ケイトの生きてきた道
「盗られただって?」
「うん」
「どうしてすぐに衛兵に届けなかったんだ?」
「言いに行ったで。でもな信用してくれへんかってん。獣人が保存魔法を使える訳がない言うて」
酷い話だけどあり得る。俺も絡まれた時に貴族の名前を出さなければ俺が悪者にされた可能性があったからな。
「ケイト、お前は保存魔法の資格をどこで知った?」
「ウチはその日暮らししてたやろ?保存魔法とか知らんかってんけど、この肉腐らんと日持ちしたらええなあぁと神様にお願いしてたら腐らへんようになってん」
「それで?」
「たまに可哀想や思てご飯をくれたりする人がおるんやけどな、それを見て保存魔法ちゃうか?って言うて教えてくれたんよ」
「その人はどこの人だ?」
「旅行者か冒険者ちゃうかな?森の中で肩掛けの荷物持ってはったから」
「資格を取った後にその人と会った事は?」
「無いで、それっきりや。で、資格を取った後に雇うてくれる所を探したんやけど資格証を見せても信じてくれへんし、汚いから出ていけとか言われてた。しばらくしたらあと付けられてんなぁと思たら襲われてな、猫になって逃げて戻ったら服しかなかってん」
職探しにいくつも回ったみたいだからどこが怪しいかは見当がつかない。浮浪者みたいな獣人から奪ったあと殺してしまえば悪用は可能だし、殺しても事件にならないと踏んだのかもしれん。
「どうして黙ってた?」
「言うても信じてくれへんやろ?ロップは資格持ってる言うたら信用してくれたけど」
受付嬢は色々な人を見てるから嘘ついているかどうかは見抜けるのかもしれないな。
「俺はちゃんと信用するから安心しろ。言いたくないことは言わなくていいけど話したいことは話せ」
「あんたはウチが猫になってもウチやとすぐに分かったし、驚きもせんかったな?なんでなん?」
「それは家に帰ったら話す。その事は外では話すな」
「う、うん」
シルベルトが新しく印と資格証を持ってきてくれた。
「これを使いたまえ」
「いつもありがとう、助かるよ。これ苦情に対しての補填用のポーション。ケイト、保存魔法10本まとめて掛けられるか?」
「どうやろな?やってみるわ」
適当な詠唱で保存魔法をかけるケイト。ちゃんと光の粒がポーション瓶に入っていった。昨日と同じ位の量だから問題ないだろう。
「まとめて出来るのはすごいな」
「普通は出来ないの?」
「1本ずつが基本だ。ポーションを作る魔力と保存魔法を掛ける魔力、両方を使うと普通資格者なら1日1〜2本位しか作れん。それに保存魔法はまとめてやると失敗しやすいのだ」
「上級資格だとどれぐらい?」
「初級ポーションを4〜5本、中級を1〜2本というところだな」
「上級とか作るのに時間掛かるの?」
「2〜3ヶ月かけて作る」
「え?」
「その間に傷まない用に保存魔法を掛けながらとかな」
そんなに掛かるのか。
「最上級は?」
「半年位掛かる。それでも成功率は低い。検証に時間が掛かるのが理解出来るだろ?」
そうだったのか。研究者だから自分で調べろとかちょっと酷だったかな。
「今回のお礼にこれをあげる」
「これは前に見た色の濃い薬草か?」
「そう、上薬草。普通の薬草が何度も生え変わって行くとこれになるんだ。上級から最上級になったのはこれを使ってたんじゃない?」
「そうだったのか… 前のヒントというのはこれか?」
「そう。初級と同じ作り方で中級になると思うよ」
「まだ在庫はあるのか?」
「あるよ。最上級への挑戦分は別にあげるから初級と同じ作り方で試してみてよ」
そういうと隣の実験室でポーションを作り出した。正当なポーション作りを見るのは初めてだ。
薬草を刻み沸騰した湯の中に入れ、詠唱を唱えていく。
「我の名はシルベルト・スタローン、我が魔力を神に捧げ治癒の力となりたまえ」
詠唱をするとシルベルトに精霊達が集まっては来るがポーションに向かっても中に入らずに霧散した。煮出しているから黄色くはなっている。
「これで完成だ。私の初級ポーションを作るスピードはかなり早いのだぞ」
他の人はもっと掛かるのか。かき混ぜていた棒はなんだろうか?
「そのかき混ぜていた棒は特別なもの?」
「そうだ。プラチナメッキを施してある。魔力の馴染みがよいので効率があがる」
「ポーションを作るのに詠唱って必要なの?」
「当たり前だろう?治癒の力を薬草の効能と結びつけてポーションになるのだから」
確かにジャガー達にやらせたら薬草汁にしかならなかったな。あんな少ない精霊でちゃんとポーションになるのか。
「通常は初級と中級って同じ薬草を使ってるよね?作り分けはどうしてるの?」
「感覚的なものだが、魔力を込める力を変えるのだよ。作り慣れるとほぼ同じ効能の物を作れるようになる。それが出来ない者は過剰に魔力を使ったりして効能が安定しない。足りなければ効能不足になるからどうしても強めに注ぎがちだ」
なるほど。
「もう一つあげるから、詠唱無しで作ってみてくれない?」
上薬草を無駄遣だといいながらやってくれた。もちろん精霊は来ない。
「あれ?出来ているじゃないか?」
2つとも中級ポーションになっていた。
「ポーション作るのに魔法は不要だね。必要なのは魔力だよ。薬草の効能を魔力が引きしてくれてるんじゃない?」
「信じられん…、しかし現実にこうやって出来ている。しかも初級の作り方で中級が… ポンタは詠唱が不要だとなぜ気付いた?」
「いや、魔力の込め方で効能が変わるならそうでしょ。薬草の効能と魔力が結付くのに魔法が必要なのかな?と思ったから詠唱無しでやってもらったんだ。ポーション作りに魔法は関与してないのが結論だね」
「新たな発見だ…」
「ちなみに教授は治癒魔法を使える?」
「あぁ、使える」
「もしかしたら治癒魔法を使える人の魔力の方が薬草の効能と相性がいいのかもしれないね。有資格者がなんの魔法を使えるか統計を取ると何かわかるかもしれない。魔法に得手不得手があるようにポーション作りにより向いている人がわかるかもよ」
「なるほど。それも研究対象として面白いかもしれんな」
「詠唱はみんな同じ?」
「そうだ。もしかしたらオリジナル詠唱をしているかもしれん。そこのケイトのようにな」
多分、ポーション作りに向いているのは治癒と水の魔法が使える人だとは思うけど、錬金師は本当に魔法を使ってるかもしれん。錬金術師なら詠唱を変えて命令を明確にすると簡単に作れるかもな。
最後に印影はプリントでも良いか確認する。資格証通りの印影なら問題ないとのこと。シルベルトが作ってくれたケイトの印影は名前をアレンジしたやつだった。
色々と便宜を図ってくれたシルベルトに上薬草をいくつか渡しておくので研究に使ってくれたまえ。
帰りにヒステリアにキッと睨まれたけどにこやかに手を振ったことがより怒りに油を注いだかもしれん。デレモードにはなってくれなかった。今日はデレツンの日だな。
家に帰ってからケイトとじっくり話をすることに。
「俺がケイトが猫になっても驚かなったのはこういうことだ」
ぼわんっ
「わ、タヌキになった」
「キャウワッ」
人間に戻るけど見ないでね。
コソコソとテーブルの下にパンツ咥えて行き人化してからはく。
「俺はポメラニアンとういう種族の犬族だ。いま見せたように犬化出来る。犬化している時は言葉はわかるけど話せない。これはお前も同じだろ?」
「うん。これ出来る人多いん?」
「少ないとは思う。俺が会った人の中で変身出来たのはお前だけだ。俺が変身出来る事を知っている人は何人かいる。ラメリアにはお前しかいないけどな」
「そうなんや」
「あと、お前の能力でなんか出来るか?収納魔法使えたりとかポーション作れたりとか魔法が見えたりとか?」
「何もないで。少し火魔法が使えるだけや」
なら俺と同じ転生者というわけではなく、神様から特典をもらったわけでもないのか。
尻尾が2本あるのも突然変異の可能性もあるけど変身出来ることに関係してそうだ。メイに聞いたら何かわかるだろうか?
「産まれた時は猫か人かどっちだった?」
「あんまり覚えてへんのやけど人型やったんかな?薄っすらとオカンに抱かれてた記憶があるねん」
「旨そうな匂いのする箱に入ったときは?」
「猫やった」
「それ子供の時だよな?自分で入ったのか?」
「どうやったやろ?無理矢理入れられたんとはちゃうと思う」
「名前は親が付けたのか?」
「ううん、船の中で見つかって、そいつらがウチのことをケイトシーやと呼んでたから名前がケイトシーなんやなと思てん」
やっぱり本名じゃないのか。
「親はなんて呼んでた?」
「それが思い出されへんねん。何を言われてかわからんかったのかもしれへん」
ケイトの話は線と点が上手く繋がらない。
「人型になったのはいつだ?」
「ラメリアに着いてからやで」
今の話を統合するとケイトは産まれた時は猫だったのかもしれない。猫族から産まれたツインテールの猫。何らかの事情があって箱にいれられたのかもしれん。まぁ、これはもう確かめようがないな。
「ケイト」
「なに?」
「今までよく頑張って生きてきたな。偉いぞ」
そう言うとケイトはフリーズしたあとに泣き出した。
「ウチの事を頑張ってきた言うてくれるん…」
「あぁ、ちゃんと真っ直ぐに生きて来たと思うぞ。今までは辛い事も多かっただろうけど、これからは気の済むまでここで安心して暮らせ」
「ここにおってええの半年ぐらいちゃうん?」
「好きなだけいたらいい。ここは精霊に守られた地だから安全だ。夜も何も心配せずに寝る事が出来る。飯もちゃんと食わしてやるからいっぱい食ってゆっくり安心して寝られる生活をしろ」
ボロボロッ
ケイトはポンタにしがみついて大泣きするのであった。




