いざラメリアへ
ガゴゴゴガゴゴゴガコンガコン
整備されていない街道を走る馬車が尻を突き上げる。ラメリアへの道のりは順調に行けば一週間程度で到着するらしい。俺が乗っているのは荷物と同じ場所で客車では無いからそこそこ辛い旅になりそうだ。
荷台でひとしきりジャガー達との別れに泣いた後に一度目の休憩になった。
「よう」
クマ獣人の護衛に声を掛けられる。
「どうも」
「お前がポンタってやつだな?ギルマスとはどんな関係だ?」
「ん?冒険者とギルマスの関係だよ」
「は?お前が冒険者だと?ランクは?」
「E」
「なんだそいつぁ?」
「なんだと聞かれてもねぇ。なんか変なことでもある?」
「いや、俺たちゃラメリアへの護衛をすることは少ねぇんだ。それがわざわざ呼び出されてよ、ポンタは必ず守れとか直接オジキ…、ギルマスに言われたんでよ」
今オジキとか言ったよな?
「ギルマスと親戚?」
「いや、血の繋がりはねぇよ。ただ逆らえねぇだけだ」
「ギルマスもクマ族だけど種族は違うみたいだね」
「クマ族はクマ族だろ?」
「まあ、そうだね」
「俺はリーダーのシンタンだ。まさかお前ギルマスといい関係とかじゃねぇよな?」
「俺は男だよ」
「そうは聞いちゃいたが見た目がなぁ。お前はクマ族にモテそうだしよ」
怖いことを言わないでくれ。クマ族に襲われたら抵抗なんて出来る訳ないだろ。しかしギルマスはわざわざ信頼している冒険者の護衛を付けてくれたのか。
「クマ族以外の護衛は知り合い?」
「あっちは商人が雇った護衛だ。俺達はお前の護衛だ」
「え?」
「お前が依頼したんじゃねぇのか?」
「いや、俺は商人の馬車なら安心してラメリアに行けるからって同行させてもらったんだよ。護衛も商人が雇った人達がいるからって」
「ははーん、ならギルマスが個人的に俺達に依頼をかけたってことか。お前はそんなに重要人物なのか?ヒョウ族も貴族も見送りにきてやがったしな」
「重要人物というか皆にめちゃくちゃお世話になっただけだよ」
皆本当にお世話になったな。しかもこんなことまでしてくれて。ラメリアに着いたら頑張って何かお返ししないとな。
ーポンタ達が出発したあとー
「ネロ、いい加減泣き止め」
「ジャガーこそ泣いてんじゃねーかよっ」
「うるさいっ」
馬車が見えなくなるまで見送ったジャガーとネロはそのまましばらくそこで涙が止まるまで立ち続けた。
集落への帰り道。
「ジャガー…」
「なんだ?」
「本当は一緒に行きたかったんだろ?」
「そうだな。しかし私はラメリアには入れんし、ポンタとはつがいにはなれんから仕方がない」
「多分ポンタはすぐに身元引受人の資格を取ると思うぞ」
「そうだといいな」
「連絡が来たらすぐに行っていいぞ」
「子供達が成人するまでは無理だ」
「俺がちゃんと面倒を見るよ。ジャガーが俺にしてくれたように。だから心配せずにそうしろよ」
「他の種族が増えて今は混乱期だろうが。そんな勝手な事は出来ん」
「いいから俺に任せろよ。ポンタは俺らが苦手な事も大丈夫なようにと主任を付けてくれたんだ。何も心配することはねぇ」
「しかし…」
「別に子供が出来なくてもいいじゃねぇか。連絡が来たら追いかけろ。ヒョウ族の事は俺が頑張るからさ」
「ネロ、お前…」
「へへっ、ポンタの野郎がよ、集落で浮いていた俺のことをヒョウ族の光と言ってくれたんだ。めちゃくちゃ嬉しかったよ。だからその光が曇らないように頑張るわ」
「そうか。お前は本当に大きくなったな。長がお前を連れて来たときは怯えてこんなに小さかったのに」
「むっ、昔の事を言うなよっ」
「いや、お前はこんな感じでな」
身体だけ大人になったようなネロだったがポンタと一緒にいるようになって中身も大人になったなとジャガーは嬉しく思う反面、少し寂しくもありからかい続けるのであった。
ー商人たちの晩御飯ー
野営地でテントを張り晩飯になった。
どうしようかなぁ。アイテムボックスには出来上がった飯が入っている。が、一人で食うわけにはいかない。皆が作っているのは干し肉とじゃがいものスープとパン。干し肉は食べるまでもなく獣臭い。スープに入れてしまってあるのでスープそのものが食べられなさそうだ。
商人たちは護衛と別の食事をしているようだ。護衛を雇った時の飯のシステムがわからないな。昼は食べてないし。
「ポンタ、飯はどうするつもりなんだ?持って来てねーのか?」
「あるにはあるよ。俺さ、こうして馬車移動をするのは初めてなんだよ。コディアからズーランダに来るまでは俺を育ててくれた冒険者と移動をしてたし、ズーランダに入ってからはヒョウ族達と行動していたから。護衛と移動している時って飯とかは別に食うのが普通なの?」
「依頼内容によるな。今回は飯付きの依頼じゃないから別だぞ。その分報酬を多く貰っている。飯付きなら報酬は下がるってのが普通だ」
なるほど
「じゃあ俺は俺の飯を自分で用意して食えばいいってことだね?」
「そうだ。これを食いたいなら分けてやってもいいがな」
「ごめん、俺はその干し肉の臭いがダメだから遠慮しとく」
「これはイノシシの干し肉だ、ネズミとかじゃねーぞ」
ネズミとかも食うのか。
「ごめん、俺は獣肉は鶏肉ぐらいしか無理なんだよ。魔物肉は好きなんだけど」
「冒険者の癖に魔物肉を売らずに食うのか?」
「ズーランダではヒョウ族が狩って来てくれたから」
「あー、ヒョウ族は自給自足してるからな。そりゃ随分と贅沢な口になっちまったな」
「だね」
怪しまれ無いようにケンターキーの干し肉を食べることに。あんなにカチカチの干し肉ではなくソフトジャーキーみたいな奴だ。燻製にしてあるから酒が欲しくなる味だな。
「そりゃ燻製か?」
「そうだよ。旅に出るから作っておいたんだ」
「なんの肉だ?」
「ケンターキーだよ」
と言うとブッと飲んでいたスープを吹き出した。
「お前、そんな高級な奴を燻製にしてやがんのか?」
「ケンターキーって旨いよね。ヒョウ族も近くに来るのは限られた季節だけだと言ってたし」
「近くに来んのか?」
「うん。かなりデカいよね」
「アイツは誰も来ないような山頂とかが生息域でな、滅多に捕れねぇし味も旨いから超高級品なんだぞ」
「そうなの?皆で焼き鳥にして食ったよ。クビ肉と皮も旨かったわ」
「かーっ、俺達は食ったことねぇぞ。Bランクなのによ」
CじゃなくBか、高ランクだな。
「ちょっとあげようか」
「いいのか?」
「まぁ、お近付きの印ってやつで」
皆よく食いそうなので大きめのを人数分渡した。
「こりゃうめぇっ。燻製の香りとなんだこの風味は?」
「多分胡椒の風味だよ。胡椒を使うと肉って旨くなるよね」
「お前胡椒って…」
「ヒョウ族の集落で栽培に挑戦してるんだよ。上手くいけば数年後にはズーランダでももっと出回ると思うよ」
「マジか?」
「そう。今色々と生産に挑戦してるからピープランとかもちょっとは市場に出るかも」
「ピープランも栽培してんのか?」
「ヒョウ族は元々それで酒を作っててね。今はジャムとかにも加工してるよ。本格的に栽培出来るようになったら売るかもね」
「旨いか?」
「まぁ。パンに付けて食べたらおやつみたいなもんだよ」
なんか食いたそうだな。
「クマ族は甘い物好きなの?」
「好きだぞ」
そういやクマもハチミツとか好物か。
「明日の朝ごはんに食べるつもりだから分けてあげるよ」
そう言うととても喜んでくれた。
夜は護衛達が交替で見張りをしてくれるらしい。
翌朝、ジャムを一瓶護衛達に渡した。あの体格の6人で分けたらすぐになくなるだろうな。俺はベーコンと目玉焼きを食べよう。
魔導コンロを出してフライパンでベーコンを焼いてその上に卵を落としてやる簡単なもの。
「その干し肉はなんだ?」
「オーク肉のベーコン。干し肉みたいにカチコチにしてないからそこまで日持ちしないけどね」
商人も商人達の護衛もみな似たような飯だ。移動中の飯だと定番なんだろうな。
一人だけ旨そうな匂いをさせた飯なので注目を浴びる。しかも魔導コンロだし。
ゴクリ
あーっもうっ。
「食べたい?」
コクコクコクコク
激しく頷くクマ族達。仕方がないのでベーコンエッグを6人分作ったのであった。
「パンは自分のを食べてね」
「おうっ」
商人達もその護衛も見ている。商人は3人、護衛は6人。こっちの護衛を入れて総勢16人の飯を毎回作るとか嫌だぞ。
商人の3人は単なる荷運び担当だ。世話になっている人ならともかく、まったく知らない人だし、馬車に乗り込む前に挨拶しても無愛想だった。まるで余計な荷物をおしつけられたみたいな態度だったからそれ以来話しかけていない。飯を作ってやる義理もないだろう。俺を乗せる謝礼はローソン家とハンプシャー家がしてくれているそうだから。
昼休憩は全員飯なし。長旅では食料を節約する必要があるからだ。御者をしている商人と俺は馬車に乗っているだけだからいいけど、護衛はずっと小走りだからきついだろうな。
「なぁ、ずっと走ってて疲れないの?夜も交替で見張りしているからきちんと寝れてないだろ?」
「だから護衛依頼は嫌いなんだよ。俺達ににとっちゃ討伐系の方が割がいいし、自分達のペースでやれるからな。荷馬車のスピードは歩くにゃ速いが走るにゃ遅いだろ?中途半端なんだよ」
「そうだよね。クマ族は足速いの?」
「馬族やヒョウ族には負けるな。瞬発力はヒョウ族にも負けてねぇとは思うがな」
「そうだね。耐久性も凄いよね」
「よく知ってるじゃねーか」
「前にね、見送りに来てくれていたヒョウ族とギルマスが酔った勢いで勝負したのを見てたんだよ。黒い方はぶちのめされてたけどね」
「そりゃ、オジキ… ギルマスに勝てるわきゃねーだろ」
「女性の方はいい勝負だったよ。本気になる前に止めてもらったけど」
「マジかよ。あいつそんなに強ぇのか?」
「強いよ。走るのも速いし、森の中なら捕まえるのも難しいんじゃない?」
「森はヒョウ族の天下と言ってもおかしくねぇからな」
ヒョウ族はクマ族も認める強者なんだなと改めて思うのであった。




