ツナマヨ
「あと皆に試して貰いたいものがあるんだけどいいかな?まだ味が馴染んでないから物足りないけど評価して欲しいんだ」
「評価と言うことは売り物にするやつか?」
「そう。簡単に作れるから売物でもないんだけどね。これが評判になったら蓋付きの瓶が売れるし、漁師も助かると思うんだ」
先日コソコソと作ったカツオのオイル漬け。
皿に油を軽く切って盛り付け。マヨは別皿でと。
パンがあるからツナマヨサンドにして食べ方見本にしてもらおう。
「はいどうぞ」
「これはなんの魚だ?」
「カツオだよ。このまま味見をして、次にこのマヨを付けて食べて。で、こっちがそれを使った軽食」
「旨いじゃないか」
「皆も美味しいと思う?」
「おう、パンに挟んであると片手で仕事の合間に食えていいな」
「だろ?問題はこれを作った時の保存方法なんだよね。作ってから半年とか過ぎた方が美味しいんだけど密封出来ないと腐ると思うんだよ。保存魔法を掛けたら日持ちはするけど味がなじまないと思うし」
「まさか、蓋付きの瓶はこれのためか?」
と、ジョージが聞いてくる。
「そう。ジャムとかにも使えるから使用用途が多いんだよね」
「錆びない蓋はそのためなんだな?」
「うん。瓶詰めにする前に煮沸消毒して中身を詰める。もしくは一度マジックバッグに入れてやると日光にあてなければ1年は持つと思う」
「ポンタさん、マジックバッグに入れるとなぜ腐らないのですか?」
「物が腐るのは菌という目に見えない生物のせいなんだよ。菌には色々な種類がいて、食べ物を発酵させたり、人を病気にしたり、食べ物を腐らせたりする元になるもの。加熱すると死ぬやつが多いけど、完全に殺すのはむずかしい。マジックバッグには生き物が入らないから菌は死ぬと思うんだよね」
「ほう、そういうことでしたか。いや、ポンタさんは癒やしの魔女の事といい、博識ですな」
「聞きかじりですよ。博識とかそんなのじゃないですから」
「ジョージ、ネジ式の瓶は全部手作業か?」
「そうだ。ネジ式の瓶は作れるが全く同じものを作るのがとてつもなく難しい」
「だろうな。俺が型を作ってやる。それで量産しろ。今のやり方で成功してもお前しか作れないなら量産は無理だ」
「型だと?」
「そうだ。俺は蓋を作るのに型を作る。お前と一緒に打ち合わせしながらやればすぐにぴったりのが作れるようになるはずだ。そのうちこれは大小様々な大きさが必要になるだろうからな」
「そうかもしれん」
「ジョージはガラスを口で吹いて作ってんだよな?」
「そうだぞ」
「量産するには口の代わりになる魔導具があったほうがいいんじゃねぇか?」
「作れるのか?」
「ラメリア王国の魔導具職人ウィリアムを舐めんなよ」
瓶製造の機械化か、これは一気に常識が変わっていきそうだ。よかった、みんなを呼んで。
ハインツもまたここで新たな歴史が生まれるのだろうと確信した。しかし、このポンタという獣人は何者だろうか?
ハインツの謎は益々深まるのであった。
ポンタは自分の通信機でランガスに手紙を送り、跳ね馬商会とズーランダギルドに個人で通信機を持ったことを知らせておいた。シャレでロップにお世話になっているお礼に食事でも一緒にどうですかとラブレターまがいのものも送っておく。食事と言ってもスーザンのお宿なんだけど。
そして翌週に漁師にツナマヨサンドを差し入れして、来年にはカツオがたくさん売れると思うと伝えると喜んでくれた。魚がなくなったらまた船に乗せてもらおう。
そして跳ね馬商会がやってきて品物を納品してもらう。サトウキビの酒は30リットルの大樽一つが6万G。それが3つだ。後は黒砂糖とはちみつだね。
「いつも何を仕入れて帰ってんの?」
「ラメリア産の蒸留酒、布や調味料、薬の原料とかですね」
「薬の原料はそんなに量必要?」
「まぁ、高いから少ないですけどね」
仕入れ値を聞くとかなり高い。
「手間じゃなかったら薬師錬金ギルドの窓口でもっと安く買えるよ」
「ズーランダの者でもですか?」
「多分。もしダメだと言われたら俺の紹介だと言ってみて。ネダリーかヒステリアって女の人なら俺の事を知っているから」
「ありがとうございます。あとはポーションですね」
「もしかして有効期限が短くない?」
「はい、残り2ヶ月とかです」
「それで普通の値段を払ってるの?」
「はい」
「ポーションは俺が卸してやるよ。有効期限は1年、まだ保存魔法の資格を持ってないから印は打てないけどそれでもよかったらだけどね」
「1年も持つんですか?」
「最低1年は持つ。1年以内に劣化したら無料で交換するよ」
「ポンタさんの名前が書いてあったら問題が…あるかなぁ。北地区は問題ないですけど、王都への納品分は難しいかもしれません」
それはそうだな。
「わかった。王都にはいつもの所でポーションを仕入れて。それと同じ数を試供品として提供してあげる。それを付けて売ってみて」
「いいんですか?」
「王都に流すのどれぐらい?」
「初級70本、中級10本です。北地区には初級30本、中級5本です」
「了解。帰るの明日だよね?」
「はい」
「なら今日瓶を追加で仕入れてくるよ。卸す分は初級も中級も2割引にしとくから」
「え?」
「これは卸価格。ギルドとかも同じ条件だよ」
「ありがとうごさまいますっ」
「あと、黒砂糖やはちみつも売れ行きを見て買い取り価格を上げるよ。今回はジブラルタルと同じでゴメンね」
「買取を価格を上げてくれるのですか?」
「あんまり儲けがないだろ?こっちはこっちでちゃんと儲けるから大丈夫。その代わり手紙とか配達してくれると嬉しい」
「喜んでっ」
ということで薬師錬金ギルドで瓶を仕入れる時にズーランダの跳ね馬商会が仕入れに来ても売ってあげてねと念を押しておいた。
そしてようやく学ランが出来上がる日が来た。
学生時代はブレザーだったから着てみたかったんだよね。ちゃんと出来てるかなあ?人民服みたいな仕上がりとかだったらどうしようか?
「こんちはー」
「待ってたぜ、渾身の出来だ。早く試着してくれ」
そう言われて試着室に入ると丁寧に布に包まれた服を出してきた。
「どうだっ!」
あ……、
「俺、紺色とか正装に着ていく服と頼んだよね?」
「白も立派な正装だろうが。見ろよこの魔カイコの糸を使った美しい生地を。白は200種類あると言われててな」
それ聞いた事があるぞ。
「確かに艶のあるキレイな白色だけども…」
「ほら、早く着てみてくれ。着心地も抜群だぞ」
物凄く自慢気で嬉しそうに着せてくる職人。
うん、形はイメージ通り、サイズもぴったりだ。だが俺が望んだのはこっちではない。黒が軍服と被るなら紺色と言ったのだ。しかしもう作ってしまったし、職人も自慢気だ。こっちではないと言える雰囲気でもない。
「ボタンも素晴らしいだろ?金ボタンとかいうから14金で特別に作らせたんだ。かぁーっ、袖の飾りボタンもかっこいいぜ」
金ボタンとは金色みたいな事であって金でではない。
「これ、追加代金とか不要なの?」
「おう、ちょいと足が出ちまったがよ、その代わりこのデザインを他のやつに勧めてもいいか?」
他に着ている奴がいたら俺への注目が薄まるな。
「ぜんぜんいいよ」
「じゃあ、追加分と差し引きだ。かぁーっ、よく似合ってやんぜまったく」
自分でも鏡を見てみる。白ランなんてアニメぐらいしか見たことがないぞ。ヤンキーのボスか金持ちの生徒会長とかだな。しかし俺が着て赤いランドセルを背負うと女の子にしか見えないのはなぜだろう?これはブレザーにするべきだったか?いや、それはそれで七五三みたいになったかもしれん。
着替えて帰ろうとすると宣伝の為に着て帰れと言われた。
当然街行く人々にジロジロ見られる。
これは海軍制服のレプリカ、海軍制服のレプリカで正装と自分に言い聞かせて宿に帰った。
「あらっ、いいじゃないか。まるで何処かのご貴族様みたいだよ」
「そう?これで貴族街に行っても恥ずかしくないかな?」
「うんうん、いいよいいよ」
スーザンもベタ褒めしてくれた。この世界の人の感性と自分は異なるのだろう。それに今更だ。
部屋でいつもの服に着替えてシルベルトの所へ。ヴォルフ伯爵へのアポの取り方を教えてもらわねばならないのだ。
薬師錬金ギルドへ。
残念、ヒステリアは休みだ。あのツンが無いと物足りなくなってきた俺もだんだんマニアになってきたのかもしれん。
「教授は来てる?」
「ポンちゃん今日はなんの用事?」
「貴族にアポを取りたいんだけど、どうしていいか分からないから聞きに来たんだよ」
「そうなんた。なら教授に聞かないとダメね。どうぞ」
コンコン
「入れ」
「こんちはー」
「おっ、よく来た。まずは虫歯の件で礼を言う。無事に治ったぞ。今の所はな」
「まぁ、喉元過ぎたら熱さ忘れるでまた歯磨きサボって虫歯になるだろうね」
「いや、父親からこっぴどく怒られてたから大丈夫かもしれん」
「どうして怒ったの?」
「一応金額換算にしていくらの物か伝えておいた」
「いくらで伝えたの?」
「10億Gだ」
「そりゃ怒られるね」
「生産者は自分の事を秘匿する代わりに報酬を辞退したと伝えておいた」
「うん、ありがとう」
「いや、礼を言うのはこちらだ。代わりに私が報酬を貰ってしまったのだ。金ではないのだがな」
「よかったじゃん」
「ずるいとか思わないのか?」
「いや、立場が安泰で良かったと思うよ。俺はそんなお金渡されたら怖くてやだよ。次々なんか言われるだろうし」
「かもしれんな。そっちの用件はなんだね?」
「ヴォルフ伯爵にアポを取りたいんだけどやり方教えて」
「挨拶に行く件だな?」
「そう」
「手土産は何か用意したか?」
「庶民から手土産なんて貴族は期待してないとズーランダでは言われたんだけどね」
「伯爵クラスになるとそうはいかんかもな。上級ポーションとかどうだ?」
「保存魔法の資格がないからダメじゃない?」
「そうだな。あればっかりは期間を確認してからじゃないと渡してやれんからなぁ」
「塩や胡椒とかもダメだよね?」
「それはいいかもしれんな。あの胡椒は手に入らん代物だし、岩塩もいいものだ」
「じゃあそうする」
「その赤いカバンはマジックバッグか?」
「そう。ポーション瓶とか仕入れたら荷車で運べないから」
「なかなかいいデザインだな」
「販売の責任者からダメ出し食らったやつだよ。ヒステリアやネダリーとかも褒めてくれたけど」
「だろうな。今までに見たことの無いデザインだ。流行るんじゃないか?」
「流行ってくれるなら目立たなくて済むんだけどね」
そしてシルベルトは自分からアポを取っておくと言ってくれた。見知らぬ庶民からアポを取るのは無理らしい。
用件が終わったので帰ろうとすると何か欲しい物はないかと聞かれた。
「んー、今はないかな。なんか必要になったらおねだりするよ」
何でも言いたまえと嬉しそうにするシルベルトなのであった。




