さらばズーランダ
「ポンタ、私の前でポーションを作ってみてくれ。作れるのはどのレベルまでだ?」
ローソン家でポルクにポーションを作れと言われた。
「まぁ、その」
「中級は作れるか?」
「はい…」
「ポーションの資格は販売と生産に分かれているのは知っているな?」
「はい」
「生産には普通資格と上級資格というのがあって、中級を作れると上級になる」
「その上はないの?」
「ポーション自体はさらに上級、最上級があるがその製法は各生産者の独自技術で秘匿される場合が多いから試験に必要なのは中級までなのだ」
なるほど。
「ここで中級を作ればいいんですね?」
「何か必要な物はあるか?」
「すべて持参してきましたから大丈夫です」
ここで中級3本作って、全てがちゃんと中級以上なら合格らしい。ズーランダの資格はラメリアでは使えないが、ラメリアの試験を受ける際に筆記試験が免除されるとのこと。
本来は学校で学ぶか師匠に付いて手伝いをしながら知識や作り方を学ぶのだそうだ。天職が庶民だとほとんどの人が初級が作れたら良い方らしい。向いている天職は錬金術師、薬師、魔法使いだそうだ。
ポルクの前で合成薬草を刻んで50度のお湯に漬けて終り。一度に3本作るのはダメらしく同じ行為を3回した。
「ポーションとはそんなに簡単に出来るものなのか?」
「同じやり方でジャガーにやってみてもらいましたけどダメでした。なので自分独自のやり方なんだと思います」
「なにやら怪しげな物を刺していたがそれが秘訣か?」
「ポーション効能だけを考えたらこれは必要がないです。不味くならないように作るには必要なんですよ」
「お前の作ったポーションは渋くないというのか?」
「はい。このままでも不味くはないですけど美味しくもないです。試されるなら味付けしましょうか?」
その前に鑑定すると言われた。鑑定機なんてあるんだ。
見知らぬおじいさんを呼んで機械にセットしたら驚かれる。この人は人族かな?
「ポルク様、このポーションは中級以上でございます。上級には少し届きませんが、上級と言って販売されても鑑定されなければバレないレベルの物でございます」
「なんだとっ?」
「あ、もっとレベル下げたほうがいいなら水を足しましょうか?」
「バカモノっ。水で薄まるかっ」
え?フルポーションは水で割っていけばどんどんレベル下がったんだけど。
「試してみます?」
俺も鑑定機を見てみたい。鑑定機を使う人の方へ回り込み今のポーションの結果を見た。
効能レベル72
こんな風に出るんだ。
ちなみに効能レベルの振り分けは
初級:効能レベル20以上
中級:効能レベル50以上
上級:効能レベル80以上
最上級:効能レベル90以上
こうらしい。
とりあえず今のポーションを半分だけ容器に入れて水を足すと効能レベルが69になった。
「ね、下がったでしょ?多分今作ったポーションを50になるまで薄めたら5本くらいになるかも」
「なんだと?」
「中級ポーションを作れる人が初級ポーションを作るときは中級を作って薄めた方が効率がいいと思うよ。俺は鑑定機がないから確実じゃないけど」
「そんな事はラメリアのギルドでも知らんぞっ」
「俺も色々試して気付いたんだよね」
そういうと二人にまんまるの目で見られた。
「これもしかしてバラしたらヤバいの?」
「リータイ殿、この事は内密に願います」
「ええ、薬草の相場が崩れて混乱しますからな」
残りの2本を味見をした二人は渋くないポーションにも驚いていた。これもなぜそうなのか黙っていたほうが良さそうだ。
そしてその場でズーランダのポーション生産上級資格と販売資格を貰ったのであった。
お昼ご飯はフイッシュフライサンド。ハンプシャー家だけにレシピを教えただろ?というプレッシャーのつもりか?
「リータイさんは元々ラメリアの人なんですね」
「うむ、錬金・薬師ギルドにおったが引退しての。鑑定機を自前で持っておったからこうして雇ってもらったのじゃ。輸入してくるポーションが本物かどうか確かねばならぬからな」
「ラメリアよりズーランダの方がよかったのですか?」
「文明はラメリアの方が進んではおるがこちらは気候が温暖で好きなのじゃ。歳を取ると冷えるとあちこちが痛むでの」
「ポーション作れるんですよね?飲めば痛くならないんじゃないですか?」
「加齢による痛みには効かんよ」
そうなのか。確かに何でもかんでも効いたら死ななくなりそうだもんな。
リータイから試験の時に渋いポーションも作れるならそっちを作った方が良いと教えてくれた。今のを作るとあれやこれやと製法を聞き出そうとするだろうからと。
しかしポルクには感謝だ。これでラメリアでポーション販売の目処が付いた。筆記試験とか絶対に受からないだろうからな。ズーランダを出るときにポーションをいくつかプレゼントしよう。
集落に戻るとネロがあっちを指さして聞いてくる。
「出汁取り終わった後の骨を溜めてあるけど何に使うんだ?もうかなりの量になってんぞ」
あ、忘れてた。
「それ、肥料にするつもりなんだよ。皆で手伝って」
ここでの生活をしていると獲物は丸ままの事が多いので、骨でスープを取るようにしてその後は捨てずに溜めて貰っていた。
翌日、溜めた骨を焼いていく。焚き火だと温度が足りないかもしれないけど仕方がない。
しばらく焼いた後に皆で細かく砕いていく。単純に石の上に乗せて石で叩くという方法だ。
「こんなもんか?」
「もっと細かくしたいんだよねぇ。専用の石臼買おうか」
小麦を粉にする石臼は売っているのでそれを買いに行った。
「これが一番大きな物ですね」
この大きな石臼は木の実をすりつぶすものらしい。そういうのを食べる種族がいるのかな?
20万Gもしたけど必要経費だ。
それを使って砕いた骨を粉にしていくのはヒョウ族に任せた。俺の力では動かん。
「肥料ってなんですか?」
ウサギ族の質問だ。
「植物を育てる為の栄養だよ。肥料にも種類があってね、これは実がよく育つ為の栄養になると思う」
「実が育つですか」
「やりすぎても良くないから少しトマトの周りに撒いてみて。それで様子を見て良かったら使っていって。効果が出るのはずっと後になるかもしれないけど」
「果物にも効きますか?」
「多分。ここで果物を育てるつもり?」
「はい」
「そんなもん、生ってる所から採ってくればいいじゃんかよ」
「我々はヒョウ族みたいに気軽に木に登れませんからね。木が高くなりすぎないように育ててやれば収穫しやすいんじゃないかと」
種から育てて実が成るまで何年掛かるんだろうな?桃栗三年柿八年とか言うから最低でもそれぐらい必要だろう……、あっ、植え替えしてみるのも手だな。
「ネロ、果物の生ってる木の場所に連れてってくれ。皆は果物の木を植える予定の所に穴を掘っておいて」
カバンに入って連れて行ってもらい、点在する木を収納して持って帰った。
「倒れるかもしれないから皆手伝って」
開拓した木を出すと横向きに出てくる。恐らく俺がそうイメージしているからだ。ここは縦にこう立つようにイメージしてと。
ポチッ
やった。ちゃんと立った。
「ほら倒れて来ないように押さえて。他の人は土を入れていって」
こうして植樹が完了。全部で8本。枯れずに上手く定着するようにと祈る。
「これって酒を作っていた実だよね。なんていう実?」
「名前なんて知らねぇぞ。生で食ってみろよ?」
木を収納する前に生っていた実を収穫をしておいたのだ。
見た目はやはり杏やモモみたいな感じだ。
「これはピープランという果実ですよ。痛みやすいのでほとんど市場には出回りません。我々は見つけてもなかなか収穫出来ないので嬉しいです」
ウサギ族は知ってはいたけど高くまで木に登れないと収穫が難しい果物のようだ。
ビーバー族に上の枝を切って低木にしてと頼んだら、足場を作って収穫出来るようにすると言っていた。ここなら足場を作っておいてもよそ者に盗られることもないし、その方がたくさん実が取れるだろうと。確かに森の中で足場を作ってあったらラッキーって感じで盗られるよな。森の果物は誰のものでもないから。
ピープランの木に骨粉を撒くのは木がちゃんと定着してからすることに。
飯の時にピープランの実をデザートに出すとヒョウ族はあまり食べない。生で果物を食べるというよりこれは酒の材料という認識なのだろう。
ジャムにしてやったら食べるかな?
ジャムにするならリンゴがあるといいんだけど似た奴が輸入品で貴族向けの商人しか扱ってないからズーランダにはないのかも。スターアップルみたいのならあるかもな。
少し残しておいたピープランを砂糖で煮ていく。実が柔らかいからすぐにグズグズになりそうだ。クエン酸を少し足して味を調えて完成。
翌朝ジャムをパンに塗ってやると皆喜んで食べた。この集落は砂糖の消費が多くなりそうだ。
パンも蒸しパンとかパンケーキみたいなものを伝授していく。これはウサギ族が特に喜んでくれた。人参を練り込んだりとか工夫も始めている。良い傾向だな。
そして月日は過ぎ、ウサギ族達の家が完成し全員の移住が完了した。今はヤギ族の家を作り始めている最中だ。主任の家は先に作って貰ってウサギ族が揃うのと同時に引っ越してきた。季節感はないけどもう初夏だ。
「いよいよあと一週間だな」
「うん」
ラメリアへ行く日が近付きカウントダウンされていく。忙しい日々も落ち着き、後はヒョウ族達でなんとかするから大丈夫だと言われた。
出発日が近付くに連れ、ジャガーとネロは狩りに行かず一緒にいる時間が長くなっていった。
「ポンタよ、本当に皆が世話になった」
「やめてよ長、向こうで落ち着いたらまたこっちにも来るし」
「うむ、戻ってくるのを楽しみにしておるぞ」
長の所に毒消し効果も持たせたフルポーションを3樽置いてある。薄め方は長、ジャガー、ネロ、主任にだけ教えてあるので何かあったら遠慮せずに有効に使って欲しい。
主任からはこのポーションはとんでもない代物ですよね?と聞かれたので他言無用ねと頼んである。フルポーションではなく最上級と思っているようだが。
ラメリアへ行く商人の隊列は荷馬車5台の隊列だった。護衛もたくさんいてクマ族が多かった。ギルマス程大きくないけど屈強そうだ。
「ポンタさん、これはハンプシャー家とローソン家からの贈り物と紹介状よ」
「え?贈り物ってなんですか?」
「服よ。ラメリアの貴族の所に行くときにその服だと門すら通してもらえませんわ」
「いつもみすぼらしい格好で伺ってすいません」
「ズーランダでは気にすることないのよぉ。でもラメリアは人族の国、そういうのは通用しませんわ」
ありがたく服を頂戴する。
「皆さん、お世話になりました。また帰って来ます」
皆が見送ってくれる。ネロは涙と鼻でぐしゅぐしゅだ。
「ジャガー…」
「うむ、ポンタからの紹介状を楽しみに待っているぞ」
そう言って顎をクイっと持ち上げられチュッとしてくれた。嬉しいけど、嬉しいけど俺が望んだのはそっちではない。俺が望んたのはクイっとする方なのだ。
まぁ、嬉しかったからいいや。
皆に盛大に手を振ってポンタは出発したのであった。




