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ポメラニアン転生 〜俺が望んだのはこっちではない〜  作者: しゅーまつ


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カオス

「ちょっ、ちょっとトイレ」


その場を逃げるポンタ。


「メイ、メイっ。ちょっと出てきてくれ」 


「何よ?私の分は?」 


「ほら、金平糖をやるから。保存魔法って肉そのものとかに掛けられないとか言われたぞ。お前出来るって言ったよな?」


「出来るわよ」


「人間で出来るやついるか?」


「そんなの知らないわよ。出来ないのなら単純に精霊が足りないんじゃないの」


そういうことか。メイの命令だと人間の一生ぐらいなんて楽勝で保存出来ると言った。一年毎の交代制で何年でもということだ。人間の使う保存魔法は密封されたポーション瓶の量で長くても半年程度。手伝ってくれる精霊の量が比べ物にならないってことか。


それを聞いたポンタは何事もなかったように戻り、飯を食い出した。


「で、保存魔法の事は?」


シルベルトしつこいぞ。


「保存魔法の効きが弱いと無理なのかもね。俺のはちょっと強力なのかもしれないね」


「そういうことか…」


これで安心。


「ロップ達はあまり飲まないんだね」 


ワインを飲んだあとは柑橘系のジュース飲んでいる。


「もう少し甘いと飲めるんですけどね。ワインは良いものだとは思いますけどもう少し軽いのが好きなんですよ」


「レッキスさんも?」 


「うん。私も」


「酒が飲めるなら、そのジュースにお酒を混ぜる?それともワインを飲みやすくしようか?」


「ワインを飲みやすくなんて出来るんですか?」


「うん。ちょっと待ってて」


家に入り、フルーツ類をカットして瓶に詰め込み砂糖をまぶす。


「お待たせ」


「オレンジとか色々入ってますね?」


「フルーツに砂糖をまぶしてあるんだよ。こうやってかき混ぜると果汁も出てくるからここにワインを入れてやると飲めると思うよ」


サングリアってこんな感じだったと思う。


樽からワインをドボドボっと。重いなこれ。


ドンッ 重さに耐えられずに勢いよくテーブルにおいてしまった。


「お酒を掬うやつ持ってくるね。このまま注げる瓶だとよかったんだけど」


お玉を取りにいくふりをしてアイテムボックスから取り出して瓶にいれておいた。好きに飲んでもらおう。


「ポンタ、そのまま注げる瓶とはどんな感じだ?」


「注ぎ口がこうなってて、持ち手がついてるやつ。お茶のポットとかあるじゃん。あれの蓋がないというか瓶だね」


イメージはピッチャーだ。


「なるほどな。人数が多いときに氷を入れておいてそこに水をいれたりするイメージだな?」


「そうそう」


「それなら簡単に出来るから作っておいてやる」


「ありがとう」


ロップとレッキスはサングリアを気に入ったようでそれを飲みだした。


「ポンちゃん、こっちにもなんか作ってよ」


「えー、飲んでんじゃん」


「作って欲しいの」


酔ってるなネダリー。


グレープフルーツみたいなジュースに砂糖とダークラムを入れて渡す。


「飲んだ感じより強い酒だからな。調子に乗って飲むと倒れるぞ」


「あっ、美味しいっ。ヒステリアもなんか頼みなよ」


「わっ、私はっ別に」


「じゃあ、フルーツを漬けた赤ワインとジュースと酒を混ぜてみる?」


適当にブレンドして氷を入れようとするともう品切れだ。


「氷取ってくる」


「じ、自分でやるわよ」


え?


ブツブツと詠唱したら光の粒が飛んできてグラスに氷が入った。


「ヒステリアは水魔法使えたんだね」


「ギルドの受付をしてるのよっ。何か魔法ぐらい使えるわよっ」


「と言ってもヒステリアはちょろっとしか使えないけどねぇ」


「ネダリーは何が使えるの?」


「私は錬金魔法。抽出するのは得意よ」


「抽出?」


「そのレモン貸して」


はいとネダリーに渡すとブツブツと詠唱をするとレモンの横に粉が出てきた。


「これがクエン酸の抽出よ」


「すっげぇ、クエン酸ってこうやって作られてんだ」


「レモンって本当は甘いのよ。クエン酸を抽出したあとのレモンは甘くて美味しいの」


レモンの皮を手で剥いて食べたネダリー。それも凄いぞ。


「錬金魔法が使えるのに受付とかもったいないな」


と、魔導具店の錬金術師ロンドが話しかけてきた。


「薬師錬金ギルドの職員は実践で魔法があまりつかえなかった者が裏方に回るの。残念ながら私達は落ちこぼれってわけ」


そうネダリーがいうとヒステリアがぶすっと膨れた。


「ヒステリアは保存魔法は使える?」


「知らないわよそんなの」


「水魔法と保存魔法って相性がいいと思うんだよね。試してみたら?」


「どうやるのよ?」


「知らない」


「キィーーーーーっ、私を馬鹿にしてるのっ」


いや、本当に詠唱なんて知らないのだよ俺は。


「ヒステリアくん、保存魔法の詠唱なら私が教えよう。明日にでもやってみるかい?」


「教授が直々に教えてくださるんですか?」


「構わないよ」


「あっ、ありがとうございます」


シルベルトはヴォルフから逃れる為にこちらに来る口実にヒステリアを使ったな?プーアンが取り残されて死にそうじゃないか。


「氷がすぐに解けて薄まるのが気に食わんな」


親方はラム酒をロックにしている。薄まるとかいうけど、それは薄めて飲むものだ。俺がアイテムボックスから出した氷はすべてキューブ状。丸い氷なら解けにくいんだけどな。


「親方、氷を削って差し上げましょう」


それを聞いていたハインツが四角い氷をペティナイフみたいな物でシャッシャッと丸くしていく。見事な腕前だ。


「これを使われたら氷が溶けて行くのが遅くなりますよ」


「おぉ、凄えななあんた」


「恐れ入ります」


ラム酒を飲んでいた男連中も皆丸い氷を作って貰っていた。ハインツの手が真っ赤になってるのでこそっと桶にぬるま湯を出して渡した。


「ありがとうございます。ポンタ殿は本当に色々とお気遣い下さる」


「ずっと氷を持ってたら凍傷になるよ」


「昔は慣れていたのですが久々にやるとダメのようですね」


「型があると簡単に出来るんだけどね」


「型?」


「ポンタ、型ってどんなのだ?」


「丸い型だよ。熱伝導率の良い金属で丸い型を作ればそこに氷を置くだけで丸くなる。半円同士の型を作って、そこに氷を置けばいいんだけどね」


手振りで様子を伝える。


「ほう、簡単に作れそうだな。今度作っておいてやる」


「ありがとう。蒸留酒を置いてる飲み屋とかに売れるかもね」


「それが売れたらマスターの腕の見せ所がなくなりますな」


「氷を削る姿はパフォーマンスでもあるから腕のいい人には関係ないよ。さっきのハインツさんの削り姿も惚れ惚れしたもん」


「そう言って下さると嬉しいですね」


「俺は職人が仕事をしてるの見るの好きなんだよ。人の手でこんなことが出来るんだってね。料理人もずっと真剣に料理をし続けるのも凄いよね」


「ポンタ殿も独創的な料理を作られるではありませんか。料理屋をされたらあっという間に人気店になりますぞ」


「俺にはハインツさんやゴードンさんみたいに毎日毎日同じように作るのは無理だね。大変すぎて商売するのは無理。考えるのは好きなんだけどね。実験とか」


「なるほど。実験ですか」


「伝統的な物もいいけど、新しい物が出来るのも楽しいよね」


「そうですなぁ。仕事でしていると新しい物を考えなくてはと追い込まれたりして苦しくもありますが」


ハインツがそういうと職人達はうんうんと頷いた。


女性陣はこのような事に興味がないらしく、甘い物が食べたいよねぇとかこれみよがしに言ってきた。


「プーアンさんの所で食べさせてもらった氷菓子の改良版を作ってみようか」


「改良版ですか?」


「うん。材料があるからここで作れるよ」


ポンタは生クリーム、牛乳、玉子、金属製のボウル2つ、氷、塩、ラムレーズンを持ってきた。


「魔導具で冷やさずに作れるのですか?」


「これで大丈夫だよ。ウィリアムさんが持ってきてくれた魔導具を試すのにちょうどいいし」


違う器で卵黄だけを溶いておく。


ボウルに氷と塩を入れてそこに違うボウルを乗せて生クリームをホイップ。


「ウィリアムさん、こればっちりだよ」


ウィーーーンと音を立ててホイップされていく生クリーム、そこ砂糖と卵黄を投入してさらにかき混ぜて牛乳を少し足す。


「ほら、だんだん固まって来たでしょ」


ここからはしゃもじの出番。固まりだしたアイスの元を混ぜていき、ラムレーズンを投入して混ぜたら終わりだ。


「はい完成。小皿に分けるから食べてみて」


「これは私の所で出した氷菓子とは別物ですな」


「空気を大量に含ませてやると柔らかくて舌触りの良くなるからね。ラムレーズンは浸かりが浅いからいまいちだね」


「これはこの酒に干し葡萄を漬けたのか?」


「そうだよ。ヴォルフさんの所で食べたバタークッキーに乗せて焼いても美味しい。他のドライフルーツでもいけるよ。オレンジの皮とか俺は好き。この酒はお菓子との相性がいいからね」


ヴォルフに対してもだんだんとフランクな口をきくポンタ。


「ポンちゃん、お代わりっ」


「ネダリー、お腹を壊しても知らんぞ」


また作るの面倒だなと思ったら、ハインツが代わりにやってくれた。氷に塩を混ぜるとより冷える事も皆は知らなかったようだ。


ハインツとゴードンはハンドミキサーに興味を持ち、いつ製品化するか聞いていた。皆さん商売に繋がるようで何よりだ。


皆が話し込んだのでラムネ瓶も試そう。


家の中で回復ドリンクに砂糖を入れてクエン酸と重曹を混ぜてびっくり返していく。完璧だなこれ。それを氷水に漬けて冷やしておこう。


皆の元に戻ると女性陣がめっちゃ酔ってる。ヒステリアはデレモードでシルベルトにネコネコしてるし、ネダリーとバルクがバンバン叩き合いながら大笑いだ。ロップとレッキスはラムレーズンを食べさせあったりしてるし何だこの状況?


「ハインツさん、俺がいない間何があったの?」


「女性達が酒に漬けた干し葡萄を美味しいとパクパク食べましてな、お止めはしたのですが…」


あれ、原酒に漬けたから酔ったんだな。


貴族が来ても楽しい宴会になればいいなとは思っていたけど、俺が望んだのはこっちではない。まるでカオスだ。


「ごめんなさいヴォルフ伯爵。みな無礼で」


「あーはっはっはっは、何を言っているのだ楽しいではないか、ポンタも飲むのだ。あーはっはっはっ」


一番気難しいと思っていたヴォルフもまた御機嫌に酔っていたのであった。






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