パン屋になる?
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「あれだけ忙しかったのに売上はこれだけか…」
やはりパン目当ての人が多かった。取りあえずゴードンはパンの量を増やしたのだがそれが裏目に出た。料金は普通のパンの1割増し。パンの単価が上がったとはいえ皆それをいくつも頼むので料理の数が出ない。パンをたくさん食べると酒もでない。忙しいだけの悪循環なのだ。
だから言ったのに。まぁ、パンを変えた俺にも責任があるけどね。ゴードンは俺が提案したセット販売はしたくないのだろうか?
「明日からどうするの?同じやり方をしていくつもり?そうなら人を雇った方がいいよ。二人でやるには限界じゃない?俺が居なくなったら回らなくなると思うんだけど」
「そうか、ポンタは居なくなっちまうんだな」
「ゴードンさん。昨日提案したやり方は嫌?」
「いい案だとは思うんだ。だが客に制限かけずに食って貰いたいという気持ちがな…」
「ゴードンさんが料理じゃなくてもパンを食べてもらいたいなら他のパンも教えるよ。パン作りに専念するならそれもいいけど利益率は下がる。どれだけ美味しくてもパンにそこまで高いお金を払い続けるとは思わないから初めは珍しさに売れても長く続かないとは思うけど」
「俺が料理よりパンを食ってもらいたいと?」
「柔らかパンって今の所ここにしかないだろ?王都は人が多いからこの状況はしばらく続くというか益々パンの量を増やすことになる。ゴードンさんが制限無しに食べて貰いたいと思うならここはパン屋になるんじゃないかな」
「俺がパン屋…」
「あとパンを膨らせる為の粉は普通に買うと倍の値段になるよ。本来あの粉は薬の材料として販売されててね、俺はポーションの有資格者だから市価の半値で仕入れられるけどここに渡したり売ったりすると横流しとなって資格を失うんだ」
「そうだったのか」
「うん、だから追加では渡せないし売れない。これからはゴードンさんが薬師錬金ギルドから直接仕入れる必要があるんだ」
「わかった。あの分はもらっちまったが大丈夫か?」
「実験用だから大丈夫。で、ゴードンさんはパン屋になる?それなら他のパンの作り方も教えるけど」
「いや、パン屋になるつもりはねぇ」
「俺もその方がいいと思う。ゴードンさんの料理は美味しいし、お客によって少し味付変えたりしてるってスーザンさんから聞いた。でもこの2日間はそれ出来た?スーザンさんも誰からの注文とか伝える暇無かったでしょ?」
「そうだな」
「この前バルクさんが来たじゃない。その時に今は出してない料理を覚えててくれて、旨いと言って食べていた。ゴードンさんもスーザンさんもそれを見て嬉しそうにしてたよ。一見のパンだけ寄越せという客とそういう客のどちらが大切?」
「ポンタ」
「はい」
「俺が間違ってたわ」
「うん、俺もそう思う。ここは旨い料理を出す宿屋で常連が飯を食いに来るところだからね。柔らかパンはどうするの?」
「ポンタの言った通りの方法でやろう」
「じゃ、パンにも酒にも合う料理を考えようか。ここは港に近いから海鮮系がいいかな」
「どんなのがある?」
「アヒージョなんかいいんじゃないかなぁ。ワインも出ると思うし、普通のパンも美味しく食べられるし」
「どんな料理だ?」
「手間はそんなに掛からないけど塩味の付け方とか重要だよ」
「おっ、いいじゃねぇか。早速作ってみようか」
ポンタは二人に初級ポーションを飲んで貰い、遅くまで料理の試作品を作ってみるのだった。
遅くまで試作品を作っていたゴードンは疲れをまったく見せず、朝から元気に料理を作るのだった。
それを見届けたポンタは伐採立会にやってきた。
「来たの?」
精霊クイーンのメイがひょいと現れる。
「来たよ。今日から木を切るね」
「この前言った奴以外?」
「そう。それを指示しにきたんだよ。あとさ、メイは保存魔法を命令出来る?」
「どれぐらいの期間?」
「最低3ヶ月、本当は1年くらい欲しいかな」
「そんなものでいいの?余裕よ余裕。何ならあんたが死ぬまで持たせてもいいわよ」
まだ彼女すら見付けられてないのになんて事を言いやがる。
「あれってどういう仕組み?」
「人の魔力を貰って物を保存するのよ」
「保存の得意な精霊がそれにくっついてるみたいな感じ?」
「そう。だから開封されたらお手伝いが終わりとか、くれた魔力の量とか美味しさでどれだけそこにいるか決まるのよ」
なるほど。
「メイが命令したら永遠でも可能なわけ?」
「時々精霊界に帰らないとダメだから交代制になるけど」
「他のものでも可能?肉とか」
「いいわよ。食べたら離れろとかでいいんんでしょ?」
「そうそう」
「魔力を貰っても保存精霊はそこに閉じ込められているような感じだな。ちょっと可愛そうな気がするけど」
「精霊には寿命がないのよ。そんな時間一瞬よ一瞬」
そういうものか。なら気にするは必要ないか。
「他の精霊はシロップとか食えるかな?」
「さぁ、口が無いから無理じゃない?」
さあと言うのは試した事がないってことだな。後でなんかやってみよう。
ガヤガヤと音が聞こえて来たので作業員が来たのかな?
外に出ると案の定いかついおっさん連中が溜まっていた。
「えーっと、責任者はどの人?」
「あーん、なんだ嬢ちゃん。仕事の邪魔だぞ」
「俺はポンタ。プーアンさんに木の伐採をお願いした物だよ」
「男爵様をさん付だと?」
「あぁ、様付けの方が良かったかな?まぁいいや。切っちゃダメな木には印を付けてあるから説明したいんだよ」
「親方ーっ。こいつが依頼主だとか抜かしやがるんだが」
「客に向かってこいつ呼ばわりするやつがあるかっ」
ゴチンっ
後ろから出てきた親方と呼ばれる人はガチムチヒゲ。俺よりは背が高いが周りと比べると小さい。もしかしてドワーフかな?
「初めまして親方。俺はポンタ」
「おうっ、ワシは大工の棟梁をしとるエネジアじゃ」
「もしかして親方ってドワーフ?」
「ドワーフだったらなんじゃいっ。気に入らねぇってのか?お前は獣人のくせ…」
「わぁっ、初めてドワーフに会ったよ、感激だねっ。俺は犬族の獣人でポメラニアンって種族なんだよ。ドワーフは1種族?それとも何種族かいるの?」
獣人のくせにと言いかけた親方。しかしポンタはドワーフに初めて会えたと喜んでいる。親方はバツの悪そうな顔をした。
「お前はドワーフが気に入らない訳じゃないんだな?」
「気に入らない?どうして?ドワーフって職人の塊みたいなもんなんでしょ。鍛冶屋とかじゃなく大工も得意なの?」
「え?あぁ、まぁそうだ」
「酒は?酒はめっちゃ飲む?」
「の、飲むぞ」
「だったらここが完成したら宴会しよう。酒とか買っておくし、つまみも作るよ」
「お、おう…」
ドワーフに会ってこんなに喜んだ奴は初めての経験だった親方はどうしていいかわからなくヒゲをブチブチ抜いていたのだった。
ポンタはその後に切ってはダメな木を説明する。
「この木は切らんと邪魔になるじゃろ?」
「この木はこの土地にとって重要な木みたいでね、この土地にエネルギーを与える役目をしているんだ」
「木が土地にエネルギーを与えているじゃと?」
「親方は邪魔だからと庭の木を切った後に衰退していった家とか見たことない?」
「そういやあるな…」
「その木が多分そういうやつ。だから切っちゃダメだよ」
元の世界でも道路を拡張するのに祀られていた木を切って事故が増えるとかあるからな。もしかしたら知らないだけでそういう事はどこでも同じなのかもしれない。
「伐採期間はどれくらい?」
「半年はかかるな。店作りは並行してやるから早く仕上げてやる」
「伐採って時間掛かるんだね。ズーランダのビーバ族とか結構早かったよ」
「木を切るだけならな。これだけ長年放置していた木の根は相当深くか広くに張ってる。根を掘り起こすのに時間がかかるんじゃ」
「それなら根はそのままでいいよ。切り株のままで」
「朽ちるのを待ってるなら相当時間かかるぞ」
「なんとかするから大丈夫。それより絶対に切る木を間違えないでね」
「それは任せとけ。しかしこう切り株だらけじゃと畑にも出来んぞ」
「今回ここの木を切るのはこの土地の怪しげな雰囲気をなんとかするのが一番の目的なんだよ」
「まぁ、そういうことならいいんじゃが」
「早くに終わったらその分酒が飲める機会が早くなるよ。ズーランダ産のキツイ酒を仕入れとく」
「強いのか?」
「葡萄の蒸留酒より強かったような気がする」
「おいお前ら、3交代制で24時間やってとっとと終わらせるぞっ」
素晴らしいブラック企業だ。いかつい奴らがヘイッと嫌そうな顔もせず返事してやがる。しばらくして仕事がきつそうなら炭酸抜きの回復ドリンクを差し入れしてやるか。
ここは任せてメイを連れてシルベルトのところへ行く。
「あっ、ポンちゃんこっちこっち」
ネダリーに呼ばれて窓口へ。
「はい、これ内部通行許可証。教授の所まで入れる許可証持ってるの一部の人だけなのに凄いねぇ」
内部の人間ですらあの階は勝手に行ったらダメなのか。大丈夫か俺にこんなの渡して?
ヒステリアは今日は休みのようで不在だった。ちょっとツンからデレに変わる時が見たかったのにな。
「で、販売時期は決まった?」
「それがさぁ、俺は保存魔法の資格を取ってなくてね、販売出来ないみたいなんだよ。塗るポーションはポーションとして売らなかったらいいか聞いてみないとダメなんだよね。まぁ、あれは開封してから何度も使う奴だから問題ないとは思うんだけど」
「保存魔法の資格持ってないって本当?今までどうしてたの?」
「ポーションを売ったことなかったんだよね。知り合いにはあげてたし」
「え?そんなもったいないことしてたの?」
「お金以上に世話になってたからね」
「そうなの?じゃあ私もポンちゃんの世話をしようかな」
ネダリーはいつも打算的で宜しい。裏で言われるよりあけすけと言われたほうがマシだな。
許可証を持ってシルベルトの部屋に行く。
コンコンッ
「入れ」
「こんちわー。ポンタです」
「おー、ちょうどいいところに来た」
またなんか用事を言いつけられるのか。
「先にこっちの用件を言っていい?」
「あぁ、なんだね?」
「保存魔法の受付はどこでしてくれんの?」
「なら私がやろう。初級ポーションを3本あるかい?」
「あるよ」
「ではここで保存魔法をかけたまえ」
そう言われたので事前にメイに金平糖で頼んでおいたのを合図する。期間は12ヶ月だ。詠唱するふりをるのにゴニョゴニョと言っておいた。
「終わったかい?」
「うん」
「とりあえず4ヶ月過ぎたらそこで4の資格を与えよう。その後に保存が効いていた期間の資格を与えるから」
「そこで打ち切りじゃなく?」
「そうだ。別に1、2と刻んであげてもかまわないのだが4ヶ月以上ないと商品価値が下がるだろう?一度下がった価値を取り戻すのは難しいぞ」
なるほど。封印したときに誰が封印をしたポーションかわかるみたいだからな。
「ちなみに生産者と保存者が違う場合はどうなるの?」
「生産者の名前を書いておくことになるな。大体保存者と生産者は同じだからあまり見かけないが」
なるほどね。
「わかりました。じゃあそのままお願いします。教授のお話は何でしたか?」
「シルと…、ここはギルド内だったな。実は先日の最上級ポーションを預かったままだったろ?あれを譲ってもらうことは可能か?」
「あれは研究用にあげたつもりだったんですけど?」
「最上級をくれてやる奴があるか。では買い取りということで問題ないか?」
ヒョウ族にはフルポーションを樽であげたけどね。
「いいですけど売値がわかりません」
「あれは本来値段を付けられないような代物だからな。1億…いやもっと」
待て待て待て。そんな値段で売れたら怖いわ。
「そんな値段で売ったら入手先を聞かれるんじゃないですか?普通の最上級の相場でいいですよ」
「では1000万と大幅に下るぞ」
「十分です。ちなみにポーションを必要とされてる人は大怪我をされているなら間に合わないんじゃないですか?」
「いや、怪我ではなく虫歯だ」
「虫歯?虫歯ってポーションで治るんですか?」
「いや、上級ポーションではダメだった。しばらく痛みは収まるが治りきらない。最上級でしかもポンタのポーションならばと思ったのだ」
「俺のでも無理ですよ」
「なぜ試しもせずにわかる?」
「虫歯は病気だからです」
ポンタがそう答えるとフリーズするシルベルトなのであった。




