バルク
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「こんちはー」
薬師錬金ギルドに来るとヒステリアはキッとこちらを睨む。今日も厚塗りだ。
「ポンちゃん、こっちこっち」
ネダリーが呼ぶのでそちらへ行かざるをえない。ヒステリアが塗るポーションを欲しそうな気配を感じたので手持ちの奴を塗ってやろうかと思ったけど無理だな。
「塗るポーションをいつ販売するか決まった?」
「まだだよ」
「えーっ」
「一度ソバカスが消えたら次に出来るまでは時間が掛かるから大丈夫」
「本当?」
「間に合わなかったら俺が使ってる奴を塗ってあげるよ」
「ならいっか。今日は何の用?」
「仕入に来たんだよ。重曹とクエン酸を10Kgずつとポーション瓶を100本もらおうかな」
「そんなに?持てるの?」
「荷車を借りてきたからなんとかなると思う」
先にお支払いをするがさすが業務用の仕入れだ。街中で買う値段よりかなり安い。量も多いのでなおさら安いようだ。
「このポーション瓶を作ってる所は特注品とか作れるかな?」
「特注品?」
「そう。ちょっと試したいポーションがあってね、それを作るのに専用の瓶が欲しいんだよね」
「また新作を作るの?」
目をランランと輝かせるネダリー。
「まぁ、傷を治すポーションというより少し体力回復する安価なポーションって感じかな。夏バテして疲れた時に飲む千Gくらいのポーションを考えてる」
「へぇ、そんなの作れるんだ」
「初級ポーションの応用だよ。売れなくても自分で飲めばいいし」
「重曹とクエン酸が関係してるの?」
「まぁ、ちょっとはね。今回購入したのは実験に使う為」
「転売したらダメよ」
「こんなの転売しても買う人いないでしょ。薬師ならここで買えばいいわけだし」
「あ、それもそうか。薬草はどうする?新鮮な奴を選んであげるけど」
「俺は冒険者でもあるから薬草は手に入れてあるよ」
「採取もしてるんだ。ここに卸す?」
「いや、自分で使うから卸さない」
「そっかあ、安価なポーションの試作品が出来たら試供品頂戴ね」
ネダリーは瓶を作っている工房を紹介してくれたあとにポーションの試作品をおねだりしてきた。ナチュラルな貢がせ体質ってやつだな。
購入量が多いので倉庫から直接だして渡すとのことで搬出口で受け取ることに。積み込みは倉庫番の人がやってくれた。
「助かったよありがとう」
さて、頑張って持って帰るか。
ふぬぬぬぬっ
「大丈夫か?」
2輪荷車の持ち手を持っても体重が軽いので荷車の持ち手が浮いたまま下に降ろせない。渾身の力を入れたら身体が浮いてしまった。
「ごめん、せっかく積み込んでくれたのに運べないや」
安いからとつい欲張って買いすぎてしまったようだ。アイテムボックスの事をバラせるなら余裕なんだけど。
「2回に分けて運ばないと無理みたいだね。悪いけどポーション瓶をもう一度下ろしでもらってもいい?」
ポーション瓶は牛乳瓶ぐらいだから1本、150g程度として、瓶だけで15Kgと木箱の重さもあるからな。
「面倒臭ぇな」
「ごめん」
筋肉隆々のゴツい男にそう言われる。
「どこまで運ぶつもりだ?」
「港街に向かう途中にあるスーザンのお宿」
「あそこか。しょーがねぇな」
と、筋肉隆々のゴツい男はひょいと荷車の取っ手を持つ。
「え?」
「運んでやるよ。スーザンの所なら知ってるからな」
「いいよ、悪いから」
「今から休憩時間だから別にいい。ついでにそこで飯食うわ」
「いいの?」
「早くしろ。飯食う時間がなくなる」
というのでお言葉に甘えた。
ゴロゴロゴロゴロ
重たい荷車をカートのように軽々と引いていく筋肉隆々の男。
「俺はポンタ」
「おりゃバルクだ。嬢ちゃんは獣人でそんなに幼ねぇのに有資格者って随分と優秀なんだな」
「まぁ、獣人なのに力が無い分なんか出来ないとね」
「人には向き不向きがあるからな。なんか取り柄があるってのはいいこった」
「バルクはクマ獣人みたいだね」
「うるせえな。おりゃ人族だ」
「いや、力強さのことだよ。ズーランダの冒険者ギルドのギルマスがクマ獣人でね、ものすごいパワーとダッシュスピードの持ち主なんだ」
「冒険者ギルド?ズーランダのギルドに納品でもしてたのか?」
「俺は冒険者登録もしてるんだよ。と言っても採取ぐらいしか出来ないけどね。あと、おれは嬢ちゃんじゃなくて男だよ」
「お前男なのか?」
「そう。女の子だと思って優しくしてくれたみたいたいだけど騙したみたいでゴメンね」
「いや、まぁ、男でも手伝ってやったけどよ」
「そうなんだ。ありがとう」
「よっ、よせよこれぐらい」
男相手に赤くなって照れんな。
「俺もこう見えて元A級冒険者なんだぜ。まぁ、職場では言ってねぇから薬師錬金ギルドには言うなよ」
「えーっ、凄いじゃん。なんで倉庫係みたいなことやってんの?まだまだ現役でやれそうじゃん」
「まぁ、人には色々とあんだよ」
「あ、ごめん。余計な事に首を突っ込んで」
「構わん構わん。元A級冒険者だったてことを自慢気に言ったのは俺だからな」
そこから冒険者の事は触れないようにした。過去に言いたくない事があったのだろうからな。
「で、ポーション瓶は解るが重曹とクエン酸なんてどうすんだ?これは薬師しか使わんだろ?」
「薬の原料は色々と使えるんだよ。気軽に飲めるポーション系に利用するつもりだから上手くいったら試作品あげるよ」
「おっ、手伝ったかいがあるぜ」
バルクは薬師錬金ギルドの職員なのに獣人の俺に対しても人族と変わらない対応をしてくれてスーザンのお宿まで荷物を運んでくれた。
「ここでいいか?」
「ありがとう。本当に助かったよ。お礼にここのお昼ご飯を奢るよ」
「気持ちだけもらっとくぜ。金は余るほど持ってるから心配すんな」
あ、元A級なら金持ちだな。それにずっと歳下のやつに奢られるわけにはいかないだと。
「おやバルク、久しぶりだね」
「スーザンさん、俺が荷車を引けなかったからここまで持って来てくれたんだよ」
「へぇ、良いところあるじゃないか。うちのポンタが世話になったんだ。ご飯食べていきな。ご馳走してあげるよ」
「そいつぁラッキーだ。久しぶりに魚のあれを食っていくか」
「あんた昔よくあれ食べてたね。いいよ特別に作ってやるよ」
「ん?今はメニューにないのか?」
「あんまり人気がなくてやめちゃったんだよ。材料はあるから大丈夫だよ。数作った方が美味しく出来るからポンタも食べてみるかい?」
「うん、そうする」
バルクと一緒に飯を食う事に。昼時は過ぎているので店はもうピークを過ぎて落ち着いていた。
「さっきスーザンがうちのポンタって言ってたがここで働いてんのか?」
「まだこっちに来たばかりで住むところがなかったから一ヶ月ここで宿を取ってるんだよ。それでオマケしてもらった分を夜の忙しい時にちょっと手伝ってるだけ」
「へぇ、そうなのか。来てすぐにいい宿を見つけたな」
「ズーランダからこっちに来る時に護衛についてくれたクマ獣人が教えてくれたんだよ」
「護衛付きか。まぁ、お前の体格なら必要だな。何人付けたんだ?」
「6人」
「6人?えらく豪勢に護衛を雇ったな」
「商人の馬車に乗せてきてもらったんだよ」
「そういう事か。びっくりしたぜ」
なんか驚かれたから専属護衛というのは黙っておこう。
「はい、お待たせ」
「おっ、来た来た。酒もと言いたい所だが仕事が残ってるから我慢するしかねぇな」
料理は魚がスープに浸かったもの。生姜が効いてそうな匂いとこの香りは…
「スーザンさん。これ、魚醤使ってる?」
「魚醤ってなんだい?」
「塩漬けした魚から作られたソース?みたいなもの」
「そうだよ。あたしらは魚塩って呼んでるけど、魚醤っていうのかいこれ?」
「使う魚や地域によって名前が変わるから正式な名前かどうかわかんないけど」
「たしかこれは小さなイワシを使ってるはずだよ」
ナンプラーかな?
「あんた臭いのキツイもの苦手だからダメかい?」
「臭いのキツイものというより獣臭いのがダメなんだよ。これは好きだから大丈夫」
これはナンプラーを使った魚の煮付みたいだ。
「頂きます」
「はいよ」
フォークでほじってスプーンに乗せて食べるらしい。
「あっ、旨い」
メインの魚は脂の乗った白身。ハタ系だろうか。
「おっ、この旨さがわかるか?」
「ここに来て初めて食べたけど美味しいね。なんで人気がないんだろ?」
「ちょいとこのスープは癖があるからな。苦手なやつもいるんだろ」
「癖というより旨味が凝縮されてて旨いよ。生姜もよく合ってる。針生姜を乗せて食べたいかんじだね」
「針生姜ってなんだい?」
旨そうに食う二人を見ていたスーザンが聞いてくる。
「単に生姜を細く細く切った奴だよ。ハリみたいな生姜だから針生姜」
「へぇ、待ってなゴードンに作らせてみるよ」
と、針生姜を作って来てくれた。しかし繊維を切るようにしてくれてないので噛み切りにくい。
「これ切り方があるんだよ。ちょっと作ってくる」
ポンタはゴードンにこう切るといいよと、繊維の事を説明する。切って少し水に晒して水分を取って完成。
「あ、バルクはもう食べちゃった?」
「おう。針生姜ってのも気になったが待てなくてよ」
バルクの皿にはほとんど魚が残っていなくて、残りの一口に針生姜を乗せて食べた。
「んっ、こいつはいいな。これならもうちょい待てば良かったぜ」
「バルク、もう一匹作ってあげようか?」
「頼みてぇ所だがもう時間がねぇ」
「俺の食べかけでも良かったら半分食べる?俺はあんまり食べられないから食べてくれると助かるんだけど」
「そんな気を使わなくていいぞ」
「バルク、ポンタは本当に少食なんだよ。遠慮せずに貰っときな。食べかけが嫌じゃなきゃね」
「本当にいいのか?」
「食べかけが嫌じゃなきゃね」
「そんなもん気にするかよ。冒険者なら回し飲み回し食いなんて当たり前だったからな。それにお前の食べかけなら歓迎だ」
そういう気持ち悪いことは言わないでくれ。
自分の食べる分だけ別皿に取り分け、皿ごと渡した。
バルクは針生姜を気にいったようであっという間に食い尽くした。
「ごちそうさん。昔と値段変わってねぇか?」
「サービスしてやるって言ったろ?」
「他の客もいるんだ。そういう訳にはいかねぇよ」
と、バルクはお金を払ってまたなと帰っていった。
「あいつ、ポンタの分まで払っていったよ」
「え?」
「気にすることはないよ。あいつは昔からそうだ。一緒に来た奴の支払いを全部していくんだよ」
へぇ、さすが元A級冒険者だな。
ポンタはランガスも全部払ってくれていたなと少し前の事を思い出すのであった。




