ケイトも
今まで心のうちに秘めていた苦しさと辛さを分かってくれたポンタの言葉にケイトの感情が爆発し、堰を切ったように涙が溢れた。それがようやく落ち着いた頃。
ぐぅ〜
「お腹すいた」
子供かお前は?
「今から作ると時間掛かるから作り置きでいいか?」
「食べられたら文句は言わへんで」
「辛いのは食えるか?」
「それはちょっと苦手かもしれへん」
なら光の精霊に辛味だけ食べてもらうか。それでもダメだったら魚を出すか。
アイテムボックスからご飯を出してバターライスにしていく。不本意なゴハンだから加工しなくてはいけないのだ。
「どっから出したん?」
「これが俺の秘密その2だ。収納魔法のような物が使える。これは結構貴重な能力でな、バレたら利用されるから人には隠しとけと言われている」
「ウチにバラしてええの?」
「お前に見せるのは2回目だ。頭を洗うときにどこからお湯が出たと思ってるんだ?」
「あっ…」
「お前を採用する条件に秘密厳守と言ったろ?」
「うん」
「こういうことだ。人前ではマジックバッグを使ってるようにしている」
「そうなんや」
「ほら晩飯だ。まずは元の味で試してくれ。これは辛いけど本当にダメなら辛くないようにしてやる。味そのものがダメなら他のを作ってやるから」
「なんか懐かしい匂いに感じるわ」
「そうなのか?これは相当珍しい料理なんだぞ」
「でもこの匂い好きやわ。いっただきまーす。ゲホッ」
んーっ んーっ と口を押えている。
「痛いっ 舌が痛いっ」
やっぱりダメだったか。
「牛乳飲め。これで収まるから」
ゴクゴクゴクゴクと牛乳を飲んだケイトは落ち着いた。
「舌になんか刺さったんか燃えたんか思うたわっ」
「うむ、正しい表現だ。辛味はそういう刺激だからな。辛味はダメそうだから辛くないようにしてやるよ」
「そんなん出来るん?」
「光の精霊よ、このカレーを食べていいぞ」
そう言うと金の光が集まってきてケイトのカレーに群がって消えていった。
「もう大丈夫だぞ」
「ほんま?なんかぼんやり光ったけどなんかしたん?」
え?
「光ったように見えたのか?」
「なんとなくな」
「メイ、ちょっと来てくれ」
「何?」
「ケイト、これが見えるか?」
「これって何よ?」
「んー?、なんか鳥?みたいなんが薄っすらと見える」
やっぱり…
「メイ、ケイトに第3の目があるか?」
「ん?んーーー? あー、なんか薄っすらとあるわね。あんたのとは違うけど」
「俺のとは違う?」
「あんたのは神眼、この娘のは魔眼ね」
「魔眼てなんだ?」
「強大な魔力の持ち主の中にたまにこういう人がいるのよ。この娘のは退化してるみたいな感じね。それがここの土地に来て刺激されたんじゃない?」
「退化?」
「そう。大昔にはこういう人がたまにいたけど久しぶりに見たわよ」
メイが大昔というぐらいだから相当昔の話だな。
「ちゃんと見えるようになるか?」
「知らないわよそんなの」
「なぁ、その鳥みたいなんと喋ってるんか?」
「これは精霊クイーンのメイ。ちゃんと見えると小さな人型に見えるはずなんだよ。この地を守ってる親玉だな」
「あんたははっきり見えてるん?」
「まぁね。お前がさっきその料理がぼんやり光ったと言ったろ?それも精霊だ」
「え?」
「もう一度食べてみろ。辛くなくなってるから」
「ほんまに?」
「ほんまに」
そういうと恐る恐るカレーを食べた。メイには金平糖を渡しておく。
「ホンマやっ。全然辛ないわ。めっちゃ旨いっ」
ガツガツガツガツ
「あんたは珍しいの拾ったわね」
拾った…
「後でちょっと試してみるよ」
「何を?」
「お前の事がちゃんと見えるようになるかどうかをだ」
飯を食い終わったらフルポーションを飲ませてみよう。効果があるかもしれん。
ケイトにお代わりを入れてやり、光の精霊にもう一度辛味を食べてもらう。
ガッツリ2ハイ食ってもまだ足りなさそうだな。カレーはもうないので唐揚げを皿にこんもり出しておいた。俺は唐揚げカレーにしよう。
「めっちゃ美味しかったわ。腹千切れる」
食い過ぎで腹が千切れるなら見てみたいわ。
他の精霊達にも甘味を食べさせる。
「これもぼんやり光ってるけど精霊っちゅうのが来てるんやな?」
「そう。これが俺の秘密その3だ。これは誰にも言っていない。ちょっと誤魔化した言い方はしているが精霊の事は絶対に秘密だ」
「分かった」
「ふぁぁぁあ〜」
お腹いっぱいになって眠くなったのか。
「風呂入って寝ろ」
「ま、また入るん?」
「今日は浸かるだけでいい。そんなに風呂が嫌か?」
「浸かるだけやったらええで。頭とか顔に水がかかんのが嫌やねん。目ぇに入ったら痛いやろ?」
「俺が洗った時は痛くなかったろ?」
「それはそうやけど」
「前に誰かに洗われた事があるのか?」
「船の上で捕まって臭い言うて水掛けられてん。それが目に入ってめっちゃ痛うて痛うてしばらく目開けられへんかってん。毛もガビガビになるし」
海水をかけられたのか。それがトラウマになってるんだな。
「お前には目に入っても痛くないシャンプーというのを買ってやるからそれを使え。というか洗う時に目を閉じろ」
「洗ろてる時に目閉じてたら怖いやん?」
安心して生活が出来ない環境にいたらそうなるかもな。
「ここは安全だから目を閉じて洗えるようになる努力をしろ。そのうち慣れる」
といいなと思う。三つ子の魂百までもというから無理かもしれんけど。
寝室はこの部屋を使えと指定。買った服は袋のまま渡して自分で棚に収納してもらおう。共同生活ではあるが洗濯は各自で、洗い物はケイトの仕事とした。俺の洗濯は精霊にやってもらうけど。
「風呂に湯を貯めたから身体は洗え。着替えを持っていくんだぞ。真っ裸で出てくんなよ」
「もう見たやん」
「そういう問題じゃない。早くいけ」
ケイトを風呂に行かせた後にベランダにワインを持って行って星を見ながら飲むことに。
これで軽く酔えたらいいんだけどな。
ポイント交換のウインドウを開いてみると少し仕様が変わっていた。
〜常時スキルを任意でオフにすることができます〜
なんですと?
試しに毒耐性弱を押すと字がグレーになった。これでオフに出来たということか。それとアイテムボックスにスキルの卵が届いていた。なんの特典かわからん。
卵を割ると演出の後に出たスキル
【遠吠え】
半径2km以内にいる仲間に存在を教える事が出来ます。
また無駄なスキルだ。存在を教えてどうなるのだ?通信出来るならともかく。
毒耐性をオフにすると酔いが回る。ワイン1杯でも結構酔うもんだな。この身体でまともにアルコール摂取するのが初めてだからかもしれん。
「熟成の精霊よ、このワインのアルコールを半分飲んで」
そういうとふわふわと光が集まり消えていく。
お、軽くなったし、味もさらにまろやかになった。これはいいな。
御機嫌でチーズのハム巻きをつまみに飲むポンタ。
「上がったで。どこにおるかわからんかったから探したやん」
「もう上がったのか?」
「うん」
「ちょっと飲むか?」
「ウチ飲んだことないで」
「軽いワインにするから大丈夫じゃないか?」
ボトルのワインを熟成の精霊に飲んでもらいケイトに注いで自分もおかわり。
「美味しいやん」
「だろ?初めて飲むならガバガバ飲むなよ」
チーズのハム巻きも美味しいのか御機嫌で食べて飲むケイト。ボトル1本空けた後に部屋に寝に行かせた。俺もさっと洗って寝よう。
風呂を出てから飲むんだったと思いながらシャワーをして部屋に戻るとケイトが猫になってベッドで寝ていた。
ここの方が安心出来るのかもしれん。
自分が子犬の時にはランガスがいて、ズーランダに来てからはジャガーがいた。その後も出会う人に恵まれているし神からもチート能力を貰っている。恐らくもう食べることにも住むことにも困るどころか裕福な生活を送れるだろう。
似たような境遇であったケイトにはそういう者たちがいなかった。同情かもしれないが俺も同じような境遇になっていたかもしれない。そう思って隣のベットで安心してすーすー寝るケイトを見た。
俺はケイトにとってのランガスやジャガーになってやろうと思う。こういう恩は巡り巡って行くべきなのだ。ケイトがそのうちランガスやジャガーみたいな立場になる日が来るかもしれんしな。
明日の朝、ケイトにフルポーションを飲ませてメイが退化していると言った魔眼の復活に賭けてみよう。ケイトにメイが見えたら食事も3人で出来るしな。
ポンタはその夜、ランガスとジャガーも加わって笑い合いながら夕食を食べる夢を見たのだった。




