コボルドと馬
ブクマ、評価、いいね等を頂いている読書様ありがとうございます。お読み下さっている方の反応を頂けるのが書く励みになっております。
移動を始めてから商人とその護衛達からお前らだけ旨そうな物を食いやがってという殺気にも似た視線を感じるようになり食事は自重することに。幸い自分が乗っているのは荷台なので誰からも見られないから道中でコソコソと何か食べよう。
ポンタはそれから食事時にはじゃがいものスープとパンとか皆と同じような食事にして、荷台やテントの中でコソコソと唐揚げやコロッケなんかを食べて過ごした。
「ここからはラメリア王国である。身分証明書を確認する」
関所のような所に到着して身分証明書を確認される。
「ん?Eランク冒険者だと?」
「俺はコディア王国の住人だから入国出来ると聞いてたんだけど」
「あぁ、確かにコディアで登録だな。お前は男か?」
「そうだよ」
ジロジロとめっちゃ見られる。
「確かめさせてもらおう」
「なんでだよっ」
「どう見てもお前はメスだ。この身分証明書も偽物かもしれん」
「おいおい、旦那。うちの雇い主に難癖付けようってのか?」
「うるさいっ獣人風情が。文句があるならお前らも入国不可にするぞっ」
「ぐっ…こいつ」
リーダーのシンタンがかばってくれたが関所の人間は獣人差別者なのか脅してきやがった。
「俺は不正入国を疑われてるんだね?」
「そうだ」
「あんたの所属と名前教えて」
「なぜ貴様にそのような事を言わねばならんのだ」
「あんたが本物とは限らないからね。ここにいる皆が盗賊かもしれないし、人を疑うならまず自分の身分を証明して見せろよ」
「なんだと貴様っ」
「俺は正しい事を言っているし、正式な手続きを踏んで入国をしようとしている。そちらが身分を証明せずに攻撃をしてくるなら正当防衛として反撃するけどいいか?」
「ズーランダの奴になぜラメリア王国の衛兵が言うことを聞かねばならんのだっ」
「なるほど、あんたは衛兵か。早く身分証明書を見せろよ。それに俺はズーランダから来たけどズーランダの人間じゃないぞ」
「貴様っ、生意気な口をききやがって」
剣に手をやる衛兵たち。商人はオロオロしているし、クマ族も殺気だっている。
「いいか、俺はこの通りズーランダの貴族からラメリアの貴族宛の手紙を持っている。お前ら外交問題に発展させる気か?」
「何っ?」
手紙は封書ではあるが確かにこのような上等な手紙は貴族からのもの。宛先の貴族もラメリアの伯爵家へのものだ。
「し、失礼致しました」
「あんたの名前と所属を教えて。ラメリアに着いたら今回の事を報告するから」
「も、申し訳ございませんっ」
「いいから早く。どうせ向こうに着いて調べて貰ったら解ることだ」
「ご、ご勘弁を願いますっ」
衛兵達が全員揃って頭を下げた。
「いいから名前を教えろ。素直に身分証明書を見せれば報告は勘弁してやる」
初めに突っかかって来た奴は隊長でここの責任者だった。
「あんたはここに常駐か?」
「は、はい。異動がなければ」
「なら、今回の事を黙っている条件を言っておく」
「条件?」
「2〜3年のうちにヒョウ族のジャガーという女性がラメリアに入国をする予定だ。ジャガーは俺の大切な人だからその時には丁重にここを通せ。それが条件だ」
「はっ、はい」
「ちゃんと詰所に張り紙でもして交代要員にも情報を共有しとけよ。もし、ジャガーがここで嫌な目にあったら、あらゆる力を使ってお前らの人生をぐちゃぐちゃにしてやるからな」
「かっ、かしこまりしたっ」
こうして関所を無事通過してラメリアに入ったのであった。
ーその夜の休憩ー
「ポンタ、お前すげぇな。そんな権力持ってたのかよ」
「いや、そんなのないよ」
「は?お前は外交問題になるとか言っていただろ?」
「俺一人が疑われて外交問題になるわけ無いじゃん」
「貴族の親書を持っていただろうが」
「あれは紹介状で親書なんて言ってない。どうしても困った時に頼るかもしれないからと持たせてくれたんだ」
「なんだそれ?」
「ヒョウ族のジャガーもラメリアに遊びに来たいみたいでね、でもズーランダの住人は入国するのに条件があるだろ?俺はジャガーの身元引受人になろうと思ってるんだよ。この手紙はそれが無理そうな時に頼る為のもの」
「ということは?」
「自力でなんとか出来たらこの手紙は渡さないかもしれないってことだね。親書でもなんでもないよ」
「お前、さっきのははったりか?」
「そうだよ。あいつらは疑ったふりをして俺の裸を見ようとしただけだ。男ばっかりで僻地の詰所にずっといたら悪さしたくなるんだろ」
「男の裸なんて見たがるのか?」
「俺は人族の男からモテるというか狙われたりするんだよ。男とわかってもな」
「それでオジキ… ギルマスもお前の事を…」
「違うわバカッ。人族の男と言ったろうが」
そんな話をクマ族にしていると商人がこちらにやって来た。
「先程はお見事でした」
「ごめんねお邪魔している分際で迷惑かけて」
この人達、初めの時の無愛想な態度からガラッと変わったな。
「いえいえ、あの検問所というか関所は時々トラブルが発生するのです。何か言われた時は金品を払って通してもらうのですよ」
「商人も疑われるの?」
「はい。まぁ、金品と言っても1万Gとか黒砂糖を一塊とか些細なものですけど」
「商人さんはハンプシャー家御用達だよね?なんとかしてもらえないの?」
「ハンプシャー家のものならともかく、取引して頂いているだけですから無理ですよ。それにズーランダの商人はラメリアに物を売って貰っている立場でもありますし」
「こっちも商品を売るんだろ?お互い様じゃない?積み荷は黒砂糖やハチミツだろ?」
「よくお分かりで。こちらから輸出するのはだいたい黒砂糖とハチミツが多いのです。ラメリアは砂糖とハチミツを自国でも生産していますからズーランダから輸出が止まっても問題がないのです」
「ラメリアの砂糖はどうやって作ってるか知ってる?」
「野菜から作ってますよ。ダイコンからとシロップはトウモロコシからですね」
なるほど。
「サトウキビは作ってないよね?」
「恐らく」
「どれも甘味だけど、黒砂糖が一番甘みが濃厚なんじゃない?黒砂糖は黒砂糖として需要があるとおもうんだけどね」
「そうですかね?」
「多分ね。ハチミツも産地によって風味が違うからズーランダ産のものに拘る人が居てもおかしくないよ」
「そうなんですか?」
「そう。ラメリアには卸だけ?直売はしてないの?」
「はい。ラメリアの商会に卸して、そこで仕入れをして戻るのです」
「もし俺がラメリアで店持ったら商品を卸してくれる?」
「かまいませんよ。商売をされるのですか?」
「まだわかんないんだけどね。それとズーランダでこれを仕入れて来てくれと頼んだり出来る?」
「大丈夫ですよ」
「今回みたいに馬車に乗せてくれたりもする?」
「ええ、はい」
うん、ちょっと未来がみえて来たな。
そして翌日も移動を続け、明日中に街が見えると言われた晩飯の準備をしていると。
スンスン あ、この臭いはやつらだ。
「シンタン、コボルトが来てる」
「なんだと?どこだ」
「向こうの方。あ、違うわ囲まれてる。結構数が多そうだね」
「ポンタ、馬車の屋根に乗っててくれ。おいっ、コボルトが来てる。そっちも商人を屋根に上がらせろ」
馬車の屋根には馬の餌である干し草を乗せるようになっている為、はしごが付いているのだ。
「リーダー、大丈夫そう?」
「俺達はな。もしかしたら馬がやられるかもしれん。暴れて逃げないようにしておく必要があるから複数で襲われたら守りきれんかもな」
確かにコボルトの群れは初めてみる大きさだ。4〜50匹はいそうだな。
「正面からたくさん来ても大丈夫?」
「一方向から来やがるなら何匹来ても大丈夫だ。しかし奴らは賢いから隙を見て襲って来やがるんだぞ」
「じゃあ、俺がコボルトの注意を引いておびき寄せるからお願いね」
「何するつもりだ?危ねぇから降りるなよっ」
「降りないよ。じゃおびき寄せるね」
キャウキャウキャウッ キャウキャウキャウッ
まだ離れているコボルトに向かって無駄吠えを食らわせる。それに気付いたコボルト達は一斉にこちらに来た。
「おいおいなんだよこりゃ?」
「どんどん来るから早くやっつけて」
口より先に手を動かせ。
キャウキャウキャウッ キャウキャウキャウッ
怒り狂ったコボルト達がクマ族には目を向けずにポンタの方に飛びかかろうとするところをクマ族はジャッジャッと腕を振ってやっつけていく。凄いパワーだ。ジャガー達の鋭い攻撃では無くパワーアタックてな感じだな。
しかし、コボルトって結構飛び上がれるな。もしかしたらクマ族の攻撃を掻い潜ってこっちまで飛び上ってくるかもしれない。熱々油を用意しておこう。
商人達の方の馬車にもコボルトが押し寄せて来ているのでこちらにおびき寄せる。
「あんたらもこっちに来て応戦してっ」
そう商人の護衛達に叫んでから商人達の馬車に向かってキャウキャウする。
ヒヒーンっ
ぐらんっ
その時にポンタの乗っている馬車の馬が怖がりパニックになって走り出した。
げっ
ガガコンっ ガゴっガゴっガゴっガゴゴゴゴ
「うわわわわっ」
パニックになった馬が暴れながら走り出す。道中はゆっくり走ってたのが嘘のようなスピードだ。
それをコボルト達が追う。ポンタは落ちないように馬車の幌にしがみつきながら、コボルト達が向こうの馬車に行かないように無駄吠えをした。
護衛達も馬車を追いながらコボルトを殲滅していった。
ほぼコボルトを殲滅したあとにシンタンがダッシュして御者台に飛び乗り、馬をなんとかコントロールして止めてくれた。残りのコボルトは皆がなんとかしてくれるだろう。
「大丈夫だったか?」
「なんとかね。そっちは?」
「心配すんな。もう終わりだ」
数匹は逃げて行ったけど終わったようだな。
ホッとしたのもつかの間、シンタンがチッと舌打ちをした。
「どうしたの?」
「馬が負傷した」
えっ?
馬を見ると右後ろ足を上げている。
「大丈夫そう?」
「いや、無茶な暴れ方をしたから折れたんだろ。もうこいつはダメだ」
この馬はサラブレッドみたいな馬ではなく大型で丈夫そうな馬だ。しかし、馬は足が折れたら自分の体重を残りの3本の足では身体を支え切れずに弱って死ぬ。
商人達の馬車もこちらにやってきた。
「大丈夫でしたか?」
「馬が足をやっちまった」
「これは…、もうこいつはダメですね。苦しまない内に殺してやりましょう」
商人が護衛に指示をして剣で馬を斬ろうとする。
「ちょっとまって。ポーションを持ってるから使ってみる」
「お前、馬にポーションを使う気か?」
「そうだよ。殺すのは可愛そうだし、馬が居なくなったらこの馬車はどうすんのさ?リーダー達が引っ張っていくのか?」
それも可能だと言われてしまったがまずはポーションを試させてもらおう。
「ポンタ、傷ならポーションを掛けてやりゃなんとかなるがこいつは骨折だ。飲まさなきゃならんのだぞ」
「飲ませればいいじゃん」
「馬がポーションを飲むもんか。薬草が渋いと知っている馬はポーションも口にはせん」
そうか。薬草を齧ったら顔のパーツが真ん中に寄るほど渋いからな。馬がそれを知っているなら同じ臭いのするポーションは飲まないのは道理だ。俺のポーションは渋くはないけど臭いは同じだからな。
ポンタは馬も甘いものが好きだと思い出した。
黒砂糖をお湯で溶かして黒蜜にして中級ポーションと混ぜていく。うん、ポーションの臭いより黒蜜の匂いの方が勝ってるな。
それを持って馬に近付くと痛さで興奮した馬はポンタを威嚇する。
「ヒッ」
歯の歯茎を剥き出しにして威嚇する馬にビビるポンタ。
「大丈夫っ、大丈夫だからっ。痛いことはしないからっ」
馬にそう叫んで、手に黒蜜ポーションを少し付けて近付く。
フンフンフンっ
「ほら、甘いぞ。舐めろ」
ずんっと顔を近付けてくる馬。めっちゃ怖い。頭を噛まれたら即死出来る自信がある。
ベロリンっ
馬はポンタを噛まずに舐めた。そのことによりポンタの手は甘いと認識する。
ガブッ
「痛たたたたっ、噛むなっ。お代わりをあげるから」
なんとか馬の口から手を引っこぬいたポンタはポーションを手のひらに少しずつ出して舐めさせる。
そしてポーションを全部を飲んだ後に馬は後ろ足を地面に降ろしたのだった。




