもないから批判するものはおらんよ」


「そうなの?」


「お前が軍に回復ドリンクやポーションを供給しなくなれば元の状態に戻る。一度あの回復ドリンクの効果と味、ポーションの効能を体験した者は元の状態に戻るのは勘弁してくれと思うだろう。一度良いものを知るとそう思うのが人の性だ」


「反発がないならいいけどさ」


「私がお前を大隊長の地位に付けたのはお前を守る為だと前に話さなかったか?」


「聞いたけど大隊長なんて立場じゃなかったぞ?」


「それは予防措置だ」


「予防?」


「これからお前は嫌がらせや妨害に合う可能性が高い。他のポーションを作っている者からな。特に軍にポーションを納入していた者からは逆恨みを買うだろう。それを予防する為の地位だ」


「それなら軍所属だけでもよかったんじゃない?」


「軍所属だけというのであれば何かあったときに妨害の証拠を掴むまで時間がかかる。が、大隊長の地位は貴族と同等の身分だから嫌疑だけで処罰が可能だ」


は?


「実際の貴族ではないがな。お前に何かあった時にこちらも迅速に動ける。隣の建物にいる補佐隊の連中もその方が動きやすいのだ」


なるほどね。


「じゃあ、俺はそれに甘えても問題ないんだね?」


「構わん。階級章を付けていれば貴族街でも嫌がらせに合うとこはないだろう。お前に手を出すということは軍を敵に回すことになる。あの服と階級章は軽い気持ちで嫌がらせをして無駄な処分を食らうものを者を出さない為でもあるからちゃんと付けておけよ」


「分かった。で、そちらの話の続きは?」


「獣人が穿った見方をされなくなるためには相当時間が掛かる。長年信用を積み重ね続けていかなければならないのは理解できるな?」


「そうだね」


「が、穿った見方をされる元凶になる者がいるのも事実。それも貴族であれば尚更だ」


「もしかしてシルベルトさんの報告はその元凶みたいな貴族が絡んでいるってこと?」


「正解だ。人族の貴族であれば騎士団を担当する貴族に報告をすれば済む話だが今回は獣人貴族が絡んでいるので先に私に相談があった。シルベルト・スタローンは私がやはり獣人はと言われるのを嫌いなのを知っていたのだろう」


「獣人貴族の不始末は同じ獣人貴族が報告や処罰に関わることで自浄作用が働いていると思わせなければいけないんだね?」


「お前は理解が早くて良い、その通りだ」


「で、俺は何をすればいいのさ?」


「騒動に巻き込まれてくれないか」


デコイかよ… そんなことだと思ったよ。


「相手は誰?」


「豚獣人のマイネ・グリーディア」


「何をしている人?」


「王都の西にある街の領主だ。畜産や小麦生産が主体の街で王都の食を支えていると言ってもおかしくはない。爵位は子爵ではあるが食を握っているので重要な地ではある」


「豊かな街?」 


「グリーディア家はな。街そのものはそうでもない」


「領主が搾取してるってこと?」 


「そうだ。国は領主に自治を任せているから謀反等の動きがない限り処罰も出来ん。グリーディア家は私腹を肥やして力を付けている。他領地は貧しい所も多いから金の力で取り巻きを増やしている動きもある。そのうち国への発言権も大きくなるだろう」


「真っ当にやっているなら実力のある領主ということだけど、そうではないんだね?」


「そうだ。だが悪知恵も働くし警戒心も強い。悪事の尻尾は掴めんし、掴めても上手く切れるようにしてある。今回のポーションの保存魔法偽造はグリーディア家を潰すチャンスなのだ」


「ちなみにさ、孤児院の運営はどこがやってる?国?それとも領主?」


「それぞれの自治体つまりは領主だな。民間のもあるとは思うが」


「人身売買は違法?」


「当たり前だ。何か心当たりがあるのか?」


「まだ確証はないよ。ちょっと西の街に行く予定にしていたから見てくるよ」


「騒動に巻き込まれろとは言ったが危ない事はするなよ?」


「弱いから心得てるよ。ちなみに閣下は社交会で全部が黄身の卵を食べた事はある?」 


「ある。いま言ったグリーディア家のパーティーで出されたものだ。勿体つけて特別な玉子だと言ってはいたがあれは鶏の玉子だ。どうやってあのようにしたのかは知らんがな」


ハンプシャー婦人が言っていた強欲な豚貴族とはグリーディア家のことだろうな。紹介はしたくないといっていたから間違いないだろう。


「それってレシピ登録されてるかな?」


「それは知らんな。プーアンが調べればわかるのではないか?」


「分かった。帰りにシルベルトさんの所とプーアンさんの所に寄ってみる。あと前にお願いした軍専用ポーション瓶に紋章を入れる件はどうだった?」


「それは許可を出す。6の保存魔法を掛けたポーションを納入出来るようになったのだな?」


「俺が資格を取るまではケイトの印になるけどね」


「保存魔法自体は誰が掛けてもかまわん。瓶工房への許可証は帰りに受け取ってくれ」


ヴォルフとの話はこれで終わった。印章使用許可証を受け取りシルベルトの元へ。



「先にヴォルフ伯爵の所に行ったのか」


「呼び出されんだよ。ケイトの資格を悪用された内容を教えてもらってもいい?」


シルベルトの話によると西の街で販売されているのが突き止められた。一箇所ではなく複数の所で販売されていたが生産箇所は1つの所だそうだ。そのポーション生産工場は大きく、グリーディア家と関わりが深い事がわかったそうだ。だがグリーディアのと関わりがある証拠までは掴めていないとのこと。


「そこに生産の有資格者はどれぐらいの人数がいるかわかる?」


「調べておこう。それで何かわかるのか?」


「有資格者の人数が判ればどれぐらいの生産能力があるかわからないかな?」


「詳細はわからんがおおよその見当は付く」


「生産数もわかるかな?」


「瓶の納入数でわかるかもしれん」


ん?


「瓶って工房から直接仕入れたりとか自作したりしているところはないの?」


「ポーション瓶も規格があるから許可を受けた工房でしか作れんぞ。そこから直接仕入れていたらわからんがな」


そうだったのか。まぁ、ジョージの所は元々ポーション瓶を作っていたから問題はないか。座学を学んでないから知らないことが多いな。もしかしたら知らないうちに法をおかしてるかもしれん。


「教授、ケイトにポーション生産と販売の資格を取らせたいんだけどどうしたらいい?」


「販売はお前が資格を持っているから2人までその許可証で問題ないぞ」


また知らない事実が出て来た。そういやケイトにポーション販売させるのに何の疑問を持ってなかったわ。やばいなこれ。


「そのうち独立してもやっていけるようにしておきたいんだよ」


「ならばこのギルドの学校に通うか?週に2日午前中に座学コースがある。それに合格したら実技コースもあるぞ」


「料金はいくら?」


「座学は教材費込の半年コースで120万Gだ」


「次の入学はいつから?」 


「9月からだ。申し込むか?」


「うん」


「なら受付で申し込みをしておいてくれ」


「ウチ、そんなお金は払われへんで」


「立て替えてやる。その分は給料から天引きするからな」


「学校のお金だけで毎月20万Gやん。給料から引くいうたかてマイナスになるやん」


「大丈夫だ。固定給以外に保存魔法を掛けた分だけ別に支払う。お小遣いぐらいは残るぞ」


「毎月固定給で20万Gもくれるん?飯付きの住み込みやで」


「20万Gって相場ぐらいだろ?」


「ポンタ、住み込み飯付きとしては破格の給料だぞ。それにお前の飯はかなり贅沢だ。次に従業員を雇うときにその条件で募集かけるなよ。応募が殺到して大変な事になるぞ」


「そうなの?気を付けます…」


まぁ、他の人を雇っても住み込みにするつもりはないけれどね。


「さっきから気になっていたのだが、襟元の階級章はレプリカか?星が3つもついてるが」


「ヴォルフ閣下が俺を補佐隊大隊長にしたんだよ。俺にちょっかいを掛けたやつを嫌疑だけで処分出来るようにだってさ。身分証もくれたよ」


「はぁ〜、職権乱用もいいところだな」


「俺もそう思う」


受付でヒステリアにケイトの座学コースの申し込みをしておく。


「承りましたポンタ様」


「なんかよそよそしいね」


「そりゃ、そんな階級章を付けてたらこんな言葉使いをせざるをえないでしょっ。あんた軍人になったのっ?」


「まぁ、そう。補佐隊だけどね」


「何をしたらそんな事になるのよっ」 


「さぁ?」


「身体でも売ったんじゃないでしょうねっ」


「もしかして心配してくれてる?」


「そっ、そんなわけないでしょっ。で、でもあんまり無茶しないほうがいいわよ」


あ、デレた。 


「心配してくれてありがとうね」


「誰があんたの心配なんかしてるのよっ」


最後はツンで締めくくられた後にプーアンの所に向うのであった。






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