バカ呼ばわり
「邪竜がいた証拠ですか?」
「はい、過去に2回現れた邪竜を討伐したと言われる聖剣がラメリアにあります」
「王様が保管しているのですか?」
「いえ、祠に刺さっております」
ん?
「不思議な事に力自慢や強さ自慢の者が昔からその聖剣を抜く事に挑戦しているのですが誰にも抜けないのです。ラメリアではその聖剣を持つ資格がある者しか抜けないと言われております。国からもその聖剣を抜くことが出来た者はラメリア国民であろうがなかろうが所有者として持ち去って良いことにしてあります」
なんか一気にゲームのシナリオみたいになってきたぞ。
「それを抜いたら次に邪竜が出た時に討伐の責務を負うとかですよね?」
「いえ、今ではラメリアの観光名所ですので剣を抜くのに各地から挑戦しにきています。王都の観光資源として役に立ってくれておりますな。あっはっはっは」
なんだよ。今までの話を真剣に聞いて損した。それっぽい伝説みたいな話で観光客を呼び込んでいるのか。元の世界でもそんなのあったわ。剣の先にコンクリートみたいなのを仕込んで抜けなくしてあるやつだ。
「ポンタ殿は嫁探しにラメリアに来られたのでありましたな?」
「はい」
「その剣を抜くことが出来たら何でも願い事を一つ叶えてくれるとも言われております。それが噂だとしても剣を抜くことが出来たら勇者の生まれ変わりだとモテモテになってよりどりみどりですぞ」
そう言ってウインクするハインツ。
「面白い話をありがとうございます。モテモテになるために今度挑戦してみますよ」
「はい。場所は冒険者ギルドのお二人がご存知でしょうから明日お目覚めになられたら聞いてみて下さい」
「わかりました」
ハインツは話終えたあと、とてもスッキリとした顔をしていた。年寄りが外国人である俺に面白い話をしてくれたと思っておこう。
「これはお土産にどうぞ。ドライフルーツのラム酒漬け、ピクルス、ラム酒2種です」
「サトウキビのお酒はラム酒というのですね?」
「はい。私はそう呼んでいます。薄い色の方がゴールドラム、濃い色の方がダークラムです。色のついていないものはホワイトラムで普通に売ってます。ゴールドとダークはここで販売をしますのでサンプルとしてお持ち帰りください」
「ありがとうございます」
「こちらこそ、とても良い包丁セットを頂きましてありがとうございました。お渡しをしたお土産が持てないようでしたら迎えの人のところまで持って行きますよ」
「これがあるから大丈夫ですよ」
と、小さなウエストポーチみたいなものをポンポンとする。
「それ、マジックバッグですか?」
「はい」
やっぱりハインツは相当上位貴族関係なんだな。侯爵いや王族関係に仕える人なのかもしれない。誰に対しても丁寧な対応は一流の証だ。
ハインツはまた伺いますと言って帰っていった。俺も寝よう。
「私の分も作ってよ」
メイがハインツが帰ったのを見計らって出てくる。
「何を?」
「氷でなんか作ってたでしょ」
アイスを今から作るのか。
「明日な。もう疲れたよ」
「私の分も作ってくれるって言ったじゃない」
何度明日だと言ってもしつこいメイ。そういやたぬ吉もおやつが欲しいときはずっとしつこかったな。それでも食べ過ぎは身体に悪いと思ってあげなかったからいつまでも拗ねてしまうのだ。
ポンタはメイをたぬ吉と同じだなと思いながら拗ねられるのも面倒なのでアイスを作るのであった。
「頭いたーい」
目覚めだラビッツ。
「もしかしてポンタさんの家にお泊りしちゃったのかな?」
「多分、あー気持ち悪い」
あ、二人が起きたみたいだ。
コンコン
「はい」
「起きた?気持ち悪くない?」
「気持ち悪いし頭が痛いです」
「入っても大丈夫?」
そういうとガサガサ音がするので身だしなみを整えているのだろう。
「どうぞ」
「じゃ入るよ」
と中に入るとふたりとも酷い顔をしている。
「これ、回復ドリンク。二日酔いにも効くかもしれないから飲んで」
ラムネ瓶のビー玉を落とすのを木を削ってつくったからそれで落してやる。
「これってポーションの一種ですよね?」
「そうだよ。初級ポーションの効き目をずっと落としたやつ。怪我は治らないけど体力は回復するよ」
二人共顔を見合わせて嫌な顔をしている。
「でも、この気持ち悪いのと頭が痛いのよりマシか」
と二人は覚悟を決めて飲んだ。
「んっ、美味しい…」
「俺の作るポーションは渋くないんだよ。甘みと酸味も付けてあるし、ソーダ風にしてあるから美味しいだろ?回復したら顔洗って下に降りてきなよ。朝ごはん作ってあるから」
二人共甘いのが好きそうだからフレンチトーストとふわふわスクランブルエッグとベーコンにオレンジジュースでいいか。
3人分を作っていると出来上がる頃に二人が起きてきた。
「もう平気?」
「あのドリンク凄いね。気持ち悪いのなくなったらお腹空いてきちゃった」
レッキスはそう言ってお腹をさする。
そして朝飯を喜ぶ二人。
「ポンタさん料理上手ですね」
「冒険者に育ててもらってるときの飯担当だったからね。戦いはダメだからこういうのが出来ないと俺は価値がないんだよ」
そんなことないですよと否定してくれるかと思ったらそうですよねぇとか言われた。やっぱり冒険者ギルドの受付は強さがないと価値がないと思ってんだな。おくびにも顔に出さないけどこういうときに本音が出るのだ。
「ポンタさんのポーションは初級、中級も渋くないんですか?」
「どれも渋くないよ」
「ギルドでポンタさんのポーションが指名買いされそうですよね」
「あっ、ズルい。西のギルドにも回してよねっ」
レッキスの方は西のギルドというのか。
「ポンタさんは港町ギルドの方が近いからしょうがないんです。そっちは討伐組みが多いから買い取りも高額で成績いいでしょ?」
ん?
「もしかして買い取りとか販売とか受付の成績になるの?」
「もちろん。お給料に反映されるんです。混んでいる時には空いている窓口に並びますけど、そんな時でも人気があるとわざわざ並んでくれるんですよ」
なるほど。
「だから売れ筋商品を卸して欲しいわけね?」
「はいっ」×2
「でも俺がポーションを卸せるのはずっと先だよ。ほら、保存魔法の資格がまだ取れてないから」
「あっ、そうかあ。それまではどうするんですか?」
「ポーションはそれでもいいと言ってくれたズーランダの商人と軍への納品だけだね。店頭で了解してくれた人には売るけどギルドは保存期間の規則があるだろ?」
「王都軍に卸すんですか?凄いじゃないでますか。それだけで効き目を保証されたものと同じですよっ」
「まだお試しで卸しただけだよ。継続かどうかは不明なんだ。回復ドリンクは継続してくれると思うけど」
「渋くないだけでなく、軍へ納入するポーションは売りになりますね。資格が取れるまで誰かを雇う気はあります?」
「人を雇う?」
「冒険者で保存魔法を使える人知ってるんです。それに店番にもいいかなって」
「いや、まだ正式に店もオープンしてないし、人を雇うとか面倒だし…」
「お願いしますっ。人気受付嬢は人族なんです。ウサギ族の私達を助けると思って」
と二人から頼まれる。この二人は可愛いけどやはり人族の美人受付嬢には負けるようだ。獣人の冒険者も種族が違うと恋愛対象から外れるからな。ウサギ族の冒険者がいても採取メインで強さとは遠いだろうし。
「どんな人?」
「珍しい黒髪ツインテールの可愛い子です」
「女の子なの?」
「はい。火魔法も使えるんですけど、高威力ではないとパーティーメンバーが何回か変わって浮いちゃって今はソロなんです。背丈もポンタさんと同じぐらいですし」
「どんな性格?」
「明るくて自由奔放って感じです」
ツインテールキャラとしては完璧だな。
「分かった。給料は働き具合に応じて決めるってことでいい?」
「お給料は後で決めてもらったらいいですけど、ご飯は食べさせてあげてくれるとこちらも話をしやすいです」
「ご飯?」
「お腹を空かしていることが多いんですよね。女の子のソロは稼げませんので」
「了解。いつ紹介してもらったらいいかな?」
「来週の月曜とかどうでしょう?月曜は依頼が多いので彼女もギルドに来ると思います。終わりかけに来てもらったらギルドで待っててもらいますよ。それかここに連れてきましょうか?」
「なら、連れて来てもらってロップもここでご飯食べながら話す?いきなり二人ってのもなんだから」
「えーっ、ロップだけずっるーい」
「レッキスは仕事でしょ?」
「火曜日休みだから大丈夫だもーん」
また泊まる気か?
「泊まるなら着替えを持ってこいよ」
「いいのっ?」
「俺しかいないから部屋は余ってるからね」
「やった!」
レッキスは俺の事を男してみていないようだ。なんか女同士として話をされている気がする。ロップからは商売道具扱いだな。
「あとさ、聖剣の事知ってる?」
「もちろん。抜いたら聖剣の持ち主になって勇者になるやつでしょ?それ目当てにあちこちから来るから男って馬鹿よねぇ。他国からくる冒険者も結構いるのよ。ホント馬鹿」
酷い言われようだ。
「ポンタさん興味があるんですか?」
「ちょっと邪竜伝説の事を聞いてね」
「男の人はその話好きだよねぇ。ロマンがどうとか、俺は勇者になるとか。まぁ、婚期に焦った女の人もダメ元で挑戦したりするから男の人の事を笑えないけど」
「二人も婚期を逃したら挑戦するんじゃないの?」
いらぬことを言うポンタ。
「私達がいき遅れるって言いたいのかしら?」
レッキスが足をダンダンと踏み鳴らす。ウサギ族が不機嫌になった証拠だ。
「いや、二人共可愛いしモテるとは思うんだけど、強い人がいいならウサギ族の男はダメだろ?」
「私達は可愛い?」
レッキスが微かにぶうぶうと鼻を鳴らす。ウサギ族が御機嫌になった証拠だ。
「ロップは可愛い系、レッキスは美人系かな?俺の感覚では」
「そ、そう?あ、ポンタくん私の事を触りがってたもんね。やーらしー」
確かに手触りよさそうだからな。
「もしかして強い男の人を探すのにギルドの受付嬢をやってんの?」
「そうっ。当たり!」
冒険者ギルドにウサギ族の受付嬢がいるのはテンプレではなく打算的なものであった。




