想定外の税金
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屋敷の中でプーアンを待つ間、はぁ〜とため息を付くポンタ。
「どうした?」
「商売をどうしようかなって」
「ん?保存魔法の資格を取る間の生活費とかの心配をしているのか?」
「食べて行く分には問題なしなんだけど別件でちょっと大きな仕入れをしちゃってね、それを払うと手持ちのお金がほとんどなくなるなぁって」
「何を仕入れたんだ?」
「ズーランダ産の黒砂糖とハチミツ」
「前に言っていたやつか」
「そう。ズーランダの商会からの希望価格はかなり安いんだよ。やっぱりジブラルタル商会はかなり利益を乗せてるね」
「どれぐらい乗せてる?」
「1500%ぐらいだね。1万Gで仕入れて15万Gで売ってる感じだよ」
「そうか。まぁ、規制する法律が無いからしょうがないことではあるな」
これでラムネ瓶が高かったらどうしようか。
「お待たせいたしました。ポンタ様、こちらが身元引受人の証書になります。ラメリアに来られる方のお名前はここに、ポンタ様のお名前をこちらに書いて頂くと有効になります。取り急ぎ5枚準備いたしましたが足りますか?」
「はい大丈夫です。お手数をお掛けいたしました」
これでジャガーが来たいときに来れるように出来た。身元引受人の事は解決したと冒険者ギルドから手紙を送っておこう。原本は跳ね馬商会に持って帰ってもらうか。
プーアンの屋敷でお茶を飲みながら店の話をする。
「ご希望頂いていた大きさですと、商人ギルドでの税金が下から3番目になります。もう少し小さくすると下から2番目になりますがどうされますか?3番目のランクなら店の大きさをギリギリまで広げられますが」
そうか。そういう税金もかかるのか。
「ラメリアの税金のシステムを教えてくれる?」
「はい、取り扱う商品によって税金形体が異なります。基本的に店を構える場合は店の面積で税金が決まります。薬とポーション販売は優遇されておりますので税金はしれていますよ」
「薬とポーション以外を扱うとどうなるの?」
「これは一覧表を見ながらの説明のほうが宜しいですね」
と使用人に一覧表を取りに行かせた。
「これは王都の店舗に適用される税金です。この表の通り一般店舗扱いになりますと優遇処置がなくなり下から3番目のランクで年間300万Gになります」
ゲッ、優遇処置が無くなると税金が10倍に跳ね上がるのか。下から2番目で200万G、一番下は店舗なしで150万G。優遇処置があると1/10だ。ポーションはそこまで数が出るものではないので税金をあげると生産販売が減り困るという理由らしい。
「一般と優遇で別々に申請することは可能?店舗はポーションのみ、他の商品は店なしとか?」
「ポンタ様がお一人で申請するのは不可でございます。一年毎に切り替えをするのは可能です」
申請許可のお金が税金となり、利益が出てようが出てまいが支払う金額は固定。まぁ、売上や利益で税金計算するより単純だし先払いだから脱税も出来ない。
下から2番目のカテゴリーだとカウンター販売だけになるな。
「これはポーションを作る工房とかは面積に含まれるの?」
「はい」
「うちは家で作って店舗販売の予定なんだけど?」
「そこが今回難しいところなのです。含まれるとも含まれないともどちらでもとれます。含まれるとなれば家前体の一階部分が店舗とみなされます」
まじかよ…
「が、そこはそこ。私が含まないと許可しておきます」
「そんなことできるの?」
「流通担当貴族でございますので」
素晴らしい。
「じゃあ、もう少し広くして工房があるようにしておいた方がいいかな?」
「はい。そうして頂けると私も助かります」
ということで設計を少し変更。店番しながら暇な時になんか作ってればいいか。
「あとね、魔導具になると思うんだけど、こんなの作れるかな?」
と、自販機のような物を聞いてみる。ガシャコンと落ちてくるタイプではなしに扉を開けて商品を取り出すタイプだ。夜中にポーションが急に必要になった時にどこも店がやってないから自販機があると良いなと思っていたのだ。
「ほう、無人販売ですか。夜中に装置が荒らされそうですな」
「荒らしたらバチが当たるから大丈夫だと思うよ。うちの店舗の前だけでなく衛兵の詰め所の前に置いておくとかも検討してもいいし」
「これは面白いかもしれません。流通に新たな風が吹くやもしれませんな。懇意にしている魔導具屋を紹介しましょう」
教えてもらった商会は王都にある大手魔導具店。ここは販売だけでなしに開発と生産もしているらしい。紹介状を書いてもらった。
「あと、丈夫な紙とか貰えそうなやつある?」
「何にご使用されます?」
スーザンのお宿で試すポイントカードの事を説明する。
「ポンタ様は実にアイデアが豊富ですな。それは面白い。ぜひとも経過を教えて下さい」
プーアンとはこれからも話すだろうからいいですよと返答した。それと明日から伐採作業に入るとの事で立ち会わねばならない。
お昼をご一緒にと言われたけれど遠慮しておいた。宿に戻らねばならないのだ。
ギルドまで馬車を出してくれたので遠慮なく送って貰う。
「ポンタ」
「なに教授?」
「その呼び方なんだが君は私の教え子ではないから名前呼びにしてくれないか?」
「シルベルトさんでいい?」
「いや、シルでいい」
「シルさん?」
「いや、さん付けも不要。シルでいい」
「いや、庶民が貴族に対して愛称呼び捨てはダメでしょ。周りが変に思うんじゃない?」
本来は様付で呼ばないとダメな立場だ。プーアンなんか俺の事を様付してるのもおかしいし。
「親しいものはシルと呼ぶ。もう私と君は十分に親しいと思うのだがね?」
まぁ、確かに懇意にはしてもらってるわな。
「他の人がいない時はいいかもしんないけど、うっかりギルド内でもそう呼んじゃいそうだね」
「別に構わんよ。それとアポなしでも私の部屋に来てもらっても構わない。許可証を作って貰っているから出来たら渡すよ」
「そんなの外部のやつに渡したら不味いでしょ?」
「私の権限でどうとでもなる。心配は不要だ」
それってよく無いと思うなぁ。
宿までこのまま行くぞと言われたのは丁重にお断りした。貴族の馬車が庶民の宿に来たら迷惑なのだ。客が引いてしまう。
なんとかギルドで下ろして貰って急いで宿に。
「ただいま」
「ちょうど良かったよ。悪いけど配膳手伝ってくれないかい?」
「はいはーい」
柔らかいパン効果なのか御婦人方が多い。昼にも出してんのかな?
ちょっとこの宿で甘い物でも出したらどうかな?と思ってたけど御婦人方がたむろするからやめた方がいいな、回転率が大幅に下がる。
夕方までくっちゃべていた御婦人方。
「なんでランチに柔らかパン出したの?」
「いっそ全部のパンをこっちに切り替えようかと思ってな」
それはそれで売りになるか。単価は御婦人方の方が高いらしい。
「ランチに御婦人方を呼び込むとゴードンさんの業務量が減るからいいとは思うけど売上は落ちるよ。それに御婦人方が増えるとそのうち男性客は来なくなる。御婦人方は他に興味のある店が出来たらみんなそっちに行っちゃうからね。そうならないようにするためには常に新商品開発が必要だけど大丈夫?」
男性は気にいった店、気にいったメニューがあるとそれを延々と食べる人が一定数いる。女性でそういうタイプはマレだ。常に新しい物を選ぶ人の方が多い。
「そうなのか?」
「そうだよ。滞在時間も長いからスーザンさんの休憩時間がなくなるけど大丈夫?もうすぐ夜の開店時間だよ」
「お、本当だ。スーザン、ちゃちゃっとなんか食え」
早く店に行かないと柔らかパンが無くなると思った客がもう並びだした。これ、二人共倒れるんじゃないか?
そんな心配をしつつポンタはポイントカード用にもらった紙を名刺サイズに切ってスタンプ枠を作り、夜の部は初めから終わりまで手伝ったのであった。




