煽りスキル
ブクマ、評価、いいね等を頂いている読書様ありがとうございます。お読み下さっている方の反応を頂けるのが書く励みになっております。
朝に帰る予定だったシンタン達は昼過ぎの出発になる。
「流石に気持ちが悪はいぜ。お前はそのちっこい身体のどこに酒が……、あーっ、お前まさか収納したんじゃねーだろうなぁ」
「さぁね」
野生の勘というやつだろうか。
卑怯だのズルいだの怒るシンタン。
「これ持って行きなよ」
「なんだこれは?」
「こっちが初級ポーション、こっちは中級ポーション。一週間は劣化しないと思うけど、あんまり日持ちしないから気にせず飲んで。疲れも取れるから」
「こんなにくれるのか?」
「人数分必要だろ?初級は各自7本あるから毎日飲めるよ。中級は怪我したときの為にとっておいて。使わなくても濁ってきたら劣化している証拠だからね」
「これ、昨日の酒より高くつくぞ」
「奢られっぱなしってのも何だしね。また機会があったら遊びに来てね。住むところ決まったらこちらからも知らせるし」
「おう、こっちこそ世話になったな。楽しかったぜ、また会おう」
そう言い残してシンタン達はズーランダへと戻っていったのだった。
「おや、寂しそうじゃないか」
スーザンが寂しげに見送っているポンタに声を掛ける。
「え、ああうん。物心付いてから一人になることがなかったからね」
「護衛と雇い主って感じじゃなかったしね。いい奴らだったじゃないか」
「うん。本当に。あ、スーザンさん、延泊お願い出来る?」
「大丈夫だよ。というか一ヶ月分もう払って貰ってるよ」
「え?」
「昨日の酒代と一緒にね。すぐに家は見つからないだろうからってね。うちもおまけしといてやったから心配するんじゃないよ」
「そうだったんだ」
「随分とオマケしたからちょっと仕事手伝いなよ」
「分った。昼間はやることがあるから晩飯の時の配膳とか手伝うよ」
「おっ、いいねぇ。これで看板娘が二人に増えて益々繁盛だね」
いや、看板娘なんて一人もいないぞ。
ゴチン
心の中で思っただけなのにゲンコツを喰らったのであった。
翌朝、とりあえずギルドに行ってみる事に。薬師錬金ギルドの場所とか知ってそうだし、手紙が来ているかもしれない。
「こんにちはー」
「あ、ポンタさん。手紙が届いていますよ」
たれ耳娘は名前をもう覚えていてくれた。こっちもたれ耳とは呼べないから名前を聞いておくか。
手紙はジャガー達からだった。ランガスからの返事はまだ来ていない。
「ありがとう。えーっと名前を聞いてもいいかな?」
「ナンパですか?」
「ちっ、違うよ。おねーさんって感じでもないからなんて呼んでいいかわからないから」
「ロップです。今のは冗談ですよ」
たれ耳のロップか、実に覚えやすい。
「何か依頼を受けます?」
「まだ地理もよくわからないし、一人じゃ採取も難しそうだしね」
「あら、昨日はチンピラをやっつけたと聞いてますよ」
「え?もうギルドまで話が伝わってるの?」
「騒動の中に冒険者達がいたみたいで朝からその話題でもちきりでしたよ。神に守られているそうで羨ましいです」
ちょっとやりすぎたかもしれない。
話しを戻そう。
「薬師錬金ギルドってある?」
「はい。王都の中枢近くにありますよ」
王都の地図を出して場所を説明してくれる。
「ありがとう。ちょっと行ってみるね」
「獣人はちょっと嫌な目に合うかもしれませんけどバチを当てちゃダメですよ」
昨日はバチと言っても誰も理解をしなかったからバチという言葉はなかったのかもそれない。それがもう浸透してきてるのか?情報伝達が遅れている世界なのに恐ろしい。
王都の中枢に近付くにつれて獣人を見かけなくなる。薬師錬金ギルドは貴族街の近くだ。
「へぇ、これが貴族門か」
ラメリア王都では庶民は貴族街に許可がないと入れないらしい。薬師錬金ギルドは貴族の管轄らしく、庶民でも才能があればなれるから貴族街ではなくここにあるらしい。
なんか役所っぽい建物だ。
「すいません、ポーション生産と販売の資格を取りたいんですけどどうすればいいか教えてもらえますか?」
受付の人にはぁ?という顔をされる。
「獣人ですよね?」
「はい」
「獣人にポーションが作れるとは思いませんが」
カチン
いかんいかん、ロップに嫌な思いをしますよと言われてたから覚悟をしていたのに思わず頭にきてしまった。
「もう試験が始まってるんですか?」
「意味がわかりません。ここは受付ですよそんなことがあるはずがないでしょう?」
「いや、あなたがポーションを作れるとは思わないとか言うので試験官なのかと?あなたが判断するんですよね?」
嫌味で応戦してやる。
「獣人は魔法が使えません。魔法が使えないとポーション作りが出来ないのは常識です。それともあなたは獣人の分際で魔法が使えるのですか?」
分際とか言いやがったなこいつ。
「魔法は使えませんけどポーションは作れますよ。あなたの常識は非常識ってやつですね。自分の狭い了見で物事を判断するのは愚かだと思いません?」
「キーーーーっ」
「はい、キーーではなく、あなたのターンですよ」
さらに煽ってやる。俺はこの手のやつが嫌いなのだ。
「なら、作れる証拠を見せなさいよっ」
「だからあなたは試験官なんですか?」
「ぐちゃぐちゃ言ってないで見せろっ」
二人のやり取りはもう注目を浴びまくりだ。
「これはズーランダでの許可証」
と、目の前に突きつけてやる。
「なっ…、上級資格ですって?」
「はい、証拠は見せましたよ。あなたは試験官でなく受付なら受付業務をするべきでは?」
「早くこっちにそれを貸しなさいっ。どうせ偽物でしょっ。獣人なんかに中級ポーションが作れるもんかっ」
「あなたは証拠を見せなさいと言ったからみせました。渡しなさいと言いませんでしたよね?言葉は正しく伝えないと誤解を生みますよ」
「うるさいっ」
「あーあー、そんなに怒るとシワが増えますよ。そんな時にはじゃーん、この特製塗るポーションをさっと塗ればシミ、そばかす肌荒れがあっという間に綺麗になるんですよ、あ、シワは老化現象だからポーションは効きませんでしたね。これは失敬失敬」
ポンタの煽りスキルが上がっていく。
「ろ、老化ですってぇぇぇぇっ」
受付嬢が真っ赤になってカウンターを飛び越えようとしたときにうわっはっはっはと大きな笑い声と共に白衣を来た男がやって来た。
「あ、教授…」
「受付で何を騒いでいるかと見ていたら良くない対応だったぞヒステリアくん」
「も、申し訳ございません」
「それにそんなに怒っていてはせっかくの美人が台無しだ」
「び、美人だなんてそんな…ポッ」
「君、その資格証を見せて貰えるかな?」
と、言われたので素直に渡した。
「本当に上級資格だな。ズーランダにはポーションを作れる者はほとんどいないはずなんだが…、まあいいか。テストをすれば済む話だな。さ、獣人のお嬢さん、こっちに来たまえ」
「教授、今日は試験の日ではありませんっ」
「君が他国の資格とはいえ上級資格者に失礼な対応をしたのだ。何らかの特別配慮が必要だろう?」
「も、申し訳ございません」
「じゃーねー、オバサン」
「キーーーっ 私はまだ22歳よっ」
最後にもう一度怒らせてからその場を移動した。
「クックック、見事だ」
「なにが?」
「君は見事にヒステリアの怒りのスイッチを押すね。わざとなんだろ?」
「いきなり獣人風情呼ばわりされましたからね。それに受付担当じゃなくて受付けない担当ですよあの人」
「悪かったな。薬師錬金ギルドはプライドの高い者が多くて魔法を使えない獣人を下に見る傾向が強いんだ。まぁ、獣人が受付に来てああいう対応をされたら何も言い返せずにスゴスゴ帰るか、ブチ切れるかどっちかなんだが君は違うね」
「まぁ、資格を取らないとダメですからね」
「受付で悪印象を持たれたら不利だとは思わなかったのかい?」
「あの人は試験担当じゃないですからね。まぁ、感情で合否が左右されるような組織ならろくなもんじゃないから資格取れなくてもいいかなって」
「ふむ、面白い考え方だ。資格がとれなかったらどうするつもりなんだ?」
「正直いうとポーションとして売らなければいいわけでしょ?抜け道はいくらでもありますよ」
「ふむ、危険な事を簡単に言うね。私は現場の責任者でもあるのだよ?」
「例えばの話です。薬草を煮出しただけで罪になりますか?」
「ならんよ。ポーションを買えないものはそのようにしていたりするからな」
「そういうことですよ」
そう答えると教授と呼ばれた人は頭にハテナマークが浮かんでいた。




