バチを当てる
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「さ、なんか食いに行くぞ。串肉でもいいか?」
「なんの肉?」
「鶏もあるから心配すんな」
ちょっと裏通りに入るとドヤ街みたいになっていて屋台がズラッと並んでいた。労働者の為の場所って感じだ。クマ族が一緒にいなければ絶対にこないような所だ。
ペロンっ
「いやぁぁぁぁっ」
「どうした?」
「誰かに尻を撫でられたっ」
「ケツぐらい触られたってどうって事ねぇだろうが」
「いきなり見知らぬ奴に触られたら声ぐらい出るだろうが」
「そうか?」
そうなんだよ。女だと思って触ってくるからおぞましいんだっ。
この屋台街は人族も獣人も雑多にいる。人族はあまり柄のよくない連中だ。それに人族の男へのモテ体質にされてしまったから怖くて仕方がない。
なんかあそこでたむろっている奴らはニヤニヤして見てやがるし。
防御の為に熱湯を準備しておこう。
シンタン達が串肉に気を取られた隙にその男たちが近寄ってきた。
「よう嬢ちゃん、一人でこんな所に来ちゃダメだぞ。俺達ともっと安全な所に行こうか」
やっぱり…
「シンタンっ、絡まれたっ。ヘルプミーっ!」
慌ててこっちに来てくれるクマ族。
「おいこら、俺らのツレに何してやがる」
「けっ、お前ら見掛けねぇ顔だな。ラメリアのもんじゃねぇだろ?」
「それがどうした?」
「ズーランダの者がラメリアの人族に手を出したらどうなるかわかってんだろ?」
「クソ野郎がっ」
「なぁに、ちょいとこいつを借りるだけだ。獣人の女に俺等がイタズラしてもどうってことねぇことわかってんだろ?」
「いい加減にしろよお前ら」
周りの獣人達はギリッと唇を噛んで今のやり取りを聞いている。シンタン達も手出しをすると不味いのか手を出そうとはしない。この様子を見ると人族と獣人が揉めたら全て獣人が悪者にされるのかもしれない。仕方がない、ここは自衛するしかないな。
「お前ら俺になんかしたらバチが当たるぞ」
一応警告する。
「バチだと?」
「そう。だからやめとけ。それに俺は男だ」
「はぁ?嘘つけこの野郎っ。なら確かめてやるわっ」
と、スボンに手を掛けやがったので熱湯噴射。
「ぎゃあああっ」
「あっ、兄貴っ。テメーっ何しやがった」
「何にもしてないよ。お前も俺が何にもしてないの見てただろ?バチが当たったんだよ」
「何をしやがったと言ってるんだっ」
ブシャーっ
「うぎゃぁぁぁっ」
「そろそろ神様も本気で怒ると思うよ。もっと試してみるか?」
それでも他の奴らが掛かってきたので油を掛けてやるが死んでもしらん。俺がやった証拠は何もないのだ。
初めの二人は熱湯で火傷、今の3人は油で髪や皮膚が揚げ物状態になって瀕死だ。残りの一人はビビって尻もちをついてお漏らしだ。
「貴様らっ何をやっているかっ」
誰かが衛兵を呼んだか。コイツラが死んだらヤバいな。すかさずこいつらにフルポーションを掛けて治す。
「何をやっているか貴様らっ」
「何もしてませんよ。こいつらがいきなり絡んできたんですよ」
「う、嘘つけっ。そいつは兄貴達を殺しやがったんだ。いきなり兄貴達が火傷して…」
「ん?倒れてるけど何にもなってないでしょ?薬でもやって幻覚でも見てたんじゃないですかね?」
「薬だとっ?」
衛兵が倒れた5人を見ると濡れてはいるがなんともない。周りの人達も目をコシコシしてえっ?という顔で見ていた。
「確かになんともないな」
「でしょ?こいつら人族は獣人に何をしても良いとか行っていたけど本当?」
「そんな訳はない。法は平等だ」
「でもそう言って襲われたんだけど。皆も聞いてたよね?」
とポンタが周りの獣人たちに聞くとウンウンと頷く。
「お前らはいつものゴロツキか。詰所に連行して取り調べを行う」
他の衛兵もどやどやとやってきて俺に絡んだ奴を捕縛していった。
「お嬢さんも話を伺うのでご同行願います」
「俺はお嬢さんじゃないよ。男だ」
「えっ?」
「こいつらも勘違いして俺にイタズラしようとしたんだよ」
「そっ、そうでしたか。しかし、話を伺わないといけないのでこちらへ」
シンタンもしょうがないと言うので衛兵の詰め所に向う。こら衛兵、なぜ俺と手を繋ごうとするのだ?
事の経緯を説明すると、状況を他の人から聞いてきた衛兵の報告と合致したので俺達は罪に問われなさそうだ。
「バチとはなんですか?」
「俺は神様に守られててね、悪いことをするやつには神がバチを当てるんだよって言ったら倒れたんだ。神の怒りに触れたと思って幻覚を見たんじゃないかな?なんでも言ってみるもんだね」
そして、他の衛兵から奴らが薬をやっていることを自白した報告が入る。
「捜査のご協力感謝します。あいつらはたちが悪いやつらで。ラメリアの人族がみんなああだとは思わないで下さい」
「そう?他の獣人達も人族に手を出したらどうなるかわかってるよなと言われて悔しそうにしてたけど。人族と獣人が揉めたらたいがい獣人のせいにされるのは本当なんじゃないの?」
「そ、それは…」
「ラメリアは人族と獣人が一緒に暮らしている珍しい国だと聞かされてわざわざコディアからズーランダ経由で来たのにがっかりだよ。連合国は獣人が少なかったけどこんな事はなかったぞ」
「も、申し訳ありません」
「衛兵の偉いさんは誰?」
「どうしてですか?」
「この状況をズーランダに戻って外交担当の貴族に報告する。獣人の扱いが酷いって。その時に責任者の名前がわかんないと調べなきゃなんないだろ?」
「もしかして貴方は貴族なのですか?」
「いや、庶民だよ。ただよくズーランダの貴族の人達に面倒を見て貰っている。この件はズーランダに戻らなくてもギルド経由で報告も出来るし。こんな状況だと知ったらズーランダは怒るだろうね。ラメリアへの入国も出来なくされているみたいだし」
「も、申し訳ありません。私の力ではなんとも…」
それはわかっている。
「まぁ、いいや。今回みたいに揉め事があったらちゃんと調べて正しく裁いてね。あなたの言った法は平等という言葉を信じてみるけど」
「はっ」
「次にこんな事があったら本当にバチが当たるからね。次は助からないよ」
「えっ?」
「シンタン、帰ろう。昼飯食いそびれたからお腹すいちゃった」
「ちょっ、ちょっと今のはどういう意味ですかっ」
「言葉の通りだよ。今回は幻覚で済んでよかったね」
そう言い残して詰め所を後にしたのであった。
「ポンタ、本当は何をやった?お前が神に守られているとか本当か?」
「そんな訳ないじゃん。人に聞かれたくないから宿の部屋で話そうか」
シンタン達はギルマスの子分みたいな感じだろうから話しても問題ないだろう。
宿に戻り、晩飯前に自分の部屋で話しをする。
「収納魔法が使えるだと?」
「そう。ギルマスと主任は知ってるけど人に話すなと言われているんだ。だから内緒ね、バラしたらギルマスに殺されるよ」
「獣人なのに魔法が使えるのか?」
「まぁね。今回は収納していた熱湯と熱い油を奴らに掛けた」
「でも衛兵が来た時になんともなかったじゃねーか?」
「効き目の強いポーションを掛けて治したんだ。ズーランダならこっちの正当防衛になるだろうけど、ラメリアだとこっちが悪者にされそうだったからね」
「そういう事か… 神様が怒るとか言ったのは?」
「シンタン達は帰っちゃうだろ?そしたら俺は自分の身を守らないとダメだからね。今日の騒ぎでちょっとは有名になっただろうし、俺に迂闊に手を出せないようにしておこうと思って」
「つまり?」
「はったりだよ。いきなり火傷していたのがなんともなくなってるなんて神の力らしくて信じるだろ?」
「そ、そりゃあな。俺達もうっかり信じまったぜ」
「その方がリアリティがあってよかったんだよ」
「お前、荷物が少なかったのも収納してたからなんだな?」
「そうだよ。じゃないとあんなに皆に肉を出せる訳ないじゃん」
「だよなぁ。なら、八つ目フクロウも今収納してあるのか?」
「あるよ」
「見せてくれ」
ポンタは八つ目フクロウを出して見せる。
「こいつぁ驚いた。顔は焦げてやがるが羽は綺麗なままで全部無事じゃねぇか」
「これは売らずに交渉する時の為に取っておくよ」
「交渉?」
「これって貴重でお金出してもなかなか手に入らないんだよね?」
「そうだ」
「だからなんかあったときの為に持っておくよ。生活費は塩を売ればなんとかなるだろうし」
「そうか。お前弱っちそうに見えてやりやがんな。頭も回るしよ。ギルマスが俺達をわざわざ呼んで護衛に付けた意味が分ったわ」
「ありがとう。明日帰っちゃうのが寂しいね」
「そうだな。なら今日は夜通し飲むか」
「俺は酒強いぞ」
「よおし、俺に買ったら全部奢ってやる」
「じゃ、一番高い酒ね」
クックック、俺は飲んでも酔わないし、お腹いっぱいになっても必殺飲んだふりもあるからな。相手はBランクだ、遠慮なく奢って貰おう。
そしてポンタ達は宿で一番高い酒の樽を空っぽにしたのだった。お支払いはいくらかしらないけどポンタはちゃっかりと宿泊代も全部混ぜて請求してもらっておいたのだった。




