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ポメラニアン転生 〜俺が望んだのはこっちではない〜  作者: しゅーまつ


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邪竜伝説

「ポンタ、貴族様もこうやって酔っ払うと庶民と変わらないねぇ」


ゴードンとスーザンは宿屋兼食堂を経営しているだけあって、自分たちが崩れるほど飲んではいない。酔っ払い客を毎日見ているから自然とセーブするようになっているのだろう。


シルベルトはヒステリア達に飲まされて結構やばい。プーアンは未だヴォルフがいることで緊張が溶けてはいないがヴォルフに飲まされているので後から一気に酔いが回りそうだな。職人達は腕自慢で盛り上がってるし。


ロップとレッキスはもうダウンだな。


起きている人に販売予定の回復ドリンクを飲んで感想をもらおうと思ってたけど無理かな?


「ポンタっ、ウィリアムの試作機だけ試してずるいぞっ。あの苦労した瓶はどうなった?」


ジョージが絡んでくる。


「バッチリ。もう試作品を瓶詰めしてあるけど飲める?」


「おうっ、持ってきてくれ。俺たちが説明をしてやるっ」


マジックバッグに氷水ごと入れて持ってくる。


ジョージが皆に開け方とのみ方を説明してくれたけど理解してるか?


全員分には足りないので飲みたい人に渡す。ゴードンとスーザンは二人で1本だ。


「そーっと開けないと吹き出すからね」 


と言っているのにも関わらずバルクがブシャッとやりやがった。ネダリーにかかったけど笑ってるから別にいいや。


「むっ、来たときに飲んだ物と違うぞ。旨いではないか」 


「これは味付けしたやつ。これは店頭で売出すつもりだよ」


親方はビー玉が何度も蓋をしてしまい癇癪を起こして瓶を壊しそうなのでコップに移し替えた。


「ポンタ、これは本当に新商品だな」


「教授、売れそうだろ?」


「シルと呼べと言っただろうが」


ヒステリア達がいるじゃないか。


「ポンタはプーアン・ロテリーも名前呼びしているな。なぜ私だけ家名呼びなのだ?」


「普通はそうですよね?昨日初めてお会いしただけですし」


プーアンはシルベルトがプーアンと呼ぶのでそのままだ。


「ハイノーズ、いや、ノーズと呼べ」


は?


「伯爵様を愛称呼びなんてできませんよ。当主様でもありますし」


プーアンも当主なのだがまぁいい。


「呼べと言っているのだっ」


「わかりましたよ、ノーズ様」


「様もいらん」


もう酔っ払いには逆らわないでおこう。


回復ドリンクは酒からある程度復活させる効果があるようで、カオス状態からみな復帰してきた。そろそろお開きだな。馬車の音も聞こえてきたし。


「ロテリー、この土地の右隣は売りにでてるな?」


「はいっ」 


「当家が買うから手配をしておけ」


「かしこまりした」


隣がヴォルフの物件になるのか。何屋をやるつもりなんだろうか?


シルベルトはヒステリアを送って行くことに、プーアンはヴォルフから逃げるように帰っていく。ネダリーはバルクが送るようだ。職人達は親方を含めて意気投合して帰っていった。まだ飲みにいくつもりなのだろうか?


「ポンタ、ご馳走様。旨かったぞ」 


「ゴードンさんとスーザンも手伝ってくれてありがとうね。またご飯食べに行くよ」


「おう、毎日でも来い」


残るはハインツとラビッツ。


「このお嬢様方は如何なさいますか?」


「家も知らないし、起きそうにもないから泊めるしかないね。ハインツさんも泊まっていく?部屋はあるよ」


「いや、迎えの者が参りますので帰らせて頂きます。お嬢様方がお一人ならポンタ殿にあらぬ噂が立たぬようお言葉に甘えましたがお二人なら問題ありませんでしょう」


あー、そういうことを気にしないといけないのか。種族が違うから全く気にしてなかったわ。


ハインツがレッキスをお姫様抱っこで運ぶのを手伝ってくれ、こっちはロップをふぬぬぬとおんぶする。力の無い小さな身体が恨めしい。


各部屋はツインなので同じ部屋に寝かせた。起きたときに一人だと驚くだろうからな。


「ポンタ殿、まだお少しお話でもよろしいですかな?」


「いいですよ。ベランダで何か飲みながらでも話しましょうか」


お酒はもうやめておこうとなり、ハチミツ入のホットミルクにしておいた。もう初夏なのに夜になると少し肌寒いのだ。



「いやぁ、ポンタ殿の料理や知識には毎度驚かされますな」


「自分は犬獣人ですから鼻がいいのですよ。味の大半は匂いによりますからね」


「そうですね。塩味や甘味は匂いに左右されずに感じますからな」


「舌では甘味・苦味・塩味・酸味と旨味を感じるだけです。後は匂いとの組合せで変わっていきますよね」


「旨味とはなんでしょう?」


「出汁とかで感じるものですよ。コンソメスープとか作るでしょ?」 


「はい」


「あれは鼻をつまんで飲んでも塩味だけスープと比べ物にならないぐらい美味しいじゃないですか。あの美味しさが旨味なんですよ。肉、野菜、貝とかそれぞれの旨味が出てます」


「辛味はどうですか?」 


「辛味は味ではないんですよ。刺激です。痛いと感じるのと同じです」


「ほう、そうでしたか。いや、本当にポンタ殿の博識には驚かされますな」


「食べるのが好きなので文献とかを読み漁っただけですよ」


「魔法の知識もですかな?水の魔法と錬金魔法の相性が良いとは初めて知りました」


「そ、それはこの屋敷にあった文献に記載してありまして…、ここの文献は家を引き継いだ物しか見せてはいけないようでお見せ出来ませんが」


「なるほど、癒やしの魔女の文献ですか。それは貴重な物ですね」


本はたくさんあるけどまだ読んでないな。日記とかありそうで読むのが気が引けているのだ。


「ここはどのようにして解決なされたのですかな?」


「実は魔女と約束をした幽霊みたいな者がおりまして、なぜか自分だけに声が聞こえたんです。その者がここを守っていて開発を阻んでいたんですよね。住むだけだと言ったら受け入れてくれました。土地は広いですけど作ったのはあの店舗だけ。あとは畑をするぐらいですよ」


「ポンタ殿が認められたということですな?」


「声が聞こえたからだと思います。有象無象に生えていた木も必要なものだけ残しておいたら伐採していいと言われたので伐採しました。シルベルトさんからこの地区の悪い噂を払拭するのを条件にプーアンさんから土地を譲りうけたのです」


「そうでしたか。ここの噂が良い物に変われば物件を持つ者は感謝するでしょうな。ヴォルフ伯爵が先程物件を購入されていましたのはそのせいですか」


「今は不良物件ですからね。値上がりを見込んで購入されたのでしょう。プーアンさんは土地の価値が大きく変わるだろうとご存知ですがどこにも情報を漏らされていないみたいです」


「彼は流通を担当されておりますからな。立場を利用して私服を肥やさない誠実な方です」


「はい、ロテリー家は人が良い家系なのでしょうね。この土地も昔に上位貴族に押し付けられて呪いの責任を問われていて困られていましたから」


「貴族は爵位が物を言いますからな。男爵位は立場上苦しいものがあります。通常はそのしわ寄せを庶民に向けたりするものなのですがプーアン殿はそれをされない誠実さを称賛されるべきでしょうな」


「はい。私もここを譲り受けた恩がありますので何かお仕事のお手伝いになればと思っております」


「ぜひお力添えをお願い致します」


ハインツはどんな立場の人なんだろうか?ヴォルフもシルベルトも敬うような話し方をしていたからな。


「ちなみにヴォルフ伯爵とはどのような繋がりが?彼はかなり気位が高く気難しい人物なのです。付き合いは深くはありませんがあのようにくだけて楽しまれている姿は初めて拝見致しました」


「ちなみにラメリアにおける獣人貴族の立場ってどんな感じなんですか?」


「それをお答えするのにはラメリアの歴史からご説明することになります。長くなっても宜しければお話をいたしますがいかがなさいますか?」


「ハインツさんの時間に問題がなければぜひ」


「では、記録が残っているところからお話を致しましょう」


そこからハインツの歴史話を聞いていく。元々はラメリアもズーランダの国境もない頃からの話。


この大陸は連合国とラメリアを阻んでいる大森林で二分されていたようだ。各地に人族と獣人が住んでいてたがお互いに数が増えるに連れて集団を形成していき集落、村、町、と大きくなるに連れ、争いが起こり始める。縄張り争いのようなものだ。


初めは体力に優れた獣人が勢力を広め、森林より連合国側は人族を住みにくい北へ追いやる。ラメリア側は気候が温暖で生活のしやすい南側を獣人が支配したそうな。


「昔は今より寒かったのかもしれませんね」


「そのようです。しかし、人族は魔法が使えることに気付き流れが変わります。少しずつ人族の力が強くなり、科学が発展し、獣人を排除し始めました。顕著に科学が発展したのは現アリーシア帝国なのです。生活をするのに厳しい北国でなんとか生き延びる為の成果でしょうな」


「アリーシア帝国は人族至上主義だと聞いたことがあります。自分達を北へ追いやった恨みからそうさせていたんですね」


「はい。私もそう思います」


「そのままアリーシアが覇権を取れそうなのにその後どうなったんですか?」


「隆盛を極めたアリーシア帝国が大陸征服に動き出した頃に厄災が発生しました」


「厄災?」


「邪竜の出現です。アリーシアがそれを生み出して自ら壊滅してしまったのではとも言われております」


あー、よくある話だな。さらなる力を求めて自ら破滅を招いたのか。言い伝えでは邪竜となっているけど、兵器かなんかが暴走したとか、未知のウイルスを眠りから起こしてバイオハザードを起こしたとかそんなんだろうな。


「ラメリアとズーランダが国として成り立ったのがその後です。人々は人族と獣人が争った結果が邪竜を呼び起こしたのだと」


「よくその結論に至りましたね。情報が伝わらない時代に」


「実は同じことが過去2回繰り返されております」


「え?」


「1度目はアリーシア帝国で邪竜が出現、2度目は連合国で出現しています」


「邪竜って、病気や何らかの大きな爆発事故とかでは無いのですか?」


「いえ、まごう事なき邪竜の出現です。ラメリアとズーランダは2回目の邪竜出現の際に国となりました。争いを続けているとこの地も邪竜に滅ぼされるので、住処を人族と獣人で分けたのです。その際にこの地に残る獣人が一部おり、人族と争わない約束と建国に協力することになりました。それがヴォルフ伯爵のような獣人貴族です」 


「はぁー、そうだったんですね」 


「ラメリアは大きく地方都市は一つの国と言って良いほどの規模を誇ります。昔ながらの獣人への嫌悪感が強い地域も残っており、そういった領地は獣人と共に暮らす事を選んだ王族への反発が根強いのですよ」


「ヴォルフ伯爵率いる王都軍はそれを抑えるためでしたね。なぜ獣人へ反発する人達を抑えるのに獣人が担当してるのですか?より反発が大きくなりそうなんですけど?」


「人族が王都軍を率いていてると裏切られる可能があるのですよ。獣人が率いていれば獣人を受け入れた王族を裏切るメリットがありませんからな」


「はぁ、なるほどですねぇ」


「人族の軍なら反対派にわざと負けても判断できませんからな」


「そうですね。よくわかりました。ズーランダが人族を受け入れないのは内部工作とかされないようにですかね?」


「恐らく。獣人は人族より身体能力が遥かに優れますが駆け引きはあまり得意ではありません。人族はそういうものに長けておりますのでな。関わらないようにするほうが安全なのですよ」


「ラメリアもズーランダから入国制限してますよね?」


「はい、過去に揉めたら力で解決する獣人が多数おりましたのでそうなりました。王都は獣人と協力する王族のお膝元ではありますが、獣人達が人族を傷付ける様を見ていた者たちの話が残っていますから、獣人=怖い、乱暴、無神経のように思うのです。今は寝ている彼女達のような草食系獣人にはあまり悪感情はありませんけどね。しかし種族で違いを設けると種族差別だとなりますのでズーランダ国民とひと括りにしてあるのです」


俺はコディア国民扱いだからな。


「ありがとうございます。勉強になりました」


「まだ続きはありますよ。邪竜の事は気になりませんか?」


「なります」


「実はラメリアには邪竜がいた証拠があるのですよ」


「え?」


ポンタはハインツの話に目を丸くしたのであった。




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